日本企業が AI を活用し事業成長を遂げるための道筋を探る

中間管理職が議事録作成に追われている日本のナレッジワーカーのAI利活用に関する実態調査と変化へのヒント

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AI 導入に向けたアドバイスのまとめ

  1. ナレッジワーカーの業務効率化と生産性向上のため、AI ツールの導入を検討する
  2. AI の活用事例を収集し、自社の事例に当てはめて具体的なメリットを共有する
  3. 経営層に AI の長期的なメリット(ビジネス拡大、付加価値向上など)を示し、理解を深める
  4. まずは関係者の情報共有をスムーズにするところから DX 化を進め、段階を追って AI 導入による付加価値を高めていく

 

Dropbox Japan は 2024 年 7 月に、中間管理職のナレッジワーカーを対象とした AI 利活用に関する実態調査の結果を発表しました。調査では、83.4% のナレッジワーカーが AI を業務に取り入れたいと考えているものの、実際に業務で利用しているのは 21.6% にとどまっていることが明らかになりました。

この調査結果をもとに、Dropbox Japan アジア太平洋日本地域総括ソリューション本部長・岡崎隆之が、日本政府の AI 戦略会議の構成員も務めている東京大学大学院工学系研究科・川原圭博教授とともに、日本企業が AI を活用し事業成長を遂げるための道筋を議論しました。

Dropbox は、「スマートな働き方を創造する」ことをミッションとしているクラウドソリューションプロバイダーです。Dropbox は、より良い職場環境とスマートな働き方を実現するためには、役職間のコミュニケーションや知識共有の機会を増やすことが重要と考えています。本稿では、そのヒントを探っていきます。

労働生産性の向上だけでなく、自身のモチベーションや成長機会につなげたいという切実な声

今回の調査において、中間管理職のナレッジワーカーが AI を利用したい理由として、業務量削減、生産性向上、モチベーション向上、成長機会の獲得などが挙げられました。一方で、AI を利用する際の阻害要因として、環境が整っていないこと、経営層の理解不足、経営層自身のデジタル化の遅れなどが指摘されました。

自身も中間管理職である Dropbox の岡崎は、調査結果を次のように読み取りました。

「今回の調査から非常に興味深く感じたのは、AI を使うことによって自身のモチベーションの向上や成長機会の獲得につなげたいと考えているということです。例えば、新しい技術や英語などを勉強したいけども、普段の業務が忙しくて時間を取れないこともあるでしょう。実体験にもリンクしますが、日々の単純作業や、割り込み作業を防ぐことで成長のための時間を確保したいと考えていることが、この調査からもわかります。」

中間管理職は「より付加価値のある仕事」への意識が高い

中間管理職が特に AI に任せたい仕事として挙がっているのは、会議の議事録まとめなど会議関連の仕事で、51.9% と平均よりも 10 ポイント以上高く、全役職の中で最も高くなっています。また、中間管理職の業務の特性から、知見や情報が集まりやすく、1 日に 1.5 時間を情報やファイル検索に費やしていることがわかりました。情報管理に関する作業全般には 1 日 4.3 時間を費やしており、1 日の就業時間の約半分が使われています。

「中間管理職は、当然、マネジメント業務や経営への貢献意欲が高いことがわかりました。私も、部下の指導・育成に時間を使いたい一方で、自分のキャリアアップのためにも経営により携わったり、長期的な戦略を考えたいとも思います。しかし、普段は目の前の業務に追われるというジレンマがあります。そのような中間管理職が特に、AI を活用することで時間をつくり、より付加価値のある仕事に取り組みたいと考えています。」(岡崎)

職場の AI 導入が進まない理由とは?

職場の AI 導入を阻む原因が、① 環境が整っていない、② 経営層を中心とした AI の理解不足、③ 経営層の DX 化の遅れということも調査で明らかになりました。

「経営層の方の AI に対する理解不足や DX 化の遅れというのは、自身の業務の特性上、IT ツールに関わる機会が少ないことが影響していると考えられます。先に挙げてきたような情報を扱う種々の日常業務を中間管理職に委譲しているため、AI 導入による業務効率化よりも、リスクやコストに意識が向かっているのではないでしょうか。また、経営者層は、業務上で他の人と協業するツールを全く使わない割合が 35% と全役職の中で最も高い結果が出ています。まずは役職の垣根を超えて、会社全体として業務の DX 化を進めていくことが非常に重要と感じています。」(岡崎)

Dropbox は、DX 化支援事例として、戸田建設株式会社のケースを紹介しました。2019 年本社オフィス移転の際に、戸田建設は、それまでのサーバーに保存していたデータや書類等を Dropbox に保存しました。様々な建設現場で情報が参照しやすくなったという現場での効果、オフィスの書棚やサーバーが不要になったという物理的なメリットが感じられたために、さらなる DX 化が進められました。

AI の社会実装に必要な要素とは?

東京大学大学院工学系研究科の川原教授には、ナレッジワーカーのための DX と AI の使い所をテーマに、企業が AI 実装を進めるためのヒントをお話しいただきました。川原教授は、生成 AI がナレッジワーカーの業務を大きく変える可能性があると指摘しました。

「中間管理職の業務効率化への期待がある一方、経営者がその導入に向けた判断ができず悩んでいる、というのは、私自身は、健全な状態であり、前向きな導入を検討したい、業務を改善したいという意思の表れだろうと思っています。」(川原教授)

そこで、東京大学・馬田隆明氏の著書『未来を実装する−テクノロジーで社会を変革する4つの原則』を引用しながら、テクノロジーの社会実装、会社への導入に必要な4つの要素を紹介されました。

① 最終的なインパクトとそこに至る道筋を示している
② 想定されるリスクに対処している
③ 規則などのガバナンスを適切に変えている
④ 関係者のセンスメイキングを行なっている

「1 つ目は、目的地にたどり着くことが理にかなっている、お互いのためになる、さらには楽しい何かが待っている”ということを納得してもらうことです。“こんなすばらしい世界があるからみんなで一緒に行こう”と呼びかけることが大切です。2 つ目のリスクに関して重要なことは、リスクは多少あるとしたうえで、許容できないリスクや倫理面の問題を把握・判断して、取捨選択をするということです。3 つ目が、制度設計や社会規範の話です。コロナ禍を経て、電子署名が浸透した経緯が象徴的な事例です。4 つ目は、簡単に言うと、“腹落ち”“納得感”のことですが、“こんなに便利になる”というのが自分にとって意味のある変化だと誰もが捉えられることが重要ということです。」(川原教授)

生成 AI の進化スピードは加速、より創造的なツールになる

前途のように、DX や生成 AI が与えるインパクト、センスメイキング=「自分にとって意味のある変化だと誰もが捉えられる」が AI を積極的に活用するためには重要です。特に、今や生成 AI は、翻訳、要約、対話、マルチモーダル処理など、従来不可能だった文書処理を可能にしており、これらの機能をまず使うことによって自分ごと化することも1つの手段です。

「大規模言語モデル(LLM)では、文章の取り扱い方法のレベルが格段に上がりました。翻訳や言い換えの精度や、チャットボットの柔軟性の向上、また、文章と視覚的なイメージを結びつけられることで、文章から絵を、絵から文章を生成できるまでに進化しています。」(川原教授)

一方で、生成 AI の弱点としては、事実に基づかない回答(ハルシネーション)や個人情報の漏洩リスクがあります。もちろん、これらの弱点・問題点は、開発者の努力や仕組みによって克服されることでしょう。生成 AI の活用が広がるにつれ、良い面も悪い面も出てくるので、良い面は伸ばし、悪い面はしっかりと対策をしていくことで、ビジネスに不可欠なツールになると予想されます。

「研究者目線では、生成 AI はこの1〜2 年で完成度が上がり、さらに 5〜10 年先にはまったく別のものになっていくという未来予測を立てています。最終的には、ノーベル賞級の発見も AI が担うようになるのではないかと考えています。そして、これがかなり前倒しで起こっていて、すでに研究者の興味関心事になってきていると感じます。」(川原教授)

日本企業が AI を活用するための道筋は?

川原教授と岡崎が対談する中で、日本企業が AI を活用するための道筋として、まずは成功事例を参考にし、自社の事例に当てはめて具体的なメリットを共有すること、また、経営層に AI の導入効果を理解してもらうためには、ビジネス拡大の可能性など、長期的な視点からのメリットを示す必要があるというヒントも出てきました。さらに、自社の強みを発揮するためには、AI を活用して付加価値を高めたり、新しい商品やサービスを生み出したりすることが重要ということです。

日本のビジネスシーンにおける生成 AI の導入がうまく進まない理由と、社会実装の 4 つの原則を実現するための具体的なアドバイスを川原教授は次のようにお話しされました。

「4 つの原則のうち、最初の“インパクト”に関しては、生成 AI を使うとどんないいことが起こるかという他社の事例を、国内でも国外でもいいのでしっかりと情報収集をして、自社に当てはめてみることです。会社としてどんな嬉しいことが期待できるのかを経営者と共有し、そのために生じうるリスクをどうするか、働き方をどう変えていくか、という議論につなげていき、センスメイキングが上から下まで行われることが非常に重要です。」(川原教授)

岡崎は、戸田建設様の事例のように、DX 化などを進める企業様がアーリーアダプターとして AI 活用も先陣を切っていくと考えています。一方で、DX 化自体に足踏みをしている企業も多い中で、DX 化の道筋を見つけるための具体的なアドバイスを川原教授に聞きました。

「例えば建設業のように、関わるステークホルダーが非常に多い業種は、専門職ごとの細かなコミュニケーションが必要になるため、デジタル化のメリットが得やすいイメージがあります。従来、紙でのやり取りが主だった場合は、そこがデジタル化されることが第一歩でしょう。その次に、各コミュニケーションのメッセージを読み取って、次のアクションに必要なことを抽出したりすることが、これからの生成 AI だったらできるかもしれません。ですので、まずは段階を追って、多くの関係者が各種の情報にアクセスできるような環境を作ることからはじめ、そこから AI を積極的に活用して、付加価値をどうつけていくかということに進めていければいいのではないかと思います。」(川原教授)

スマートな働き方を創造することを使命に掲げるクラウドソリューションプロバイダーとして、Dropbox Japan は、これからもデータのデジタル/クラウド化をはじめとした DX 化支援や AI などの最新技術を取り入れた製品を通じて、仕事や作業の効率化を引き続きサポートしてまいります。

*調査および本稿におけるナレッジワーカーとは、デジタルツール使った仕事を主に行う専門家、研究者、教育者、アナリスト、 IT スタッフなどを指します。