今年のニューヨーク ファッション ウィーク。高いリスクや時間的な制約、ファッション業界から注目をあびる中、有名ファッション デザイナーのディオン・リー氏が、新作コレクションを発表するためにどのようにチームと共同作業をしているのかお話を聞くことができました。
ショーを成功させるためには、ばらばらになっているクリエイターとの協力関係を取りまとめることが重要です。Dropbox を活用することで、協力してくれるメンバーの一人ひとりと円滑なコミュニケーションを図ることができています。
Dropbox が 9 月に開催したカンファレンス「Work in Progress – 進化する作業環境」でリー氏は、ファッション ビジネスの周期的な特性がむしろ集中の源であると話しています。
「制約を武器に変える」という彼の考え方は、非常に興味深いものでした。
そこで、今回はさらに掘り下げて、最高の仕事をするためにリー氏がスケジュールをどのように組み立てているのかをうかがいました。
クリエイティブな作業に集中できる時間を確保するために、毎日行っている習慣や秘訣などはありますか?
はい。チームと協力しアイデアを練っていくこと、つまり他者から異なる意見をぶつけてもらうことは、コンセプトを発展させていく上で重要なポイントとなります。しかしそのプロセスの中で、自分だけで何かに取り組む時間を確保するというのも非常に大切だと思います。
通知をオフにする、またはメールへの返信をしない時間を作っていますか?また、1 日の中で連絡がつかなくなる時間帯があることを、チームに知らせていますか?
自宅で仕事をする場合は必ずオフラインにしていて、移動中も時々オフラインです。移動中はクリエイティブな時間を多く持てるんです。
というのも、シドニーとニューヨークの両チームとも私が移動中だということを知っていますから、連絡がつかないことが前提になります。こうした時間は、クリエイティブな思考に時間が割けるいい機会です。
たとえば飛行機に乗っている時ですね?
オーストラリアからのフライトですね。とても頻繁に利用していますが、1 回の乗り継ぎをはさんで、24 時間もかかるんです。
そうした時間で、スケッチを描いたり、自分用のメモを残したりするのですか?
そうですね。スケッチの時間が取れることもあります。移動中のスケッチでは、細部を詰めるというよりも、抽象的なコンセプトを描くことが多いですね。ぼんやりとしたアイデアに輪郭を与えるようなスケッチです。そうしたラフスケッチは、オフィスに戻ってから詳しく見直すことになります。スケッチせずに、メモだけを書くということも多いです。メモを書く時はスマートフォンを使うこともあります。アイデアを生み出そうと、思いつくまま書くこともありますね。
試行錯誤の重要性についてお話しいただけますか?最初に浮かんだアイデアを放り出さずに、最後まで洗練させていくためにどんなことをしていますか?
本質的に必要なのは論理性で、アイデアの良い点とそうでない点に対処していくという方法に行き着きます。
また重要なのは、フィードバックをする前に一歩引いたところから物事を見て、思索することです。クリエイティブなアイデアの場合は特にそうです。「すぐに対処しなければ」というプレッシャーを感じることは多いのですが、答えがない時にはあえて何もしません。間違った反応をしないよう、反射的にそうしているのだと思います。
こうしたやり方がスケジュールを圧迫することはありますね。ただ、経験から感じているのは、確信が持てる時には物事がテンポ良く進むということです。逆に確信が持てない時には、物事がまったく進まなくなります。
クリエイティブなプロセスでは、どの段階から共同作業に移りますか?
私の場合は内容を共有するまで少し時間がかかりますね。シーズンの方向性を最初に打ち出す場合は特にそうです。普段は長くて 1 か月ほどは 1 人で考えて、私の中からアイデアが出てくるのを感じるようにしています。
チームの貴重な時間を無駄にすることほど、最悪なものはありません。コンセプトを皆に伝えて、それに沿って進めていけるようになるまでは、そのコンセプトに対する確証と自信が必要なんです。チームにコンセプトを伝えるということは、そのコンセプトを基に仕事を進め、形にしてほしいと伝えることです。ですので、そこに至るまでに長い時間が必要になるのです。
私の仕事の進め方は、それぞれのコレクションが同時進行しているような感じです。頭の隅ではいつも何かしらのアイデアを温めていますが、多くの場合、無意識のうちにやっていると思います。常に次のアイデアが成長してきて、育った果実を収穫していくようなイメージです。
つまり、実際の作業に取りかかる時にはもう、頭の隅で無意識のアイデア作りが始まっているということです。
私は物事を視覚化するタイプで、特にランウェイでのショーではその傾向が顕著だと思います。ショーの場所や会場について意識すると、何がどのように見えるか、感じられるかを想像するプロセスが始まります。
このプロセスを踏むことで、ショーが行われる環境や瞬間に合わせてコレクションをデザインして仕上げていくことができます。頭の中ですべての要素を合わせて考えられるのです。そうすると、どのように見せたいかという映像が生まれます。次はその映像を全員に伝えて、形にしてもらえるようサポートするのです。
シドニーオペラハウスでショーを行った時などは、事前に会場に足を運んでさまざまな角度から写真を撮ったりするのですか?
もちろんです。あの時は、ショーを行う場所の構造や環境、時間帯、前向きな感覚、空気感などのすべてを確認するところから始めました。こうした要素はコレクションを仕上げるうえで重要なスタートで、視覚的なイメージがもちやすくなります。
つまり、ある意味で会場との「共同作業」ということですね。
そうだと思います。ショーが行われる場所の環境や文脈を作るということだと思います。「観客はこの作品をどうやって見るだろうか?観客の目にはどのように映るだろうか?作品以外には何が目に入るだろうか?その瞬間に、作品はどういった形でそこに存在するだろうか?」といったことを考えます。
相反する要素を組み合わせたデザインが多いと思いますが、シドニーオペラハウスのような空間を見た時に、それと相反する要素を取り入れてみたいと感じますか?
効果的な方法だと思います。9 月のニューヨークファッションウィークで行った直近のショーでは、彫刻的なレザーハーネスを取り入れたので、このコレクションを自然光の中で見せたいと強く考えました。
性的な文脈を重厚な表現と組み合わせるのではなく、新鮮さや自然光、夏らしさといった要素で薄めることが非常に重要でした。こうした意味では、コレクション自体と相反する環境を組み合わせるというのも良いと思います。
意外性のある要素を並べることに魅力を感じるのはなぜですか?バランスを取るためでしょうか?
バランスという面が強いと思います。相反する要素とのバランスを取ることが作品の重要な部分といえます。これは私の性格なのだと思います。
私は常に、物事のバランスを考えています。柔らかいものと固いもの。軽いものと重いもの。相反する要素を使った試みを必ず取り入れています。
それは、デザイナーになった当初から自覚していましたか?
率直に言って、私のデザインスタイルとアプローチは大学時代からほとんど変わっていません。むしろ、アイテムの中には繰り返し登場するものもあって、自分でも面白いと感じてしまいます。もちろんこの数年で、専門的な知識も、経験も、仕事に対する理解も大きく向上したと思います。一緒にコレクションに携わる仲間の技術も高まっています。しかし表現手法という点では、一貫しています。
体に合う服をデザインするためには、その服をまとう肉体との対話が非常に重要になります。私たちの作業というのは、体の周囲に彫刻を作るようなものだと言えるでしょう。
デザイナーとして作品について語る必要が生じてはじめて、こうしたことを言葉にするようになりました。
当初は「これが私のデザイン美学なのだ」とは考えておらず、どちらかというと直感的なものでした。メディアへの対応やブランドのアピールにおいて、自分のファッションについて言葉で説明する必要が出てきてから、自分でも意識するようになったのです。これは単に、私が視覚的な感覚を優先する人間だからでしょうね。「言葉でこう伝えよう」と考えていたわけではないのです。
デザイナーの視点から、新たなことを学べる機会である共同作業は常に魅力的だとお話ししていましたね。最近の共同作業を通して学んだことで、特に印象深かったことは何ですか?
他者のクリエイティブなプロセスをぶつけてもらうというのは、とても面白いことです。他のクリエイターが物事をどのように考え、世界を見ているかを知ることができるのです。
物事に向き合う姿勢というのは、一人ひとりが違います。私は、そうした知見に触れられることをデザイナーとして嬉しく思っています。
クリエイターはみな個性的ですし、クリエイターたちとの共同作業も毎回ユニークなものになります。仲間でお互いにインスピレーションを与え合い、それを昇華させていく様子を目の当たりにすることは、自分にとっても刺激的な体験ですね。「他の人が何に喜びを見いだすのか」を知るのは、とても興味深いと感じます。
私たちのビジネスは、Dropbox 上で行われています。仕事の多くが、ニューヨークにいるデザインチームとオーストラリアにいる制作チームとの間のコミュニケーションで成り立っているからです。
あなたは科学や自然、そして工業的な要素をインスピレーションの源泉としていますね。大きく異なるこうした要素を、どういったプロセスでまとめているのですか?
こうした要素はコレクションごとに異なります。過去のコレクションでは、より解剖学的な要素を取り入れていました。私たちは、人間の体の構造や生態に基づいてデザインをしています。体に合う服をデザインするためには、その服をまとう肉体との対話が非常に重要になります。
私たちの作業というのは、体の周囲に彫刻を作るようなものだと言えるでしょう。これまでにも軸としていた解剖学は、ずっと継続してインスピレーションの源になっていると思います。たとえば言葉で何かを表現する時とか、インスピレーションを深く掘り下げて具体化する時などに、解剖学が役に立っています。
カンファレンスの「Work in Progress – 進化する作業環境」では、すべてのコンテンツとアプリを集約するスマートワークスペースの構築を発表しました。割り込み作業を減らし、集中できるようにすることを目標として掲げています。ファッションデザイナーにとってのスマートワークスペースとは、どういったものになるか教えてください。
興味深い質問ですね。クリエイティブディレクターとしての仕事の多くは、異なるさまざまなモノの間を行き来できるようにすることだと思っています。そういった意味で、ファッションデザイナーにとっての「ワークスペース」とは、優れた共同作業を実現するものです。多様なビジネス分野を行き来して共同作業ができ、取りまとめられるような場です。
こうした協調的な仕事のやり方では、チームから離れて一人で作業をしてもうまくいきません。ただし、バランスが問題だと思います。自身のアイデアに集中し、変化の早いチームから離れて時間を確保することも大事です。
一方で、チームに戻って作品やクリエイティブ、ブランドについて多数の意思決定を創造的な形で導くことも必要なので、そのバランスだと思います。
普段使っているアプリをいくつか紹介していただけますか?
私たちのビジネスは、Dropbox 上で行われています。仕事の多くが、ニューヨークにいるデザインチームとオーストラリアにいる制作チームとの間のコミュニケーションで成り立っているからです。
社内全体で、さまざまなプログラムが進んでいて、デザインと制作の両方に横断的に関わっています。Photoshop、Illustrator、InDesign、それから Excel は 2 つのチーム間での進捗管理や連絡の取り合い、各コレクションをデザインする上で欠かせない存在です。使用している販売プラットフォームも、ニューヨークとシドニーにいる 2 つの営業チーム間のコミュニケーションも、すべて Dropbox プラットフォームを活用して動いています。
そうしたアプリに 1 つのダッシュボードからアクセスできるというのは、ご自身の仕事の進め方にとって理想的と言えますか?
本当にそのとおりですね。そうなったら素晴らしいと思います。
最近のテクノロジーの中で、クリエイティブなプロセスに影響を与えた、またはプロセスの洗練に役立ったものはありますか?
スケッチを直接アプリで描くようになりました。ただ、手描きとアプリの両方を使っているので、既存の手書きスケッチを使って、その上から修正を加えられることはとても便利だと思います。
ディオン・リー氏は、Dropbox の新たなブランドアンバサダーです。私たちは、リー氏の先駆的なビジョンに加えて、チームとの共同作業や独創性のあるファッションを生み出す高度な Dropbox 活用方法に感銘を受け、アンバサダーを依頼することになりました。ディオン・リー氏のファッションブランドについて詳しくは、global.dionlee.com をご覧ください。