結果に対する原因を探る手法として、特性要因図(フィッシュボーン図)が注目されています。それもあって、特性要因図が有効らしいというイメージをお持ちの方の多くは、それではどうやって問題解決に役立てればよいのかという方法論をお探しではないでしょうか。
もともとは製造業で起こり得る問題の原因を特定し、有効な対策を講じるための手法として広く用いられてきた特性要因図ですが、潜在的な問題を見つけるための手法として広く応用されるようになりました。
この記事では、特性要因図とは何かという基本から実際の作成法、そして今すぐ特性要因図を作成できる支援ツールの数々をご紹介します。記事内では実際に特性要因図を作成しながら解説しますので、ぜひご一読ください。
目次
1. さまざまな問題の原因をあぶり出す「特性要因図(フィッシュボーン図)」
2. 特性要因図(フィッシュボーン図)の作り方
3. 特性要因図(フィッシュボーン図)を簡単に作成できる無料ツール
4. まとめ
1. さまざまな問題の原因をあぶり出す「特性要因図」
1-1. 特性要因図(フィッシュボーン図)とは
特性とは現在見えている結果のことを指し、要因とはその結果をもたらすのに影響を与えた要素のことです。特性要因図は、結果である特性がどのようにしてもたらされたかを図式化して、そこに潜んでいる問題点をあぶり出すのに用いられる手法のことです。
特性要因図の歴史は古く、1953 年に東京大学の教授を務めていた石川肇氏が考案したのが始まりとされています。実際の特性要因図を見ると分かるのですが、魚の骨にとてもよく似た形をしているため、フィッシュボーン(魚の骨)図、フィッシュボーンチャートなどと呼ばれることもあります。
特性に対する原因究明に困ったら図に書き出してみるのが一番ですが、その時に活躍するのが特性要因図です。
1-2. 特性要因図の用途
結果を意味する特性がもたらされるまでには、さまざまな要因があったはずです。特性要因図を必要とするということは、結果に対して何らかの不満がある可能性が高いので、その意図しない結果をもたらした原因を探すのが特性要因図の主な用途です。
特性要因図では、思わしくない結果をもたらす要因として不適切な管理や考え方、対策、または怠慢など問題が含まれているもののことを「原因」と呼びます。
特性要因図を使って探し出そうとしている原因とは、次の業務にいかすための課題探しと言い換えてもよいでしょう。
1-3. 特性要因図の作成に必要な 4 つの要素
実際に図式化された特性要因図を見ると、魚の骨を構成する 4 つの要素が見て取れます。これらは魚の骨になぞらえて、背骨、大骨、小骨などと呼ばれています。
それでは、各部分が持つ役割を順に解説していきます。
1-3-1. 背骨:解決したいテーマ
右側にある特性から一直線に伸びている最も太い骨が、解決したいテーマから引かれた背骨です。この背骨に対してさまざまな要因が関連付けられていきます。
1-3-2. 大骨:すぐに思いつく要因
特性に対して、まずはすぐに思いつく要因を書き出していきます。後述しますが、この要因の書き出しには 4M をベースに考えるのがよいとされています。この 4M とは Man (人)、Machine (機械・設備)、Method (方法)、Material (材料)のことを指し、こうしたカテゴリーに含まれるものは何かを考えながら書き出すと思いつきやすくなります。
1-3-3. 小骨:大骨の問題を生み出している個々の要素
大骨として書き出した要因に対して、それをさらに分解していくと個々の小さな要因が出てきます。こうした小さな要因は小骨として、大骨に関連付けていきます。
1-3-4. 孫骨:小骨の原因をミクロの視点で考察したもの
上記の小骨をさらに細分化、ミクロの視点で考察してみて浮かび上がったものを孫骨として書き入れていきます。もちろんこれは思いつかなかった場合は無理に書く必要はなく、少し考えただけで出てきたものを書くのがポイントです。
1-4. 特性要因図を利用するメリット
見えているもの、見えていないものそれぞれを含めて出し尽くすことから問題の本質を探る特性要因図には、主に以下のようなメリットがあります。
- 課題の洗い出し、解決から先入観を排除できる
- 問題解決の方法論や品質が安定する
- ノウハウとして蓄積され、情報資産となる
- 視覚化されるため問題意識を共有しやすい
物事に潜む問題点というのはさまざまな形をしているため、同じ物差しで検証するのは難しいものです。しかも潜在的な問題点になると形がないため、人によって捉え方が異なったりもします。
特性要因図はそうした人間的な不安定さ、曖昧さを排除した科学的な原因究明手法と言えます。
1-5. 特性要因図の 4M とは
特性要因図の要因をあぶり出す際に意識されるのが、4M と呼ばれる要素です。すべて M から始まる英単語で表現され、その内訳は以下の通りです。
- Man = 人
- Machine = 機械、設備
- Method = 方法
- Material = 材料
もともとは製造業の品質管理や問題解決に用いられてきた手法でもあるため、上記のような 4M となっています。製造業以外で利用する場合は機械や材料などを別のものに置き換えてもよいでしょう。
例えば、ソフトウェア開発であれば機械は支援ツール、材料は既存のプログラムやテンプレートなどといった具合です。
なお、この 4M に Measure (測定)を足して 5M を要因とする場合もあります。
2. 特性要因図(フィッシュボーン図)の作り方
2-1. 基本的な考え方
ひとつの特性に対して、そこに大骨があって小骨、孫骨と要因を細分化していくのが特性要因図の基本的な考え方です。
そこで、まずは原因を究明したい特性(結果)を書き入れて、そこに大骨を引きます。
ここでは、ある企業で売り上げが低下してしまった原因を探ってみたいと思います。特性は「売上ダウン」です。
売上ダウンという特性と、そこに導かれる背骨を書き入れました。
2-2. 4M それぞれの要因を挙げて書き入れる(大骨)
次に、大骨となる要因を書き入れてみましょう。4M の考え方に沿って、売り上げがダウンした要因を挙げてみたいと思います。
基本は人、設備、方法、材料の 4 要素なので、売上に関わりが深い語句に言い換えてみましょう。それぞれ、人、環境、売り方、手段に言い換えてみました。それを図に書き入れると、以下のようになります。
これだけも、すでにこの 4 要因の中に主だった原因があることがイメージしやすくなります。
2-3. 大骨に関連する小さな要因(小骨)を入れる
それでは、これらの大骨の要因となっている細かい要因に分解していきましょう。
人に対する問題として考えられる要因は、人手不足、人材不足、年齢層、未熟さなどが挙げられます。環境については、研修システムの未確立や組織力の弱さ、社内リソースの不足などが考えられます。この要領で、4M の要因それぞれに小骨を入れてみました。
思いつくままに記入をして、それぞれを関連付けました。この作業に要した時間は、おおむね 20 分程度です。20 分という短時間で、これだけの要因をあぶり出すことは他の方法だと難しいかも知れませんが、特性要因図を使うと非常に簡単に作業ができました。
ここから問題点を特定する方法については、後述します。
2-4. 記入時のポイント
2-4-1. 「なぜなぜ」を 5 回繰り返す
特性要因図の作成で大きなポイントとなるのが、「なぜなぜ分析」です。大骨となる要因に小骨を入れる際に出ているのは、「なぜ」という問いに対する答えです。特性要因図を作成にするには、少なくとも 5 回は「なぜなぜ」を繰り返してみて、そこから答えを導き出すのがセオリーとされています。
2-4-2. 要因は客観的に考える
原因を特定するための特性要因図なので、そこに書き入れる要因に主観が入らないようにすることが大切です。主観を入れてしまうと真実をあぶり出すのが困難になり、その主観こそが最大の「原因」であるという構図になってしまいます。
あくまでも客観的な視点や事実、データなどに基づいて「なぜなぜ」の答えを導き出してください。
2-4-3. 要因は 4 つにこだわらない
4M という言葉があるために特性要因図は 4 つの要因から原因を特定していくように感じられるかも知れませんが、数にこだわる必要はありません。4 つよりも少ない場合、もしくは多い場合のどちらであってもそこに書き入れるべき要因があるのであれば、すべて書き出してください。
2-4-4. 小骨に孫骨をつけても OK
背骨、大骨、小骨と要因を細分化しながら書き入れていくにあたって、小骨の要因を構成しているさらに細かい要因が見つかった場合は、孫骨として書き入れます。分解する階層に制限はないので、思いついたものは忘れないうちに書き入れていきましょう。
2-5. 完成した特性要因図から原因を特定する方法
特性に対する原因とは、「管理不適切、怠慢、手抜きなどによって起きるもの」と定義されています。ここまで書き出してきた大小さまざまな要因の中から、上記に該当しそうなものを探して印をつけます。
それともうひとつ、複数の大骨に似たような小骨が見つかった場合は、それも原因である可能性が高いので、こうした要因にも印をつけます。
先ほどの売上ダウンの原因を探った結果を見てみましょう。
管理不適切などに起因するものと、同じような小骨が見られるものに印をつけました。この企業の場合、売上ダウンの原因として採用の弱さゆえの人材不足と、目標意識の低さ、それを共有するためのコミュニケーションが不足していることが「真犯人」である可能性が高いことが分かりました。
ここでとるべき対策としては、採用の強化とコミュニケーションの活性化と目標意識の共有です。
3. 特性要因図(フィッシュボーン図)を簡単に作成できる無料ツール
3-1. Excel で特性要因図を作成できるツール
この記事では、特性要因図の作成に画像編集ソフトを使用しました。こうしたソフトを使ってゼロから作成することも可能ですが、すでにテンプレートとして無料で提供されているものが多数あるので、今すぐ特性要因図を簡単に作成できるツールとしてご紹介します。
ほとんどのテンプレートは Excel 形式になっており、Excel が動作するデバイスであれば Windows や Mac などプラットフォームを気にせず利用可能です。
3-1-1. Computer Aided Fishbone Chart
すでにある程度まで作図されており、それを編集する形でオリジナルの特性要因図を作成することができます。
3-1-2. Excel で使える無料テンプレート
すでに完成している特性要因図に手を加えることでオリジナルの特性要因図を作成できるテンプレートです。特性要因図に対する詳しい解説も同じファイル内に記載されているので、その解説を見ながら作成できます。
3-1-3. Excel 特性要因図 1.0
A4 サイズで出力できるように最適化された Excel 用テンプレートです。あらかじめ特性要因図の形が作成されているので、必要な部分を書き加えて完成させます。
3-1-4. 特性要因図サンプル
サンプルという名称で配布されていますが、Excel で編集することで本格的な特性要因図を作成できます。
3-2. Edraw Max
ビジネス向けの各種チャート図を作成するためのソフトです。特性要因図作成機能も実装されているので、パーツを選んで配置していくだけ簡単に本格的な特性要因図を作成できます。
かなり多機能なソフトということで有料ですが、無料体験版も用意されています。
4. まとめ
もともとは製造現場で不良品の発生や事故などの原因を特定する手段として考案された特性要因図ですが、その後の進化によってさまざまな業種や活動に応用されるようになりました。
どんな分野で利用する場合であっても基本的な考え方は、この記事で解説した通りです。特性に対して要因を出し尽くして掘り下げていき、そこから問題の本質をあぶり出すことに有効なのは同じです。
テンプレートなどを使うととても簡単に今すぐ始められるので、まずは身近な特性から作図をしてみて特性要因図による問題解決にぜひチャレンジしてみてください。