集中について理解を深める旅

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正直なところ、この投稿の執筆中になかなか集中できないと感じる時がありました。

集中できなかった理由は、通知や連絡、メールが届いたり、世界で起こっている大ニュースに気を取られたりしたからです。Dropbox がテレワーク体制に移行して 1 年近くが経つというのに、私はこうした集中を妨げる要素を減らし、仕事に没頭できる時間を増やす方法を今でも模索しています。

私たちのチームは昨年、Economist Intelligence Unit(EIU)による生産性と集中についての調査研究のスポンサーになりました。その中で、ベビーブーム世代(1946~1964 年生まれ)の回答者の 41 % 以上が「仕事で集中を維持する責任は、他の何よりも個人が負うべきである」という質問に「強くそう思う」と回答しました。一方、私と同世代のジェネレーション Z/ミレニアル世代(1981~2002 年生まれ)では、「強くそう思う」と回答したのは 27 % だけでした。ジェネレーション X(1965~1980 年生まれ)の回答は、その中間の 39 % でした。この結果を受けて私は、「集中と育った世代に果たして相関があるのか、あるとしたらなぜなのか」と不思議に思いました。

それを探るため、私と同僚は各世代の知り合いから話を聞くことにしました。その結果、相関関係は確かにありますが、各自が「集中」をどう理解するかを左右する社会的影響や文化的影響もあることがわかりました。詳しく話を聞く中で、私も自分の考えを振り返り、集中に対しての理解も変わり始めました。

集中の理解に影響を与えるもの

私たちが話したほとんどの人は、「集中」について似たような定義をしていました。それは、「仕事中に没頭かつ専念している」という状態でした。インタビューをした時点では、私も同じように定義していました。私たちが話したベビーブーム世代の人は、集中は個人の責任であると強く感じていました。それ以外の世代の人たちは、前提自体に疑問を投げかけた 1 人を除いて、個人と雇用主の共通の責任と考えていました。受けてきた家庭教育や性格、さらには哲学的信念といった要素がこの質問への答え方に大きな影響を与えることがはっきりしてきました。

フリーランス コピーライターのジャネット・クラーク・パターソン氏と NBC ニュースの編集者ブルース・バーガー氏は、2 人ともベビーブーム世代です。両氏は、仕事で集中するのは個人の責任だと強く信じています。パターソン氏の場合、内省的な性格で、職業がライターということもあり、集中するには 1 人でいたほうがよいと話します。

パターソン氏は「内面からやる気が湧いてこないといけません」と言います。「雇用主が『効果的なやり方についてはアドバイスします。水曜日に会議はありません。Slack の通知をオフにする方法はこうです』などと言ってくれるのは歓迎します。でも、最終的には個人が責任を持つことだと思います。」 バーガー氏は、自分の考え方の背景には、その世代の文化的期待があると考えています。彼の両親は 18 歳になる頃にはフルタイムで働いていました。そのため、息子にも、同じくらいの年齢には経済的に自立すること期待していたと言います。「私たちが育った文化は非常に抑圧的で、私たちはそこから自由にならなければならないと考えていました。だから、親と同じような格好はしないようにしよう、そんな髪型にはしないようにしよう、そんな職業に就くのはやめよう、などと思っていました」とバーガー氏は言います。「そうした背景が私に大きな影響を与えていると思います。私が 18 歳になった時、機会があったので実家を出て遠くに引っ越しました。しかし、その時点では私には何のスキルもなかったので、なんとかして収入を得る方法を見つける必要がありました。すべては自分次第でした。」

ピュー研究所の調査によると、ベビーブーム世代は他の世代の成人に比べて、全体的な QOL(生活の質)を低く評価していることがわかりました。また、経済状況について不安を抱えている傾向もあります。こういった心情は、これまでに経験した景気の浮き沈みの結果と考えられます。ベビーブーム世代の人口は 7,600 万人で、最近までは全人口に占める割合が最も多い世代でした。このことが、人口の少ない他の世代と比較して、学校や会社での強いストレスや競争を生み出した可能性があります。

その一方、話を聞いたジェネレーション X やミレニアル世代のほぼ全員は、集中を保つことは個人と雇用主の共通の責任であると答えました。

「”雇用主が集中を後押しすべきだ”という暗黙の資本家モデルには、問題があると思います」と話すのは、映画やテレビのフリーランス プロデューサーとして活躍するカーティス・ヒース氏です。「そうとは限りませんし、そうあるべきでもありません。集中をチームが共同で担う責任として考えられる方向に進んでいけたらよいと思います。」

ヒース氏は、個人よりも集団を重視する「集団主義」という考えにも触れていました。

世代の違いが仕事へのモチベーションにどう影響するかを調査した 2004 年の調査研究では、ミレニアル世代は「その人生経験により、集団の行動を信じ、未来に対して楽観的で、中央集権化された権力を信頼する世代」としています。Facebook でマーケティング インサイト ディレクターを務めるマイケル・ルイス氏も、ミレニアル世代の 1 人です。 「共通の責任だと思います」とルイス氏は言います。「雇用主は、従業員の時間に対して自由を与えるべきですし、従業員はその中で自由に集中できる時間と場所を生み出すべきです。これは、単にカレンダーに線で囲んで時間を確保するということではなく、集中できる状況を作るということです。どのような状況がよいかは人によって違うでしょう。集中するために静かな環境が必要な人もいますし、音楽を聴きながら仕事をしたい人もいます。」

「私にとって集中とは、その瞬間に、ミクロからマクロへと連続するグラデーション上のどこに自分がいるのかを把握し、そこに留まり続けることだと思います」— カーティス・ヒース氏

質問そのものに疑問を投げかけたミレニアル世代もいました。YouTube でパートナー オペレーション マネージャーを務めるデイビッド・ジン氏は、彼が学んだ認知科学と哲学が、彼にとっての「集中」の理解を形作っていると言います。「それを責任と呼ぶべきか確信がないのですが」としたうえで、ジン氏はこう続けます。「私にとって責任という概念には、義務やいくらかの制約が含まれます。それがどんな種類の制約であれ、集中を生み出す原動力にはならないと思っています。」

ジン氏はさらに、彼が会社に価値を提供し続けている限り、会社は価値に対する報酬を支払うと信じているし、責任があるとすればその関係を維持することくらいであり、それ以上のものではないと言います。もちろん、集中のために気を散らす要素を減らすなどして従業員の生産性向上を図ることは、会社にとっての関心事かもしれません。

話を聞く中で見えてきたのは、言語それ自体が文化的な解釈であり、個人のさまざまな経験が「集中」といった概念の全体的な理解を形作るだけでなく、その概念に基づいた行動にまで影響を与えるということです。言語学者のダニエル・ドール氏は、「言語を生み出したのは私たち自身ですが、生み出された言語が私たちに変化を与えています」と言います。EIU の調査の方法論でさえ、「集中」という言葉について普遍的な理解を前提とすることが誤りだった可能性があります。

集中に対する自分自身の理解について考えてみたところ、社会的影響や文化的影響を受けていることに気が付きました。具体的には、私は集中を主に仕事に結び付けて考えてきました。中国人の両親に、仕事の成功は人生の成功と教えられてきたからです。集中せずに仕事で成果を上げることなどできるのだろうか、これまで私はどれくらい「成功」してきたのだろうか、といったことを自問しました。というのも、日々の To-do リストにチェックを入れること以外に、私は集中を測定する方法を持ち合わせていなかったのです。

集中を測定する方法と集中を高める方法

1997 年、心理学者で神経科学者のイアン・ロバートソン氏と彼のチームは、持続的注意テスト(Sustained Attention to Response Test、SART)を考案しました。これは、人が特定のタスクに集中して取り組む際に、注意を維持している時間を測定するコンピュータ評価です。このテストは、注意とメディア マルチタスクおよび SNS におけるワーキング メモリーと関わりの関連を調査する研究など、幅広く活用および参照されています。

SART を利用して持続的注意と認知的負荷の関連を調べたある調査では、持続的注意が損なわれる主な原因は、タスクの単調さではなく認知的負荷ということがわかりました。つまり、タスクに飽きるというより、精神的にくじけそうになることで私たちの集中が途切れる傾向が強いということです。慎重さを要する作業には精神的にも負荷が高く、ストレスが強いものです。 この結果が正しいなら、集中力を高めるために行うべきは、不要な認知的負荷を最小にすることです。ある神経画像研究に取り組んだ研究者たちは、関連性の高い情報に集中し、気を散らす要素を無視する力が、目標指向行動に大きな影響を与えていることを発見しました。こうした機能は、選択的注意または妨害抑制と呼ばれています。

「集中にとっての敵は、タスクの切り替えです」— ジャネット・クラーク・パターソン氏

今回、複数の人がマルチタスクと集中には負の相関関係があると話していました。バーガー氏は自称「筋金入りのシングル タスカー」ですし、ヒース氏は自身の神経学的な非定型性と性格がマルチタスクに向いていないと言います。 集中は「している」と「していない」の二者択一ではないので、絶対的なものと考えるべきではありません。むしろ、集中は強くなったり弱くなったりすると考えるべきです。私は集中を高める方法を見つけたいと考えました。そして今回の会話から、いくつかのアイデアが生まれました。

ツールはより少なく、より良いものを

テクノロジーの目覚ましい発展で、私たちの仕事の効率は上がり、世界中とつながれるようになりました。一方、それが原因で問題も起きています。ようやく落ち着いてタスクに取りかかれると思った矢先に、連絡やメールが届いて集中を乱されることはよくあります。それに加えて、物事をうまくこなし、すばやく応答することが期待されているように思います。また、使用しているツールで十分に対応できないとなると、次々と新しいツールに乗り換えています。

「新しいアプリの使い方を覚える時間が増えれば、クリエイティブな作業に費やす時間は減っていきます」とヒース氏は言います。「私にとって最良のツールとは、現実世界に存在するアナログなツールです。」

しかし、好みの仕事スタイルや仕事で必要なアプリは人それぞれ違います。いずれにせよ、集中を妨げるのではなく、集中を高めてくれるツールこそが適切なツールなのです。「適切なツールを使えば、煩わしい通知をブロックしたり、コンテンツを一元化したりしてアプリの切り替えを減らすこともできるでしょう」とルイス氏は言います。

しかし、自分自身に合った方法を見つけるには、多少の試行錯誤があるものです。仕事を効率化できそうなツールだと思ったら、新しいツールも積極的に使ってみてください。また、試してみて新たな価値が得られなかったツールは手放すようにしましょう。たとえば、私はすべてのタスクと To-do リストをトラッキングし、整頓する新しい方法を探していました。Asana や Trello などたくさんのタスク管理ツールを使ってみましたが、私の場合は、MacBook の「メモ」アプリにあるシンプルなリストで十分だということがわかりました。

共通目標を設定する

話を聞いた多くの人が、集中は雇用主と従業員が共同で担う責任だと話していました。しかし集中を責任として考えるよりも、目標として捉えたほうがより生産的かもしれません。

「経営者と労働者という対立構造ではありません」とヒース氏は話します。「プロジェクトに関わる全員がチームとして一緒に目標を設定すると、私はより深く集中できます。」

共通の目標を設定すると各自が説明責任を負うようになり、共通の責務を担っているという感覚が持てるようになります。そのためには、チーム メンバーのそれぞれの役割や、プロジェクト内で各自がどのように貢献および関与しているかを考えることが重要になります。また、そもそも各自がどういった動機でプロジェクトに関わっているかを理解することも重要です。そして最後に、一人ひとりが貢献したことや達成したことを讃えることも忘れてはいけません。

意義のあるプロジェクトを見つける

話し合いの中で最も印象に残ったことは、人の情熱を引き出すものは何か、そしてその情熱がいかに集中を高めるかという議論でした。そこで、集中を高めるのに最も効果的な方法は、本当に意義のあるプロジェクトを見つけることではないかと考えるようになりました。そうすれば自然と集中できるはずです。「愛着や価値を感じられるプロジェクトに取り組んでいる時は、意義のある仕事をしているのだと感じますし、自分に価値があると思えるのです」とヒース氏は言います。「こうした感覚が、私の背中を押し続けています。」

 

 

 

※本記事は、2021年2月に公開された記事の翻訳です。