NASとファイルサーバーの違いを一言でいえば、
「NAS=ネットワークに接続できるハードディスク(HDD)、ファイルサーバー=ネットワーク上でファイル共有のために設置されるサーバー全般」
という点が異なります。
企業で導入される際には、NASもファイルサーバーも「ファイル共有」という目的は同じですが、それぞれ異なるメリット・デメリットを持っています。
NASとファイルサーバーのどちらが自社に合っているのか比較検討するためには、両者の違いを把握しておくことが大切です。
そこで本記事では、企業のファイル共有に利用される「NASとファイルサーバー」について、詳しく解説します。
本記事のポイント
- NASとファイルサーバーの基礎知識が身に付く
- それぞれのメリット・デメリットを解説
- 社内のファイル共有にどの方法を採用すべきか判断できる
「NASとファイルサーバーの違いを理解したい」
「社内のファイル共有に良い方法を探したい」
という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、あなたは「NASとファイルサーバーの違い」はもちろん、それ以外の選択肢も含めて、自社に最適な方法を検討できるようになります。
結果として、効率的で生産性の上がるファイル共有を実現できるはずです。それでは、さっそく「NAS・ファイルサーバー」の解説を始めましょう。
1. NASとファイルサーバーの違い
NASとファイルサーバーの違いを明確に理解するために、まずはそれぞれの意味から整理しておきましょう。
1-1. NAS(ナス)とは
まずNAS(ナス)から解説します。
NAS(Network Attached Storage:ネットワーク・アタッチド・ストレージ)とは、ネットワークに接続して利用するストレージのことで、家電量販店などで購入できる機器を指す言葉です。
もう少し詳しく解説すると、“ストレージ”とはデータを記録する装置のことで、私たちにとってなじみのある一般的なストレージは、ハードディスク(HDD)です。
NASは簡単にいえば「ネットワークに接続できるHDD」で、NASは別名「ネットワークHDD」とも呼ばれます。
NASではない一般的な外付けHDDでは、接続できるのは1台のパソコンのみですが、NAS(ネットワークHDD)はNASから直接ネットワークに接続できるため、複数のパソコン・タブレット・スマホなどから同時接続が可能です。
NASは主に法人向けとして利用されていますが、写真や音楽などを保存するための家庭用NASも販売されています。
まとめ
-
- NAS(ナス)とはネットワークに接続できるハードディスクのこと
(NASという名称で販売されている機器を指す) - ネットワークを経由して複数のデバイスから同時接続できるのが特徴
- NAS(ナス)とはネットワークに接続できるハードディスクのこと
1-2. ファイルサーバーとは
次にファイルサーバーについて解説しましょう。
ファイルサーバーとは、ネットワーク上でファイルを共有するために設置される装置や仕組み(コンピューター、ソフトウェア、ハードウェアなど)のことです。
そもそも「サーバーって何?」というところから解説すると、サーバーとはネットワーク上で他のコンピューターからのリクエストに応じて作業を行うコンピューターのことで、サーバーにはさまざまな種類があります。
例えば、メールサーバー、Webサーバー、DNSサーバー、FTPサーバー、データーベースサーバーなどが挙げられます。
「ファイルサーバー」とは、さまざまな種類のサーバーのなかでも、ファイルを共有するために構築されたサーバーを指す言葉です。ネットワークを通じて、複数のデバイスと接続できます。
ところで、ここまでお読みいただき、
「ファイルサーバーって何なのか、漠然としていて、意味がつかみにくい」
と感じたかもしれません。
そう感じるのも無理はなく、ファイルサーバーは、NASと違って特定の機器を指す言葉ではなく、広い概念を指す言葉なのです。
“ファイルサーバー”という名称の機器が販売されているのではなく、任意のパソコンに自分でファイル共有の仕組みを構築し、ファイル共有の役割で利用したなら、そのパソコンをファイルサーバーと呼びます。
まとめ
- ファイルサーバーとはファイル共有の役割を担うサーバーのこと
- ファイルサーバーは機器の名称ではなく役割を指す概念
1-3. NASとファイルサーバーの違い
NASとファイルサーバー、それぞれの意味を把握できたら、2つの違いが気になるところかもしれません。
先ほど触れたとおり、NASとファイルサーバーはそもそもレイヤーの異なる概念です。本来この2つを対にして比較するのは、適切ではありません。
NASという機器も、ファイル共有の目的で利用したならファイルサーバーであるといえるので、実際に“NAS=ファイルサーバー”として解説されている文献もあります。
そこで、ここでは「NAS」と「NAS以外のファイルサーバー」という区分けをしたうえで、両者の違いをまとめておきましょう。
▼ NASとNAS以外のファイルサーバーの違い
NAS |
NAS以外のファイルサーバー |
|
---|---|---|
意味 |
ネットワークに接続できるHDD |
ファイルを共有するためのサーバー (役割を指す概念) |
導入方法 |
NASを購入してセットアップする |
任意のパソコンなどにファイルサーバーを構築する |
できること |
・ファイル共有 ・購入したNASの機種が持っている機能 |
・ファイル共有 ・自分で自由に構築した機能 (自分のスキルで構築できる機能の範囲内で制限はない) |
次章では、より詳しくメリット・デメリットの違いに迫っていきましょう。
2. NASとNAS以外のファイルサーバーのメリット・デメリット比較
会社で業務上必要なファイル共有を自社の運用で行う場合、
「NASが良いのか?それともNAS以外が良いのか?」と迷うケースがあります。
それぞれのメリット・デメリットを把握して、自社にとってメリットが大きいのはどちらか比較検討してみましょう。
2-1. ◎ NASのメリット
NASは「ファイル共有に特化している」のが特徴です。
▼ NASのメリット
- あらかじめファイル共有専用に設計されているので無駄がない
- 機種を選んで購入するだけで簡単に導入できる
- 低消費電力
機器自体がファイル共有を目的として設計されているので、無駄がありません。結果として、動作が軽くて早い・消費電力がパソコンよりも低いなどの利点があります。
導入方法も比較的簡単で、専門知識がなくても、NASの機器を購入してきて取扱説明書に従ってセットアップすれば、すぐに使い始めることができます。
2-2. ◎ NAS以外のファイルサーバーのメリット
逆にNAS以外のファイルサーバーは、パソコン上に構築するので「ファイル共有に特化していない」のが特徴です。
用途が限定されていないからこそカスタマイズ性が高いことや、古いパソコンなどを活用できることがメリットといえます。
▼ NAS以外のファイルサーバーのメリット
- 自社の状況にあわせて細かくカスタマイズできる
- 古いパソコンなどを有効活用できる
例えばセキュリティを高めたいのであれば、ウイルス対策ソフトやアクセスログ監査ツールを導入すれば、安全性を高めることができます。
ハードディスクの増設、自社の業務に特化したカスタマイズなど、社内環境に合わせて自由にカスタマイズできる点が、NAS以外のファイルサーバーのメリットです。
2-3. × NASのデメリット
次に、NASのデメリットを見てみましょう。
NASのデメリットとしてまず挙げられるのは、NAS以外のファイルサーバーのメリットの裏返しである「カスタマイズ性が低いこと」、それから「機器を購入する必要があること」です。
▼ NASのデメリット
- カスタマイズ性が低い
- NASの機器を購入する必要がある(導入コストがかかる)
NASの機能は、基本的に購入する機種に依存しています。
例えば「NASを利用している途中で、●●の機能を追加したくなった」といったカスタマイズには対応できないのです(その機能を持っているNASを探して買い替えるか、見つからなければ諦めるしかありません)。
加えて、導入コストが大きくなりやすい点もデメリットです。
NAS用のHDDは家庭用から法人向けまで、さまざまなタイプのものが販売されていますが、企業で運用するとなると数十万円以上かかるのが一般的です。
2-4. × NAS以外のファイルサーバーのデメリット
最後に、NAS以外のファイルサーバーのデメリットを端的にいえば、ファイルサーバーを構築するための知識や技術が必要になることです。
▼ NAS以外のファイルサーバーのデメリット
- 導入・運用・保守にITスキルのある担当者のリソースが必要になる
NAS以外のファイルサーバーを適切に設定し、セキュリティリスクに対応しながら安全に運用するためには、ITスキルのある従業員が、NAS以外のファイルサーバーの担当者として対応する必要があります。
NAS以外のファイルサーバーに関する業務は、メンテナンスやトラブル時対応を含めると大きな負担となります。
NAS以外のファイルサーバーのメリットとしてカスタマイズの自由度が高いことを挙げましたが、対応できる担当者がいなければ、メリットを活かすことは不可能です。
2-5. 結論:NASもNAS以外のファイルサーバーも一長一短あり
さて、ここで一度まとめておきましょう。
▼ NAS・NAS以外のファイルサーバーのメリット・デメリットまとめ
メリット |
デメリット |
|
NAS |
◎あらかじめファイル共有専用に設計されているので無駄がない ◎機種を選んで購入するだけで簡単に導入できる ◎低消費電力 |
×カスタマイズ性が低い ×NASの機器を購入する必要がある(導入コストがかかる) |
NAS以外のファイルサーバー |
◎自社の状況にあわせて細かくカスタマイズできる ◎古いパソコンなどを有効活用できる |
×導入・運用・保守にITスキルのある担当者のリソースが必要になる |
以上から、NASもNAS以外のファイルサーバーも一長一短あることがわかります。どのように選べば良いのか、次章では選び方を解説します。
3. NASかNAS以外のファイルサーバーかの選び方
社内のファイル共有を、NASで行うかNAS以外のファイルサーバーで行うか、選び方の判断目安をご紹介しましょう。
3-1. 「ファイル共有だけを簡単にしたい」ならNAS
「使わない機能は要らないから、ファイル共有だけを、できるだけ簡単にしたい」というニーズがあるなら、NASがおすすめです。
NASの機材を購入したら、パソコンにNASを装着し、電源ケーブルとLANケーブルに接続したら、あとは必要情報(ホスト名、ユーザーID、パスワードなど)を入力すれば、基本的なセットアップは完了します。
専門的な知識がなくても、ファイル共有できる環境を簡単に作りたいのであれば、NASが適しています。
NASの選び方や詳しい利用方法については、以下のページで紹介しています。あわせてご覧ください。
▼ NASを導入したい人におすすめの記事
【初級編】ゼロからわかる NAS|選び方から利用方法まで解説
3-2. 「自社の状況に合わせてカスタマイズしたい」ならNAS以外のファイルサーバー
「自社の状況に合わせて、カスタマイズしたうえでファイル共有を行いたい」というニーズがあるなら、NAS以外のファイルサーバーがおすすめです。
細かくアクセス権限を設定したり、セキュリティレベルを向上させたり、あるいは社内システムとの連携を取りたいなど、カスタマイズの柔軟性を求めるのであれば、NAS以外のファイルサーバーを利用したほうが良いでしょう。
ファイルサーバーに関する基礎知識や、自力で構築する方法については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。
▼ NAS以外のファイルサーバーを導入したい人におすすめの記事
今さら聞けないファイルサーバーの基礎知識とお手軽サーバー自力構築法
3-3. 「どちらも選べない」ならクラウドストレージという選択肢もある
「NASもNAS以外のファイルサーバーも一長一短で、どちらも選びづらい」と感じているのであれば、NAS・NAS以外のファイルサーバー以外の選択肢も検討すると良いでしょう。
近年、NASやNAS以外のファイルサーバーに代えて導入する企業が増えているのが「クラウドストレージ」という選択肢です。
クラウドストレージでのファイル共有は、クラウド事業者がインターネットを介して提供しているストレージサービスを利用するやり方です。
▼ クラウドストレージ(Dropbox)のイメージ
クラウドストレージは、オンプレミス型(社内設置・自社運用)のファイルサーバーと対比して、「クラウドファイルサーバー」とも呼ばれます。
クラウドストレージの大きなメリットは、単なるファイル共有にとどまらない多種多様な機能性を持ち合わせていながら、ITの知識なしで簡単に導入できる点です。
ファイル共有だけでなく、自社の業務にあわせてさまざまな使い方を実現したいけれど、NAS以外のファイルサーバーを導入する知識やリソースがない企業に、クラウドストレージはおすすめです。
4. 自社に合うファイル共有を実践するポイント
最後に、自社に合うファイル共有を実践するポイントを3つ、お伝えしましょう。
4-1. 用途別に複数の方法を共存させる方法も検討する
1つめのポイントは「用途別に複数の方法を共存させる方法も検討する」ことです。
本記事では、NAS・NAS以外のファイルサーバー・クラウドストレージといったファイル共有の方法をご紹介しましたが、必ずしも1つだけを選ぶ必要はありません。
共有したいファイルの種類や業務内容に応じて、適宜、最適な方法を併用することも大切です。
もちろん、1つに集約できれば管理は容易になりますが、1つに集約することにこだわりすぎて、本来の業務遂行に支障を来しては、本末転倒です。
柔軟な発想をもって、自社にとって最善のやり方を模索しましょう。
4-2. 実際にファイル共有を行う現場の声を大切にする
2つめのポイントは「実際にファイル共有を行う現場の声を大切にする」ことです。
情報システム担当者(IT担当者)がいる企業であれば、ファイル共有の環境整備は、情報システム担当者が行うことになります。
あるいは専任者がいない場合は、経営者や総務のスタッフが担当することもあるでしょう。
注意したいのは「実際にファイル共有を行う現場の声を、きちんと拾えているかどうか?」です。
例えば、ITスキルの高い情報システム担当者にとっては使いやすい環境でも、さまざまなレベルのメンバーが混在する現場では使いこなせないかもしれません。
経営者にとってコストの低さが魅力的なサービスも、現場のメンバーにとって使いにくければ、活用されずに終わってしまいます。
ファイル共有を行うメンバーたちにとっての使いやすさを念頭に、現場で活用される環境構築を目指しましょう。
4-3. テレワーク対応を前提として環境を整備する
3つめのポイントは「テレワーク対応を前提として環境を整備する」ことです。
2018年に成立した働き方改革関連法や2020年以降のコロナ禍の影響により、テレワークが新しい働き方としてスタンダードになりつつあります。
もし、現時点でテレワークを本格導入していない企業であっても、近い将来を見据えれば、テレワークを前提として環境を整備しておいたほうが良いでしょう。
クラウドストレージをはじめとする、テレワークの生産性を向上させるファイル共有の方法を導入しておくことが大切です。
まとめ
「NAS」とはネットワークに接続して利用するストレージのこと、「ファイルサーバー」とはネットワーク上でファイルを共有するために設置されるサーバーのことを指します。
NASとNAS以外のファイルサーバーの違いをまとめると、以下のとおりです。
▼ NASとNAS以外のファイルサーバーの違い
NAS |
NAS以外のファイルサーバー |
|
意味 |
ネットワークに接続できるHDD |
ファイルを共有するためのサーバー (役割を指す概念) |
導入方法 |
NASを購入してセットアップする |
任意のパソコンなどにファイルサーバーを構築する |
できること |
・ファイル共有 ・購入したNASの機種が持っている機能 |
・ファイル共有 ・自分で自由に構築した機能 (自分のスキルで構築できる機能の範囲内で制限はない) |
▼ NAS・NAS以外のファイルサーバーのメリット・デメリットまとめ
メリット |
デメリット |
|
NAS |
◎あらかじめファイル共有専用に設計されているので無駄がない◎機種を選んで購入するだけで簡単に導入できる |
|
NAS以外のファイルサーバー |
◎自社の状況にあわせて細かくカスタマイズできる |
導入・運用・保守にITスキルのある担当者のリソースが必要になる |
選び方としては、 「ファイル共有だけを簡単にしたい」ならNAS、「自社の状況に合わせてカスタマイズしたい」ならNAS以外のファイルサーバーがおすすめです。
あるいは、クラウドストレージという第3の選択肢もあります。
クラウドストレージは、NAS・NAS以外のファイルサーバーのデメリットを解決できる選択肢といえます。その理由は、単なるファイル共有にとどまらない多種多様な機能性を持ち合わせていながら、ITの知識なしで簡単に導入できる特徴を持つためです。
自社に合うファイル共有を実践するポイントとして以下が挙げられます。
- 用途別に複数の方法を共存させる方法も検討する
- 実際にファイル共有を行う現場の声を大切にする
- テレワーク対応を前提として環境を整備する