人生で多くのことがそうであるように、仕事にも暗黙のルールがあります。コロナ禍以前のオフィスには、仕事をうまく進めるための独自の決まりがありました。ランチ ミーティングは何時に設定すべきか、会議が長引いているときに何分待ってから会議室のドアをノックすべきか、などです。誰もが、どうやって知ったのか考えもせず、こうした決まりに答えを出していました。
今は皆テレワークで、仕事はすっかり分散化されています。このような環境下にもルールはありますが、同じではありません。昔ながらのデートと出会い系サイトが違うようなものです。人とのやり取りがバーチャルであれば、誤解を招く可能性が高くなります。シグナルが誇張され、重要視されすぎることもあり得ます。チャットのスレッドで「お疲れ様です」と話しかけられたら、ただの挨拶かもしれませんし、叱責の前置きかもしれません。
日常生活の多くのマナーは、必然から生まれたのではなく、時間をかけて形成される必要があったことは注目に値します。アレクサンダー・グラハム・ベルは電話を発明したかもしれませんが、「Ahoy(アホイ)」という挨拶を定着させることはできませんでした。トーマス・エジソンが「ハロー」を提唱し、初めて発行された電話帳でそれを推奨したことをベルは悔しがっていたそうです。どうやらベルは「ハロー」が大嫌いだったようで、「ハロー」が使われ始めた後も、亡くなるまで「アホイ」と言って電話に出続けました。
テレワークにスムーズに移行し、同僚との間で今後も良好な関係を築くには、今まで当たり前だと思っていたことを見直し、新しい行動を受け入れる必要があります。ありがたいことに、私たちは誰もがこうした力を持っています。テレワークになってから、一部の習慣はすでに変わっています。たとえば、ボトムはパジャマ姿でも問題がないと考えるようになりました。多くの企業がテレワークを今後もずっと採用し、これが一過性の流行ではないことが明らかになった今こそ、テレワークのマナーの微妙なニュアンスをマスターするときです。そうすれば、今後もチーム メンバーとうまくやっていけるでしょう。
目次
1. 仮定をしない
テレワークのマナーにおける 1 つ目の黄金律は、「仮定をしない」ことです。
黄金律にしては、とてもシンプルですね。
オフィスは、物理的な建物としての役割の他に、より抽象的なこと、つまり対応可能であるという仮定を満たす役割を果たしていました。休暇やたまにある歯医者の予約を除けば、あなたは 1 日 8 時間いつでも同僚がどこにいるのか知っていて、たいていの場合は会えると仮定することができました。何か聞きたいことがあったら相手の予定表を確認して、時間が空いていたら会議室を探し、30 分後に「すり合わせ」会議を開くと相手が参加するという予測ができます。オフィスでは、「ちょっと質問です」というような Slack メッセージを送っても、そのメッセージが届くときの状況を考える必要がなかったので、たいして害があるようには思えませんでした。あなたもオフィスにいたので、状況を把握できたのです。
しかし、特にパンデミック下のテレワークでは、事情が逆です。
同僚がいつ何をしているのか、いつ求めに応じてくれるのかは、はっきりわかりません。直属のチームではない同僚の場合、状況はさらにわからなくなります。子供の自宅学習で席を外している、一時的に別のタイム ゾーンにいるといったケースもあるでしょう。しかし、すぐに求めに応じてくれるのではなく、応じられないことが基本だと思えば、こちらの行動も変わります。
- チャットを始める前に相手のステータスを見て、会話できるかどうかを確認します。相手のステータスが「退席中」の場合や通知のスヌーズが設定されているときは、会話できません。その場合は、相手が好きなときに返信できるようメールを送るか、会話できるタイミングを探ったほうがよいでしょう。
- ダイレクト メッセージや @メンション でチャットに呼び出す前に、相手の予定表を確認して、ミーティング中でないことを確認します。
オフィスでのミーティングは、パソコンから離れて実際の人間と会話をすることでしたが、テレワークではミーティングがすべて画面上で行われるので、あらゆる通知がおかまいなしに届きます。
ミーティングの途中で Slack の通知が点灯しては集中できません(特に画面共有をしている場合は)。それに、ほとんどの人はミーティングの前に通知をスヌーズに設定するのを忘れています。メッセージを招かれざる割り込みにしないようにすることで、聞き入れられる確率が高くなり、いつも変なタイミングで通知をポップアップさせる迷惑な人にならずに済みます。
- Zoom で同僚に「お子さんに会わせて」と言わないようにしましょう。まだ着替えていないかもしれないし、身だしなみを整えていないかもしれません。
子供がきちんとした格好をしていて、親が会わせたいと思ったら、自分からカメラの前に連れてくるでしょう。
- ミーティングの予定を立てる前には、同僚の予定表を見て、予定が重なっていないか確認する必要もあります。もう別の会議予定がある時間にミーティングを入れられるほど不快なことはありません。それでは屋上屋を架すようなものです。
これはオフィスにいたときも同じでしたが、ビデオ会議が増えて毎日の予定が詰まっている今はなおさらです。それに、育児や子供の自宅学習に充てる時間を確保している同僚も多いのではないでしょうか。
- アジェンダやミーティングの説明を追加することで、何をどんな理由で話し合うのかを知ることができます。参加者が皆、ミーティングの目的がわかっていると思わないでください。同僚は仕事が忙しくて、きっとストレスを感じています。根拠も脈絡もなくミーティングに顔を出すように求めれば、恨みを買うことになりかねません。
それに、あらかじめ情報を伝えておけば、出席する必要がないと思ったら欠席するか、代理を立てることもできます。
- もし、自分のプロジェクトに他のチームのメンバーを引き抜くために連絡しようとしているのなら、送信ボタンを押す前に、提案するコラボレーションから相手がどのような価値を得られるかを考えてみてださい。パンデミックの中では、誰でもなおさら神経過敏になっています。今の状況では、必要なことをそっけなく伝えてしまうと、受信者はメールを「重要でない」フォルダに移動させて、そのまま忘れてしまうかもしれません。
ハリウッドに台本を売り込むかのようにプロジェクトを宣伝しましょう。
相手がワクワクして、関わりたいと思うようなことを盛り込むのです。そうすればすぐに返信をもらって、より充実したプロジェクトにできるはずです。
2. 他人の時間を自分のもののように尊重する
The Economist Intelligence Unit(EIU)と Dropbox の新しい調査によると、テレワークに移行してからメールの量や会議予定が増え、仕事量や総労働時間も増えています。それに伴い、全体的なストレスも増加しています。そこで、テレワークの 2 つ目の黄金律は「他人の時間を自分のもののように尊重する」です。時間はいつでも最も貴重な資源ですが、テレワークへの移行ではそれを痛感させられます。自宅にいて仕事と家の用事が重なったときに、同僚と家族の間で時間をやり繰りできるようになるには慣れが必要です。同僚の時間を無駄にしないよう対策を講じて時間を尊重することは、この環境におけるマナーの重要なポイントです。
- 業務時間外にメールを送る前に、急用かどうかを考えてみましょう。相手に今すぐ受け取ってもらいたいから送るのか、ただ自分が手放したいから送るのか。後者の場合は、メールのスケジューラを使って、翌営業日の朝 9 時以降に送信しましょう。そうすれば、同僚の機嫌を損ねることなく、自分の肩の荷を下ろすことができます。
- ミーティングの予定を立てる前に、「本当にミーティングは必要か?」と自問してみてください。メールを送って返信を待つことはできませんか?ミーティングがいつ必要かを決めるための実用的なガイドはこちらで参照できますが、大まかな基本原則は、本当に話し合う必要があるときです。
- テレワークに移行する前はその時間が「通勤中だったはず」という理由で、8 時半にミーティングの予定を入れるのはやめましょう。EIU との共同調査でも、通勤時間がなくなることは明るい希望であり、テレワークの醍醐味でもありました。また、離れた場所にいながら作業者のエンゲージメントを高める大きな要因でもあります。それを奪わないでください。
- チャットのダイレクト メッセージには、すぐに返信しなければとプレッシャーを感じる人が多いので、夜間や週末に同僚にダイレクト メッセージを送ることや @メンションすることは(よほどのことがない限り)やめましょう。
- ハンドル ネームにはあなたに関する情報があまり含まれていません。社内でよく知らない相手にメッセージを送る場合はその点を心に留めて、きちんと自己紹介をしましょう。自分がどのチームに属しているかを伝え、依頼の経緯を説明します。相手に社内名簿で自分を探させて、自分のことを理解してもらうのは絶対にやめましょう。
- チャットを始めようとして、伝えたい意見がいくつかある場合は、1 つずつ書いたメッセージをいくつも送信するのではなく、1 つのメッセージにまとめます。そうすれば相手は通知を 5 通受け取るのではなく、1 通だけで済みます。チャットにプレッシャーを感じる理由の 1 つは、この通知です。入力した 1 文 1 文がすべて新しい通知として表示されることになるからです。もし複数の同僚からの質問を処理しているときに、全員が少しずつメッセージを送ってきたら、ランチから戻ったときには膨大な数の通知が表示されることになり、それだけでストレスです。同僚のストレスを軽減するために、メッセージはまとめて送りましょう。
- 同様に、ドキュメントにフィードバックを残す際は、複数のコメントをまとめて送り、すべてのコメントが一度に届くようにします。そうすれば、相手はコメントを断片的に読むのではなく、まとめて一度に読めるため、あなたの意見全体を把握して対応することができます。コメントをまとめるには、1 つ書いても[投稿]をクリックしないでおきます。コメントをすべて書き終えるまで下書きのままにしておき、フィードバックを共有する準備ができたら、それぞれのコメントに戻って[投稿]をクリックしてください。その余分な手間には 15 秒ほど余計にかかるかもしれませんが、相手が思考を 1 日に何度も分断されることや、ドキュメントを何度も見に行くことはなくなります。また、自分のコメントを見直して、すべてのコメントが全体で意味が通じているか確かめ、必要なことをすべて伝えているかを確認する良い機会にもなります。
- Slack で記事やドキュメントへのリンクを送り、コメントを付け加えたい場合は、URL を別個のコメントとして貼り付けるのではなく、書いたコメントにリンクを追加するコマンドを使いましょう。[送信]を押したら、左の小さな[×]をクリックしてプレビュー表示をオフにします。書いた文にはリンクが付いたままですが、大きくて邪魔なプレビューは表示されなくなります。そうすれば、コメントを受け取る相手もスレッドの途中で巨大な表示に気を取られることもなく、すぐにコメントを読んで、リンクをクリックしてくれるでしょう。
- メールを流し読みできるようにします。できるだけ、太字のセクション見出しと箇条書きを使用してください。段落を長くすることは避けましょう。長いメールの場合は、冒頭に太字で要旨を追加します。テレワークをしていると、大量のメールを次々と処理する時間がこれまで以上に増えてきます。メールの量がすぐに減るとは思えませんが、少し情報アーキテクチャを工夫すれば、困ることも少なくなります。
- メールには必要な受信者のみを含めます。自分がいつも忙しいことをアピールするために、上司の上司を CC に入れるのは、貴重な時間を無駄にして皆をイライラさせるだけです。同様に、グループ スレッドで 1 人にしか関係のない返信をするときは、[全員に返信]をクリックしないようにすることが全員のためです。
- 話し合いが解決した場合や、質問に答えが出た場合は、ドキュメントのコメントを「解決」にします。そうすれば、無数のコメントに目を通して、注目すべきコメントを見つけ出すために精神的なエネルギーを使う必要がなくなり、ドキュメントに関わるすべての人の時間を節約できます。
- 印刷や郵送が必要になるものは送ってはいけません。受け取った人が自宅にプリンターを持っている確率は、せいぜい 2 人に 1 人です。
書類に署名が必要であれば、HelloSign などのサービスを使って電子署名することができます。森林も保護できます。
- お休みの日を尊重しましょう。相手が休暇中だとわかっている場合は、その人が戻るまで、メールの送信や通知が発生する操作をしないでください。特にパンデミックの間は、休暇を家で過ごす「ステイケーション」の場合も多いので、バリ島でパラセーリングをする休暇よりも、通知をチェックしないでおくのが難しいのではないでしょうか。同僚の息抜きを尊重し、本当に待てない場合以外は連絡しないでください。
先ほども言いましたが、メールのスケジューラを使えば、同僚が戻ってきたときに合わせてメッセージを送信できます。
3. 相手に注意を払い、自分の存在も主張する
テレワークでは、人をイライラさせないこと、時間を無駄にしないことがマナーです。しかしその裏返しとして、自分の存在を主張し、それを感じさせなければ、どこかへ簡単に消え去ってしまいかねません。オフィスでは、ウォーター クーラーを囲んだフレンドリーな笑顔や会議室で熱心に話を聞いてくれる態度を頼りに、チームワークを成功させるために絶対必要な信頼の絆を築くことができました。しかし、そのような非言語のサインや物理的な存在はデジタル ツールでは伝わりません。その埋め合わせとして、細心の注意を払い、同僚の思考プロセスに深く関与することで、自分の存在を感じさせることができます。
- Zoom 会議の弱点はアイコンタクトです。パソコンの画面に映った同僚の目は下を向いているように見えます。パソコンのカメラをまっすぐ見ると、アイコンタクトを取っているように見えますが、自分では相手の目がまったく見えません。それに、割り切ってずっとカメラを見つめているとしても、アイコンタクトが途切れないのは不自然で不気味です。現在の技術を前提にした唯一の解決策は、同僚と黙ってアイ ダンスをしてみることです。カメラと画面を交互に見るという動作をそれぞれが繰り返すのです。もしうまくいけば、対面での心地よい会話の中で自然に発生するアイコンタクトや共感を示すジェスチャーのような、一種の「同時性」を生み出せるかもしれません。うまくいかなかったとしても、「Zoom 会議とはそんなもの」として慣れていくでしょう。
- モニターが 2 台あるのは素晴らしいことですが、ミーティング中に別の作業をしようとする場合は、カメラのある画面でドキュメントを開くのがマナーです。そうすれば、他の人にはあなたが斜め 45 度先に注目しているのではなく、注意して話を聞いているように見えます。視線が斜めになるのは、他の場所に注意が向いていることを全員に知らせるようなものです。
- ミーティングはさまざまな人が参加できるものにします。特に、あなたが主催者または上司である場合はそう配慮してください。あまり発言しない人の意見も聞きましょう。誰もが慣れないビデオ会議を克服していかなければならないため、こうすることで、会話に割り込める余地をさらに生み出すことができます。
- 話していないときは音声をミュートにしておきます。全社員の前でうっかり愛犬に話しかけてしまう事態は避けましょう。
- 大げさに反応してください。ビデオ会議でボディ ランゲージを伝えるには、仕草を大きくする必要があります。うなずきやあいづちを誇張するか、親指を立てるだけでも、話を聞いていることや相手の主張に同意したことが伝わります。
- 一部のプラットフォームでは、特定の人に向けられていないコメントがドキュメントの所有者にしか見えません。ドキュメントにフィードバックを残すときは、この点に注意してください。ドキュメントの中で所有者ではない共同編集者にコメントしたい場合は、@メンションが必要になるかもしれません。これを忘れると、追加したコメントが忘却の彼方に消え去ってしまう可能性があります。念のため、コメントする際には @メンションする習慣をつけるとよいでしょう。
- 自分の書きたいことはすべて書いたと相手に伝えると、相手が進捗を把握でき、まだ続きがあるのかどうか迷わなくても済みます。オフィスなら相手のデスクまで行って「完了しました、どうぞ」と伝えることが、テレワークでも必要です。
今はまだ、テレワークが主流になり始めたばかりの時期です。ゆくゆくは、ここで取り上げたヒューマン エラーのいくつかは新しいテクノロジーが極力防いでくれるかもしれません。土曜日の午後 8 時に緊急ではない Slack メッセージを受信していたことも、電話で相手が「アホイ」と叫んでいた話と同じぐらい奇妙に思えるでしょう。そんな日がくるまで、今後もテレワークのマナーをしっかり守っていきましょう。