
カナダのメタルバンド Spiritbox は、ツアー写真をただ SNS に投稿するだけでは物足りなかった。彼らが選んだのは、Dropbox を「生きたアーカイブ」に変え、ファン一人ひとりがライブの瞬間を自分のものにできる仕組みだった。毎晩 100 枚以上の写真が自動公開され、ファンは自分の姿を探し、ダウンロードし、永遠の思い出にする。これは単なるファンサービスではなく、音楽とテクノロジーが生み出した新しい「つながり」の形だ。
本記事は、Dropbox ブログ記事「made the ultimate tour keepsake with Dropbox 」(2025年9月3日公開)を抄訳したものです。
ライブ後に始まる、もう一つの体験
カナダのメタルバンド Spiritbox がツアーに出たとき、彼らはセットリストだけを考えていたわけではなかった。考えていたのは「つながり」だ。数字で測られるようなものではなく、照明が点き、最後の音が消えた後も長く心に残り続ける、そんなつながりを。
Dropbox でツアーコンテンツを整理・共有する実用的な手段として始まったものは、すぐに深い意味を持つものへと進化した。舞台裏の瞬間、観客のスナップショット、ツアーを特別なものにする小さなディテールで常に更新される、デジタルなタイムカプセルとなったのだ。
今、最も勢いのあるメタルバンド
Spiritbox は 2017 年にカナダで結成された 4 人組のプログレッシブ・メタルバンドだ。デスコアやメタルコアにエレクトロニック要素を融合させた独自のサウンドで、近年急速に世界的な注目を集めている。 バンドは今、キャリア最大の波に乗っている。2 枚目のスタジオアルバム『Tsunami Sea』は、ビルボードのハードロック・アルバム・チャートで 1 位を獲得。それ以来、より大きな会場を満員にし、ソールドアウトを重ね、「メタル界で最も勢いのあるバンドの一つ」として称賛されている。
Spiritbox の魅力を理解するには、彼らの独特なサウンドとライブのエネルギーを体験することだ。ある曲では、ボーカリストのコートニー・ラプランテが魂を解放するようなメタルスクリームを炸裂させる。次の曲では一転、エレクトロニックなグリットの上を舞い上がるクリーンで伸びやかな歌声へ。マイク・ストリンガーは重厚なギターを、ジョシュ・ギルバートはベースを、ゼヴ・ローズは複雑なポリリズムをドラムで刻む。彼らのサウンドは「カタルシス」と表現されることが多いが、それが最も強く響くのはライブの場だ。優雅なボーカルの瞬間から爆発的なブレイクダウンへ ―― 観客は彼らと一体となり、同じ熱量で動く。
舞台裏で動く「5人目のメンバー」
ステージの外では、もう一つの存在が夜を形作っている。音は聞こえない。Spiritbox の背後には、バンドと同じくらい全力で走る緊密なクリエイティブチームがいる。写真家、マネージャー、開発者が、ツアーのデジタル面を物理的な面と同じスピードで動かし続けているのだ。
ツアー写真家アレクサンダー・ベミスの仕事は、モッシュピットと同じくらいライブ体験に欠かせない。アンコールの後、彼は 100 枚以上の写真を編集して Dropbox にアップロードする――ツアーバスが出発する前に、ということも珍しくない。マネージャーのジェイソン・マジョーと開発者のマイク・バルドは、Dropbox API を使ってそのフォルダを公開ギャラリーに連携。サイトがバンドの Dropbox から直接写真を取得・公開できる、シンプルな仕組みを構築した。翌朝には、前夜のファンが群衆の中から自分を見つけ、高解像度の写真をダウンロードし、「確かにあの場にいた」証を手にできる(もしかしたらモッシュピットの中にいたことも)。
「答えはすでに目の前にあった」
このクリエイティブチームにとって、アイデアの源はシンプルだった。解決策がすでに目の前にあることに気づいただけだ。
「僕たちは毎日、すべての作業で Dropbox を使っている。アレックスが毎晩送ってくれる写真も全部そこにある。だったら、それを公開しない手はないでしょう?」とジェイソンは言う。 その毎晩の写真投下は、ヘビーメタル流のコミュニティづくりへと発展した。今では各ショーが独自のデジタル空間を生み出し、ファンはアンプが冷めた後も何度でも戻って、あの夜を追体験できる。私たちは、ベミス、マジョー、バルドの 3 人に、ファンがすべてのショーを振り返ることができる Dropbox 活用システムについて話を聞いた。

インタビュー
僕たちは毎日 Dropbox を使っている… だったら公開しない手はない
何が Spiritbox のライブをこれほど撮りがいのあるものにしているのか?
アレクサンダー・ベミス(ツアー写真家):
Spiritbox を撮影するとき、僕はいつも生々しい感情と激しさがにじみ出る瞬間を追いかけています。ステージで音楽に没入しているバンドメンバーでも、観客席で強烈なつながりを感じているファンでも。目標は、スクロール中に思わず立ち止まって「すごい」と言わせる写真を撮ることです。 すべての写真を映画のように、バンドと体験を実物以上に大きく感じさせたい。ボストンの MGM ミュージックホールで完売したショーに、コートニーがステージへ駆け出していく映像は象徴的でした。同じくらい力強かったのは、セット開始の最初の音が鳴った瞬間の、最前列の子供たちの表情を捉えたことです。
これ以前はどうやってファンと関わっていたのですか?
ジェイソン・マジョー(マネージャー):
ソーシャルメディアでコンテンツを共有したり、SMS やメールマガジンも活用していました。でも、ソーシャルメディアには限界がある。データ収集の制約もあるし、共有できる写真の枚数も限られています。もっといい方法が欲しかった。投稿の「いいね」を稼ぐために 1 枚の写真を選ぶだけじゃなく、ファンにもっと多くのコンテンツへアクセスしてほしかったんです。
未公開の写真もたくさんありました。アレックスは毎晩すごい数の素晴らしい写真を撮るので、Instagram で共有する数枚を選ぶのは本当に難しい。投稿しすぎると、フィードが単調になってしまうし。「どんな形式のファイルでもアップロードできて、制限のないギャラリーが作れたらな」と思ったんです。実は、ビヨンセからもヒントをもらいました。彼女がウェブサイトにツアーギャラリーを作っていて、それがクールで、どこか懐かしい感じがしたんです。
システムの仕組みを教えてください
マイク・バルド(クリエイティブ開発者):
サイトのバックエンドは、バンドの Dropbox アカウントと連携して、コンテンツを自動で取得・表示できるようにしました。サイトを開くと、自動的に Dropbox API の特定フォルダを読み込みます。バックエンドを設定した後は、完全自動化されました。チームがメインフォルダに写真や動画を追加するだけで、サイトが自動更新して表示・整理してくれます。 デザインは、ファンにとってすぐ馴染みがあって、ツアーを身近に感じられるものにしたかった。メインのインターフェースは、バンド自身のデスクトップ画面をイメージしています。デスクトップ上の各フォルダがツアーの各ショーを表していて、クリックすると写真や動画を見たり、拡大したり、ダウンロードできます。
ファンの反応はどうですか?
マジョー:
アーカイブには、バンドメンバーの写真、ツアー演出の様子、観客のショット、ファンのクローズアップなど、さまざまなものが入っています。舞台裏の写真や、毎晩会場前に並ぶファンの動画もあります。 ファンは拡大して自分を探し、ダウンロードして、友達に送る。それが SNS に投稿されたら、それはそれで素晴らしいことだし、自然な流れです。僕たちは何も頼んでいない。ただ「ここに写真がありますよ、好きに使ってください」というだけ。見つけたもので何かしてほしいんです。プリントするなり、投稿するなり――僕らのフィードに「いいね」するだけじゃなくて。
バルド:
これがファンごとに違った響き方をするのが興味深いですね。所有感が生まれるんです。ショーの後、頭の中であの体験を反芻している。これは自由に探索できる機会を与えてくれる。バックエンドに入り込んで写真を発掘するような感覚です。プロモーションじゃない ―― 共有なんです。ファンを内側に招き入れている。
ライブは、バンドがステージに上がる前から始まっている
今後のツアーやファンとの関係にどう影響しそうですか?
マジョー:
Tsunami ツアーのパート 2 を発表して、すでにサイトにパート 2 用のフォルダを作りました。今は空ですが、アレックスがツアー中に撮影している間、ちょっとしたサプライズを少しずつ追加していきたい。ツアーのチケット販売期間中、熱心なファンが時々チェックして「おお!何か追加されてる!」となるようにしたいんです。
ベミス:
これがバンドの定番になると分かったので、日々の撮影の仕方も変わってきます。ファンのショットにもっと注力します ―― グッズを着ている子供たち、会場前の列でサインを持っている子供たち。このツールの良い使い道になると思います。子供たちは「わあ、私の写真が今夜 Dropbox に載るかも!」ってワクワクしながらサイトをチェックするでしょうね。
このストーリーテリングは、音楽ツアーとファンとの関係の未来に何をもたらすと思いますか?
ベミス:
ツアー開始時は、これが実現するとは思っていなかったので、特定の種類の写真は避けていました。今は、バンドの演奏だけじゃなく、全体のストーリーを語る写真をもっと撮れます。すべてを包み込むような撮影ができる。
マジョー:
これは、ライブイベントを捉えるということが、ステージ上の瞬間だけではないことを示していると思います。もっと大きなストーリーがあるんです。イベントはバンドがステージに上がるときに始まるんじゃない ―― その間にあるすべてが、同じくらい重要なんです。

















