小さく考えることが意外と大事? ー 大企業が社員目線で考えるべき理由とは

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イラスト Fanny Luor

職場におけるテクノロジー導入が急速に進む中、「テクノロジーの使用で、人(社員)の声が会社に届きにくくなっているのではないか」と思う方がいるかもしれません。しかし現実には、職場の文化はますます人間中心へと変わってきているのが実情です。ある調査によると、ミレニアル世代の半数が、自分の価値観にあった仕事なら賃金が減ってもかまわないと回答(リンク先:英語)しています。

「AI に仕事を奪われる!」といったセンセーショナルな主張が飛び交う中、コンサルティング会社のデロイトは、現代で最も成長著しいキャリアには人間的なスキルが欠かせないとしています。これまでは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Math(数学)の頭文字を取った STEM のスキルが重視されてきましたが、これからはここに Art(芸術)の Aを追加した STEAM (リンク先:英語)が重要になるとしています。スマートな企業はこうしたトレンドに対応しようと動き始めています。よりカスタマー フレンドリーな技術へと移行を進めながら、従来型の官僚的な組織をやめて小規模なチーム編成に切り替えつつあるのです。ポイントとなるのは、「大企業的な考え方を見直して、個人としての考え方を重視すること」です。

働き方は社員が選ぶ時代に

これまで、大企業は使用するツールをトップダウン方式で決めてきました。新しいツールやソフトウェアを導入する判断は IT マネージャーが下し、社員は、たとえどんなに難解で複雑なツールでもその使い方を覚える以外にありませんでした。企業の視点から見れば、これは理にかなった方法といえます。仕事に必要なツールを導入する方法としては、これが最も低コストだからです。

しかしこのようなアプローチは非効率であることが、次第に明らかになってきています。現代の労働者は、かつてないほど多様なツール、技術、ソフトウェア(リンク先:英語)を使いこなしています。その結果、社員は、企業が用意したソリューションではなく、さまざまなツールを比較検討した上で自分が選んだソリューションを使い始めるケースが少なくありません。上層部は全社員に同じプラットフォームを使わせたがり、社員はそれに抵抗し続ける、という構図です。

メアリー・ミーカー氏は、2018 年版のインターネット トレンド レポート(リンク先:英語)でこの点について詳しく述べています。同氏はレポートの中で、近年急激にシェアを伸ばしているエンタープライズ ソフトウェアは、「コンシューマ ファースト」の理念を持っていると指摘しています。たとえば、Slack がその直感的なルック&フィールでまず個人ユーザーを獲得し、その後大企業のユーザーを増やしていった経緯に触れています。Slack を導入した企業では、社員が望むとおりに仕事を進められるようになり、メールを 32 %、会議を 23 % も減らすことに成功しています。また Slack の有料ユーザーは、この 3 年間で着実に増加しており、現在ではユーザー全体の 30 % に達しています。

同様に、Dropbox がそのユーザー フレンドリーな理念によって、多くの企業ユーザーを獲得した背景についても言及されています。多くの社員は、個人的な必要性から Dropbox を使い始めた後、職場でも同僚とのファイル共有に利用するようになりました。ミーカー氏によると、Dropbox を導入した大企業では IT サポートにかかる時間を 31 % も削減できています。ドキュメント管理に費やす時間は年間で 3,700 時間も減り、部署を超えて編成されるチームに所属する社員の数は 6 倍にも増えました。これは、全社規模のコラボレーションが大きく前進した証といえるものです。SlackDropbox のいずれも、社員がその使いやすさを主張し、企業側がその意見に耳を傾けるという形で導入が広がりました。

誰もが意見を言える環境を

社員が好きなツールを使えるようにすることは、あくまでも改革の第一歩です。同時に、立場の上下やチームの枠を超えて影響し合えるような環境も求められています。これを受けてより先進的な企業は、社員が充実感のある有意義な仕事をすぐに見つけられるようにするための組織的アプローチを模索しています。

こうした問いに対して、「よりフラットでよりつながりの強いチーム」という答えにたどり着く企業が増えています。デロイトヒューマン キャピタル トレンド 2017(リンク先:英語)のレポートで、好業績を上げている企業はこのモデルへとより早く移行していると指摘しています。スマートな企業は、縦割りに階層化された組織を根本的に効率化することを目指すのではなく、複数の分野で横断的に活躍できる、小さくかつ柔軟性の高いチーム編成を目指しているというのです。こうした新しいモデルでは、優秀な人材がプロジェクトを渡り歩きながら、継続的に新しいスキルを磨きつつ、常にコミットし続けられるようになります。

組織をフラットにすることには、新入社員がすぐに会社に貢献できるようになるという利点もあります。難しい問題に対して上層部から良いアイデアが出ない場合でも、組織のさまざまな場所から画期的な解決策が提案されるようになります。個人にとっても魅力的な組織理念ですが、企業自体にとってもメリットがあるのです。

テクノロジーが進化を続ける中、新しい方法で変化を乗り切ろうとする企業は今後ますます増えていくと考えられます。継続的なイノベーションによって生まれたトレンドは、しばらく続くこともあれば、すぐに別のトレンドへと変容することもあります。しかし次の波がどのタイミングで来るとしても、その波は「企業」ではなく「個人」から生まれることになるはずです。