イラスト:ジャスティン・トラン
予算や人材の限られた小規模チームで仕事をしたことがある人なら、寄せ集めでもなんとか成功を勝ち取ろうとする「チャレンジ精神」を肌で感じたことがあるでしょう。逆境になればなるほど心が奮い立ち、自分の力不足を目のあたりにするほど力が沸き起こる。そんなスピリットです。
私はこれまでに何度となく、チャレンジ精神で働くチームが素晴らしい成功をつかむ様子を見てきました。しかし、チームの規模が大きくなった時にもこうした気持ちを持ち続けるにはどうすればよいのでしょうか?
私は数か月前に Dropbox Paper チームに加わりました。その時点で、チームはすでに大所帯でした。
初めてのチーム ミーティングの時、「この人数なら映画館が埋まるだろうな」と思ったことを今でもよく覚えています。それから数か月経った今、あることに気づくようになりました。
Dropbox Paper のチーム規模は大きくなりましたが、今でも小さいチームのようなチャレンジ精神を持ち続けているのです。
これは単なる偶然なのか、起こるべくして起こったことなのかはわかりませんが、今日はチャレンジ精神を持ち続けるために私が気に掛けていることを紹介したいと思います。
目次
1. プロセス(過程)よりもプログレス(前進)
先日、グループ プロダクト マネージャーのカヴィータ・ラダクリシュナンと話していた時、彼女の言葉にはっとさせられました。
仕様は、書いたそばから古くなっていく
私が書いたデザイン文書に関する別の記事を読んでいただければ、私が質の高いデザイン文書をどれだけ重視しているかがおわかりいただけると思います。しかし最近のいくつかのプロジェクトについて考えているうちに、先ほどの言葉がまさに真実を捉えていると思い至るようになったのです。
仕様とは、プロジェクトの目標や範囲にそって作業を進めるためには重要です。
しかしコンセプトをコードに落とし込む段階になると、計画どおりに物事が進むことはまずありません。
こうなると、前へ進むことこそが重要になり、その方法を記した文書は脇役へと回ります。
私は、本当のデザイン作業のうち 25 % は、デザインがデザイナーの手を離れた後に行われると考えています。それはつまり、エンジニアがそのデザインを負荷テストにかける時であり、新たな制限事項や想定外の問題を発見するような場合です。こうなると、可能な限りの手を尽くし、チャレンジ精神でとにかく前進することが大切になってきます。
Paper チームで私は、問題を切り抜けるための術を学び、どんなに素晴らしい仕様を用意したとしても、計画とは「必ず」変更されるのだと言うことを思い知らされました。
2. 地に足を着ける
会社の規模が大きくなるにつれ、そこで製品開発に携わる人々はユーザーからどんどん遠ざかる傾向が見られます。知り合いに、大企業でデザイナーや製品マネージャーを務めている人はいませんか?実際のユーザーからどのくらいの頻度で話を聞いているのか、その人に尋ねてみてください。その答えにきっと驚くはずです。
Paper チームでは、自分たちが築き上げた城に籠もることなく、地に足を着けて実際のユーザーとふれあう機会をできる限り作るようにしています。
その一例が、リサーチャーのミラ・ラオが始めた「リアル ワールド ウェンズデイ」という取り組みです。
隔週の水曜日、ユーザーの方々をオフィスに招待して製品に関する感想を伺っています。参加者は順に、Paper チームのメンバーと 1 対 1 で話していきます(遠目からは、婚活パーティのようにも見えるかもしれません)。この場で熱心に耳を傾けているのは、リサーチャーもそうですが、むしろデザイナーやエンジニア、プロダクト マネージャーたちです。こうしたセッションを設けることで、私たちは実際のユーザーと定期的に話し合うことができています。
また、Paper を利用するビジネス ユーザーとざっくばらんに話し合う機会も作っています。実際のユーザーがどのように使っているのかを見たいのです。可能であれば、オフィスにもお邪魔させてもらっています。デザイナー、ライター、エンジニア。Paper チームの誰もがこのオフィス訪問に参加できます。ユーザーからお話を聞くたびに、新しいインスピレーションを感じ、ユーザーについての知見が深まります。
Airtasker 社でユーザーの皆様と話す Paper チーム
3. ハック タイム
多くのテクノロジー企業で、「ハック ウィーク」を開催しています。これは、何か 1 つのプロジェクトについてまる 1 週間かけて取り組める特別な期間です。Paper チームにもハック ウィークはありますが、「ハック アワー」 も開催しています。
数週間に一度、金曜日の午後になると飲み物を持って皆が集まります。そこで、特定の問題について全員で取り組むのです。1 時間で終わることもあれば、その日の残りすべての時間をかけて取り組むこともあります。実のところ、Paper ユーザーに好評の機能は多くがこのハック セッションから生まれているのです。
たとえばプレゼンテーション モード。これもハック プロジェクトから生まれました。それから、絵文字タイトルもこのセッションから始まったのです。
こうしたハック セッションがなければ、今のような Paper は存在していなかったでしょう。
皆が遊び心を持って取り組める時間と場所を用意することで、驚くほど斬新なアイデアが生まれてくるのです。
ハック アワーで問題に取り組むレアンドロ・カスティヨとシーラ・ラマスワミ
4. 肩書きに縛られない
Paper チームでは、同じメンバーがプロジェクトごとに異なる役割に当たることも珍しくありません。
たとえば、プロダクト マネージャーがユーザビリティ調査を実施していたり、リサーチャーがデザインを手がけていたりという具合です。メンバーにはそれぞれ役職というものがあるのですが、必要に応じて異なる役割を果たすことも認められています。
一般に大企業では職務が専門的で細分化されすぎていてるため、「それは私の担当ではないので…」と言って逃げてしまうこともできます。こうした企業には、ただの「デザイナー」という職種は存在しません。
インタラクション デザイナーがいて、ビジュアル デザイナーやモーション デザイナー、それからシステム デザイナーなど数え切れないほどの専門家たちがいます。
しかし私たちのチームでは、肩書きによって仕事が制限されることはありません。必要とあれば、誰もがどんな仕事でもこなします。私の場合、基本的にはライターを務めていますが、時々デザインの仕事にも関わります。ニール・セティとキャロライン・フロストはプロダクト マネージャーという肩書きを持っていますが、プログラム コードとにらめっこの末に素晴らしい結果を出したこともあります。
皆が互いに助け合い、チャレンジ精神で仕事に向き合う姿は感動的ですらあります。
5. 小さな勝利を讃える文化
チーム メンバーたちはどのようなことに対しても、互いを褒め讃える習慣があります。
驚くかもしれませんが、メンバーを賞賛し感謝の気持ちを伝え合うためだけの時間を週に 2 回以上は取るようにしています。自然な形でできるよう、匿名方式も採用しています。これならば、恥ずかしがらずストレートに気持ちを届けることができます。
このような「褒め合い」の場をくだらない文化と見る向きもあるようですが、私はむしろ良い影響を連鎖的に生み出す効果に手応えを感じています。A さんが B さんを褒めると、B さんは嬉しい気持ちになって今度は C さんと共に成功を喜び合うようになります。こんな具合で、あっという間にチームワークが形作られ、しかも日を追うごとに少しずつ強くなっていきます。
誰もが価値ある存在として認められたいと思っているのです。ちょっとした感謝の気持ちや言葉が積み重なって、正しく評価されているという思いや志気が高まり、チームとしての団結も強くなります。大がかりなローンチに限ったことではなく、地道な努力に対してもしっかりと拍手を送っていくことが大切です。
6. とにかく実験
Paper チームは実験が大好きです。どんな時でも、社内システムでは多数の新機能を実験的にオン・オフしながら試しています。レイアウトを変えてみたり、UI の文言に手を入れてみたり、あらゆるもので実験的な試みを行います。
たとえばこれは、アイシャ・フェラザレスとハロルド・チェック が社内システム用に実験的に作成した警告メッセージです。ドキュメントを共有している全員宛てに通知を送ろうとした場面で表示する文言です。
もちろんこのままリリースすることはありませんが、この機能で有効かどうかを確認できます
チーム内では可能な限り簡単に実験ができるようにしています。快適でスムーズなエクスペリエンスになるかどうかをすぐに確かめてみたいからです。
働き方についても、新しいやり方を模索しています。今は「ハック スプリント」という方式を試しています。少人数のグループが、6 週間すべてを 1 つのプロジェクトに集中できるようにする実験です。ミーティングや本来の職務はすべて休むことができるので、1 つのことだけにとことん集中して取り組めるのです。大きなチーム内に、チャレンジ精神にあふれたスタートアップ企業が生まれるようなイメージですね。
私たちのチームで取り組んでいることは以上です。
私は組織心理学の専門家というわけではないので、話半分くらいに聞いておいてください。ただ経験から言えば、ここで紹介した各要素がチームのチャレンジ精神と満足度につながっているように思うのです。
もしあなたが拡大しつつあるチームにいて、これからも初心を忘れずにいたいと思うなら、今日の話から何か良いアイデアが生まれるかもしれません。
私たちが開発を楽しんでいるのと同じように、皆さんにも Paper を楽しんで利用していただけたら幸いです。
Dropbox デザイン チームについての詳細は、弊社の公式サイト、Twitter、Dribbble をご覧ください。
また、就職活動中の皆さんがいましたら、ぜひ私たちの仲間に加わってください!
この記事を完成させるために、多くの仲間が協力してくれました。カート・バーナー、イゴール・コフマン、カヴィータ・ラダクリシュナン、ロキシー・アリアガ、ニール・セティ、キャロライン・フロスト、ミラ・ラオ、シーラ・ラマスワミ、レアンドロ・カスティヨ、アイシャ・フェラザレス、ハロルド・チェック、アンドレア・ドルゲイ、ファリル・ウリィ、ジャスティン・トランの全員に心からの感謝を表します。