※ブログは、2022年6月に公開された記事を翻訳したものです
去る 2020 年、私たち Dropbox は、「バーチャル ファースト企業」に移行する計画を発表しました。企業各社に先駆けてリモートワークに全面移行する取り組みです。私たちがこのような取り組みを始めたのは、リモートチーム向けのツールを提供する企業として、人々の働き方が今後どのような方向に向かうか予想しやすい立場にあったからです。他の多くの企業と同様、新しい働き方についてまだ解決すべき問題は残っていますが、バーチャル ファースト企業として 1 年を過ごしたことで、さまざまな学びを得ることができました。
バーチャル ファースト企業への移行は、Dropbox にとって大きな挑戦です。私たちが目指しているのは、「仕事のあり方」を全面的に見直し、社員が最善の状態で最高の成果を上げられるようにすることです。人と人のつながり、働き方の柔軟性、ワークライフバランスを保つことを大切にしながら、リモートワークと対面の働き方のいいとこ取りをしたいと考えています。とは言え、このような全社規模の変革には課題が付きものです。それは重々承知の上で、前に進みながら学んでいくしかありません。
学びを得るうえでは、社員からのフィードバックが大きな助けとなりました。この 1 年間で私たちが気付いたことを以下にご紹介しましょう。
1. 所属チーム外の人物と関係を築くのは難しい
社員からは、バーチャル ファースト体制でも所属チームのメンバーとはこれまで同様につながることができているが、日常業務で関わりのない他チームのメンバーとつながりを作るのは難しくなった、という声が聞かれています。これは、Dropbox が社員や学術関係者、社会理論学者、報道関係者を対象に実施した、帰属意識とつながり(バーチャルおよびリアル)に関する独自の聞き取り調査でも裏付けられている傾向です。私たちにとって特に大きな発見は、「つながり」の意味と重要性がこの 1 年間で大きく変わったということ、そしてほとんどの人が「リモートワーク環境では所属チーム以外の人と関係を築く機会が少なくなった」と感じているという事実でした。
バーチャル ファーストという取り組みでは、対面でのやり取りも想定されています。しかし、コロナ禍による制限が課せられた 2 年あまりの間に、オフィス勤務では当たり前だった自然発生的なつながりの機会はすっかり失われてしまいました。廊下で偶然顔を合わせたり、雑談を耳に挟んだりといった場面がなくなり、日常業務以外で知り合いになるきっかけが少なくなってしまったのです。
このようなつながりの機会は、企業文化を築き、本当の意味での帰属意識を育むために欠かせないものです。こうした場面は、アイデアや情報をやり取りする架け橋となり、異なる意見を戦わせてアイデアを刺激する機会にもなります。先ごろオープンした Dropbox Studio は、社員が対面で共同作業をする場として重要な役割を担うことが期待されていますが、バーチャルなコミュニティを構築する取り組みの重要性は、社員が日常的なやり取りを通じて関係性を深める対面での取り組みと何ら変わりません。
Dropbox では、社員がリモートでも関係性を深められるよう新たな方策を模索しており、休憩スペースでの雑談を再現したり、チームの絆を深める習慣を定着させたりするためのトレーニングを継続的に実施しています。
また、新たなアプローチでコミュニティ形成に取り組むため、Dropbox Neighborhoods という制度も始めました。
各地域のコミュニティ マネージャーが展開するこの取り組みでは、地理的に近い場所に住む社員を Slack 上でグループ化し、さまざまなイベントやボランティア活動、カジュアルな集まりを企画します。また、日常的な楽しみを共有したり、近所に新しく開店したレストランを紹介したりといったことも推奨しています。
バーチャルなコミュニティを支援する目的では、Coffeebox というプログラムをシリーズ化しています。これは、各国の Dropbox 社員を Zoom で結び付け、SNS アカウントを簡単に同期できるようにする仕組みです。この取り組みを通じて、世界のどこで仕事をしていようとも、すべての社員がグローバルにもローカルにも帰属意識を育んでくれればと考えています。
2. マネージャーの役割がこれまで以上に重要に
バーチャル ファーストは行動の変化が求められる取り組みであり、過去 1 世紀にわたって定着していた働き方のリセットが必要になります。「大仕事」どころの話ではありません。またこの取り組みを成功させるには、マネージャーが模範を示すことが不可欠です。これから仕事のやり方を覚え、企業文化を体得しようという新入社員は、主にマネージャーとチーム メンバーを手本とすることになりますが、それは特にリモートワーク環境において顕著となります。たとえば、コラボレーション コアタイムを取り入れた社員の 77 % は、自身のマネージャーもコラボレーション コアタイムを取り入れていたと述べています。
そこで私たちは、マネージャーが効果的に働けているかどうかを調べた独自の調査結果に基づいてマネージャー向けのトレーニングを開発し、試験的に実施しました。目標に関するコミュニケーション、関係構築、心理的安全性の確保についての能力強化を目的としたトレーニングですが、この 3 項目はいずれも、バーチャル環境において重要な役割を果たすことがわかっています。
また、職場のリーダーがさまざまな課題をうまく乗り越えられるよう、マネージャー同士のピアコーチングを活用しています。マネージャーはこの取り組みを通じて互いにつながり、貴重な人脈を構築することができます。
さらに、チームメンバーがバーチャル ファーストを適切に実践するための具体的な方法を解説したセルフサービス リソースの拡充にも力を入れています。たとえば、一般にも公開しているバーチャル ファースト ツールキットには、チームメンバーがリモートワーク環境で成果を上げられるように支援する、バーチャル環境向けの実践的な演習がまとめられています。
3. 社員には明確なコミュニケーションとトレーニングが必要
このような規模で行動を変化させるのは簡単なことではありません。私たちは今回の経験から、リモート環境では一貫性のあるコミュニケーションとトレーニングが重要であることを学びました。
この点を念頭に置きながら、どうすればもっと効率よくリソースを共有し、必要なときに必要なものを社員に提供できるかを見直しました。
改善策の 1 つは、ally.io などのツールを活用して、会社としての目標の達成状況をわかりやすく把握できるようにしたことです。また、マネージャーを対象にした「tLDR」というタイトルのメールを隔週で配信し始めました。これは、それぞれのチームに関係する情報をまとめたメールで、マネージャーはこのメールをチームメンバーに共有することで情報過多を防止できます。さらに、ツールの適切な使い方や簡潔で親しみのある文章の書き方など、バーチャル ファースト環境で効果的に仕事をするための継続的なトレーニングを実施しています。
4. バーチャル ファーストの実践で生産性と幸福度が向上
この一大変革を実践するにあたっては、仕事中のコミュニケーションをいつ、どんな方法で、どんな理由で行うべきかを根本的に見直す必要がありました。その過程で、いくつかの原則がコミュニケーションの改善に大いに役立つことがわかっています。
たとえば、バーチャル ファーストで成果を上げるためには、コミュニケーションのあり方を「常に同期」から「基本は非同期」へと改める必要がある、というのがその 1 つです。「基本は非同期」とすることで、より柔軟に、より集中して日々の仕事に取り組めるようになります。「基本は非同期」を徹底するための 1 つの方法として、必要不可欠ではないミーティングをすべてスケジュールから外して、本当にリアルタイムでの対話が必要な場合にだけミーティングを設定することを社員に奨励しています。
一連の取り組みは実を結びつつあります。2021 年第 4 四半期の時点で、アンケートに回答した Dropbox 社員の 63 % が「基本は非同期」を受け入れ、さらに 81 % がコラボレーション コアタイム(CCH)をある程度受け入れています(CCH は、リアルタイムの共同作業のために確保する時間のことです)。 非同期型の働き方を取り入れた社員は、以下のように、より有意義な働き方ができるようになったと述べています。
- 72 %:生産性が向上したと思う
- 80 %:効果的に働けるようになったと思う
- 72 %:ワークライフ バランスが改善されたと思う
5. 社員と求人応募者のどちらにとっても、柔軟な働き方は極めて重要な要素
非連続の就業時間を認めることは、これからの働き方で重要な要素になるということも明らかになりました。「いつ」「どのように」仕事をするかについて、柔軟性を求める社員はますます多くなっているからです。これは、既存の社員だけでなく、求人応募者にも見られる傾向です。
Dropbox の場合、「基本は非同期」への移行とコラボレーション コアタイムの採用によって、社員は一般的な 9~5 時という就業時間に縛られずに済むようになりました。社員は自分で就業時間帯を計画し、自身のエネルギーレベルに応じて特に集中する時間を設定することができます。
求人応募者も、実に 90 % が主な志望動機としてバーチャル ファーストを挙げています。中でも、具体的な理由として挙げられているのが、柔軟な働き方ができるという点です。
人材戦略に関しても、将来に向けて明るい兆しが見えています。求人枠 1 件あたりの応募者数が 1.7 倍に増加すると同時に、人材供給地もロサンゼルス、シカゴ、ボストン、サンディエゴ、ポートランドなど新しい地域に広がっているのです。結果として人材の分散化が進み、2021 年に雇用した人材のうち、サンフランシスコやシアトル、ニューヨーク市といったテクノロジー人材の主な供給地とは異なる地域に所在している人は、半数を超えるようになっています(バーチャル ファースト移行前は約 35 %)。
Dropbox は今後も、新しい働き方を模索し、謙虚に学び続ける姿勢を維持しながら、必要な変化を取り入れていきたいと考えています。バーチャル ファーストに移行する過程で私たちが得た教訓が、皆さんのお役に立てば幸いです。