最も効率よく仕事ができる場所はどこでしょうか?
ここ 1 年ほど、私はオープン オフィス レイアウトをめぐる論争に注目していますが、それと同時に、気が散るものに囲まれた環境でどのように周囲への意識を保つかという点にも好奇心をかきたてられています。上司は共同作業が必要だと言い、研究者は集中力を高める必要があると言います。両者のバランスはどのようにとればいいのでしょうか。
その答えは、「オフィスに仕切りを戻す」程度の簡単な話ではないかもしれません。仕切りのあるオフィスでも、バーチャルな割り込みから逃れることはできません。新しいテクノロジー ツールの登場で、どこにいても連絡可能になったため、同僚とのコミュニケーションについての感じ方も変わりました。
メールの登場で電話は無遠慮と思われるようになり、やがてチャット アプリが普及してメールは面倒と感じられるようになりました。通知をオフにすれば邪魔は入らなくなりますが、それで作業はスムーズに進められるでしょうか。それとも、これまで以上に隔離された状態を生み出すだけでしょうか。
ジェニファー・ブルックは、Dropbox の調査スタッフとして世界中の人々にインタビューしてきました。ブルックはさまざまなナレッジ ワーカーとの対話を通じて、彼らが 2 つの作業環境をどのように切り替える傾向にあるのかを明らかにしました。
ブルックは言います。
多くの人が、オフィスでの最適時間は 1 週間あたり 2~3 日、在宅勤務の最適時間も 1 週間あたり 2~3 日だと考えています。つまり、オフィスで働くのは楽しいが、集中力を要する作業には不向きだという、興味深いパターンがあったのです。
また、調査結果によると、オープン オフィスでは気が散るという声がよく聞かれます。その理由のひとつは、オフィス内での他の人の会話は、自分が知りたい内容であることが多いからです。ハーバード ビジネス レビューの執筆者デビッド・バーカス氏はこう述べています。
同僚の静かなおしゃべりや空調の低く単調な動作音は、私たちの集中に一役買っています。問題は、自分が他の人の会話に引き込まれたり、集中しようとしているときに邪魔が入ったりするのを避けられないことです。
このような邪魔を防ぐには、ヘッドフォンなどがよく使われます。これなら自分のデスクで集中して仕事ができますが、同僚は話しかけにくいのでストレスの元となります。その結果、チームのマネージャーはたびたび門番の役割を担うことになります。
チームが集中できるように、マネージャーがチームの周りに境界線を張り巡らせます。つまり、チーム内で作業するメンバーに保護とサポートを提供する、組織上のインターフェースとなるのです。
このように、サイロ化に関する話題は、境界に関する話題とも言えます。組織内の特に大規模なチームやグループには、境界が必要です。しかし、チームと組織の両方にとって有益となるよう、情報やリクエストをサポートできる人も必要です。
ー ブルック
問題は、どうすれば作業フローを乱すことなく柔軟な境界を設けられるかです。
多くの人は、アイデアの相互交換を促進するためにベル研究所がスペースをデザインした方法を挙げます。
リサーチ サイエンティストにはそれぞれ固有のラボ、部屋、オフィスが割り当てられています。
しかし、かなりの時間をかけて廊下を歩いていかなければ、建物内の他のどの場所にもたどり着けず、その間にいやおうなしに他のサイエンティストやリサーチャーと出くわすことになります。このような思わぬ楽しい偶然がスペースの構造に組み込まれたのです。ー ブルック
これは、いわゆる「協働による代理学習」です。この方法で人は学習したことを応用できるようになり、組織全体に知識が共有されるしくみも改善されます。
ブルックはこのような問いを投げかけます。
チーム メンバーが集中するために境界を設ける一方で、一定の透過性を確保するために、組織はどのようにサポートできるでしょうか。アイデアを生み出し、認められないかもしれないことに取り組み、関心があることを見つけ、他の人やグループに関与してもらうには、どうすればいいでしょうか。
従業員は、上司つまり門番の介入や、会社の文化的な変化を待つ必要はありません。ブルックは、共同作業を受け入れつつ集中を保つために、個人やチームはさまざまな戦略を試みることができると言います。
昨年夏に実施した調査で得た情報は、過去 1 年間、自分の生活と仕事をオーガナイズするうえで大きな影響を及ぼしました。私が選んだ方法の 1 つは、カレンダーです。カレンダーは私にとって組織とのインターフェースであることから、境界の設定はカレンダーに任せました。
試しに、週のうち 3 日間は私のカレンダーに予定を入れないよう皆に伝え、週のうち 2 日間だけに予定を入れるようにしました。この、3 日間は自分の仕事に集中し、2 日間は周りと協働するという方法は、驚くほどうまくいっています。
ブルックはやがて、組織の他のスタッフがカレンダーで個人の予定を管理していることに気づき、自分の全スケジュールを把握するために自身も真似することにしました。
ブルックはこう説明します。
ブロック単位で時間を把握することで、私も自分の仕事に必要な時間を埋めていくことができます。これはまさに透過的な境界という考え方ですよね。組織内の誰でも、私と話をしたり、私のカレンダーに予定を入れたりできると感じてもらいたいのです。
ブルックは、単純なカレンダーによる調整が、会議を調整する方法に影響を与えたと言います。「面識のない人はたいてい、まずは連絡してきて許可を求め、状況を説明します。より丁寧なやり取りです。すばらしい庭があり、フェンスで囲まれている家から黙ってトマトを取っていく人はいないでしょう。まず、そうしてもいいかと尋ねるはずです。」
いったん会議に同意したら、そのためにどれだけの時間を割くかを決めるという別の重要な決断をしなければなりません。
私たちが使っているカレンダーではデフォルトの枠が時間単位になっています。製品に設けられているデフォルト値によって、時間と注意力に一定の枠組みが与えられます。会議枠がデフォルトで 1 時間なのは不合理だと私は思います。別の人との会話に費やす 1 時間のために、1 時間の準備と 1 時間の処理が必要です。つまり 1 時間の会議は 3~4 時間の業務になることが多いのです。
結果として、自分が進める必要がある仕事のための時間がますます減ることになります。では、カレンダー上とオフィスとでその時間を確保するには、どうすればいいでしょうか。
オープン オフィスは、雇用者が期待するような理想的な共同作業環境ではありませんが、近い未来の現実のようです。新しいオフィス デザインの枠組みが整うまでにできることは、集中力を保つスキルと、臨機応変に自分の時間を守るスキルに磨きをかけることです。自分が置かれている環境を制御できなくても、自分の境界を制御することは可能なのです。