ビジネス書などでもよく目にする、ロジカル シンキングという言葉。論理的思考という直訳の意味は理解できていても、それをいざ実践してビジネスに役立てるとなると、どうしたらよいのか分からないという方は多いのではないでしょうか。
ロジカル シンキングにはいくつかの有名な手法があります。それぞれ順序よく思考を整理していくと、アイデアなど「散らかった状態」の情報をきれいに整理してそのまま企画書などに使えるようになります。
この記事では、ロジカル シンキングとは何かという基礎知識から有名な思考法をそれぞれ詳しく解説していきますので、これを読むだけで今すぐロジカル シンキングのスキルを手に入れることができます。ぜひ、最後までお付き合いください。
目次
1. ロジカル シンキングはすべての人に必須のスキル
2. MECE によるロジカル シンキング法
3. 帰納法と演繹法
4. まとめ
1. ロジカル シンキングはすべての人に必須のスキル
1-1. ロジカル シンキングとは
ロジカル シンキングは、直訳すると論理的な思考という意味です。そのまま直訳が多用されており、「論理的思考」という言葉に置き換えることもできます。散文的で思いつきでしかないようなものではなく、理路整然とした理由と根拠のある考え方のことをロジカル シンキングといいます。
どんな物事にも見えている部分と見えていない部分、そして必ず理由と、その理由の根拠があります。それらの要素にも光を当てて整理された思考がロジカル シンキングです。
「雨の日は憂鬱だ」というだけだと主観的な意見でしかありませんが、なぜ雨の日は憂鬱になるのか?という理由に対して「足元が滑りやすくけがをしやすい」「傘を持ち歩く必要があるので荷物が増える」「湿度が高いと古傷が痛む」などの明確な理由があると、説得力が増します。さらに雨の日は交通事故がどれだけ多くなるのかという客観的なデータや、傘の紛失リスクや湿度と古傷の痛みについて根拠を示すことができれば、ロジカル シンキングによって「雨の日が憂鬱」という事実が主観的なものではなく事実に裏づけられた意見となります。
少々理屈っぽく感じられるかもしれませんが、ビジネスシーンで企画提案などを行う際にはこうした理由や根拠がなければ絵に描いた餅としか伝わらない可能性が高く、ロジカル シンキングによる理路整然とした伝え方が必要になります。
1-2. ロジカル シンキングは人を説得する技術
なぜロジカル シンキングがビジネスパーソンの必須スキルだと言われることが多いのでしょうか。その理由ははっきりしていて、人を説得しやすいからです。人は初めて聞く話、初めて触れる情報には疑いの感情を持っています。
聞いている話に対して「本当なのか」「根拠はあるのか」という感情を持っているときに、理由や根拠を明確に示されると疑いの感情が薄れていきます。ロジカル シンキングはこの効果を狙ったもので、あらかじめ疑われるであろう部分を想定して、そこに手当てをするための思考パターンだと言ってもよいでしょう。
疑う理由がなくなったとき、断る理由がなくなったとき、その提案や呼びかけは聞いている人の共感を得ることができます。
1-3. ロジカル シンキングが活躍する場面
1-3-1. プレゼン、営業活動
ビジネスパーソンがロジカル シンキングを活用する場面として考えられるのは、おそらくプレゼンや営業活動が大半でしょう。いかにロジカルな企画書で提案できるか、営業トークを展開できるかはそのまま結果に直結します。
企画立案に至った経緯や現状の指摘から始まり、その解決法を提案、その具体的な方法論を提示するというのが基本的な流れですが、この一連のロジックに整合性を持たせるのにロジカル シンキングはとても役立ちます。
1-3-2. 就職、面接
就職活動というのは、自分自身を売り込む営業活動です。意中の企業に入社したいと思えば思うほど、ロジカル シンキングが有効です。
たとえば貿易会社への就職を希望している人であれば、「貿易の仕事を夢見ている」→「貿易業界で御社は有力な企業」→「ゆえに御社への入社を希望している」というロジックで志望動機を展開すると、論理的に志望の理由が伝わるでしょう。後述しますが、このようなロジック展開のことを演繹法(えんえきほう)と言います。
1-3-3. 人間関係
多くの場合は無意識に行われていますが、人間関係でもロジカル シンキングはとても多くの場面で活用されています。
特に男女関係の場合、意中の人に思いを伝える場合は「なぜあなたが好きなのか」という理由を語るはずです。なぜなら、根拠のない口説き文句は伝わりにくく「誰にでも同じことを言っているのでは?」と思われてしまう恐れがあるからです。相手のことが好きである理由、自分に何ができるのかという根拠を示す行動は、感情から生まれる言葉のように見えますが実はとても論理的なのです。
しかし、夫婦関係、恋人同士のパートナーシップにおいてロジカル シンキングは逆効果である場合が多いので気をつけてください。
1-3-4. グローバル環境の職場
外資系企業のように様々な文化の人間が共に仕事している環境だと、情緖的なことでは話が通りづらく、英語と数字、ロジック、さらに情熱がないと物事が前に進まないことが多いです。海外の人たちと仕事するためにロジカル シンキングを元に話をすることで、あなたの伝えたいことに対して相手が納得してもらう可能性が上がって行きます。
1-4. ロジカル シンキングの基本的な構成
ロジカル シンキングを構成するのに必要な要素とその順序をまとめてみると、以下のようになります。このような構成・順序になっているかどうかを、まずはチェックしてみましょう。
- 結論、目的
- 理由
- 理由を裏づける根拠
それぞれの要素を細分化するともっと項目は多くなると思いますが、大きく分類するとこの 3 つになります。逆に考えるとこれだけなので、この 3 つの要件を満たしているかどうかをチェックするのは簡単です。
最初に何を提案したいのかという結論を提示した上で、提案の理由と、その理由を裏づける社会情勢や調査結果、数値データなどを揃えることで説得力を補強します。ページ数の多い企画書の多くは、この 3 つ目にあたる根拠を示すデータをたくさん紹介しているためページ数が多くなっているだけで、基本となる 3 要素の構成はおおむね同じです。
1-5. なぜなぜ分析を活用しよう
問題解決をしたい事象に対して原因や理由を洗い出すために用いられる、なぜなぜ分析という手法があります。「なぜなぜ」という言葉の通り、何度も「なぜ」という理由を問い続けて答えを出していき、やがて問題の原因になっているものをすべて洗い出すことができるという手法で、ロジカル シンキングによるロジックの組み立てにも役立ちます。
なぜなぜ分析はもともとトヨタ自動車が開発した方法で、海外では5whyと言われています。5回「なぜ」について答えていくと本質にたどり着くという方法です。
ロジカル シンキングでは結論の次に理由を定義するのがセオリーですが、この理由が 1 つとは限りません。企画が持ち上がった経緯や背景はいくつもあることの方が多いので、それをなぜなぜ分析によって 1 つでも多く洗い出すというわけです。
観光誘致キャンペーンの企画を立ち上げる際には、冒頭にどうやって観光客を誘致するかという結論を述べて、次に理由を挙げます。観光客を誘致する企画なので、その土地への観光客の減少という背景があるはずです。なぜ観光客が減少したのかという理由を、なぜなぜ分析で出せるだけ出します。
たとえば、以下のような具合です。
【なぜ、観光客が減少しているのか?】
- 近隣に強力なライバルが出現した
- 施設の老朽化や陳腐化など観光地としての魅力が低下した
- 顧客満足度が低くネットなどに悪い口コミが多くなった
- 市場の選好が変化した
- 景気悪化によって旅行需要が低下した
- 災害などで風評被害の影響を受けた
他にも考えられるものがあると思いますし、上記のすべてが同時に該当することはないでしょう。
このように、なぜなぜ分析の結果として複数の理由が導き出されたとしたら、より観光客減少の本質に迫ることができます。こうした理由の分析が正確であればあるほど企画の説得力が増すため、ロジカル シンキングの真価が発揮されるのです。
1-6. ロジカル シンキング脳を鍛えるには
ロジカル シンキングは天性のスキルであるかのように思われている部分がありますが、実際にはその逆で後天的に得られるものです。すべては習慣と訓練次第なので、日常的に物事を論理的に考えてロジカル シンキング脳を鍛えましょう。
最も手軽なのは、「物事にはすべて理由がある」という前提に立って、目の前にある物事の理由や真意を考える癖をつけることです。逆説的なロジカル シンキングの例としてよく取り上げられるのが、「通り抜け禁止」という看板です。その看板を初めて見た人が「通り抜け禁止ということは、便利な抜け道がある」と考えれば、それはロジカル シンキング的な深読みです。なぜなら、通り抜けができない道路にその看板は無意味で、仮に通り抜けができる道路だったとしても狭かったり路面が劣悪なら好き好んで抜け道にする人は少ないでしょう。看板を出してまで通り抜けを禁じる必要があるのは快適な抜け道がある証拠だ、というわけです。
これと同時に、あらゆる物事に対して「誰がトクをするのか」という思考を持つようにすると、物事の本質が見えやすくなります。犯罪捜査には犯行推定時刻に被疑者がどこにいたのかを調べる「アリバイ」がありますが、もうひとつ犯罪行為に及ぶことで誰がトクをするのかという視点で犯人像を特定する「クイボノ」という概念があります。このクイボノという概念は、ロジカル シンキングによって犯人を特定する手法と言えます。
「誰がトクをするのか」という視点はマーケティングにおけるペルソナやベネフィットの設定にも役立つので、ぜひ習慣づけておきたい思考です。
2. MECE によるロジカル シンキング法
2-1. MECE とは
MECE とはロジカル シンキングでよく用いられる手法のひとつで、Mutually Exclusive、Collectively Exhaustive という言葉の頭文字を並べたものです。MECE と書いて「ミーシー」と発音します。少々難しい英単語が並んでいますが、直訳すると「漏れがない、重複もない」という意味になります。つまり、MECE は漏れと重複という 2 つの落とし穴を防ぐための思考法です。
前章では結論に対する理由をなぜなぜ分析で洗い出す手法を解説しましたが、これは考えられる理由の漏れをなくすという MECE 的な思考です。もし重大な理由が抜け落ちていたままの状態で企画を立案すると、肝心なところに言及されていない中途半端なものになってしまうでしょう。
2-2. MECE によるロジカル シンキングの組み立て方
1-5 では観光誘致キャンペーンの企画背景として観光客が減少している理由を洗い出す工程を解説しました。そこで挙げられた理由の中には抜け落ちてしまうと致命的なものがあります。
再度、考えられる理由を見てみましょう。
- 近隣に強力なライバルが出現した
- 施設の老朽化や陳腐化など観光地としての魅力が低下した
- 顧客満足度が低くネットなどに悪い口コミが多くなった
- 市場の選好が変化した
- 景気悪化によって旅行需要が低下した
- 災害などで風評被害の影響を受けた
このうち、観光地サイドに原因があるものは「施設の老朽化」「満足度が低い」の 2 つです。もしこのうち「満足度が低い」という視点が抜け落ちていたとしたら、施設を新しくすれば問題は解決するという極めてプロダクト・アウトな結論になってしまいます。
ターゲットとなる人物像や顧客層、ニーズ、課題や改善点などに何か漏れはないか、そしてそれぞれに重複はないかということを検証するのが MECE で、ロジカル シンキングでは一度検証されるべき項目となっています。
【プロダクト・アウトとは】
優れたものを生産、提供していれば売れるという作り手目線の考え方のことです。反対語はマーケット・インで、こちらは市場の選好や調査結果などを常に意識しながら必要とされるものを提供するという考え方です。当然ながらプロダクト・アウトは古い考え方とされており、現在はマーケティング主体のマーケット・インが主流となっています。
2-3. MECE にロジック・ツリーを活用する方法
2-3-1. ロジック・ツリーとは
読んで字のごとく、ロジック・ツリーとは論理的なツリー(木)のことです。ツリー図は木が枝を伸ばしている様子に似ていることで名づけられたもので、1 つの事柄に対して「なぜ?」「どうやって?」といった問いかけを行い、その答えを分解していきながらツリー図を作り、思考を整理することができます。
左に思考を展開したいキーワードを書き入れて、そこから順に思い浮かんだものを書き入れていき、それを枝分かれさせてトーナメント表のように広げていくのが基本的な作図パターンです。
ここでお気づきになったかもしれませんが、こうしてロジック・ツリーに書き入れていく作業は漏れと重複を防ぐ意味合いが含まれているので、ロジック・ツリーは、MECE による思考を支援してくれる手法でもあります。
2-3-2. ロジック・ツリーによるロジカル シンキングの組み立て方
先ほどから例に用いている観光誘致キャンペーンの企画背景を、ロジック・ツリーで組み立ててみましょう。
最初に観光客が減少しているという事実を左に書き入れて、次に考えられる原因を書き入れてみます。
ここからさらに第 3 層にそれぞれの理由から派生する潜在的な原因を探りながら書き入れてみます。
すると、以下のようになりました。
このロジック・ツリーで整理した結果、観光地サイドの努力ではどうしようもないものも含めて観光客が減少している理由が明らかになりました。景気悪化は対策の打ちようがありませんが、施設の老朽化や満足度の低下、風評被害への対策が急務であることが浮き彫りになっています。
3. 帰納法と演繹法
3-1. 帰納法とは
帰納法とは、複数の事象に見られる共通点から結論を導き出す思考法です。流行というのは帰納法から生まれるもので、毎年のように新しいファッショントレンドが生まれる「他の人も身につけているから」という心理的背景には、帰納法によるロジック展開が見られます。
企業がある市場に新規参入をする場合、市場の有望性だけでは参入を決断するには力不足ですがその市場で自社が優位性を発揮できる見込みがあれば、1 つ決断しやすくなります。さらに、その市場で競合が少なくビジネスチャンスが多い見込みであるとなれば、さらに 1 つ参入決断への追い風となります。
これらの事実はいずれも、新規参入における懸念を払拭する材料です。このように同じベクトルの材料を集めることでロジックを組み立てるのが帰納法の基本的な考え方です。
3-2. 帰納法によるロジカル シンキングの組み立て方
帰納法によるロジカル シンキングには、サンプルとなる情報が必要です。しかも論理的な補強を目的とするのであれば、それぞれの情報が同じ方向を向いている必要があります。
環境性能が高いエコカーを提案するのであれば、様々な角度から魅力を訴求することが可能です。高燃費で CO2 排出が少ないという環境性能はエコカー本来の魅力です。しかしエコカーには、そこから派生する魅力が他にもあります。燃費性能が高いことで得られる経済性やエコカー減税、さらに「環境意識の高い人」というイメージを周囲に与えられるという潜在的なメリットも考えられます。こうした事実の積み重ねにより、ゆえに「エコカーを買うべき」という結論に至ります。
このように、エコカーを提案するにあたってそれを補強してくれる事実をあらゆる角度から積み重ねていくのが帰納法によるロジカル シンキングです。
これを図式化すると、以下のようになります。
3-3. 演繹法とは
演繹法(えんえきほう)とは、ある 1 つの事実に対して別の角度から得られた情報を重ねて、その事実と情報をつなげたものから結論を得るというロジカル シンキングの一種です。
たとえば規模の大きな大学の近くにはワンルームマンションが多いという傾向がありますが、これは「大学生は若い人が多く単身者が多い」という事実に「学生の中には遠方から進学してくる人が多い」という情報を重ねて、単身者が好むワンルームマンションを建てれば集客を見込めるという演繹法によって導き出されたマーケティングの結果です。
3-2. 演繹法によるロジカル シンキングの組み立て方
演繹法はロジカル シンキングの中でも非常によく用いられる手法です。三段論法と呼ばれることもあるように、1 つの事象だけでは結論が見えてこず、別の情報を重ねることによって結論に近づいていけるようになります。
先ほどのエコカー訴求を演繹法でロジック展開する場合は、「地球環境の破壊が深刻である」という事実に、「エコカーは環境負荷が低い」という優位性を重ねます。すると「地球環境のためにエコカーを導入するべき」という結論に至り、理路整然とした訴求が可能になります。
こちらも図式化してみましょう。
4. まとめ
ロジカル シンキングによって論理的にアイデアを組み立てていく方法を解説してきました。言葉にすると難しく感じるかもしれませんが、実は多くの人が無意識に頭の中で行っていることも多く含まれています。無意識にやっていることを体系立てて整理するだけでもロジカル シンキング脳は鍛えられるので、より論理的に物事を捉え、自分の言いたいこと正確かつ魅力的に伝えられるようになります。
ロジカル シンキングはビジネスシーンだけでなく、あらゆる場面で自分を表現するのに役立つものなので、ぜひマスターして仕事に、人生に役立ててください!