調査結果:テレワークの未来のカギを握る集中力

ナレッジワーカーにとっておおむねポジティブな変化であると評価されているテレワークへの移行。しかしその課題を克服すれば、さらに 1.2 兆ドル相当の効果が得られる可能性があるようです。

  • 0
  • 0
  • 1
  • 0
集中力は仕事をこなすために必要なものです。人間の集中を妨げる要因は、ナレッジワークの世界で長らく大きな問題とされてきました。また一部の人の特権であった在宅勤務が必須の働き方になり、仕事をする場所、時間、方法が変わり始めたことで、集中力の問題は、仕事をする個人、チーム、そして会社全体の問題へと変化しています。3 月ごろ、遠からず元の生活に戻れるだろうと考えていた「新しい生活様式」反対派の人たちでさえ、今回起きた変化はもはや日常なのだと受け入れるようになりました。そのように考える人は、今後さらに増えるかもしれません。
Space
この集中力に関する課題を数値化するため、Dropbox は Economist Intelligence Unit の協力を得て、テクノロジーや製造、小売、教育といった業界でナレッジワークに従事する管理職と一般社員を対象にアンケート調査を実施しました。その結果は非常に興味深いものとなっています。特に、集中力が課題になる場面や、集中力を取り戻すことが大きな機会につながる理由に興味がある方は必見です。
space
調査データの分析結果には、すでに指摘されてきたとおりのことも多く含まれていますが、次のように、通説とは正反対の結果も少なくありません。 
Space
  • 集中を失うことで、米国企業の時間と給与の 3 分の 1 近くが失われている
  • ミーティングは、ビデオ会議でさえも集中を妨げる最大の要因ではない
  • 通勤生活の再開に消極的なのは、一般社員よりもむしろ管理職
  • テレワーカーの集中を妨げているのは、家族やペットよりも孤独感
Space

集中力は企業がトップダウンで取り組むべき問題

企業各社が今すぐ理解する必要があるのは、集中力の問題を最も実感できていないのは経営トップだということです。この問題は、組織の階層を下れば下るほど深刻になっていきます。企業の経営者や大規模部門の管理職の方は、ひょっとすると、仕事への集中に問題を抱える社員が営業職にも事務職にも増えているという事実に、まったく気付いていないのかもしれません。 
Space

目次

  1. 集中力がビジネスに与える影響
  2. 1-1. 実は大きな問題ではないミーティング
    1-2. 管理職のほうが集中を妨げられる機会が少なく、最も少ないのは経営陣

  3. コロナ禍とテレワークが集中力に与えた影響
  4. 2-1. 3 人に 2 人は自宅でも集中できると回答
    2-2. 管理職はオフィスへの復帰に消極的
    2-3. 誰も通勤生活に戻りたいとは望んでいない
    2-4. とは言え、仕事量も業務時間も増加
    2-5. ストレスへの影響は「増加」が「減少」をややリード
    2-6. 作業ミスは減少、情報伝達ミスは増加
    2-7. メッセージが集中の大きな妨げに
    2-8. テレワーカーを静かに蝕む孤独感

  5. 集中力を重視する文化を築くには
  6. 3-1. ほとんど存在しない全社規模の取り組み
    3-2. 自動化と非同期コミュニケーションがカギ
    3-3. テレワークでつながりを感じられるようにするには

    1. 集中力がビジネスに与える影響

    集中を失うことで生じる損失は、ナレッジワーカー 1 人あたり平均で年間 3 万 4,448 ドル。平均的な年間業務時間の約 3 分の 1 にあたる 581 時間が失われることから算出された数字です。最も損失が大きいのは米国経済で最大の分野を占める専門/科学/技術サービスで、年間 1,780 億ドル。しかも残りの分野の合計額は、その人数に比例してさらに大きく、2,120 億ドルに達します。ただし、もしも集中力の問題を解決できれば、この損失を利益に変えることができるかもしれません。ナレッジワーカーの集中力を改善することによる潜在的な効果は、これまで手つかずだった社員の生産性を活用することで得られる約 1.2 兆ドルと試算されています。
    space
    信じられないとしても無理はありません。断続的に集中を失ってイノベーションを達成できずにいるのは、会社の IT 担当者だけではないのです。彼らは、図表などで視覚的に証明するのがうまいだけです
    space

    1-1. 実は大きな問題ではないミーティング

    Space
    space
    「ソフトウェア エンジニアにとって、ミーティングはまさにマインドキラーだ」というのは、ソフトウェア エンジニア必携の書である小説「デューン」に出てくるセリフです。しかし今回調査した回答者のほとんどは、1 日あたり平均 1 回しかミーティングに出席していません。ミーティングが集中を妨げる最大の要因というのは、イメージに過ぎなかったようです。
    space
    コロナ禍以前の段階で、集中の妨げになる最も大きな要因として挙げられたのは「対面での声かけ」です(ただしこれは、声をかける側にとっては非常に生産的な行為であるかもしれません)。僅差の第 2 位は、Slack を使おうとしない同僚からひっきりなしに届くメールやテキスト メッセージ、ダイレクト メッセージ、電話の通知でした。私たちは、今この時代に使われている手軽なコミュニケーション手段をどれもいまだにコントロールし切れておらず、それによってペースを乱されています。 
    space
    space
    この項目は、通説とは反対の結果になった設問の 1 つです。テレワーカーはオンライン会議について「メールで済ませられたのに」などと冗談交じりに言うことがあります。しかしそれは、メールなどのメッセージが集中の大きな妨げになり、1 時間と連続して 1 つの作業に集中できなくなることを理解していない発言です。たとえば今日、あなたは着信メッセージを確認せずに 1 日を過ごすことができたでしょうか?回答者の 70 % は 1 時間に 1 回は確認すると答え、5 分の 1 近く(18 %)は数分に 1 回確認すると答えています。
    space
    別の作業のために目下の作業を止めることは、たとえメッセージの送信者を確認する程度のことであっても、作業を完了する妨げとなり、情報を脳の長期記憶に保存する妨げになる可能性があります。これは、数千行のソースコードを書くプログラマーには自明のことですが、作業の内容にかかわらず私たち全員に当てはまる事実です。
    space

    1-2. 管理職のほうが集中を妨げられる機会が少なく、

         最も少ないのは経営陣
    Space

    管理職は日々、たいていの一般社員よりもはるかに多くの人と接触し、言葉を交わしています。これは集中を損なう原因になるもので、実際、ミーティングを集中の妨げになる主な要因に挙げる管理職は一般社員よりも多いという結果になりました。その一方、管理職には一般社員にはない強みがあります。個室を持っているか、少なくとも暗黙的なプライベート エリアを持っている割合が高いのです。周囲を寄せ付けず、1 人になって計画策定や報告書作成、意思決定のためのデータ分析に集中する権威もあるでしょう。また、もともと作業に集中するのが得意という傾向もあるかもしれません。 
    それを裏付けるように、組織における回答者の職階が高いほど、強く集中できていると感じる割合が高くなっています。それはすばらしいことではありますが、この事実からはある結論が導き出されます。管理職は、自分のチームや部門、部署の人員が、日々どれだけ集中を妨げられ、本来の職務に専念できずにいるかを認識できていない可能性があります。
    space

    2. コロナ禍とテレワークが
      集中力に与えた影響

    2020 年、新型コロナウイルス感染症は、ウイルス自体の脅威に加えて、おびただしいニュース報道によって人々に大きな影響を与えており、回答者の 40~50 % は報道が原因で集中力が著しく低下したと答えています。この設問では、一般社員よりも管理職のほうが大きな影響を受けていました。外出禁止令によって日々の仕事の場所や活動が影響を受けたかどうかに関係なく、誰もが新型コロナウイルスの影響を受けています。
     space

    2-1. 3 人に 2 人は自宅でも集中できると回答
    space

    テレワークによる影響は人によって異なります。回答者の 10 人中 4 人は自宅のほうが集中できると答えていますが、3 人は変化なしとしています。その一方、3 分の 1 近くは逆の経験をしており、集中力が「若干低下した」と回答していました。さらに、深刻な問題を抱えている回答者が 5 % います。少数ではありますが、この中には職場で華々しく活躍していた社員が含まれている可能性もあり、軽視すべき数字ではありません。
    space

    2-2. 管理職はオフィスへの復帰に消極的
    space

    今回の調査でおそらく最も直感に反する結果となったのは、一般社員よりも管理職のほうが、パンデミック関連の規制解除後もテレワークを続けたいと望んでいることです。一般的には、部下を監視下に置くために管理職のほうがチーム全員をオフィスに戻したいと考えているように思えますが、管理職はそれよりも、重要な作業への集中を妨げる頻繁な声かけから解放されたいと望んでいるのです。また今年になってテレワークを始めた回答者の間では、自宅のほうがより集中できるという答えが若干多い結果となりました。
    space

    2-3. 誰も通勤生活に戻りたいとは望んでいない

    space
    回答者の 40 % 近くは、日々の通勤がなくなったことをテレワークのメリットに挙げています。ここで重要なのは、回答者が喜んでいるのは仕事やプライベートの時間が増えたことだけではなく、通勤が不要になったことで 1 日を通じて集中力が高まったことを歓迎している点です。1 日の仕事を始めるために車や電車に乗る必要がなく、帰宅時にもまた同じ緊張を強いられることがないため、その分の集中力やエネルギーを仕事に割けるようになっています。またオンライン会議についても、10 人中 4 人は、会議室に集まっていたころよりも会議への出席率が上がったと答えています。
    space

    2-4. とは言え、仕事量も業務時間も増加
    space

    もう 1 つ意外な結果になったのは、通勤の時間がなくなった分、仕事が増えたとしている回答者が多かったことです。10 人中 4 人は、テレワークで仕事量または週あたりの業務時間が増えたと回答し、多くは両方とも増えたとしています。 
    space
    space

    2-5. ストレスへの影響は「増加」が「減少」をややリード

    space
    自宅で集中できると回答した割合は管理職のほうが高めでしたが、テレワークがストレスに与える影響については職階は関係ないようです。ストレスの広がりは平等で、テレワークに移行した全回答者の 10 人中 4 人はストレス レベルが上がったとしています(当然だと思う人も多いでしょう)。一方で 10 人中 3 人はテレワークによってストレス レベルが下がったと回答しています。 
    space

    2-6. 作業ミスは減少、情報伝達ミスは増加

    space
    全体として、作業ミスが多くなったと感じている人はあまりいません。大幅にミスをしやすくなったと回答しているのはわずか 7 % で、それ以外の回答者のうち約 4 分の 1 はミスをしにくくなったと答えています。テレワーカーが強く懸念しているのは、作業ミスよりも情報伝達のミスです。回答者の半数強は、テレワークでは情報伝達ミスが起きるリスクが若干ある、または以前よりも増えていると答えており、ほとんどの回答者は複数の共同作業相手と新しいプロジェクトを始めるのはオフィスにいるときよりも難しいとしています。予想どおりではありますが、この意見にはしっかり耳を傾ける必要があるでしょう。
    space

    2-7. メッセージが集中の大きな妨げに

    space
    メールやチャットなどのメッセージング ツールの登場によって、仕事のあり方は大きく変わり、生産性と柔軟性が大幅に向上しました。しかしこの種のツールは、集中を妨げる主な要因にもなっています。今回の調査でも半数以上の回答者が、「平均で 1 時間以上連続して特定の作業に集中することを妨げるツール」として、オフィスと自宅の両方でメールとビデオ チャットを挙げていました。回答者の半数以上というのは、対面での声かけを上回ってワースト 1 の数字です。また予想どおりですが、テレワーカーの 70 % は、テレワークへの移行後にメールの使用時間が長くなったと答えています。ポジティブな要素としては、職場での主なコミュニケーション手段として Slack などのチャット アプリを使っている企業の場合、一般社員と管理職双方の 4 分の 3 近くが、「1 時間連続して特定の作業に集中できることが日常的にある」と答えている点が挙げられます。
    space
    space

    2-8. テレワーカーを静かに蝕む孤独感

    space
    家族の干渉、家事、くつろぎたいという単純な誘惑は、テレワークでの集中を妨げる主な要因として挙げるまでもないものです。しかしコロナ禍でテレワークをしている回答者の 4 人に 1 人は、仕事への集中を妨げる要因として、同僚からの孤立感を挙げています。社会的な関係から切り離されているという感情がもたらす影響は、回答者の業種を問わず見て取ることができます。
    これほどの普遍性を軽視することはできません。またこのような回答は、管理職や、テレワークが以前から普及していたテクノロジー業界では若干少なめである一方、今年になって突然テレワークが始まった教育業界や製造業界の非管理職の間では多めになっており、一般社員の 3 人に 1 人以上が周囲からの孤立感を仕事が進まない理由に挙げています。また、多くの回答者は以前と変わらず仕事に取り組めているとしながら、意欲が低下する理由としては周囲からの孤立感が最多となっています。
    孤立感を覚える社員が会社にもたらす損失は、仕事中に Twitter を見る社員がもたらす損失よりもはるかに甚大です。周囲とつながっていないことが原因で仕事が進まないと答えている回答者は全体の 3 分の 1 であるのに対し、集中を妨げる要因としてソーシャル メディアを挙げている回答者は全体の 10 分の 1 に過ぎません。 
    space

    3. 集中力を重視する文化を築くには

    米 Yahoo! の CEO に就任したマリッサ・メイヤー氏は 2013 年、在宅勤務制度を廃止し、すべての社員に対しオフィスで勤務することを義務付けました。「私たちは 1 つの Yahoo! にならなければなりません」とメイヤー氏は訴えました。「それは、全社員が 1 つの場所に集まるところから始まります。私たちは、隣り合って働く必要があるのです。」
    7 年後の今、同じことが再び起きると想像するのは困難です。しかし、テレワークとオフィス勤務を組み合わせた未来の職場において、集中力を改善するにはどうすればよいのでしょうか。 
    space
    これまで、この課題の解決は社員自身に委ねられてきました。今回の調査でもほとんどの回答者は、集中して仕事に取り組むことは会社ではなく個人の責任であると答えています。しかし実際には、集中を妨げる主な要因の多くは、暗黙的に組織の中に存在しています。「効果的なテレワークのための 10 のヒント」なるブログをまた 1 つ書いたところで、もはや誰の役にも立ちません。集中力という課題は、トップダウンで検討されるべきものです。できれば、テレワークで同様の問題に悩まされることのなかった管理職の手で行われる必要があります。
    space

    3-1. ほとんど存在しない全社規模の取り組み

    space
    この調査で私たちが最も不満に思うのは、社員の集中力を高めるための取り組みを全社規模で実施している企業がごくわずかであることです。会議ゼロデー、正式な「集中タイム」、マインドフルネスを促進しマルチタスクを抑制する社内研修。こうした取り組みが 1 つでも自社で行われていると認識している回答者は、5 人に 1 人もいませんでした。また、仕事中に私物のスマートフォンを見ることが禁じられていると答えた回答者も同程度の割合でした。ただしこれは、テキスト メッセージを仕事で使っている場合には意味がありません。
    space

    3-2. 自動化と非同期コミュニケーションがカギ

    space
    企業各社がテレワーカーの負担を軽減するために取り入れている手段の 1 つが、ミーティングのスケジュール設定といったタスクを自動化することです。タスクを自動化すると、社員の集中を損なうさまざまな負担を軽減できます。
    しかしオフィス勤務のときと比べ、ミーティング自体や業務時間が大幅に増えていることを踏まえると、「非同期コミュニケーション」を取り入れることも検討するとよいかもしれません。つまり、社員が特定の時刻につながる必要がある機会をできるだけ少なくするのです。このようにチームのメンバーが独立して作業する時間を増やす「分岐と収束」モデルは、成果物の品質向上につながることが実験で示されています。 
    space
    デジタル ツールを使うと、新しい情報を瞬時に受け取ってすばやく対応することができます。しかし、そのような対応が常に必要なわけではありません。メールの使用を 1 日 3 回に制限する対照研究では、生産性を落とさずストレスが軽減されたことが示されています。今回の調査では、回答者の 5 人に 3 人がメール処理に費やす時間は 1 日 2 時間未満と答えていました。また同じ割合の回答者が、チャットに費やす時間は合計 1 時間未満と答えています。このようなメッセージの処理をまとめて行うようにすれば、邪魔をされず連続して作業できる時間を長くすることができます。 
    space

    3-3. テレワークでつながりを感じられるようにするには

    space
    ほとんどの社員は、テレワークを全面導入すると企業文化が損なわれると感じています。今回とは別の調査によると、テレワーカーが感じることの多い孤立感には 2 つの種類があるそうです。1 つは会社の支援ネットワークから切り離されること、もう 1 つは同僚との社会的なつながりから切り離されることです。多くの管理者はこの問題の解消に苦労していますが、コロナ禍以前のテレワークによる孤立感に関する研究や文献が少ないことも問題解決を難しくしています。 

    space

    この問題の解決を会社に期待している人はほとんどいません。管理職か一般社員かを問わず、回答者の 10 人中 7 人は作業への集中を保つのは個人の責任であると考えており、ほぼ同じ割合の回答者が自身のスケジュールと環境を自分で管理できていると感じています。彼らが今最も必要としているのは、テレワークでも同僚とのつながりを感じるための最新の知識なのかもしれません。

    space

    将来の人々がテレワークと集中の両立を常に実現できるようになるとは思えません。一方、両極端、つまり絶えず集中を妨げられるか、あるいは 1 日中何の連絡もなく孤立しているかの状態で、高いパフォーマンスを発揮するという人もほとんどいないでしょう。企業が成功を収めるためには、両面からのアプローチで集中力を育む必要があります。つまり、空間的、時間的に離れたところにいる社員が、互いにつながったグループの一員であると感じられる新たな方法を提供するのです。ただし、くれぐれも集中の邪魔はしないでくださいね。

    space
    The Economist Intelligence Unit のレポート全文(英語)は、lostfocus.eiu.com でご覧ください。