テクノロジーの発展や新型コロナウイルスの感染拡大により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。その潮流に追随し、企業が継続的に成長していくためには、時代に合わせた経営変革が不可欠です。そこで重要となるのが、企業のあり方に変革をもたらす「チェンジマネジメント」の考え方です。チェンジマネジメントの概要や実現するためのポイントについて解説します。
チェンジマネジメントとは?
チェンジマネジメントとは、トップダウンで変革計画を作り、チームメンバーを巻き込みながら大規模な組織変革を推進するマネジメント手法です。欧米では組織変革を実施する際に利用されるなど、一般的なマネジメント手法として浸透しています。
チェンジマネジメントは、心理学や経営学の裏付けがある科学的手法で、心理的抵抗や一時的な組織力の落ち込みを和らげ、組織があるべき姿へとスムーズに変化するのを手助けします。
チェンジマネジメントと組織開発の違い
チェンジマネジメントに類似した取り組みに、組織開発があります。どちらもプロセスに働きかけるものですが、チェンジマネジメントは成果や経済的な価値に重きを置き、組織としての成功を重視するのに対して、組織開発はあくまでプロセスを重視し、社員の人間的な価値にアプローチして組織を開発するという違いがあります。
変革を推進する際のマネジメントスタイルも異なります。チェンジマネジメントでは少数派の人たちを中心に推進することが一般的で、組織開発では当事者が主体となって進められます。
チェンジマネジメントの必要性
なぜ今、変革が必要なのでしょうか。一言で表現すれば、VUCAの時代だからです。VUCAとは、Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確実さ)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字からなる造語です。
技術の進歩によってビジネススピードが劇的に速くなるとともに、従来の業界定義も様変わりしました。時代を重ねるごとにSDGsやESGといった新しい価値観や枠組みも生まれており、環境や人道的配慮などに対応しなければ市場から排除されかねません。変化の激しい時代で生き残るには、変化に対応した組織、あるいは変化できる柔軟な組織であることが必須なのです。
ではなぜ、チェンジマネジメントが必要なのでしょうか。変革の最中は組織や従業員が混乱し、パフォーマンスが一時的に低下します。それでも、ビジネスの継続的な成長を見据えれば、先延ばしすることなく組織を変化させなければなりません。このときチェンジマネジメントを取り入れることによって、パフォーマンスの低下を極力抑えつつ、変革の成功率を上昇させることができます。
変革に関して特に注目されているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。ゲームチェンジに対応して競争力を維持・強化するためには、早急にDXに取り組まなければなりません。DXではITツールの導入やシステム刷新も必要ですが、組織も含めた変革を伴うものです。
経済産業省では、デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)を取りまとめ、2019年7 月に『「DX 推進指標」とそのガイダンス』を公表しています。その中では、「日本企業がDXを推進する上での課題の一つがチェンジマネジメントである。カルチャーの違うデジタル人材が弾き飛ばされることや、逆に既存事業を殺してしまう(コア事業の人が辞めていく)ことを避けるため、会社としての戦略を経営者が全社員に説明したり、まずは別会社にしたりするなど、異なるカルチャーを受け入れていくためのマネジメントが重要である。」と言及しています。
チェンジマネジメントの進め方
チェンジマネジメントの有名なフレームワークに、ハーバード大学ビジネススクール名誉教授のジョン・コッター氏による「変革の8段階のプロセス」があります。コッター氏が企業変革の事例を研究した結果、8つの「つまずきの石」を発見し、それらを乗り越えるために提唱したものです。この8段階のプロセスは第1段階から順に進め、途中のプロセスを飛ばさないことが重要だと言います。
1.危機意識を高める
まずは、現状が差し迫った危機にさらされていることを明確にします。危機意識がなければ、変革の必要性が感じられず、変化に対して社員が反発する可能性があります。コッター氏によると、変革に失敗する企業の半数がこのステップで失敗をしているそうです。
2. 変革推進のための連帯チームを築く
チェンジマネジメントはトップダウンでの指揮が必要ではあるものの、経営者1人だけでは変革が困難であり、経営陣や変革の専門家を集めたチームが必要になります。変革推進チームのメンバーには、社内から能力のある人や影響力のある人を集めましょう。具体的には、変革の主導に必要となるスキル、人脈、信頼、評判、権限がある人物が望ましいとされています。
3.ビジョンと戦略を生み出す
第1ステップが「負の動機づけ」であったのに対し、第3ステップは「正の動機づけ」を行うためのもので、将来のあるべき姿を示します。ただし、大きすぎるビジョンでは実践に結びつけにくいため気をつけましょう。
コッター氏は、優れたビジョンに備わる特徴を6つ挙げています。
・目に見えやすい
・実現が待望される
・実現可能である
・方向を示す
・柔軟である
・コミュニケートしやすい
4.変革のためのビジョンを周知徹底する
ビジョンを全従業員に周知します。ただ広めるだけではなく、上記の6つの特徴を交えながら、あらゆる手段を使って繰り返し伝えることで、理解を深めることが重要です。
5.従業員の自発を促す
第4段階まではメンバーへの意識づけが中心ですが、第5段階からは実行に移っていきます。社員が自発的に行動しやすいように、ビジョンを実際の行動に落とし込みます。まずは具体的な行動をリストアップして周知します。次に、ビジョンに向けた行動が評価・称賛・承認されるように制度を整備します。そして、推進者が手本となる行動を示すのです。
6.短期的成果を実現する
小さなことから成果を出し、成功体験を積み重ねることで、メンバーの変革に向けたモチベーションを高めていきます。そのためには、短期で達成可能な目標を設定するようにします。目標達成に対して報酬を与えることも大切です。
7.成果を生かして、さらなる変革を推進する
短期的な成果で勢いがついたら、変革のビジョンに沿わない制度や構造などの変革に着手します。このタイミングでインフラ面の変革や、変革推進に欠かせない人材の採用や教育も実施します。
8.新しい方法を企業文化に定着させる
最終段階では、新たな企業文化と言えるところまで変革を定着させます。そのためには、変革の実績を示すとともに、有効だった手段を周知します。また、後継者や新リーダーの育成を実施することも、変革の定着に寄与する取り組みです。
まとめ
チェンジマネジメントには、VUCAの時代を企業が生き抜いていくためのヒントが盛り込まれています。第一歩として、自社の組織に当てはめ、自分事として考えてみてはいかがでしょうか。
コッター氏が提唱する「変革の8段階のプロセス」を見ていくと、ディスカッション、周知や共有を必要とする場面が少なくありません。マネジメントが明確にビジョンを描き、それを明確に伝え、スタッフの納得や共感を得るための一助となるのがITソリューションの導入です。
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