業務改善という言葉よく聞くものの、そもそも業務改善とは何か?業務改善をするとどんなメリットがあるの?今すぐ始めるには何から手を付けるべき?など、業務改善に対するさまざまな疑問をお持ちではないでしょうか。
企業の規模が大きくなり、社歴が長くなるほど組織は硬直化しやすく、それが企業活動の弊害になることがあります。それを改革するための手法が業務改善ですが、そこに唯一無二のセオリーや正解があるわけではなく、それゆえに「分かったようで分かりにくい」という印象を受けがちです。
そこで、業務改善といったい何かという概要と業務改善を構成する視点や要素、対象などを理解していただいた上で、実際に業務改善案を作成する方法をステップごとに解説します。業務改善提案書や報告書を作成するのに便利なテンプレート、そして最後にはありがちな失敗例をもとにした「失敗しないためのチェックリスト」もありますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. 業務改善で会社はこんなに変わる
2. 業務改善の進め方 4 つのステップ
3. 業務改善に必要な書類の書き方
4. 業務改善に失敗しがちな 5 つのチェックリスト
5. まとめ
1. 業務改善で会社はこんなに変わる
1-1. 業務改善とは
業務改善とは文字通り業務を改善することですが、これを説明するには業務とは何かという定義を押さえておく必要があります。ここでいう業務とは、経営資源を使って価値を生み出すことを意味します。その価値が売り上げとなり企業活動を支えるので、業務とは企業活動の根幹です。
つまり、業務改善とは企業活動の根幹を成しているすべての行動が対象になっており、よく言われるコスト削減や意識改革などは業務改善という大きな枠組みの中にある個々の手段です。
すべての行動が対象になっているということは、業務改善の成果も全社的なものになり、企業風土や伝統によってなかなか改善できない部分の抜本的な改革も期待できます。
1-2. 業務改善が必要な理由
日々の業務を遂行していく上で、現在のやり方が完成形であると言い切れる企業や職場は皆無でしょう。問題に気づいているか否かにかかわらず、何らかの問題や課題を常に抱えながら業務は繰り返されていきます。
生産性の低下やミスの増加、長時間労働の常態化、スキルが属人的で組織で共有されていない、ムダな仕事が多い・・・などなど、少し考えただけでも多くの職場に横たわる問題は枚挙にいとまがありません。
これら個々の問題に対症療法的な改善を施したとしても、やはりそれは対症療法であり、根本的な解決には至りません。そこで全社的に業務の進め方やあり方などを徹底的に洗い直して有効性のある改善を行っていく必要が出てくるわけですが、それを業務改善といいます。
問題が再び繰り返されることのないよう、問題を根本的に解決したいと願う企業や職場がある限り、業務改善のニーズがなくなることはありません。
1-3. 業務改善によって得られるメリット
業務改善は組織全体の業務を改善する取り組みなので、それを達成するとメリットは全社的な範囲に及びます。主なメリットを挙げてみると、以下のようになります。
- コスト削減
- 効率、能率アップ
- モチベーションの向上
- 社内改革、近代化
- 上記の結果として企業価値が向上
簡単に思いつくだけでもこれだけあるので、もっと深堀りしていくとさらに色々と出てくると思います。
個別の問題を改善するだけだとメリットもその個別の問題に限定されます。例えば、光熱費にムダが目立つという懸案を改善した場合に得られる光熱費の削減効果といった具合です。
しかし、全社的な取り組みである業務改善では効果の範囲がとても大きく、またそれぞれが相乗効果を生み出してさらに大きなメリットを得ることもできます。
1-4. 業務改善の 3 要素、QCD とは
業務改善には、3 つの大きな要素として QCD を意識すべきというセオリーがあります。この QCD というのは 3 つの要素を表す言葉の頭文字で、それぞれは以下のような意味を持っています。
- Q = Quality 品質
- C = Cost コスト
- D = Delivery 納期、時間など
これらを総合すると、高い品質とコストダウン、そして納期短縮が達成されることが業務改善の理想と読み取れます。実際にはそれぞれが相反する要素なので同時にすべてを完全達成することは困難ですが、いかにそれに近づけていくかが業務改善の目指すところです。
業務改善の提案を行う際には、この QCD という 3 つの要素を満たしているか、QCD それぞれに対するアプローチが揃っているかを検証することが求められるでしょう。
1-5. 業務改善の 3 対象とは
業務改善の 3 要素である QCD に続いて、今度は何を改善するのかという 3 つの対象について考えてみましょう。業務を構成する 3 要素が対象となり、それを言葉にすると「ヒト、モノ、コト」となります。
それぞれが意味するところは、以下の通りです。
- ヒト = モチベーション、人的資源、能力など
- モノ = 設備、段取り、作業工程、ワークフローなど
- コト = 手順、企画、取り決めやルールなど
この 3 つの対象に潜んでいる問題を洗い出して、そこに有効な解決策を打ち出していくのが有効性のある業務改善となります。
1-6. 業務改善は意識改革にあらず
業務改善というと社員の意識改革というイメージが強く、何かスローガンや標語のようなものを作って職場に掲げることで対策としている事例が古くから見られます。
しかし、ここまで業務改善に対する解説をお読みなると、それは業務改善の一部に過ぎない(上記の分類ではヒトに対する改善)ことがお分かりいただけると思います。
この認識を持っておかないと業務改善が精神論に終始してしまう可能性もあるので、しっかりと留意しておきたいところです。
1-7. では、何か始めるべきか
これから業務改善策の立案から始めるという場合、それでは何か始めればよいのでしょうか。目の前にある作業の第一歩として、まず取り組むべきは情報収集です。現場に関わる人からのヒアリングはもちろん、そこで起きている問題の羅列と原因究明、分析という作業から業務改善は始まります。
この情報収集を含む、業務改善の 4 ステップについて、次章で詳しく解説します。
2. 業務改善の進め方 4 つのステップ
2-1. 問題点の洗い出し
先述のように、業務改善は「何を改善するべきか」というターゲットを特定するために入念な情報収集を行うことから始まります。この際なので、ネガティブなことであっても膿を出し切るつもりで問題点を徹底的に洗い出してください。
そのときに、まずは直感的に「どうすれば解決するのか」という初期段階での答えを出しながら洗い出しをしていくと、その後の作業がスムーズになります。
例えば、「タスクの量に対して人が足りていない」という声が上がってきた場合、それを解決するのに人を増やせば本当に解決するのか?他に IT を活用するなどの方法はないか?という検討をしながら洗い出しをしていくと、より落としどころに近い答えを出しやすくなります。
こうした問題点の分析や特定には、特性要因図(フィッシュボーン図)を活用するユニークな手法があります。「10 分で理解できる特性要因図|書き方から原因を特定する方法まで」で詳しく解説していますので、興味のある方はそちらもぜひお読みください。
2-2. 改善案を提案
情報収集と分析の結果、導き出された問題点に対する改善案を立案します。それをまとめたものは、提案書という形で正式に提案をします。
提案書の内容をまとめていく際に重要なのが、その提案に対する裏付けと実現性です。数値など客観的なデータなどによって問題点と解決案が裏付けられていることは提案に説得力を持たせますし、そこで提案されている解決案に実現性があれば、採用される可能性は高くなります。
先ほど 2-1 で初期段階で解決策を考えながら問題の洗い出しをすることをおすすめしましたが、それは提案の段階で実現性のある選択肢を導く土壌になるからです。
2-3. 改善策を実施
3 段階目では、提案した改善案が実施されます。ここでチェックするべきことは、提案通りに実施されているか、その実施にあたって起きている問題点はないかという検証です。
特に、ヒト・モノ・コトという 3 つの対象のうちモノについては設備を新しくすることなど効果が目に見えやすいのですが、ヒトとコトというのはどちらも人間の活動によるものなので見えづらい部分が出てきます。
実施段階では、特にヒトとコトについて改善案がちゃんと実施されているか、現場に浸透しているかという点に注目すると次なる問題点が見えやすくなります。
2-4. 評価、今後への検討
一定期間にわたって改善案を実施してみた結果、どんな成果が得られたのかを評価、検証します。ここで何か足りなかったこと、次の改善策に盛り込みたいことなどをしっかり洗い出しておくと、今後につながる取り組みとなります。
2-5. 大切なのは、繰り返すこと
ここまで 4 つのステップにおいて業務改善のフローを解説しましたが、これを見ていると PDCA サイクルと言っていることが似ているとお気づきではないでしょうか。
それはまさに正解で、業務改善は PDCA サイクルとほぼ同じことをしています。PDCA サイクルは一周した上で新たな課題を与えて次のサイクルを回すということを繰り返すと問題が解決していくわけですが、業務改善においてもこの PDCA サイクルをいかに何周も回すかが重要です。
一度ですべての問題を解決しようとはせず、少し改善したら次のサイクルという具合に何度も回し続けることによって徐々に業務改善という大きな目標が達成されていきます。
一度にすべてを解決しようとすると人は負担を感じ、未達だったときにモチベーションが低下します。少し手を伸ばせば届くというレベルの目標設定をして、それを達成するという成功体験を繰り返すことで、最終的な大きな目標達成が可能になるのです。
3. 業務改善に必要な書類の書き方
3-1. 業務改善提案書
3-1-1. 提案書の書き方
業務改善の道筋をまとめる提案書は、その名の通りあくまでも提案をするための書類です。第 2 章で述べた業務改善の 4 ステップの中では、1 番目と 2 番目のプロセスです。
現状の分析をした結果、出てきた問題点の指摘をした上で、それをどうやって改善するのかを提案することでロジックが完成します。これを書面にまとめるには、以下の項目を順番通りに記載する必要があります。
- 洗い出された問題点の指摘
- 改善策の提案
- 改善策の実施に必要なもの、コスト
- 改善策実施におけるスケジュールや考えられる問題など
必要な項目が揃っていることと同じだけ重要なのが、順序です。上記の順序でロジックを展開していくことで提案書を読んだ側は問題意識と、それを解決する方法を共有します。
これを提案書に反映すると、おおむね以下のような体裁になります。
3-1-2. 無料で使える提案書のテンプレート
Word で使える業務改善に特化した提案書のテンプレートです。必要事項はすでに欄が設けられているので、あとはそこにないようを記述するだけなのでとても簡単です。また、Word 書類なので自分でカスタマイズして強調したい欄を大きくするなどの応用もできそうです。
3-2. 業務改善報告書
3-2-1. 報告書の書き方
業務改善の提案をして、それを実施した結果がどうなったのかという報告に用いられるのが業務改善報告書です。業務改善は PDCA サイクルのように何度も回す必要があると述べましたが、次のサイクルをより有効にするためにも正確な情報と見解を盛り込んだ報告書を作成したいものです。
ここで必要になる情報は、以下の通りです。
- 洗い出した問題点と、提案に至った経緯
- 実施するに至った提案内容
- 提案内容の実施による期待効果
- 実施してみた結果、検証
- 結果を踏まえた見解と次への課題点
4 つある業務改善のステップのうち、後半の 2 つを報告することが主な役割です。特に重要なのは期待されていた効果と実際どうだったのかという比較、そこから得られた見解です。このロジックに整合性が取られていることで報告書の説得力が増し、次回の改善案実施に向けた環境が作られていきます。
3-2-2. 無料で使える報告書のテンプレート
提案書でもご紹介した、bizocean による報告書のテンプレートです。業務改善提案に対する報告書なので使用目的にとても近く、報告書の作成に役立つと思います。
4. 業務改善に失敗しがちな 5 つのチェックリスト
業務改善は成功すると大きな成果を得ることができますが、失敗することが多いのも事実です。業務改善で失敗しがちな 5 項目をチェックリストにまとめたので、このリストに該当していないかをチェックしてみてください。
4-1. 業務改善という仕事が増えていないか
業務改善を行うには、そのための作業が新たに発生します。その結果として大幅な省力化などが得られるのであれば問題ありませんが、とかく業務改善という新たな仕事が増えるだけで効果が見られないというケースが見られます。
会議のための会議、書類のための書類が発生しているようでは、業務改善どころか逆効果だと言わざるを得ません。
業務改善に取り組むのであれば明確にゴールを設定し、そのメリットを全員が実感できるものでなければ意味がありません。
4-2. 掛け声だけで終わってしまっていないか
可能な限り見える化をしても、業務改善というのは目標や効果が目に見えにくいものが多く、受け手側が漠然としたイメージのまま取り組むということも多々あります。
この状態で陥りやすいのが、必要性や意義を共有できていないままに始めてしまうことによってなし崩しに骨抜きとなってしまうことです。業務改善を提案した人、それを担当する人や部署だけが音頭を取ったとしても、それが全社的な目標意識につながらず、結局何のための業務改善なのか伝わらないままモチベーションが低下してしまうというのは、実によくあります。
掛け声を掛けることが仕事ではなく、それを実施して効果を検証することまでが仕事だという意識を持ちましょう。
4-3. 流行に乗ってしまっていないか
省力化やオートメーション化、見える化などを支援するのは、いわゆるソリューションサービスを提供している会社にとっては「飯のタネ」です。IT を活用したツールや業務システム、社内の業務を改革していくソリューションパッケージなどが次々と登場し、一種の流行りのようになることがあります。
この流行に乗らないと時代に取り残されるという危機感を煽るようなセールストークもあるので、ついつい流行に乗ってしまいたくもなりますが、本当にそれが必要なのか、自社の業務改善に資するものなのかを冷静かつ客観的に見極めた上で導入をするべきです。
流行っているからという理由だけで乗っかるのは、とても失敗しやすいパターンです。
4-4. 業務改善が目的になってしまっていないか
業務改善の失敗例に最もよく見られるのが、目的と手段の混同です。業務改善の目的は、この記事の冒頭でも述べた通りです。コスト削減やミスの防止、効率化など個々の目標が達成され、最終的には組織力の強化や企業価値の向上といった大きな目標の達成を目指すのが業務改善です。
業務改善案を作成することや告知することは手段であって、目的ではありません。業務改善を任された部署にとってはそれが仕事なのでついつい目的と混同しがちですが、この混同によって業務改善の取り組みが掛け声だけで終わってしまったり、余計な仕事が増えるだけという評価だけを残してなし崩しになってしまったりするのです。
業務改善案が実施されるようになってからが本当の仕事、という認識でもちょうどよいのではないでしょうか。
4-5. 改善点を見誤っていないか
最初にある問題点の洗い出しや分析が正確でないと、その後の改善案や実施する取り組みにおいても有効性が薄れてしまいます。
新しい会計システムの導入によってそれを使いこなすための体制づくりが必要になっているのに、経理のベテランであるものの新しい会計システムには精通していない人を採用・配置しても意味はありません。「経理部門で人材が足りない」というだけの問題分析だと正確とは言えず、「新しい会計システムを扱える人材が足りない」というところまで掘り下げなかったゆえに起きる失敗と言えるでしょう。
何が問題なのか、それをどうすれば解決するのかという分析に必要な要素は第 1 章で詳しく解説していますので、最初のところで見誤ってしまわないようにしましょう。
5. まとめ
業務改善という言葉だけが独り歩きをしてしまい、結局は本質的な解決には至らなかったというのは、多くの企業で見られる「あるある」ではないでしょうか。その失敗の原因を特定することも含めて、業務改善で大切なのは問題点の徹底した洗い出しと正確な特定です。そのために QCD という視点や、「ヒト・モノ・コト」などの要素を解説してきました。順序通りにやれば決して難しいことではなく、より精度の高い改善案を立案し、効果の見える改善策を実施することができるでしょう。
業務改善の成功によるメリットの大きさは、数々の有名企業が自社の取り組みで証明しています。その恩恵を享受するのに企業規模の大小は関係ありません。
まずは、この記事にもある最初のステップ(情報収集と分析)から始めて、実りのある業務改善がもたらすメリットを実感していただければ幸いです。