クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドが 50,000 人の作業者を対象に最近行った調査では、75 % がテレワークでも効果的に仕事に集中できると回答しています。しかし多くの人々は、テレワークに慣れる方法を模索し続けたこの 5 か月で、解決すべき最大の課題は、生産性ではないと感じ始めています。
オフィスが閉鎖され、テレワークでの作業環境を整えているときに、一足先に準備が整っている人たちがいました。それは、Zoom、Slack、Trello、Teams、Dropbox などのツールを意識的に導入した企業で仕事をするアーリー アダプターです。
彼らはテレワークの経験が豊富だったため、スムーズに移行する体制がすでに出来上がっていたのです。しかし、ビデオ会議やクラウド コラボレーション ツールの使い方を初めて学ぶ人たちにとって、突然の画面上チームワークへの移行は、まるで冷たい海に突き落とされ、岸まで泳げと言われた気持ちになったことでしょう。
それから半年、皆さんは、テレワークによってオフィスから解放された自由を満喫しているでしょうか。それとも、対面でのやり取りが減って不自由に感じているでしょうか。
目次
1. テレワーク関連のトレンドに関する新しい調査
ジェン・ディジオは Dropbox の国際調査担当責任者として、新規開拓に向けた調査チームを率いています。彼女は Dropbox エンタープライズ部門のシニア デザイン リサーチャーであるアマンダ・ゲイル・ミラーと協力し、テレワークによって発生しているトレンドと、製品イノベーションの機会を探るための調査を実施しました。
この調査は、米国、カナダ、オーストラリア、フランス、英国、日本、シンガポールにおいて、建設、教育、エンジニアリング、建築から、金融、医療、メディア、テクノロジー、不動産に至るまで幅広い業界に従事する 4,000 人を対象に行われました。また、以前からテレワークを取り入れていた企業と、最近移行した企業から半数ずつ、計 36 人に対してインタビューを実施しました。
参加者には、コロナウイルス感染症拡大の前と後で、同僚とのコミュニケーションにはどのツールを使用するか、オンライン会議にはどのツールを使用するか、リモート会議への移行にあたってどのような課題に直面したか、どのようにコミュニティを構築しているか、テレワークになってから不足しているものは何かなど、さまざまな質問をしました。
オフィスで顔を合わせる必要があるのは、ブレインストーミングで優れたアイデアを出すためだ、というのは大きな誤解です。たとえば、オフィスで雑談をしているときに、不意にその年の最も重要なプロジェクトが決まることもあります。こうした現象の真の価値は、他チームのメンバーともっと深く関わり、連携することにあると思います。ー ディジオ
ディジオは、同僚との重要な関係を築くのはこうした瞬間だと考えます。このようなつながりがなければ、人は各自の役割で孤立してしまいます。
つながるために役立つテクノロジーはありますが、それでもその場にいることの代わりにはならない、と多くの調査が示しています。先ほどの例えは、とても印象的でした。
2. テクノロジーの進化によって差は埋められるか
ディジオとミラーが行った調査によれば、41 % の参加者が、既存のツールは自発的な協働を生み出すのには不十分だと思っています。
ミラーは、こうした種類の共同作業を改善する「健全な」環境を作るためには、心理的安全性が不可欠な要素の 1 つであると述べています。互いに信頼関係を築く機会がなければ、チームが高い生産性や影響力を感じることは難しくなります。
個人レベルで気持ちが通じるからこそ生まれる、数量化できない信頼関係の構築が重要なのです。その信頼関係が、必然的により多くのコラボレーションにつながります。人との信頼を築けば築くほど、『今後この人と一緒に仕事がしたい』と思えるようになります。ー ディジオ
組織が分散化すると、次第に信頼と安心感が薄れていくこともわかりました。以前からテレワークを取り入れていた企業では、定期的に職場以外の場所でチーム ビルディングを行い、チーム メンバーが絆を深め、関係を強化できるようにすることで補っています。ー ミラー
このパンデミック下では対面で関係を深めることができないので、心の距離を感じる気持ちを抑えるのに役立つような新しいテクノロジーを考案する必要があります。
私たちが調査で注目した質問の 1 つに、『チームが離れた場所から連携し、信頼関係を構築できるような製品ソリューションを、Dropbox が開発するにはどうすればよいか』というのがあります。そのようなソリューションがあれば、薄れていく信頼と安心感に歯止めをかけ、分散化した組織の大きなニーズを満たせるようになるでしょう。ー ミラー
ミラーは、調査によって明らかになった知見の 1 つとして、現在のソリューションは生産性を中心に設計されており、データ処理がメインとなっている点を挙げています。
リモート チームのメンバーには、信頼と心理的安全性に加えて、背景情報が必要です。なぜこのドキュメントが自分に送られてきたのか、これはワークフローのどの段階なのか、何をしてほしいのかといった情報です。こうした背景情報は、クラウドベースのデジタル コラボレーション ツールにより深く組み込むことができると思います。また、同僚との自発的でクリエイティブな共同作業を可能にする製品の開発というアイデアもあります。ー ミラー
ミラーは、製品の観点から、企業が次の 2 つのことを自問すべきだと語ります。
- どうすれば製品の中に協力的な関係を維持しやすくする仕組みを作れるか。
- どうすればチームの関係が現状のように希薄化することのないソリューションを設計できるか。
直接会って関係を築くことには、特別な何かがあります。デザインの思考実験として、『どうすれば、四半期ごとに対面イベントを開催せずに済むソリューションが作れるか』という質問が考えられます。ここでは、完全な団結感と信頼感により、対面で会う必要はないような世界を想像します。
3. 自発的で同期的なコラボレーションを可能に
調査結果からミラーは、リモート チームには、一緒に概念化を進め、クリエイティブに「想像する」方法が欠けているのだと気付きました。
MURAL、Google スライド、Figma など、現在利用できるソリューションはこのニーズを踏まえて作られていません。作業者は、スピーディーで軽く、シンプルで直感的なソリューションを探しています。その中で浮上したアイデアの 1 つが、iPad を使ってチームが自発的にコラボレーションできる、タッチ式のチーム ホワイトボードです。
ディジオは次のようにも語っています。
デザイン チームの中には、MURAL などのツールを好んで使うチームがありす。このツールはデザインに重点が置かれているようです。デザイナーだけのチームで使うには優れていますが、別の職種の人たちにとっては、あまり良いものとは言えません。
私たちの多くは今や Zoom 会議に 1 日数時間を費やしていますが、それでも、ホワイトボードのようにリアルタイムで同時にアイデアを書き留められる共有ワークスペースやオンライン ホワイトボードが必要とされている、とディジオは言います。
調査から発想を得た別のアイデアは、機械学習を使ったカレンダー管理の自動化です。AI ソフトウェアが、類似のプロジェクトに関わる 2 人のチーム メンバーを検知し、情報交換できるよう自動で会議を作成してくれるとしたらどうでしょうか。または、チーム メンバー同士が長い間連絡を取っていないことをカレンダーが検知し、ミーティングを予定に追加してくれるとしたらどうでしょうか。また別のアイデアとして、1 日中いつでも参加でき、チーム メンバーに会えるオンラインのコーヒー ルームというのもあります。
AI を取り入れたカレンダー管理のメリットは、リモート チームのメンバーが同僚とつながりたいときに、タイムゾーンを考慮し、自分の都合と判断で会えるようになる点です。もちろん、『すべきこと』としてチーム メンバーと交流する時間を持つよう強制することと、自然かつ自発的に人間関係を構築できるプラットフォームを提供することには、微妙な違いがあります。ー ミラー
役割上の義務として「仕事の話をする」ことを強いるのではなく、真の意味で個人的なつながりを感じられる方法でチーム メンバーが交流できるようにすることが鍵になります。ディジオは、会議が仕事についての話だけだという不満がよくあることが調査結果から明らかになったと述べています。そして、つながりが感じられなくなると会議は退屈なものになってしまいます。
4. 改善できる点は何か
私たちは『生産性』の概念を変える必要があると考えています」とディジオは言います。特に米国では、オフィスに 9 時に出社し、5 時か 6 時には退社してプロジェクトを終えるというのが、私たちの考える働き方です。しかし、オフィスの外の方が効率的に仕事をこなせると気付いたら、その時間を DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の推進やその他の支援活動の取り組みに貢献するために活用してみてはどうでしょうか。『生産性』は製品やプロジェクトの成果を上げることだけでなく、組織全体の健全性に貢献することを含めた、より総合的な方法で定義されるべきです。ー ディジオ職場環境で重点を置くべきは、最大の生産性を発揮することだけではありません。20 世紀の初めから終わりまで、経済学者たちはありとあらゆる興味深い方法で職場の生産性を数量化しようとしてきましたが、組織心理学者が提示してきたアイデアの大半は、チームがいかにして共同作業を円滑に進められるかということでした。これについて、工場や対面型のオフィスに関しては広く研究されてきましたが、完全に分散化した組織に関してはまだ未知の領域です。働き方や職場の在り方に関連する技術や進化は、現在はまだスタートラインで、今後大きく発展していくことでしょう。ミラー