イラスト:ファニー・ルオー
Dropbox には、デザインを成長(グロース)させるための健全でスマートなアプローチがあります。
このアプローチは、主にグロース チームがこの数年をかけて試行錯誤し生み出してきたプロセスのたまものです。その根底にあるのは、ユーザーのことを第一に考えたデザインと、そこから生まれる価値に対する信念です。
Dropbox で私たちが実践している、デザインを成長させるアプローチについて 10 のヒントをご紹介します。
目次
- 早い段階から関与する
- 全体像を考える
- 統一感を大切にする
- 成功に磨きをかける
- 細かいことに捉われ過ぎない
- 影響力が大きいものから優先して進める
- 課題を理解する
- うまくいったアイデアをデザイン体系に取り込む
- ユーザーに誠実なデザインを採用する
- チームの足並みを揃える
1. 早い段階から関与する
役割の異なるパートナーとブレインストーミングを一緒にすることは、他の人のアイデアに耳を傾けたり、自身のアイデアを発表したりするのにうってつけです。さらに、アイデアを練る段階からエンド ユーザーの目線に立てることも重要です。デザイナーは、リサーチやカスタマー サポートの担当と密接に関わる機会が多いので、そこから得られるヒントをユーザーのために生かせます。これは、他の職務にはないメリットといえるでしょう。
2. 全体像を考える
成長を考えるとき、明確な指標が得られるよう限られた要素だけを重視しがちです。特定の要素に絞ったソリューションであっても、ユーザー ジャーニーの全体像を心に浮かべながらデザイン作業をすることで、製品やウェブサイトで変更を加えたときに、他の部分にどういう影響を与えるか意識できるようになり、ユーザー エクスペリエンスの一貫性を保つことにもつながります。
3. 統一感を大切にする
製品やサイトで部分的に古くなった箇所があれば、残りの部分に合わせてアップデートしてみるとよいでしょう。例えば、ビジュアルを刷新するのが良い例です。ビジュアルを改善した結果、今までよりも良いもになるのであれば、新しい機能としてリリースしてみるのもよいでしょう。外観の刷新についてチームの合意がなかなか得られない場合は、刷新後のページのモックを見せるのもいいかもしれません。
刷新された購入ページのモック (2016 年以降)
Dropbox が現在のブランドに刷新するよりも前の話ですが、購入ページの見た目が古くなり、新しいページやサイト全体との整合性が取れなくなったことがありました。購入ページのボタン、入力フォーム、メニューのスタイルは以前のままでしたし、イラストも古い感じが否めませんでした。さまざまな試行錯誤を行う合間で、私はこのページのデザインを刷新したいと提案しました。説得力を持たせるために、新しいデザインを見せるだけでなく、そのデザインで実現できる新しいアイデアもいくつか提示しました。チーム一丸となって更新作業に取り組み、無事に新しいデザインをリリースすることができました。
4. 成功に磨きをかける
新しい取り組みにおいて、細部まで完璧に仕上げることは簡単ではありません。納期が短い時はなおさらです。このような場合は、早い段階からグロース チームのマネージャーやプロダクト マネージャーと協力して、課題に取り組んだり、当初の目的について理解を深めたりするとよいでしょう。こうすることで対処方法が明確になり、最終的なソリューションにも生かされるはずです。何をすべきかが明らかになったら、原点に立ち返ってビジュアルやマイクロ インタラクションを磨き上げ、新しいスタンダードとしてリリースします。
5. 細部だけに捉われない
アトミック デザインという考え方において、デザインにおける最小要素のことを「原子」や「プリミティブ」と呼んでいます。一般的には、色、スペーシング、ボーダーの角丸、書体、フォント サイズなどがこれに該当します。こうしたレベルでの変更は、たとえ些細なものであっても、デザイン体系に悪影響を与えてしまうおそれがあります。成長に向けた取り組みであったとしても、デザイン体系の基礎となる要素については、明らかに問題がある場合を除いて、慎重に扱うべきでしょう。「原子」レベルでの試行錯誤を続けていると、ユーザーが直面している本質的な問題を忘れがちになってしまいます。
6. 影響が大きく出るものから優先する
時間には限りがあるので、最も影響が大きいプロジェクトを優先して取り組むといいかもしれません。成長を実現するためには、さまざまな作業が必要になります。ひとつのチームだけで対応することは難しいでしょう。プロジェクトごとの優先順位を決められるよう、今後の可能性や影響について理解する必要があります。プロジェクト マネージャーと協力し、ビジネスやエンド ユーザーへの影響が大きい仕事を優先するとよいでしょう。
7. 課題を理解する
グロース マネージャーやプロダクト マネージャーと協力して、取り組みにおける仮説の内容を理解しましょう。時には、仮説を疑い、検証することも必要です。私の場合、ユーザーとビジネスにとっての問題点を、まずは自分の言葉で書き出してみることが効果的でした。問題点について深く理解できると、解決のためのアイデアも良いものが生まれやすくなります。思い付いた解決策については、効果的かどうかを見極めることも大切です。
最近の取り組みから 1 つ例を挙げてみましょう。Dropbox からのクレジットカード請求について、ユーザー自身で確認できるツールの改善を行おうとした時のことです。このツールは当初の見込みよりも利用数が少なかったのですが、その理由は、ユーザーのほとんどがカスタマー サポートに問い合わせることが多かったためでした。当初は、「ツールの使い方がわかりづらいのかな」「うまく機能していないのかな」と思っていました。しかし、プロジェクト マネージャーがカスタマー サポート チームから話を聞き、実際の サポートへの問い合わせ内容に目を通してみて、初めて本当の原因に気づいたのです。
クレジットカード所有者向けの請求内容検索ツール
Dropbox を使用している企業でユーザーである社員が退職した場合、その人は会社の Dropbox のアカウントや保存されているコンテンツにアクセスできなくなります。これは、もちろん正常な仕様ですし、ユーザーも認識しているはずです。ところが、ビジネス用の Dropbox アカウントの支払いに、社員個人のクレジットカードを使用しているというケースの場合、社員が退職した後に、そのカードでの支払いを取り消さないと、次の更新時に同じカードに請求されてしまうわけです。カードの所有者である元社員は、退職後にカードの利用明細を見て、このことに気づき、db.tt/cchelp ツールにアクセスして検索をしようとします。しかし、当時のツールは、対象の Dropbox アカウントにサインインしないと請求状況を確認することができませんでした。このユーザーは既に退職していますから、アカウントにサインインすることができません。
ツールが予想よりも使われていないのはなぜか、その原因を理解できたことで、本当の問題に対処することができたのです。そこで私たちは、請求確認ツールの認証プロセスを作り直すことにしました。こうして Dropbox アカウントにアクセスできなくなった後でも、カードの所有者がツールにアクセスできるようになったのです。さらに、支払いに使用していたカードを削除する機能も追加しました。
8. 改善したアイデアがうまくいったら、デザイン体系に取り込む
デザイン コンポーネントの作成と改善が終わったら、リリース後もパフォーマンスを継続的にチェックしてください。うまくいっているようであればデザイン体系に取り入れ、最大限に活用できるように、手順を文書化しておきます。チーム メンバーが最高のパターンを簡単に見つけて活用できるようになれば、チーム全体の意識統一も進み、さらなる向上が見込めます。これに加えて、製品やサイトで一貫性のある環境をエンド ユーザーに提供できるようにもなります。
9. ユーザーに誠実なデザインを採用する
Dropbox Businessは、ユーザーの皆さんに継続的に利用していただくことで成り立っています。こうした信頼に応えることが、非常に重要です。これをデザイナーの視点で考えると、ダーク パターン、つまり不誠実なデザインを採用してはいけないということになります。こうした価値観は私のチーム全体に浸透しており、アイデアがグレー ゾーンに入りそうな場合には軌道修正するようにしています。
節約額とイラストで年額払いをアピール
ここでは、年間サブスクリプションの利用数を増やすために、購入ページの改善に着手した時のことをお話ししましょう。月額払いのオプションについては、見せないようにしたり、わかりづらい表示にしたりはせず、年額払いのオプションの横に明示しました。さらに、わかりやすいイラストを付け、年額払いにした場合の節約額を強調することにしました。この改善は成功し、ユーザーの信頼を損ねることなく目標を達成することができたのです。
10. チームの足並みを揃える
チームでのデザイン レビューや批評会(私たちはデザイン セッションと呼んでいます)に、できるだけ多く参加するようにしましょう。自分で見つけたことを発表するだけでなく、他のメンバーの考えを知る機会にもなります。さらには、自分のデザインについてフィードバックを受けたり、ブレインストーミングを行ってアイデアを生み出す場としても活用できます。デザインの批評会を行うことで、これまでの似たような問題に何度も取り組まなくて済むようになります。Dropbox のグロース デザイン チームは、ミーティングを週に 2 回行っています。私たちにとっては、これくらいの頻度がちょうど良いのです。
最後に
いかがでしたでしょうか。こうした取り組みによって、わたしたちはユーザーの目線に立った成長目標を立てられるようになりました。今回ご紹介したヒントがもしお役に立つようであれば、皆さんの業務にも取り入れてみてください。素晴らしいユーザー エクスペリエンスを生み出し、大きな変化を感じられるきっかけになれば幸いです。
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