本記事はDropbox UX WriterのJohn Saitoがこちらで執筆した記事を本人の許可のもと掲載しています
ライティングはひとつの芸術です。言葉は私たちに、笑いと涙と、大きなことを成し遂げる刺激をもたらしてくれます。
でも、ライティングにも科学があると思います。さまざまな題材を選ぶことができ、テーマをより客観的に見つめる機会が持てるのは、データがあるからです。
適切な語句を見極める
Dropbox の UX ライターである私たちは、どの語句を取り上げても必ず意味がわかることを目標にしています。誤った言葉ひとつで、ユーザー エクスペリエンスが台無しになりかねないからです。ユーザーは、意味が曖昧なボタン ラベルや聞き慣れない言い回しがあると、すぐにイライラします。
そこでライティングに関しては、適切な語句を確実に選べるよう数種類のテクニックを駆使し、情報に基づく選択をするようにしています。
ここでは私が用いる 6 つの方法を紹介します。
1. Google トレンド
あなたは今、いくつかの候補から使用する語句を選ぼうとしています。でも、どれが一番ふさわしいのか、自信を持って選べません。たとえばあなただったら、次のどれを製品に使いますか。
- ログイン
- ログオン
- サインイン
- サインオン
このようなときに試してほしいのが Google トレンドです。上記の単語 4 つをコンマで区切って入力するだけです。すると、それぞれが Google で検索された回数を Google トレンドが比較します。検索回数には、「Facebook ログイン」や「サインインできない」などの語句も自動的に含まれます。
では結果の発表です。
Google トレンドを使った用語の比較
これを見ると、「サインイン」が勝者なのは明らかです。つまり、このアクションには「サインイン」という言い方が使われる確率が高いということです。ユーザーにとって違和感のない用語を使いたいのなら、「サインイン」を選ぶ方が、おそらく他の 3 つよりも安全でしょう。
実はDropbox では、「バージョン履歴」機能を表すために、次のようにさまざまな言い方が使われていました。
この不統一を直そうという話になったのですが、どの言い方にすべきなのかが誰にもわかりませんでした。「バージョン履歴」、「ファイル履歴」、それとも「変更内容履歴」でしょうか。検討しなければならないことが多数ありましたが、Google トレンドをデータ ポイントに使って情報を得ることにしました。
その結果、検索には「バージョン履歴」が使われる確率が高いことがわかり、それが大きな理由となって、今では製品全体で「バージョン履歴」と言うようになったのです。
2. Google Ngram Viewer
Ngram Viewer は Google トレンドとよく似た機能ですが、Google がスキャンした出版済み書籍を検索する点が異なります。このデータを使うと、書籍によく出てくる語句が言語別にわかります。
ところで、Dropbox は先日、新しい署名ツールを iOS アプリに導入しましたが、私たちがレビューするまで、署名の画面には「Sign Your Signature(あなたのサインを署名してください)」と表示されていました。
これは変な言い方です。でも「変な言い方」では、修正するもっともな理由になりません。どうすれば修正を納得してもらえるでしょう。
そこで思いついたのが Ngram Viewer です。早速アクセスし、「sign your signature」と「sign your name(あなたの名前を署名してください)」を比較したところ、「sign your signature」は全然使われていないことがわかったのです。このデータを見せると、担当チームはすぐさま「Sign your name.」に変更してくれました。
Ngram Viewer を使った用語の比較
3. 読みやすさのテスト
読みやすさに関しては、言語の専門家によって長年の間に数多くのテストが開発されており、言葉のわかりやすさを簡単に計測できます。
テストの中には、ライティングの理解レベルを学年で判定できるものも多数あります。たとえばグレード 8 のライティングは、米国の標準的な 8 年生(中学 2 年生)が理解できるレベルという意味です。
私も自分の Medium ストーリー(How to design words)をテストにかけてみました。結果は次のとおりです。
Readability-Score.com の結果
この結果には興味深いデータがいくつも見つかります。例をご紹介しましょう。
- 私が書いたストーリーは 6 年生のレベルに相当
- 文の語調はニュートラルからややポジティブ
- 平均で 1 文あたり 10.7 語を使用(Dropbox では、1 文の語数を 15 以下に抑えるようにしています)
テストを試したい方は、いくつかリンクを載せますので挑戦してみてください。テストの中には、文を読みやすくするためのアドバイスを提供してくれるものもあります。
- Readability-Score.com
- Hemingway Editor
- The Writer’s Readability Checker
4. モニター アンケート
新しい機能のネーミングをどうするか。どの価値を一番のセールス ポイントにするか。こんな時に役立つのが、モニター調査です。
調査ツールの多くが対象者を指定できるようになっているので、ユーザーになりそうな人から簡単に意見を収集できます。
こちらに、モニター調査を実施できるサイトをいくつか紹介します。
- UserTesting
- SurveyMonkey
- Google Consumer Surveys
かなり前になりますが、弊社も Dropbox を使う最大のメリットは何かを知りたくて調査を行いました。対象者のほとんどから、どのデバイスからでもファイルを参照できる「アクセス性」だとの回答があり、それを受けてランディング ページを作り直し、アクセス性をアピールしたメッセージを大量に載せたのです。
5. ユーザー調査
ユーザー調査は、ライティングについて貴重な意見を聞くのに良い方法です。通常は、複数の人にテキストを読んでもらったり製品を試してもらったりしてから、それに関する質問をします。これは、ライティングの意味が通じるかどうかを見るうえで非常に効果的な方法です。
弊社が先日実施した調査では、新しいフローの説明をテストしました。手順の 1 つに次のような説明がありました。
[ローカル コピーを削除]を選択して容量を節約します。
参加者に、どのような場合にこの機能を使いそうかと尋ねたところ、ほとんどの人は機能を理解するのに時間がかかり、これが便利とは思えないと回答しました。そこで語順を入れ替え、ユーザーのメリットを最初に置いた次のような文にしました。
容量を節約したい場合は、[ローカル コピーを削除]を選択します。
今度は、どのような場合に機能を使うかを、参加者たちはすぐ答えることができました。何をしたかと言えば、語順を変えただけです。
このように、ライターが当てずっぽうで決めていた文言も、他のデザイン上の決定と同様に、ユーザー調査でテストできます。
6. 心で書いて頭で推敲
データは、ライティングで何かを選ばなければならないときに役立ちます。だからといって、データを基に機械のように書けばよいわけではありません。
私は、最初の草稿はいつも自分の心から湧き出すものでなければならないと考えています。自分の中にあるものを信じましょう。考えをすべて書き出したら、調査結果やデータにあたって文を練り上げます。
ライティングとは芸術でもあり科学でもあります。心で書いて頭で推敲すれば、有益で信頼できるコンテンツを生み出せます。
データは、ライターとしての自信を与えてくれます。テキストが「適切」であることを保証してくれるもの。それがデータです。
Dropbox デザイン チームについての詳細は、弊社の公式サイト、Twitter、Dribbble をご覧ください。私たちと一緒に世界に魔法をかけたいという方、人材を募集中です。
本稿の執筆にあたり、ご協力いただいた次の方々に感謝します。ブランドン・ランド、ジャスティン・トラン、ネビー・テクル、クリス・ベティー、アンドレア・ドゥルゲイ、ロキシー・アリアガ、カート・バーナー、ガリーナ・ミシュニャコバ、Dropbox デザイン チーム全員(敬称略)