リモート ファーストの世界で、情報が自然に伝わる環境を再構築〜浸透型コミュニケーションの重要性とは〜

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コロナ禍の中での暮らしを一言で表そうとしても、良い言葉は見つからないかもしれません。では、「適応」という答えはどうでしょうか。

私たちはこの 1 年あまりの間、同僚と離れた場所で働くことや、プライベートと仕事が重なった生活を送ること、ほとんどあらゆるものについて自分の期待を妥協することに適応してきました。私たちは適応することで変わることができ、適応を通じて、変わるために必要な手段を見極め、それを作り上げることができます。しかし同時に、私たちが忘れているもの、置き去りにしているもの、ウィズ コロナにふさわしい方法が見つからなかったものにも目を向ける必要があります。職場環境の多くはオンライン化されましたが、対面の仕事ならではの、重要なのに見落とされがちな要素はオフラインのままとなっています。

オフィスでの雑談や給湯室での井戸端会議は、時間が経つにつれて入り混じり、「浸透型コミュニケーション」と呼ばれる効果を生み出します。特に、同僚についての些細な情報や人生の節目となる出来事については、自分でも気づかないうちに耳に入っているものです。こうした形のコミュニケーションは、実はチームの他のメンバーと最新情報を共有するために欠かせないものですが、私たちは、テレワーク環境でそれを再現する方法をまだ見つけられずにいます。このようなコミュニケーションが重要である理由をご説明しましょう。

表に出ないやり取りからの学び

「浸透型コミュニケーション(Osmotic Communication)」という言葉は、アジャイル ソフトウェア開発運動の立役者の 1 人であるアリスター・コックバーン氏が、2004 年に出版した「Crystal Clear: A Human-Powered Methodology for Small Teams」の中で提唱したものです。誰もが一度は経験したことのある現象、つまり、どうやって知ったのかわからないという瞬間を言葉にしたのです。

教室からオープンコンセプトのオフィスまで、私たちは、学習や情報共有の多くが物理的な共有空間で行われていることを当たり前のように思ってきました。浸透型コミュニケーションは、その名のとおり、植物が土から水を吸収するように、人間も作業をしながら情報を受動的に吸収できるという考え方です。

具体的にはどのようなことなのでしょうか。たとえば、あるオフィスで 4 人が一緒に仕事をしていて、そのうち 2 人が次のタスクの締め切りを違う日だと思っているとします。そこで 3 人目が信頼できる情報源を示して食い違いを正し、4 人目はそのやり取りに直接加わらずに、その情報をすべてそのまま吸収します。

これでそのグループでは、ミーティングで話題にしなくても全員に情報が伝わり、先ほどのプロジェクトの正確な締め切りが周知されました。また、今後そのような情報を知っている可能性が高いのは誰かを全員で把握しています。これと同じことを職場で交わされるあらゆる会話に当てはめて考えてみると、毎日同じ人と同じ場所で過ごすだけで、私たちは知らず知らずのうちに情報を吸収できるということがよくわかります。 この現象はオープンコンセプトのオフィスやキュービクル オフィスに限った話ではなく、ウォール街でも起きています。多くのトレーダーがリモートで仕事をするようになって初めて、トレーディング フロアで同僚の話を小耳に挟むことの大切さに気づいたのです。

スポーツや音楽に関する豆知識から、ポップ カルチャーの最新情報、さらには同僚の人生の節目となる出来事や家族行事のような個人情報まで、多くの有益な情報が意図して聞かなくても私たちの頭に入ってきます。そして今、テレワーク環境で働いている人々の多くが、その受動的な情報吸収に代わるものがないことに気づいたのです。

情報を釣り上げる

浸透型コミュニケーションの最大のメリットは、労力をそれほど必要としないことです。同じ空間に人がいれば、知識は分け隔てなくすぐに伝わるので、重要な情報はやがて必要な人の元に届くことになります。海の中で巨大な網を引いているようなもので、ゆくゆくはほとんどの人が情報の網にかかることになります。

オフィス ワークの多くの特徴と同様に、全員を一室に集めて問題を解決させるという考え方は、コロナ禍の中でその価値を問われ続けてきました。「普遍的」なコミュニケーションは「意図的」なコミュニケーションにその座を奪われました。テレワークの普及によって、仕事で誰かと同じ時を過ごすことや、同じ方法でコミュニケーションを取ることは少なくなったからです。広く網を張っても、もう誰も引っかかりません。私たちは広がりすぎています。

私たちの多くは、働く人々がいわば「リハビリをして歩けるようになる」のを同時進行で見守ってきました。会議やワークフローを 1 つの手段からインターネットに接続されたツールやプログラムの集合体に移したのです。その一方、既存のものを一から作り直す、もっと機能的なものを見いだすというコロナ禍ならではの楽しみも経験してきました。

浸透型コミュニケーションは、その名のとおり、植物が土から水を吸収するように、人間も作業をしながら情報を受動的に吸収できるという考え方です。

さらに、浸透型の情報伝達を支持する人はたいてい、話をする人が多い場所にいると相当気が散るというマイナス面を考慮していません。開放的なオフィスが作業者の生産性を損ねることはよく知られていますThe Economist Intelligence Unit の調査では、回答者の 34 % が、オフィスで仕事をしている時に最も気が散る原因として、同僚の話し声を挙げています。

特定の労働時間が一部の人の睡眠パターンと睡眠の公平性に有利であるのと同じように、浸透型コミュニケーションの受動的なメリットは、あるグループ(バックグラウンド ノイズに気を取られず、仕事にヘッドホンを必要としない人)が期せずして他のグループよりも優遇されるという、オフィス文化のもう 1 つの側面を表しているのかもしれません。

では、誰もが自分に合った方法で、積極的に伝達される情報とそうでない情報の両方にアクセスできるようにするには、どうすればいいのでしょうか。それには、2020 年に私たちがずっとやっていたこと、つまり「適応」をすることが必要です。

知っておくべき情報が集まる場所を用意する

コミュニケーションは人間の行動の核心にあるものなのに、できなくなるまでその大切さに気がつかないことがよくあります。外国でトイレに行くのに苦労したことがあれば、コミュニケーションが取れないと、最も基本的な欲求があっという間に満たされなくなるのがわかるはずです。

オフィス空間を共有することが共通語だとしたら、遠隔地の会社で働いている人は別の方言で話していることになります。職場環境の運営方法はさまざまですが、チームが好むコミュニケーション方法を知ることは、適応方法を知るための第一歩です。また、一般的なリモート コミュニケーション手段の長所と短所を理解することも同じくらい重要です。

たとえば、メールは特定の個人やグループに的を絞って情報を発信するには最適な方法ですが、何週間も続いているメールのやり取りから 1 つの情報を見つけようとすると、膨大な CC や入れ子になったスレッドと格闘するという悪夢のような状態になってしまいます。

同じように、多くの企業が対面でのミーティングの代わりにビデオ会議ソフトウェアを導入しましたが、誰もが家にいて、家族やパートナー、ペット、子供などに囲まれていると、会議前にチームで打ち合わせやブレインストーミングをするという、今まで築いてきた慣例を守るのがはるかに難しいことにすぐに気づかされる結果となりました。

一方で、1 つの標準的なプロセスに誰も合意できなかったために、コミュニケーションの糸口を見失ってしまったケースもあります。ドキュメントに直接コメントを残したのに、他の作業者がそのコメントをプロジェクト管理ソフトウェアで処理してしまうと、イライラするだけならまだしも、最悪の場合はタスクを完全に見落としてしまうことになります。 その解決策は、当然ながらコミュニケーションそのものです。共有ミーティングを 1 回開き、全員が希望する既存の共有方法や共同作業方法を明文化、明確化することで、その後は連絡ミスによる何百時間もの無駄をなくすことができます。テレワークのイメージは人それぞれですが、全員が同じものをイメージして仕事に臨むことは決して無駄ではありません。

ただし、プログラムやドキュメント、ソフトウェアなどをすっきりと箇条書きにしたリストを作成しても、戦いは道半ばに過ぎません。それを取捨選択することで、積極的に伝達される情報を共有するための、合意された仕組みが出来上がります。では、積極的に伝えられない情報はどこに集まっているのでしょうか。

さて、それが面白いところです。

効率の悪い会議を計画する

仕事とは、効率的なミーティングとウォーターサーバーを囲んだ休憩の繰り返しだけではありません。その間にある空間で、マジックが起こります。それをワークショップと呼ぶ人も、ブレインストーミングと呼ぶ人もいますが、その本質は、厳密なスケジュールや明確なアジェンダなしで、全員が協力して同じ問題を解決する時間のことです。

こうした作業では、同僚について新しい知識を得たり、新しい視点で同僚を見たりすることが多いものです。それに私たちは、「無駄な会議」や「無意味な会議」だと思うものを皆で排除しようとするあまり、より大きな目的のために共有し、仕事を特別な時間に変える非効率の瞬間も捨ててしまったのかもしれません。

「決まり事のない共有スペース」というコンセプトは、テレワーク中心の仕事環境でも、いつものコミュニケーション手段に取り入れることができます。グループ チャットでも専用チャンネルでも、ネット上の面白いネタがいっぱいの長々としたメール スレッドでも、脱線しがちな議論や気ままなブレインストーミングをするための専用ビデオ チャットの時間でも。選択肢は無限にあり、どのような手段でも、対面でのオフィス ワークの重要な要素をテレワーク環境に取り込むために役立ちます。一緒に仕事をするメンバーが皆自分らしく振る舞える環境を整えれば、お互いがお互いから自然と何かを学ぶようになるはずです。

浸透型コミュニケーションはオフィス ワークの文化から偶然生まれた副産物ですが、そのメリットはテレワーク環境でも追求して再現する価値があります。さらに、全員のニーズを確実に認識し、満たすことによって、情報を共有し、生産性を高め、そして(最も重要な)意図的に効率を悪くするための最も効果的な方法を見いだすことができれば、浸透型コミュニケーションから一層のメリットを引き出すことができます。

人はリラックスし、受け入れられていると感じた時に、情報を共有し、自分のことを話そうという気持ちになるものです。チーム メンバー全員が自宅で楽な服装のまま、好きなものに囲まれていれば、そうした気分になりやすくなるはずです。多層的なコミュニケーション構造にゼロから適応するのは簡単ではありませんが、そのための努力をする価値は間違いなくあります。感染防止のためのロックダウンから解放される時に備えて、私たちが自ら学んできた予想外の事柄の 1 つにそれを加えておきましょう。テレワークはこれからも続くので、重宝すること間違いなしです。

さて、私たちは次に何を学ぶことになるのでしょうか?それは誰にもわかりません。

 


執筆者
マイク・ショラーズ
マイク・ショラーズ氏はトロント在住のライターであり、エディタやコンサルタントとしても活躍しています。HuffPost、Daily Hive、Kotaku、Polygon、VICE などでジャーナリストやコンテンツ マーケターとして活動し、10 年以上にわたって、ビジネス、テクノロジー、ポップ カルチャー、人種、そしてそれらのかかわりについて執筆しています。

※本記事は、2021年3月に公開された記事の翻訳です。