生産性神話が生み出す現代企業の誤った働き方

私たちが「生産性」という言葉に追い立てられるようになったのは、一体いつからでしょうか?

「これならもっと仕事をこなせる」といった内容の広告があふれかえり、ソフトウェア企業はこぞって作業効率化を謳うツールを宣伝しており、効率性向上のためのワークショップやセミナーも後を絶ちません。

しかし生産性を追求することは、ビジネスにとって本当に良いことでしょうか? 誰もがそのような働き方を望んでいるのでしょうか?

仕事をより速く、より多くこなすことで頭がいっぱいの人は多いものの、この 10 年間で生産性指標はほとんど上がる気配を見せていません 。 アメリカ労働省労働統計局によると、私たちの労働生産性は 1 年にわずか 1.4 % ほどしか向上していないそうです。これは、過去 30 年間で最も低い伸び率で、20 世紀の中頃から数えても史上 2 番目に悪い数字です。

世の中にはかつてないほど多くの生産性向上ツールが生まれていますが、実際の成果は年々下がっているということになります。

「より多く、より速く」よりも「業務を適切に遂行するために仕事をスローダウンしたい」と考えている人は 61 %

そもそも「より多く、より速く」という働き方を人々が望んでいないという点が大きな問題なのでしょう。

アメリカ人のナレッジ ワーカーを対象にして行われた Dropbox の調査によると「量をこなすためにスピードアップしたい」と考える人は 41 % にとどまり、「業務を適切に遂行するために仕事をスローダウンしたい」と考える人が 61 % に達しました。(この調査では「それぞれの記述に対してどの程度同意できるか」と問いかけているため、数値の合計は 100 % になりません)

では、多くの企業が何を犠牲にしても生産性アップを追い求めるのはなぜでしょうか?

1 つには以前からの慣習があります。製造業などの伝統的な産業では、効率を評価する方法が確立されており、ある期間内に「より少ない資源で」「より多くの製品を作る」ことができれば、生産性が高まったと言えます。

こうした考えは、少なくとも産業革命の頃には生まれていました。現代の企業でも、こうした評価軸を設けたくなるのも無理はありません。

しかしナレッジ ワーク、つまり主に情報を取り扱う仕事では、生産性の算出方法がはるかにあいまいです。実際、労働統計局では「非製造業では生産性を評価しにくいことが多い」とし、「顧客は生産性データを慎重に解釈すべき」などと注意喚起しています。

1 時間により多くのプログラム コードを書けば、より良い製品が生まれるでしょうか?

 

毎週行っているブレインストーミングを 2 倍に増やせば、デザイナーはもっとクリエイティブになれるのでしょうか?

このようにデータ上の確証がなくても、より少ない資源でより多くの成果を出したいと考える気持ちは変わらず、こうした傾向は特に経営陣の中で顕著です。多くの企業で、IT の意思決定者やマネージャーがチームで使うツールを選び、仕事のペースを定めています。

しかし一般社員にとって、こうしたツールやスケジュールは可能性を生み出すと同時に、多くの問題も引き起こしています。

思考力を評価して採用した社員が、 考える時間がない現実

デロイトは「2018 Human Capital Trends」と題した報告書で、マネージャーや人事部長の 47 % は現代のコラボレーション ツールがビジネス目標の達成に役立っていないことを憂慮していると明らかにしました。

チャットでのやり取りのほか、ツールによるプロジェクト管理、ミーティング連絡メールの送受信などにより、常に受け身で仕事をすることとなり、意義のある仕事に主体的に取り組めなくなっているのです。

Dropbox の CEO ドリュー・ハウストンは、昨年秋に開催された Dreamforce のイベントでこうした現象についてコメントしています

これまで IT 業界は、単純作業のスピードを上げる方法ばかりを模索してきました。 思考力を評価して採用したはずの社員が、実際には考える時間を持てなくなっているのです。

この数年、Dropbox は仕事の進め方について徹底して見直してきました。 効率一辺倒に陥っていなかっただろうか、ユーザーの仕事の質を高めるための製品作りができていただろうかと自問し、同じ仕事をより速くこなすのではなく、人生で最高の仕事ができるような余裕を提供したいと望んできました。

Dropbox のお客様の中には、生産性を追い求める古いモデルを廃して、新たな業務スタイル(現代の仕事の実情により即した手法)を採り入れている会社があり、そうした企業から Dropbox も刺激を受けてきました。

たとえば、ベストなツールを採用するために従業員からの意見を優先するボトムアップ思考に切り替えた企業もあれば、画一的なポリシーをやめて、国や文化の違う社員にそれぞれの働き方を推奨している企業もありました。

Dropbox でも同様のアプローチで取り組んでいます。 たとえば、チームが集中してコンテンツ作成や共同作業に取り組めるツールとして Dropbox Paper を開発しました。Paper は、仕事のスピードを上げることよりもチームのスムーズな連携を重視することで、仕事の進め方を根本的に変えることを目指しています。

また、社内ではメールや会議から離れて、興味のあるプロジェクトに取り組むことができる「ハック ウィーク」を開催し、自主的な取り組みに集中できる環境を与えています(たとえばスマート シンクは、全社規模のハック ウィークから生まれた機能です)。

より良い働き方を実現するには、職場環境がどのように変化しているのかを見つめなおす必要があります。人々がいつ、どのように、なぜ働いているかを理解しなければなりません。

生産性を極限まで高めることが回答ではないとすれば、ベストな成果につながる条件とは何でしょうか?

次回は、働く人たちが実際に何を求めているのかを調査したデータを紹介し、詳しく読み解いていきます。続きはシリーズのパート 2 をご覧ください。

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