イラスト:ジャスティン・トラン
仕事を効率的にするというのは、常にスピーディに仕事をして、ひとつの仕事が終われば、また次の目標に邁進するということでしょうか?
この考え方は成長するための基本方針であるかもしれませんが、時にスローダウンも必要です。そうすることで効率性がアップしたり、新たな発見につながることを Dropbox のグロース デザイン チームは経験から学んでいます。
目次
- ユーザーについてじっくりと考える
- 早い段階から職務の枠を超えたプロジェクトメンバーと意見を交換する
- 実験が成功した理由についてじっくりと調べる
- 完璧なソリューションを待たない
- 複数のテストを同時進行してみる
- 既存のコンポーネントを利用して時間を節約する
1. ユーザーについてじっくりと考える
ユーザーにとって最も効果的な体験を探すとき、A/B テストのように 2 つのバージョンを比較するのが一般的です。しかし、完全な A/B テストを実施するとなると、設計、ビルド、結果の収集に時間がかかってしまいます。
Dropbox のグロース チームでは、まずは調査から始めて、従来的な「発見、概念化、調整」のプロセスに従うことを推奨しています。この方法によって、ユーザーの目的、動機、ニーズを理解しやすくなります。このプロセスは一見すると多くの準備時間が必要になりそうですが、実験に対してより綿密なアプローチができるという利点があります。
Dropbox での具体例
私たちグロースチームが注力しているのは、ユーザーの最初の体験です。
つまり、ユーザーが自分のニーズに最適なプランを決めるその瞬間の体験にフォーカスしているのです。
当初、私たちは他のチームと同じように、成果があると認められた事例を軸に次々と実験を行いました。チームに配属されてから最初の数か月でいくつかの実験を試みましたが、決定的な結果は得られませんでした。そこで、出発点に戻って考え直すことにしたのです。
チームみんなで話し合った結果、Dropbox にアクセスしてくる新しいユーザーや彼らの意図について、私たちは何も理解していなかったと気がつきました。多くのテストを行うという方針を転換し、かわりに定性的な一連のインタビューを実施することにしました。このインタビューから、プランの提示方法がユーザーの心に響いていなかったことがわかったのです。こうした調査結果を基にして、その後のテストを決めていくことにしました。
追加のテストを行う前に、この調査結果に立ち返って最善のデザイン案を決めることにしました。私たちは通常、複数のデザイン アプローチを A/B テストとして実行するプロセスを採っています。しかしこのときは、UserTesting.com でユーザビリティ テストの簡易なセットを実施して、潜在的なユーザーに最も訴求するアプローチを特定することにしました。そのおかげで 1 週間以内にデザインとコピーを決めることができました。A/B テストを続けていたら、もっと多くの時間がかかっていたでしょう。
ユーザーがプランを選択するまでに経過するジャーニーの概要
2. 早い段階から職務の枠を超えたプロジェクトメンバーと意見を交換する
プロジェクトに関係するメンバーの予定を調整するのは大変なことなので、このステップは省略してしまいたいところです。しかし、早い段階から職務の枠を超えたプロジェクトメンバーと意見を交換することで、予想される技術的またはビジネス上の障害を洗い出すことができます。長期的には、このステップによってチームの時間的、金銭的なコストを大幅に削減できるはずです。
Dropbox での具体例
アイデア出しのフェーズを始めるときに、ブレインストーミング セッションを開催しました。エンジニア、製品マネージャー、グロース マネージャー、製品マーケター、カスタマー サポート、デザイン、リサーチ、分析の役割から、それぞれ 1 名以上の人に出席を依頼し、その場で各自の考えを発表してもらいました。そして最も重要な点として、障害となりそうな問題について意見を出してもらったのです。ブレインストーミングの結果、「ユーザーにとってポジティブな体験で、技術的な難易度が高くなく、ビジネスとして大きな成功が見込めるもの」がソリューションとして挙がりました。
職務の枠を超えたパートナーとのアイデア出しのためのブレインストーミング
3. 実験が成功した理由についてじっくりと調べる
従来の方法では、グロース チームはマイナス ポイントから学びを得て、以降のテストでより良い結果になるよう調整していきます。しかし私たちは、成功から学ぶことが不可欠だと考えています。実験が成功した理由を理解できれば、次の体験をより良いものにできるようになるはずだからです。
Dropbox での具体例
ニーズに合った最適な Dropbox プランをユーザーが選べるようにするという目標をさらに前進させるため、あるテストを行いました。このテストは、すべての指標で素晴らしい結果を出しました。有料スタート率は 3 倍も高くなり、アクションの完遂率も 88 % に達しました。
ところが、社内で集まって報告会をしたところ、良い結果を生み出した理由については仮説しか出せなかったのです。そこで、このテストが成功した根本的な原因を探るために、フォローアップのアンケートを送信することにしました。このアンケート結果からも、ベンチマークとして使える定性的な指標が得られ、新規ユーザーに各種プランを紹介する方法を継続的に改善していけるようになりました。
スローダウンして入念にアプローチする方法を理解できたところで、次はスピードアップすべきときについて考えてみましょう
4. 完璧なソリューションを待たない
チームではテストを行うことに注力していましたが、同時に会社としてはセグメンテーション モデルの構築にも取り組んでいました。このモデルが完成すれば、どのプランが特定のユーザーに適しているのかを予測できると見込まれていました。そこで、私たちはモデルが完成するまでテストを控えるのではなく、この目標に特化した一連のテストを先に行ってしまおうと考えました。
この行動の背景には、「あらゆる学びは、良い学びである」という考え方があります。また、より単純なアプローチも行いました。プランを勧める際の参考にするため、ユーザー自身に関する質問をしたのです。前述のモデルが完成するのを待ちつつも、この質問によって何に対処すべきかが見えてきました。
単純なアプローチによって、ユーザーが Dropbox のプランを選びやすくなりました
5. 複数のテストを同時進行してみる
トラフィック サイズが十分に大きければ、テストを同時進行してみましょう。こうすることで 2 倍の速度で知見が得られます。1 つ目のテストが終わるまで次のテストを控えておく必要はないのです。あるテストが、他より優れた結果を出す「理由」について理解できさえすれば、それを元に将来の方向性を定めることができます。チームでは、迅速に結果を得るため 2 つのテストを同時に行ったところ、両方のテストから得られた結果を考慮し、統合的なソリューションを生み出すことができました。
6. 既存のコンポーネントを利用して時間を節約する
Dropbox のチームは、常に入念なデザインを心がけています。しかし急ぎの場合は、コンポーネント ライブラリが頼れる資産となります。コンポーネントを新たに作成するには時間もリソースも必要になります。そこでチームでは、当初のテストに既存のイラストを流用することにしました。そのため、新しいイラストを作成する時間をかける前に、テストの成否を判断する時間が得られました。
まとめ
Dropbox のグロース チームは、急ぐべきときと腰を据えて考えるべきときを見極めることで、成果を上げることができました。両方のアプローチを使い分けることでより効果的なテストができています。これが結果として、より良い、より包括的なテストにつながっているのです。
皆様からのコメントをお待ちしています。プロセス改善を検討するうえで、どのポイントで熟慮すべきかを考えてみてください。意図的にスローダウンすべきなのは、どのようなときでしょうか?この記事をご活用いただけましたら幸いです。
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