今年の初め、私たちはカナダのバンフで開催された The Gathering に赴き、世界中で熱狂的なファンを持つブランドのマーケティング リーダーたちが、いかにして会社をカリスマ的存在に導いたのかを聞いてきました。
会場では、Dropbox のブランドおよびインフルエンサー パートナーシップ責任者のリズ・アーミステッドが、Ichi Go の CEO で、NFL チーム、ダラス・カウボーイズの元ブランドおよびメディア担当バイス プレジデントのマット・オニール氏にインタビューし、チームと共に創造力を育む方法について伺いました。
チームとの共同作業はどのように行っていますか?
ご自身のプロセスの中で、共同作業とはどのような位置付けでしょうか?
私はいつも、自分の主な仕事はスタッフのモチベーションを高めることだと考えています。
ダラス・カウボーイズでは、私の下に約 50 人のスタッフがいました。
そのため、スタッフの向上心を刺激するにはどうすればよいかを考えるために多くの時間を費やしてきました。
たとえば、スタッフが違う考え方をするにはどうすればよいか、どうすればスタッフが成長できるか、スタッフが仕事への当事者意識を持つには何が必要か、といったことです。
つまり、共同作業や新たなアイデアが生まれるとすれば、それは私のスタッフへの働きかけが効果を発揮しているということですし、今後も継続しなくてはいけない証です。
Dropbox では、創造的なエネルギーをかき立てること、
それが重要な理由についてよく話しています。
オニールさんにとって「創造的なエネルギー」とは何ですか?
それは、私にとって本当に重要なものです。
ずっと前に、ある人から創造的なエネルギーの源をいただきました。
それは「学者の石」と呼ばれる観賞用の石です。
おそらく中国から来たものだと思いますが、1 万年もの間、芸術家や作家、詩人など、創造力豊かな人々が石のさまざまな部分を触って、創造的なインスピレーションを得てきたそうです。
私はある方からこの石をもらったのですが、本当に大きくて、重さは 160 kg 以上もあります。
創造の源となるインスピレーションが必要なときに思い出せるように、それからずっとこの石はオフィスに置いてあります。
石が創造力を与えてくれると考えるほど単純ではありませんが、創造力に恵まれた多くの人々が認めた石だと考えると、信じてみようかなと思うんです。
私にとって、創造的なエネルギーは必要不可欠なものです。
創造力を育むこと、それはビジネスにおいてもっとも重要だと考えています。
必要なのは、新しいアイデアと、よくあるいつもの問題を、新鮮な目と創造的なアイデアを持って見て解決できる人材です。
その創造的なエネルギーを育むために、チームと何か取り組みを行っていますか?
カウボーイズに参加したとき、私のグループはまだできたばかりでした。
カウボーイズは、これまでなかった創造的なグループをつくって、組織のさまざまな場所に配置していたのです。
私はやる気に満ちあふれていました。知らない人からは、よく暑苦しいと思われるんですけどね(笑)。
とにかくこれから良い実績を上げるのだという高い志を持っていました。
良い方向に向かうにはどうするか、新たなアイデアを育むにはどうすればよいか、偉大になる方法は何かといったことを、月に 1 回はチームに説きました。
また、インスピレーションにつながる動画を見せたり、印象に残った文章の抜粋を送りました。
あらゆることを実施しました。いつもインスピレーションを刺激することが、間違いなく最重要課題でした。
オニールさんが誇りに思っていらっしゃる革新的な仕事について、何かお話しいただけますか?
ある日、チームを静かな環境に置き、「Steal Like An Artist」という本を渡しました。
さまざまな引用と考え方が盛り込まれ、かつ手軽に読める本です。
その本には、あらゆる人のアイデアを盗んだり、借りたりするためのヒントが紹介されています。
まるで本当に人からアイデアを借りてもよいという許可を与えてくれるような気になる本です。
これが革新と相反することはわかっていますが、私たちの活動へのユニークなアプローチとなりました。
ここから非常に多くのインスピレーションを得ました。
「Deep Blue」という独自のドキュメンタリー シリーズを制作し、そのアイデアをペプシに売り込みました。
今日までにこうしたすばらしいコンテンツが、1 年に 4 つのペースででき上がっています。
たとえば「Finish This Fight」キャンペーンでは、選手のストーリー ビデオを制作しました。
すべての選手にはそれぞれ、独自のストーリーがあります。
ストーリー ビデオでは、選手のこれまでの体験、克服しなければならなかった苦難、このプレーオフが選手にとって重要な理由など、各選手の個人的な話を紹介しています。
革新的なアイデアとは呼べないと思いますが、すばらしい「アイデアを借りた」ビデオと言えると思っています。
「こうしたすばらしいアイデアとインスピレーションは、ぬるま湯のような心地よい場所を少し出たところに潜んでいて、読んだり、見たりすることで、それが解き放たれるのだと思います。」
仕事以外では、どのように創造力を育んでいますか?
本を読んでいるときは、いつも至福の時間です。
私は 8 年間脚本家の仕事をしていました。
その頃はまだ「雑誌屋さん」が実在した時代です。
LA で暮らしていた頃、お気に入りの雑誌屋がありました。
そこに行っては、とにかく変わった雑誌を選んでいたものです。
普通に立っていては見えない、スタンドの後ろの 1 番下の棚にあるような雑誌です。
すばらしいアイデアとインスピレーションは、ぬるま湯のような心地よい場所を少し出たところに潜んでいて、読んだり、見たりすることで、それが解き放たれるのだと思います。
今は、コンテンツに簡単にアクセスできるので、どこからでもアイデアを見つけられる時代になりました。
次の質問に移りましょう。
「フロー(人間がその時していることに完全にのめりこむこと)」を保つために何をしていますか?刺激を受けて得られるインスピレーションからアイデアを見つけたりすることは、オニールさんにとってフローの一部でしょうか?それとも、他の秘訣がありますか?
この「フロー」という概念は、旧ソ連の心理学者が考え出したものです。
私はこれをチーム全員に紹介しました。
フローは非常に基本的なグラフで表されるものなんです。
Y 軸は、取り組んでいるタスクの難易度です。
X 軸は、「それらのタスクを完遂できるスキルがあるか」の度合いです。
フローとは、グラフの右上の端に位置するものです。
つまり、信じられないほどの困難に直面していながら、そうした難題に十分対応できる優れたスキルがあるということです。
脚本を書いていた頃、私はフローを「クリエイティブな錠」と呼んでいました。
実際、この言葉はこのグラフを知る前から使っていましたが、職場でこのグラフを見たとき、なるほど、とすぐに納得できました。
要するに、「社員はどのような準備ができているか」そして「どのような仕事を与えると社員がそのスキルを活用できるか」ということなのです。
フローを最も感じるのはいつですか?
難題に直面して精神的に追い詰められているとき、そしてその後に、自分にはスキルがある、と確信するときです。
キャリアや人生において、自分がプロとして成長していないと感じる時期はあります。
そういうときは最悪です。
でもその局面に挑んで、事態を好転できているときは最高です。
大変なことが何にもないときを、あまり良いときとは言えません。
私は定期的に異なるプロジェクトを持ち込み、ぬるま湯を抜け出して、他のことを行うようにしています。
ときにはマネージャーとして、「社員にどのような挑戦を与えているだろうか」と考えることもあります。
私たちの仕事は、日常の単調な取り組みの中で行き詰まることがあります。
社内でスタッフにどのような課題を与えているかを意識しておくことは本当に必要です。
創造的なプロセスにテクノロジーはどのような影響を与えていますか?
まず「アクセス」です。
今では、あらゆるインスピレーションの源となるものにすぐアクセスすることができます。
最初に脚本家の仕事を始めたのは、2000 年代前半でした。
その頃すでにインターネットはありましたが、それほど高速ではなく、今ほど発達していませんでした。
私は今でも美術館に行って創造力を養いますが、脳を刺激してくれる情報や才能に手元からすぐアクセスできるのはすばらしいことです。
キーボードから打ち込めば、アイデアがすぐにやって来るんですから。
若い頃の自分に何かアドバイスはありますか?
私はとても恵まれていたと思っているので、昔を振り返って「ああすればよかった」と思うことはそんなにありません。
若かった頃は、あまり自分に自信は持てませんでした。
なので、昔の自分にいうとしたら、一生懸命仕事に打ち込んで自信をつけること。
そうすれば重要な決断をしたり攻めの姿勢を貫けるよ、ということですね。