リモート ワークと分散型ワークの決定的な違い

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目次

  1. リモート ワークは個人における働き方で、分散型ワークは組織全体における働き方
  2. 分散型ワークには異なるツールが必要
    分散型ワークには新たな社会契約が必要
    分散型ワークには機敏性の高い組織図が必要

  3. 分散型ワークの観点から見ると、
    企業とは単に、共通のミッションを目指すリソースの集合体
  4. 分散型ワークにはスマート ワークスペースが必要

リモート ワークは個人における働き方で、分散型ワークは組織全体における働き方

451 Research がオフィス ワーカーを対象に行った調査によると、新型コロナウイルスの危機が起きる以前、1 週間のうちの数日以上を在宅勤務する人は全体の 3 分の 2 でしたが、常に在宅で働いている人はわずか 13 % に留まりました。一般に、オフィスに出勤する多数派に対して、すべてを在宅で行うこの少数派の人たちを「リモート ワーカー」と呼びます。しかし、主にテクノロジー業界では、完全な分散型ワークが可能であることをすでに証明している先進的な小規模企業もあります。たとえば、WordPress のウェブサイト ソフトウェアやホスティングを提供する Automattic 、定評のある共同デザイン アプリを開発している InVision などです。

こうした企業と従業員との社会契約では、実際の出社は求められていません。取り決められているのは、どこで働いていたとしても、気持ちの面で十分な参加と貢献をすることです。従業員はチームの一員となること、そして業務を遂行することを約束します。一方の雇用主は、その両方を実現できる環境の整備を約束します。リモート ワークを単に働き方の 1 つとして認めているだけの企業では、本社の日常的な業務や偶発的なコミュニケーションにリモート ワーカーを参加させる努力をほとんどしていません。出社している同僚と比べて集中できることの多いリモート ワーカーにとって、仕事をこなすことは簡単かもしれません。しかし、チームの完全なメンバーとなるのは難しいように思われます。

しかし、当初から全員がリモートで働くのだという前提で考えてみるとどうでしょうか?新型コロナウイルスの影響により在宅勤務体制が長引く中で、こうした状況は単なる机上の空論ではなくなってきています。

今回のパンデミックによって私たちは、リモート ワークと分散型ワークの違いについて再検討する必要性に迫られています。451 Research で研究主任を務めるクリス・マーシュ氏はこの 10 年ほど、労働力の生産性に関するさまざまなツールについて調査を行っており、企業にそうしたツールの効果的な使い方をアドバイスしています。マーシュ氏は、今回の新型コロナウイルスの危機によって、ナレッジワーカーの環境が大きく変わってきていると見ています。最近行われた簡易アンケートによると、75 % の企業が在宅勤務ポリシーの拡大や全従業員への適用をすでに行っているか、今後行う予定であると回答しています。そして驚くべきことに、こうした企業の 38 % が今回の対応は長期的なもの、あるいは恒久的なものになると見込んでいます。マーシュ氏は、こうした状況を「ほとんどの企業にとって根本的な変化となる」と考えています。全員がリモートで働くとなると、皆が等しく分散することになります。

中心となるオフィスがない状態では、「リモート」という言葉に意味はありません。分散型ワークになると、共同作業で使うツールも直接影響を受けることになりますが、それだけではありません。企業と従業員との社会契約にも、根本的な変化が生まれます。企業に求められるのは、従業員を信頼してさらなる自律性を与えるのか、従業員の行動や業績をさらに細かくチェックしていくのかという選択です。一方の労働者は、リモート ワークに対する企業の方針が自分に合っているか、そしてその職務で自分の力を効果的に発揮できるのかを考えて、勤務先を選ぶ必要が出てきます。いずれにせよ、世界的な経済危機の中で分散型ワークが生み出す課題に対応するには、どのような企業であれ経営構造を刷新して流動的で機敏に動ける体制に移行する必要があります。

分散型ワークには異なるツールが必要

分散型ワークという新しい枠組みでは、どこで仕事をするかという要素が、業績や貢献度とは切り離して考えられます。引き続きタイム ゾーンの問題はあるものの、そもそも同じ場所に集まらないため、時間差のあるコミュニケーションや共同作業がよりいっそう重視されることになります。

この数か月で大多数がリモート ワーク環境に大きくシフトした結果、業務における背景情報が大量に抜け落ちることになっており、こうした背景情報はこれまで、会議や会社のイベント、オフィスの給湯室などで同僚から得られていた情報だとマーシュ氏は話します。

大多数がリモート ワーク環境に大きくシフトした結果、業務における背景情報が大量に抜け落ちることになりました。

— クリス・マーシュ氏

ほんの 1 か月前までのリモート ワーカーたちは、オフィスにいる同僚が得ていたこうした背景情報や交流の機会に触れることは少ないか、まったくなかったはずです。しかし分散型ワーク体制へと急速に移行した企業では、全員が等しくリモートという立場になったことで前提が変わり、導入しているツールやテクノロジー、仕事のやり方を通して、誰もが最低限の背景情報を得られるようにしなければならないと考えるようになったとマーシュ氏は言います。

最近話題のチャットやビデオ会議のアプリについて同氏は、直感で実際の背景情報をこうしたアプリ上のやり取りを増やすことで取り戻そうとする企業に危機感を覚えています。そもそも、こうしたアプリは本来あるべき仕組みを補完するためのもので、ただの応急処置では問題は解決せず、問題の根本原因は、業務を進めるための枠組みがないことだとマーシュ氏は言います。背景情報を伝えるために実際の会話やコミュニケーション ツールは重要だとしつつも、今回の危機以前から作業者はチャットや会議の多さにうんざりしているという研究結果があると言います。特に非管理職の社員は、メールに費やす時間を減らして、本来の仕事に集中したいと考えているのです。

業務をスムーズにするのは、個人ではなく企業に課せられた義務であると思います。

従業員がコミュニケーション ツールを必要としている理由について、もっと多くの企業が真剣に考えるべきだと思います。きちんとした対応をすれば、こうしたツールに頼りすぎなくても済むようになります。目標やプロジェクトの進捗をもっと多くの人が把握できるようになれば、同僚に質問しなくても済むようになるでしょう。

業務をスムーズにするのは、個人ではなく企業に課せられた義務であると思います。従業員はすでに、本来の業務に取り組むという責務を負っています。根本的な業務改善の方策については、管理者側が考えるべきことです。

分散型ワークには新たな社会契約が必要

世界が急激に分散型ワークという考え方に移行する中で、多くの変化が訪れると考えられます。ソフトウェアの導入以上に重要なのは、新しい社会契約の登場です。新しい契約には、双方向の信頼が必要です。被雇用者は、常設のオフィスがなくても、チーム メンバーが近くにいなくても、雇用主を信頼し続けなくてはなりません。同時に、被雇用者も自身が信頼に値することを雇用主に示さなくてはなりません。

マーシュ氏は、企業が多くのリモート ワーカーをサポートする方法を検討するうえで、社給デバイスによる業務監視の倫理性についての詳細な検討が必要になると書いています。同氏は従業員の活動をさらに監視するよりも、倫理面でのアプローチを提唱しています。監視の強化は誤ったやり方で、こんな会社では働きたくない、と従業員に思わせる結果になると言います。

新型コロナウイルスの影響を受けてさまざまな業界で解雇や休業が広がっていく中、従業員は、短期的には仕事があるだけでもありがたいと感じるでしょう。しかしその後は、この先行き不透明な社会において、分散型ワーク体制の拡充や、企業による今回の危機への対応実績が、新しい指針となるでしょう。マシュー氏は、今回の危機によって生まれる多くのことは、実はすでに存在していたことが表面化しているだけだと考えており、たとえば、雇用主と被雇用者のバランスの変化もその 1 つだと言います。

誰もが、自分が好きだと思える会社で働きたいと思うものです。しかしそれだけでなく、自分が力を発揮でき、尊重されるような会社で働きたいとも考えています。企業の今の取り組みは、今後に役立つ良い前例となるでしょう。現時点でマーシュ氏は、従業員のやる気をとつながりを維持し、集中できるようにすることが最重要であると考えています。危機が収束に近づいたときに、ビジネスが通常どおりに戻ったとしても、そうならなかったとしても、正しく対応できた企業には新たなベスト プラクティスが蓄積されているでしょう。さらには、そうしたベスト プラクティスに対応できた従業員がその企業に残っていることになります。

経営面から見た重要な変化は、従業員の自律性や統制を高めるためのツールやポリシーを生み出すために、社内で IT チームと人事チームがこれまで以上に活発にやり取りするようになることです。

業務カルチャーを形作るのは、テクノロジー、行動、業務慣行、そしてテクノロジーが可能にするワークフローです。こうしたカルチャーは、従業員体験の中でいっそう重要性を増していくでしょう。

完全な分散型ワーク体制に適した従業員体験を生み出そうとする取り組みは、在宅勤務体制が終わった後にも効果を発揮することになるでしょう。1 日の業務の多くをデジタル ツールやデバイスで行っていることに鑑みると、問題は大まかに言えば同じものです。今後についてマーシュ氏は次のように話します。

従業員にツールを提供するだけでなく、従業員の気持ちを理解する企業が重視されるようになります。人々の参加意欲を引き出し、企業の目標に向かって結束し、適切な評価と報酬が得られていると感じてもらうことが大切です。

こうした理由から、職場における新たな社会契約とは、従業員が新たなスキルを獲得し、新たなチャンスを見いだせるようにすることではないでしょうか。従業員の行動を逐一監視するような社会契約ではないはずです。企業がますます分散型のネットワークになると、全従業員を結束させようという反動が起きます。

その自律性の周囲には、統制というガードレールを設けるべきです。このガードレールがなければ、人々は枠を超えて、戦略とマッチしない行動を独自に進めてしまうでしょう。ただし、その統制は企業の目標や OKR を超えて、組織を形作る人間関係の構造を考慮したものでなければなりません。

分散型ワークには機敏性の高い組織図が必要

分散型ワークは「デジタル変革」とは異なり、「デジタル デクステリティ(IT 技術の熟練度や意欲)」以上のことが必要になります(この 2 つの言葉は、職場のテクノロジー トレンドを表す業界アナリストの用語です)。必要なのは「運営面での機敏性」です。マーシュ氏は、「市場の変化、新たな顧客ニーズや競争上の脅威に迅速に対応できること」が企業に求められると言います。こうした機運は新型コロナウイルスの危機によってさらに加速していて、今後の状況がどのようなものになろうとも、新たな基準となる可能性があります。

今回の危機でこうした変化はさらに加速するでしょう。たとえば、技術系と非技術系の従業員が役職の枠を超えて協力できる、自己組織化されたアジャイル チームを実現するためのツール選びが大切だとマーシュ氏は話します。

役職や事業部門をベースにした組織図では、こうした協力的な関係を維持するための適切な指標やインセンティブを設定できなくなるかもしれません。役職の枠を超えた協力関係の多くは、必要に迫られれば生まれ、役目を終えると自然に消滅していくという性質があります。新しい組織のあり方がどのようなものかはまだ分かりませんが、それは従来の企業よりもはるかに動的で柔軟なものになるでしょう。

分散型ワークの観点から見ると、企業とは単に、共通のミッションを目指すリソースの集合体

分散型ワークの観点から見ると、企業とは単に、共通のミッションを目指すリソースの集合体ということになります。企業はますます、役職や部門の壁を越えてチームが協力できるような体制を作り、顧客と直接連絡を取るチームを増やしています。組織図についてのこうした拡張的な考え方は、分散型ワークのもう 1 つの問題を浮き彫りにします。企業の統率が取れ、そこで働く従業員が相互に信頼し合えば、顧客のための価値創造や競争優位性の確立などの点で企業内の透明性が高まるはずです。

しかし透明性とは、つながりと同じように、多ければ良いというわけではありません。情報にアクセスできることで、チームは迅速な軌道修正や自己組織化が可能になります。一方で、情報が多すぎると負荷や不安が高まり、感覚も麻痺してしまいます。個人とチームの自律性は、情報へのアクセスと情報を遮断する壁の両方によって成り立っているのです。未来の組織図として考えられるのは、家系図ではなく、分散型ネットワークのような形になると考えられます。

分散型ワークにはスマート ワークスペースが必要

分散型かどうかにかかわらず、上記の点について検討することでより良い企業になるはずです。ただし、自己組織化を行い独自の枠組みを生み出せるチームの力は、分散型ワークの場合にさらに大きな意味を持ちます。情報へのオープンなアクセスとアイデアを吟味できる保護されたスペースを両立することは、チームの心理的安全性のために非常に大切です。組織は、共通する大きな目標に向かって全員の足並みを揃えつつ、チームや個人がそれぞれに最適なバランスを取れるようにするツールとポリシーを必要としています。

これは、Dropbox がスマート ワークスペースを使って解決しようとしている問題です。このワークスペースは柔軟な設計で背景情報もわかりやすいため、非同時的な作業に適したプラットフォームです。今回のパンデミックによって、こうしたプラットフォームの導入は喫緊の課題になっています。情報が各所に散らばっていては、一貫した管理は大変です。また、トップダウンのポリシーでは自己組織化は不可能です。組織の機敏性とは、自分なりの方法で使いこなせるツールを従業員に提供することで生まれます。統制を取ることで、見通しや透明性が高まり、よりオープンなカルチャーが育まれ、そのために必要なのは、仕事の枠組みだとマシュー氏は言います。

統制を取ることで、見通しや透明性が高まり、よりオープンなカルチャーが育まれると思います。そのために必要なのは、仕事の枠組みです。

たとえばモバイル ネットワークによって、分散コンピューティングはデータセンターではなく、スマートフォン上で行うことが可能になりましたが、マーシュ氏は職場でもこれと似たようなトレンドが起きていると考えています。

自律性や業務に対する責任を最大限に広げる必要があります。従業員の業務範囲を制限してしまうような厳格な制度を取り入れるべきではなく、たとえば社外で直接お客様と接する従業員が多い企業にとっての「最大限」とは、顧客のニーズを捉えるワークフローをチームが独自に作り上げられるようにすることです。チーム メンバーや他のチームからリアルタイムで多くのフィードバックを受けなくても、現場の従業員が迅速に行動するために十分な情報にアクセスできる体制があれば理想的です。

多くの場合で、スマート ワークスペースの成否を示す良い指標の 1 つが、コミュニケーション ツールをどれほど減らせたかという点です。メール、チャット、ビデオ会議、通話は、どれも業務に必要なものです。しかし、大規模な分散型ワークの試行錯誤を行う現時点では特に、どのツールも使いすぎているのが現状です。

スマート ワークスペースの成否を測る指標として挙げられるのが、スマート ワークスペースでの作業時間が増えていること、そしてそこに統合されているメッセージング アプリの使用時間が減っていることだと思います。こうしたツールは、背景情報を得るための手段です。私にとってスマート ワークスペースの価値提案とは、そうした背景情報が得られるという点です。

リモート ワークとは個人における働き方ですが、分散型ワークは組織全体における働き方を指しています。中心となるオフィスで実際のやり取りが発生しない中で業務の背景情報を維持するには、より慎重な計画とコミュニケーションの熟考が必要になります。どちらも、通常のオフィス勤務が再開したときに役立つはずです。将来、今回のような分散型ワークへの急激な移行が、お互いのために情報を整理する方法を強制的に見出すことになったと振り返る日が来るかもしれません。業務に関して詳しい背景情報を提供すれば、個人の自律性を高めると同時に、全員の方向性を揃えることができます。新型コロナウイルスの危機に直面する中、こうした変化をどれくらい取り入れられるかは企業によって大きく異なりますが、仕事のあり方を再検討する必要性にもっと意識を向ければ、長期的な効果が得られるでしょう。