あなたがたとえば、何日も何週間も、あるいは何か月もかけてアイデアを練り上げ、ようやくクライアントや上司に「最高だ」と思う作品を提出したとします。しかし待っていたのは、創造力あふれる作品を褒め称える言葉ではなく、腹立たしい反応でした。「使えない」の一言だったり、あれこれと細かい変更点を並べ立てた膨大なリストが送られてきたり、あるいは「もっとイイ感じに仕上げられる?」という、つかみ所のない指示かもしれません。いずれにせよあなたは最悪のフィードバックをもらって、腹立たしいやらガックリくるやら。
どの業界で働く人も、こうした好ましくない指示や意見を耳にしたことがあるでしょう。今回はそんな皆さんに朗報です。役に立たない困るコメントから建設的な批評を引き出したり、さらには悪いフィードバック自体が生まれないようにする方法をいくつかご紹介します。
1. クリエイティブの制作プロセスについて説明する
クリエイティブなプロセスは、一筋縄ではいきません。いくつもの試作があり、訂正を重ね、紆余曲折しながら進めていきます。しかし、仕上がりをチェックする人たちの多くは、そこに至るまでの数々の微調整を理解していません。そこで、プロジェクトの開始前に、プロセスの全体像を説明しておくとよいでしょう。何回ほどのチェック工程を想定しているのか、どの段階でどのような内容のチェックを行うのかなどを詳しく説明してください。
しっかりと説明しておかないと、初期段階のおおざっぱな草稿、完成度の低い試作品、概念的なスケッチを見てクライアントが心配になるかもしれません。初期段階の作品は、最終成果物を生み出すための大事なステップなのだということを理解してもらいましょう。この時点の作品は未確定な部分が多いので、細部を磨き上げるのではなく、中心に据える基本的なアイデアを固める段階です。プロジェクトが進む中で、早い段階で確定する要素(レイアウトなど)と、後からでもプロジェクトの大枠を変えずに変更できる部分(フォントなど)を伝えていきます。締め切り間近に予期せぬ大修正が発生することは、どの関係者も望んでいません。
2. 早い段階から、そして頻繁に、フィードバックを求める
過去にクライアントから激しい批判を受けた人が、フィードバックに怯えてしまう気持ちはよくわかります。しかし、細部を詰める前に作品を見せておくことは重要です。事前にしっかりと打ち合わせをした場合でも、誤解が生じることは珍しくありません。最後の段階まで作品を見せずにおいた場合、自分では要件に従ってカットしたつもりの最高のダイヤモンドが、相手にとっては炭素の塊だったということが起こり得ます。
ムードボード、ワイヤーフレーム、未完成の作品を見せて定期的に意見を聞くことで、この種の誤解は避けることができます。クライアントや同僚には直感的な反応を求めるのではなく、十分な時間を用意してよく練ったフィードバックを返してもらえるようにします。その場で意見を求めると、心にもないきつい言葉になったり、事前に合意していた目標とはかけ離れた意見が出るかもしれません。フィードバックをもらったら、それを基に自分のビジョンに微調整を加えていき、相手のイメージと自分のイメージが重なるまでこの作業を続けます。
途中の段階でも相手から意見を聞くことで、相手もクリエイティブなプロセスに関わっているのだという実感がわき、最終成果物に対しても「自分の作品」という意識が生まれます。クライアントや上司が「自分の意見が作品に反映された」と感じていれば、最終版を承認せずに差し戻す可能性は低くなります。
3. 有益なフィードバックがどのようなものかを説明する
適切なフィードバックのやり取りを妨げている、一番の要因は何でしょうか?それは、多くの人が良いフィードバックの伝え方を知らないということです。クリエイティブな仕事をしていないクライアントや同僚は、「クリエイティブな批評」について経験が乏しいのかもしれません。また、プロセス全体を見て圧倒されてしまったという可能性も大いにあります。最初のドラフト版を相手に見せる前に、有用なフィードバックとは何かを説明しておくとよいでしょう。
- 個人的な好みを除外してもらう。
フィードバックとは常に、プロジェクトの目標を踏まえたものであり、ターゲット層のニーズに応えるものでなければなりません。 - 明確で具体的なフィードバックを心がけてもらう。
即興劇やブレインストーミングに向いている接続詞は「And(そして)」ですが、有用なフィードバックを作る上で鍵となる言葉は、「Because(その理由は)」です。クライアントや同僚に、好き嫌いの表明はスタート ラインだということを伝えてください。好き嫌いの次に、なぜ好きなのか、なぜ嫌いなのか、その理由を続ける必要があります。たとえば、「このブログ記事はいいと思います。その理由は、お願いしていた会話調のトーンで統一されているからです」といった具合です。 - 修正方法ではなく、問題点を指摘してもらう。
クライアントの中には、まるでデザイナーや編集者になったつもりで、自分で作品に手を入れたくなる人がいます。それが作品のためになると考えているのかもしれません。クライアントの提案を恐る恐る却下しなければならない状況に陥る前に、あらかじめ問題点の指摘が重要であることを伝えておけば、一緒に協力して解決方法を考えられるようになります。 - これは対話のプロセスだと伝えて安心させる。
コメントは言語的に完璧である必要はありません。専門用語が間違っていてもかまわないのです。もしクライアントが、デザイナーや編集者が選んだ案を理解できない場合は、ぜひ考えを説明したいと伝えてください。相手が互いに質問を交わしたいと思っているなら、一緒に誤解を解いて共通の理解にたどり着けるはずです。
4. 質問する
小さな子どもが大好きな言葉、「なんで?」を武器にしましょう。どういったフィードバックが必要なのかを詳しく説明したにもかかわらず、「この配色は嫌だ」とか、「ロゴを大きくしろ」といったコメントをもらうかもしれません。ここで神経を尖らせたり、作品をダメにするような意見に「イエス」と答えてはいけません。深呼吸して、魔法の言葉を投げかけましょう。「その理由について、詳しくお聞かせください」と尋ねるのです。配色が競合他社と似ているのかもしれません。マーケティング コピーに押されて、ロゴが目立たないのかもしれません。腹立たしいフィードバックには素朴な好奇心を持って返すことで、クライアントからのコメントの裏にある本当の懸念点を見つけ出すことができます。
また、「プレミアム感が足りない」とか「もっと楽しげなサンドイッチがいい」(いずれも本当にあったクライアント フィードバック事例(英語)より)といった、曖昧でつかみ所のないコメントをもらうこともあります。この場合も、質問を投げかけてその真意を探ります。「プレミアム感とは、どういったものでしょうか?」、「どのようなものを楽しげと感じますか?」などと尋ねて、詳しい情報を引き出します。相手が言葉に詰まるようなら、イメージしているものの具体例を挙げてもらいます。
すでに説明したように、その分野の専門用語に詳しくない人に専門的な質問をすれば、意見を引き出すことができないかもしれません。クライアントが、「これは好きじゃない」という抽象的なコメントの後に言葉が続かない場合は、プロジェクトを小さな要素に分解してください。その上で、レイアウト、フォント、色、メッセージ、トーンなど、どの部分が気に入らないのかを突き止めます。それぞれの要素を説明していけば、プロジェクトを進めるための具体的なフィードバックが得やすくなります。
5. 自分のエゴはグッと抑える
試行錯誤を繰り返し、労力を費やしたプロジェクトから自分自身を切り離して考えるというのは、非常に難しいことかもしれません。しかし、「あなた」と「あなたの作品」は別物であることを意識しておくことは大切です。クライアントが「このコピーは退屈だ」とか「イラストがどぎつい」などと言っても、それはあなたのことを指しているのではありません。無駄な自己防衛にエネルギーを費やすのではなく、クライアント目線で物事を理解しようとすべきです。
クライアントはクリエイターとしての腕を見込んであなたに依頼しているわけですが、その業界やターゲットの顧客については彼らが専門家なのです。ここでも、好奇心を発揮して質問をしましょう。「退屈」と言ったのは、製品の詳しい技術解説にエンド ユーザーが興味を持たないという意味かもしれません。イラストが「どぎつい」と言ったのは、ターゲット層におとなしい人が多く、控えめな色の方が好まれるということかもしれません。クライアントの考えによく耳を傾け、どのような変更が必要なのかを見極めてください。あなたはサービスを提供する側です。どれだけ心を込めて制作に打ち込んでも、最終的な作品は他の誰でもなく、クライアントのためのものです。
それから、「悪いフィードバック」と「ネガティブなフィードバック」の違いについて覚えておくことも大切です。感情的になっているときにその違いに耳を傾けるのは難しいですよね(だからこそ、エゴを抑えることが大切なのですが)。たとえば「これは好きじゃない」や「とてもいい!」などは、悪いフィードバックの最たるものです。どちらも、あなたの作品に何が足りないのか、あるいはどこが良かったのかに言及していません。これに対し、ネガティブなフィードバックとは「このアニメーションは、私たちが表現したい厳粛なイメージを考えると、ふざけすぎです」といったコメントです。多少のトゲを感じるかもしれませんが、何をどうすれば理想に近づけるのかをきちんと説明しています。
最後に
まだ存在しないものを新たに生み出すことは、関係者全員にとって難しい仕事です。その専門分野の経験がない人にとってはなおさらです。誰もがうっかり失言してしまうことだってあります。誤解も割りと簡単に起こり得るものです。あなたの言葉がクライアントを失望させることもあるかもしれません。それでも十分な質問を重ね、しっかりと共感を示せば、ほとんどの人に有用なフィードバックの伝え方を理解してもらうことができます。そうしたフィードバックに対応すれば、相手のぼんやりとした要望から、感動を与える作品を仕上げることができるでしょう。