危機のなか、企業のリーダーに求められる役割とは

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界に未曾有の危機をもたらしており、政府や企業、家族、友人関係などの中で、危機発生時にリーダーに求められる役割とは何かを私たちに問いかけています。そしてまた、多くの人がこれまでに経験したことのない決断を迫られています。

このような危機は人格形成に影響するだけではなく、人の本性をも暴きます。多くのビジネス リーダーが、困難を乗り越えるために手腕を発揮しました。国民や地域社会の健康と福祉を第一に考え、政治の手が及ばない隙間を埋めるために行動を起こした人たちもいます。

Dropbox では、シンガポール、日本、そしてオーストラリアの全チームがいちはやくリモート ワーク体制に移行しました。このポリシーは、現在、5 月末まで延長されています。今回は、この各国のリーダーたちに話を聞き、指導者が難しい決断を強いられたときの状況について、核心に迫ります。

  1. 信頼を保ち、自信を持ってリードする
    ー アジア地域ビジネス & パートナー担当責任者 コウ・スホク
  2. 不測の事態に備える
    ー アジア太平洋地域および日本担当責任者 五十嵐 光喜
  3. 重要なことに集中する
    ー アジア太平洋地域および日本担当ビジネス マネージャー ジェニファー・レディントン

1. 信頼を保ち、自信を持ってリードする

今回の危機が本格化して間もない頃、グローバル チームは、ビジネス継続性(BCP) に関するトレーニングを実施するためにシンガポール オフィスを訪れました。それをきっかけとして、チームは全世界的な危機にどう対処すべきか、どのような備えが必要なのかを考え始めました。

アジア地域のビジネスおよびパートナー担当責任者のコウ・スホクは次のように述べています。

“シンガポールは地震や火災があまり起きない国ですが、感染症の発生やその他の社会的混乱は起きやすいので、早くから今回のリスクに気づいていました”

人口密度が高く、初期段階で感染率が高かった国に近いこともあり、シンガポールでは、他の地域に先駆けて新型コロナウイルスへの感染例が発生していました。

“中国で最初の感染拡大が発生してから 2、3 週間後に、政府は市民に(公式の)勧告を出し始めました”とスホクは言います。

“私たちのビルで最初の感染者が出てからすぐ、スタッフを守るためにリモートワーク体制を導入することにしました。その直後、シンガポール政府は警戒レベルを黄色からオレンジに引き上げたのです”

シンガポールは、Dropbox のオフィスとして初めてこのポリシーを導入した国であり、この決断がその後のグローバル チームに影響を与えることとなりました。

当社のグローバル チームは地域のリーダーに多大な信頼を寄せ、社員の健康と安全を第一に考えた意思決定ができるように権限を与えています。

– アジア地域ビジネス & パートナー担当責任者 コウ・スホク

スホクは、このような危機的状況の中での事業運営は、何よりも社内外の信頼があってこそである、と言います。

“Dropbox は社員に権限を委ねる非常にユニークな組織であり、私は直属の部下や幹部に絶大な信頼を寄せています。当社のグローバル チームは地域のリーダーに多大な信頼を寄せ、社員の健康と安全を第一に考えた意思決定ができるように権限を与えています”

それと同時に、企業が必要な意思決定を下すために政府が適切な量の情報を透明性のある方法で発表していること、そして政府のガイドラインが真実を誠実に伝えていることを企業が信頼する必要があります。

“シンガポールでは、政府に対する信頼度が高いことも、状況に対応するうえで一役買っています。政府が発表する情報に信憑性があり、万人に利するものであれば、市民はたいてい政府の言うことを信用するので、経営判断もしやすくなります”

2. 不測の事態に備える

五十嵐光喜は、Dropbox Japan の代表取締役であるとともに、Dropbox の日本およびアジア太平洋地域の責任者です。今回の危機で、五十嵐が率いるオフィスの一部は、中国国外で発生した初期の感染例から直接的な影響を受けた、といえます。

五十嵐は、特に早い段階で最も困難だった課題が、全従業員にこの状況を深刻に受け止めさせることだったと言います。

“危機が始まった当初、日本政府は勧告を出していましたが、絶対厳守のルールを課していたわけではありませんでした。リーダーとして、従業員の安全を第一に考え、従業員自身と家族の安全を守りながら仕事を続けられるようにすることが私の役目でした”

五十嵐が自らのチームを率いて日本の危機を乗り切ったのはこれが初めてではありません。

“2011 年 3月、東日本大震災の影響で原発事故が起きたとき、私はマイクロソフトの日本法人に勤務していました。そこでは、各部門トップが毎日ボードルームに集まり最新状況を把握しながら次のステップを決めていました。その経験の中で、私は、ビジネスを管理し、従業員が自分の業務を続けられるようにするためにリーダーとしてすべきことは何か、学ぶことができました”

今回の危機は、企業がより賢明な働き方に移行するきっかけになるだろうと思います。企業が通常の働き方に戻れるようになったとき、今回学んだ教訓を思い起こすことができるでしょう。

– アジア太平洋地域および日本担当責任者 五十嵐 光喜

このように大きな働き方の転換に備えるうえで、五十嵐は、「備えあれば憂いなし」であると信じ、転換の真っ只中に身を置きながらも、走りながら決断する必要があると考えています。

“弊社社員は、もともと都合に応じてリモートワークを認めていました。また、一般的にテクノロジーに強いので、最初は在宅勤務なんて大したことはないだろうと思っていました。ところが、今回にように長期にわたるリモートワーク体制となると、実際は、インフラや技術的な側面以外にも考えなければならないことがたくさんありました。在宅勤務体制への移行は、社員につねに状況を伝え、つながりを保ち、心身の健康を維持するために、テクノロジーの活用方法を決めることでもあります”

リモートワーク体制下でチームが分散している場合、マネージャーには、チーム メンバーに絶えず連絡を取り、進捗を確認する負担があることを五十嵐は認めています。しかし同時にマネージャーは、自分のチームメンバーは、つねに誰かに見張られていなくても仕事をきちんとこなすのだ、と信頼する必要があります。

“この危機は、企業がより柔軟かつ賢明な働き方に移行する良い契機になるだろうと思います。企業が通常の働き方に戻った時にはじめて、今回学んだ教訓を思い起こすことができるでしょう”

このような状況下でもチャンスはあります。従来からの働き方を踏襲し続けてきた伝統的で昔気質の企業も、「事業継続」という経営の根幹に関わる問題として、より柔軟な働き方やそのためのテクノロジーの採用を正面から検討する必要がでてきたということです。今回の事態が収束して日常に戻ったときには、多くの人々がより働きやすい環境のもと、仕事をする時代になるかもしれません。

“今はとても不幸な状況ですが、もっと他人を思いやる心を持ち、自分に合った働き方を生み出す機会を人々に与えるチャンスでもあるのです”

3. 重要なことに集中する

オーストラリアでパンデミックが深刻な問題になろうとしていた頃、Dropboxの シドニー オフィスでは、ちょうど「国際女性デー」のイベントが予定されていました。オーストラリア各地から集まった大手企業の女性リーダーたちの話を聞こうと、イベントには 100 名の参加者が登録済みでした。担当チームは鋭意準備に当たっており、当該オフィスで開催するイベントとしては最大級のものになるはずでした。

このイベントの 2 日前、シドニー オフィスのサイト リーダーであるジェニファー・レディントンは、難しい決断を迫られていました。 ジェニファーは、当時を振り返って次のように述べています。

“熟慮を重ねた結果、スタッフや出席者、そして地域住民の健康を第一に考えるべきだという結論に達しました。もちろん、感染拡大のリスクを負いながらイベントを開催することもできましたが、責任ある行動をしなければならないと判断し、人々の健康を優先しました”

Dropbox は 3 月 4 日にイベントの中止を決め、6 日の金曜日までには、グローバル全体でリモート ワーク体制に移行することを決定しました。これを受けてジェニファーは、担当チームにイベントの中止を伝えました。

“当初、リモート体制移行の措置を取るのは 2 週間だけの予定でした。しかし、この後、こうした措置はオーストラリア各地にも広がり、政府はほどなく、すべての人に可能な限り在宅勤務するよう推奨するようになりました。振り返ってみると、私たちは先手を打っていたので、これで良かったのです”

最終的には、スタッフや出席者、そして地域住民の健康を第一に考えなければなりませんでした。

– アジア太平洋地域および日本担当ビジネス マネージャー
ジェニファー・レディントン

企業は何をすべきか、オーストラリアの他の企業に何かアドバイスはあるか、と尋ねたところ、ジェニファーは次のように答えました。

“自社のビジネスにとって重要なことに集中すべきです。どうしても外部の要因に振り回されてしまいがちですが、大切なのは、自分たちで変えられることに尽力することです。結果として、それがビジネス継続につながります。Dropbox には、サービスを滞りなく提供し、スタッフに気を配り、お客様をサポートするという責任があります。私たちは、その責任をまっとうします”

私たちは今、未曾有の危機の中にいます。チームは日々それを乗り越えようとし、リーダーはビジネスを継続させ人々の健康を守るために最善の決断を下しています。

“私は、これまでに学んだあらゆる管理スキルを駆使しています。これまでのキャリアの中で、私は優れたマネージャーと仕事をする素晴らしい機会に恵まれました。そして自信のないときは、その人たちならこの機会にどうやって取り組むだろうかと考えてきました。 リーダーとしての私の強みは、作戦を立てて目の前の課題に集中することであり、それが今の状況では驚くほど役に立っています”