パン作りの舞台裏:持続可能なフード ビジネスを成長させるために Tartine がとったアプローチとは

Tartine の共同創業者チャド・ロバートソン氏は、初めて心の底からパンをおいしいと感じたのはどこだったか、今でもはっきりと覚えています。

それは料理学校時代のある週末、将来のシェフ仲間たちとマサチューセッツ州のバークシャー マウンテンに小旅行に出かけたときのことでした。

ロバートソン氏は、その瞬間をファースト キスの思い出のように覚えています。

古いレンガ造りの建物に足を踏み入れた瞬間、それまで一度も経験したことがないような香りに包まれました。

発酵と表面が濃いカラメル色になるまでカリカリに焼けたパンの香りです。何かが発酵しているときの深く複雑な香りそのもので、雷に打たれたような衝撃を覚えました。

ロバートソン氏の師匠であるリチャード・ブルドン氏も、上質なパンを初めて味わったとき、同じような衝撃を感じたそうです。

世界にはもっと、こういうパンが必要だと思い、やっていたことをすべて投げ出して作り方を教わった。師匠はそう仰っていました。

こうしてロバートソン氏は、パン作りの道を歩み始めました。
当時(1990 年代前半)、同氏は通っていたニューヨークの料理学校 Culinary Institute of America で、Tartine の共同創業者となるエリザベス・プルーイット氏に出会いました。

2 人はフランスに渡って修行を積んだのち、店作りのヒントを得て、母国に戻ってベーカリーを開きました。

店のモットーは「日々生まれ変わる」です。これには、常に学び、常に良いものを目指す店にしたいとの思いが込められています。

現在の Tartine は、スロー フード ブームの先駆けとして知られているだけでなく、焼きたてパンを求めてファンが列をなす店としても有名です。

Tartine のカントリー ブレッドとペイストリーはジェームズ・ビアード財団賞を受賞したほか、料理界の多くの著名人からも絶賛されています。アイデアに満ちたカリフォルニア キュイジーヌで有名な Chez Panisse のオーナー、アリス・ウォータース氏もその一人です。

また Tartine は、成功の秘訣を門外不出とするのではなく、6 冊のレシピ本を出版して公開し、好評を博しています(現在は 7 冊目を執筆中)。

では、この起業家精神あふれるパン職人が、初めて味わった感動を胸に、「米国で最も影響力のあるベーカリー」と Bon Appétit 誌に評される店にまで成長することができたのはなぜでしょうか。

私たちのあらゆる行動に先立つもの、それは持続可能性です。

ー ビン・ブルックス氏

Tartine はパン作りのあらゆる面で良質の材料と持続可能性にこだわり、それを核にビジネスを推進し成功を収めてきました。

ロバートソン氏は言います。

材料を選ぶこと、発酵に時間をかけること、挽きたての上質な全粒粉を使うこと。すべてが大切だと教わりました。最初に使った小麦はオーガニックでした。それが私の出発点であり、あらゆるものの原点がここにあります。

Tartine では、製パン部門責任者のジェン・レイサム氏をはじめ、社員全員がこの精神を共有しています。

レイサム氏は次のように語っています。

パンには、何かとても本質的なものがあります。材料は小麦粉、水、塩とシンプルですが、世界中の各地域で長らく文化を支える礎でした。

産業化以後のパン作りの歴史では、小麦粉は棚に何か月放置しても悪くならない、常温保存がきく材料であることが必要でした。現在の製粉方法では、全粒粉でありながら、きめが細かくふんわりした新鮮な小麦粉を仕入れることができます。現代では 50 年から 100 年ほど前まであまり普及していなかった穀物が手に入るようになり、利用できる種類が増えました。

私自身が熱意を示し、偏見や先入観なしでアイデアを進んで検討し、試すようにしています。そうすることで Tartine は、大きな問題をいくつも克服してきました。

— チャド・ロバートソン氏

ロバートソン氏によると、これまでに学んだ大切な教訓の中には、思いがけないトラブルや、新しいアイデアを試した結果から得られたものがあるそうです。

Tartine はまさに最高のアイデアが生まれる場所です。誰のアイデアかは問題ではありません。

私は長年の間に、トラブルが起きたときに注意深く観察するだけで、やり方を改善できた例を数多く見てきました。おかげで Tartine では、トラブルをよく観察することが重要な方針になったくらいです。

私が学んだのは、柔軟な考え方を失わないようにするということです。私自身が熱意を示し、偏見や先入観なしでアイデアを進んで検討し、試すようにしています。そうすることで Tartine は、大きな問題をいくつも克服してきました。

特にパン作りは、日々の温度や湿度が影響する仕事です。それに対応するには、パン職人に柔軟な頭がなければなりません。

パン作りの面白さは、同じ結果を得るために、まったく同じ方法は通用しないことです。天気、小麦粉、イースト種、パンの作り手、すべて同一ではありません。

いわば生地と対話をし、ここから次に進むにはどうすればいいか耳を傾けるような作業です。

ー レイサム氏

レイサム氏は、それがこの仕事を心から愛する理由のひとつだと言います。

立ち止まることはできません。これで終わり、ということもありません。
どんな生地が良いのか、最終的な答えが見つかることはないのです。手を洗ったからもう帰る、とは言えない世界です。1 日 1 日が学びなのです。

大容量の Dropbox フォルダを用意し、お互いに見てもらいたいものをすべてそこに保存するようにしています。情報を共有してやり取りできる一元化された場所があるのは、本当に助かります。

— ジェン・レイサム氏

もしかすると、なぜパン職人にスマート ワークスペースが必要なのか、生地をこねるのに忙しくて、アプリの通知や未読のメールに邪魔されたくないのではないかと、不思議に思う人がいるかもしれません。

実は Tartine はパン作りで名高いだけでなく、評判のレシピをレシピ本で紹介し、賞賛されていることでも有名です。しかしこれだけのレシピをまとめるとなると、何時間にもわたるチームワークと共同作業が必要です。

レイサム氏は次のように語っています。

執筆中の新しい本には、ある小麦粉で開発したレシピをいくつか載せる予定で、実際に店でもその小麦粉を使い始めています。でも、チャドも私も最近ずっと飛び回っているので、この作業はなかなか難しいところがあります。

そこで大容量の Dropbox フォルダを用意し、お互いに見てもらいたいものをすべてそこに保存するようにしました。場合によっては、本に載せたい写真を動画から 1 点だけ切り取って保存し、後からレシピをいくつか加えることもあります。パンの項目の端書きは私が執筆し、フォルダに入れておくと、チャドが確認して手を加え、戻してくれます。

このように、情報を共有してやり取りできる一元化された場所があるのは、本当に助かります。

Coffee Manufactory で小売エジュケーターを担当しているビン・ブルックス氏は、Dropbox はチームに必要な情報があふれている「泉」のようなものだと述べています。

簡単で使いやすいツールです。すべての情報がそろっているので、他のものは必要ありません。

ロバートソン氏はこんなことも言っています。

会社全体で見れば、Dropbox はこれ以上ないほど効率的なコミュニケーション ツールです。

今 7 冊目のレシピ本を作成中ですが、レシピのファイルはもちろん、メモやレポート、写真、図表、スケジュールをすべて Dropbox で共有しています。今後は、業務の効率化や最適化に利用できないか、試してみるつもりです。

ごく一部の人しか知らなかったことを、誰もが自由に使えるように公開したかったのです。

— ジェン・レイサム氏

レイサム氏は次のように語っています。

Tartine のパン作りは実に独特です。以前は、限られた数の人しか製法を知りませんでしたが、会社が成長して Tartine で働くパン職人が世界中で増えた今、製法を知っているのは 4 人から 30 人になりました。

Tartine はレシピ本を通じて、伝統を受け継ぐ方法を紹介しています。レイサム氏の言葉です。

皆さんがレシピを参考にして、あちこちに小さなベーカリーを開いてくれたら、より多くの地域社会に影響を与え、上質なパンを多くの人に届けられるようになるでしょう。

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