テレワークとオフィス勤務の「ハイブリッド型」による働き方が難しい理由

ハイブリッド型による働き方の難しさイメージ
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チームの分断を防ぐには、一般社員と管理職の協力が
必要

ソフトウェア企業各社は、テレワークの永続化を進めています。ガートナーの調査によると、最高財務責任者(CFO)と財務担当責任者の 74 % は一部の社員を半永久的にテレワークに移行することを計画しているとしています。
すでに、Microsoft や Twitter など多くの業界大手が「パンデミック対策としてテレワークに移行した社員の大部分については、今後もテレワークでの勤務を認める」と発表しています。

ただし、これらの企業の CFO が単に事業コストをカットし給与を削減する目的でテレワークを推進しようとしていると捉えるのは間違いです。テレワークの推進を望む声のほとんどは、むしろ現場から届いているのです。
Dropbox と The Economist Intelligence Unit の共同調査では、テクノロジー業界で働く一般社員の半数近くと経営幹部の 3 分の 2 は、感染防止のための制限が解除されても、フルタイムのオフィス勤務には戻りたくないと考えていることが判明しています。回答者のほとんどは、自宅には集中力を損なう別の要因があるものの、テレワークのほうが集中して作業できるとしており、また通勤に時間や体力を取られずに済むことを大きなメリットに挙げています。加えて、総合的に環境負荷が軽減するという点を多くの人が評価していました(4 月ごろ、大都市で大気汚染が改善されていたことは皆さんご存じのとおりです)。

新型コロナウイルス感染症によって人々が行動の変化を余儀なくされる中、テレワークへの移行が進んだのはソフトウェア業界だけではありません。マッキンゼーの報告によると、小売、ファストフード チェーン、金融などの業界でも、「かつての日常」が戻るのを期待するのではなく、コロナ後を見据えた新しい働き方を模索する動きが広がっています。

ハイブリッド リモートとは

ほとんどの企業は今後、ハイブリッド リモートという働き方を導入することになるでしょう。必要に応じて利用できるオフィスは残しつつ、出勤は義務付けないという働き方です。ただしナレッジワーカーの多くは、オフィスに足を踏み入れることはなく、また同僚と直接会うこともなくなると考えられます。ボストン コンサルティング グループが 9 月に発表した共著者 10 人によるレポートでは、「ハイブリッド ワークこそが新しいテレワークのあり方」だと宣言しています。ではハイブリッド リモートなら誰もが幸せになれるのかと言うと、必ずしもそうとは限りません。

「管理職の立場からすると、ハイブリッドではまったく異なる 2 つの働き方が生まれることになる。」— シッツェ・シブランディ氏

理論上では、ほとんどの組織でハイブリッド モデルが最適な選択肢ということになりますが、現実には大変困難です。本社オフィスを構えずに創業したソフトウェア スタートアップ企業 GitLab の CEO、シッツェ・シブランディ氏は、Wired に掲載された 7 月の記事で、ハイブリッド リモート ワークがオフィス勤務とテレワークのデメリットの融合になる理由を述べています。「ハイブリッドでは、まったく異なる 2 つの働き方を管理しなければならなくなる」と言うのです。実際、ハイブリッド化は茨の道ではないと主張する信頼の置ける専門家は、まったくと言うほど存在しません。

先ごろ Dropbox は、バーチャル ファースト宣言を発表しました。バーチャル ファーストとは、テレワークを標準的な働き方とし、基本的にはテレワークで働きながら時折オフィスで働くという折衷型の文化を目指す、トップダウンによる変革の試みです。この取り組みで重要なのは、テレワークと対面でのやり取りのバランスを、全社員でだいたい同じような比率にすることを意図している点です。最終的には、全社員を 2 種類に分けてしまうのではなく、両方の働き方のメリットを融合させることを目指します。そのための正しいやり方がすでにわかっているというわけではありませんが、分散して働くという未来に適応するために、熟考と試行錯誤を重ねているところです。

社員の間に階層が生まれる危険性

Dropbox と The Economist Intelligence Unit による調査では、一般社員よりも管理職のほうが、パンデミック関連の規制解除後もテレワークを続けたいと望んでいることがわかりました。管理職は対面でのやり取りによる邪魔が入らないほうが生産的になれると感じているのに対し、多くの一般社員は「同僚とのつながりの欠如」を仕事への集中が妨げられる主な要因に挙げています。つながりの欠如、つまり孤独感は、家事や家族の干渉と同じくらい集中を妨げる要因に数えられています。

フリーランサーとして何年もテレワークで働いている人であれば、ハイブリッド チームが社内に 2 つの階層を定着させかねない状況はご存知だと思います。すなわち、船長室か三等船室しかない船のようなものになってしまうのです。同じ現象を、ハーバード ビジネス レビューは「孤立し、集団で攻撃される状況」と表現しています。

働き方のハイブリッド化を進める企業は、毎日 8 時間以上 1 か所に集まって働くオフィス勤務の社員たちの権限集中や「集団思考」が強まっていないかどうかに目を向ける必要があります。オフィス勤務の社員は、出勤せず自宅で働く同僚を嫌がり、その意見に従うことを渋るようになる可能性があるからです。

有能な人材を見過ごすリスク

ビデオ会議が爆発的に普及した今日でも、テレワーカーは自分がよそ者であるかのように感じることがあります。「そう感じてしまうのも無理はありません」と語るのは、米国人材マネジメント協会(SHRM)の CEO を務め、USA Today 紙で「Ask HR」というコラムを受け持つジョニー・テイラー氏です。SHRM の長年にわたる調査によると、職場での人間関係や昇進に関わる意思決定は、対面でのやり取りに基づいて形作られるケースが多いそうです。

「テレワークが未開発の人材に与える思わぬ悪影響を最小限に抑えるためには、テレワークの導入を極めて計画的に進める必要があります。」
— ジョニー・テイラー氏

「テレワークが、女性やマイノリティに与える長期的な影響、特にキャリア面での影響を懸念しています」とテイラー氏は話します。「上級管理職の目に留まる機会が減ること、加えて上級経営幹部からメンタリングを受ける機会が限られることは、仕事での成功に対して少なからず障壁になるでしょう。テレワークが未開発の人材に与える思わぬ悪影響を最小限に抑えるためには、テレワークの導入を極めて計画的に進める必要があります。」

人材を育成して離職を防ぐ

有能だが孤立している一般社員の存在は、比較的想像しやすい問題です。しかしハイブリッド リモートは、経営幹部にも新たな課題を投げかけます。経営幹部は、経費削減、雇用形態の多様化、(忘れられがちですが)新たなパンデミックへの備えといったメリットに目が向くかもしれませんが、ハイブリッド リモートがもたらすトレードオフは決して小さくありません。テイラー氏の「未開発の人材」という言葉に、不安をかき立てられる管理職は多いはずです。

「最初から全面テレワークで始めるのは、後になってテレワークに移行するよりはるかに簡単です。」— シッツェ・シブランディ氏

「最初から全面テレワークで始めるのは、後になってテレワークに移行するよりはるかに簡単です」と GitLab のシブランディ氏は助言します。では、ハイブリッド モデルへの移行を慎重に、計画的に進めなかった場合はどのような結果になるのでしょうか。「テレワーカーは、管理職の目に留まりにくいために、昇進の機会が限られるという現実に直面します。そのため有能な人材は、リモート チームのメンバーにも投資してくれる全面テレワークの企業への転職を選ぶことになるでしょう」とシブランディ氏は Wired の記事で指摘しています。

Microsoft と Twitter は、ハイブリッド リモートは自社にとって最良の選択肢だと考えていますが、人材の離職という問題は両社の取り組みにも影を落とすことになると予想されます。どの職階の管理職も、直属の部下(たとえそれが派遣社員でも)を容易に入れ替えられる交換部品と見なすようなことは少なくなるでしょう。

今すぐ行動を、答え合わせは後で

すでにインターネット上には、テレワークの方法やリモート チームの管理方法、そしてもちろん、ハイブリッド リモート体制を立ち上げ、運営する方法についての助言があふれています。Dropbox でも、2020 年の実体験を元にしたバーチャル ファースト ツールキットという資料をまとめています。しかし、「これが実証済みの専門家による知見」だと主張することは、誰にとっても時期尚早でしょう。今確実に言えるのは、仕事のあり方がコロナ禍前に戻ることはないという点、そして失敗を恐れて改革を先送りすることは、それ自体が失敗を保証する道のりであるという点だけです。

マッキンゼーの助言はそれほど驚くような内容ではありません。しかし少なくとも、上級管理職を担当するコンサルタントのグローバルなリモート チームから発せられた助言であることは確かです。それによるとまず、オフィス勤務でもテレワークでも、社員の積極性を引き出す文化を確立するために、具体的に行動する必要があります。そして、2020 年の相次ぐ危機への対応で忙殺されたであろう管理職の階層をフラットにします。最後に、たとえ完璧でなくても迅速な意思決定を促進します。完璧を求めて取り残されるのではなく、とにかく前に進むことを選ぶのです。

ただし、まずは立ち止まってビジョンを描く

迅速に行動して物事を学ぶというのは確かに優れたアプローチです。しかし、まずはいったん立ち止まって自分たちの意思を明確にしましょう。組織をしかるべき方向に導き、優先順位を明確にし、社員がシグナルにどう反応するかを見極めるために、ビジョンを描き、どのような企業文化を創り上げるべきかを定義する必要があります。

Dropbox では、学びながら正しい道を進むためのいくつかの原則を定義しています。まず、企業としての使命達成をサポートすることです。そして社員には自由と柔軟性を与え、社員自身と会社双方の目標を達成するために最適な手段を入手できるようにします。また人とのつながりを維持し、企業文化を守ります。これは、議題を設定したミーティング以外の場で交流を図ることを意味します(たとえば私は今日、別のチームのメンバー 3 人と気軽に雑談を楽しむための場を設けています)。さらに、企業としての健全性を長期的に維持します。そして最も重要なのが、学ぶ姿勢を持ち続けることです。何しろ私たちはまだ、答えはおろか、問題のすべてを把握できているかどうかさえ定かではないのです。

マッキンゼーのレポートには、「人材を最も希少な資源として扱うべし」とあります。この人材の中には、ハイブリッド チームのメンバーが一致協力して働けるよう導くことのできる管理職も含まれます。以前のような、全員がオフィスで働く時代はもう戻ってきません。かといって、オフィスをまったく持たないという選択肢も、ほとんどの企業には現実的ではありません。近い将来、あなたの職場にもハイブリッド リモートが導入されるかもしれませんが、すべてがうまくいくことを願っています。

 


執筆者
ポール・ブーティン
ポール・ブーティンはエンジニア兼経営者として技術系のスタートアップ企業数社を渡り歩いた後、Wired や The New York Times などのメディアにテクノロジー主導の文化についての記事を執筆しています。長年の Dropbox ユーザーであり、単なる好奇心からではなく、ひとつの生き方としてリモートでのコラボレーションを探求しています。

※本記事はこちらの英語ブログを翻訳したものです。