GitLab の経験に学ぶ、テレワークの秘訣

テレワークの研究者と GitLab のストラテジストが教える、テレワークにおける力を最大限に引き出す方法とは

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外出禁止令やそれに類する措置により、多くのオフィスから人の姿が消えて 1 年あまり。「ほとんどの社員は、コロケーション(同じ部屋、同じ建物、同じ敷地内など、物理的に近くの場所に集まって働くことを指す専門用語)に戻る必要は必ずしもない」という指摘は、もはや目新しいものではなくなりました。トロント大学の都市研究者リチャード・フロリダ氏が著書「The Great Reset」を刊行し、テレワークの普及によって大都市からオフィスは消えていくだろうと予測したのは 10 年前のことです。その理由として挙げたのはパンデミックではなく、デジタル テクノロジーと高速ネットワークの普及がもたらすもっと根本的な経済的事情でした。2020 年に起きたロックダウンは、すでに進行中だった変化を後押ししたに過ぎません。企業各社は、本来であれば数年を要していたであろう変化を、数か月で取り入れることを余儀なくされたのです。

多くの企業は依然として、生産性、社員の満足度、そして業績を高める鍵は何かを模索し続けています。テレワーク化を進めるにあたっての心理的な課題は、挙げていけばきりがありません。そこでこの記事では、対面でつながることのできない状況で確実に仕事をこなすための実践的な戦略を見ていくことにします。

テレワークは方法論ではなく実践

CEO をはじめとする上級管理職にとって、テレワークはかつてないほど大きな組織的課題でしょう。社員があちこちに分散して仕事をするような状況で、組織をどのように編成すればいいのか? どのようなルールを定めればいいのか? どのようなプロセスや手順を確立する必要があるのか? 多くの管理職は、このような疑問に直面していることと思います。

気の短い DevOps エンジニアなら、気色ばんでこう言うかもしれません。「方法論など必要ない。実践あるのみだ。チームとして現場で反復しながら、学習、共有、能力開発を通じて、研ぎ澄まされた無意識のスキルとして内在化する必要がある」と。大企業におけるマネジメントでは、「ベスト プラクティス」という言葉がよく使われます。しかし、ソフトウェア開発と IT 運用を 1 つの役割に融合させる DevOps は、そのキーワードを横目に、各種のルールや障壁によって会社の各部門が分断され、孤立し、がんじがらめになってしまったという認識から生まれてきた文化です。そのようなルールや障壁はもともと秩序を守る目的で取り入れられてきたものですが、それが無意識のうちに成果を犠牲にしていたのです。実践は手順でも方法でもポリシーでもありません。むしろ武道の技のようなものであり、従うべきものではなく、一体になるべきものと言えます。

GitLab は、DevOps 向けのツールを提供している企業です。米サンフランシスコに拠点を置きつつ、世界各地に社員を擁する同社は、テレワークに精通した企業と見なされています。同社 CEO のシッツェ・シブランディ氏は、オフィスを一切持たないことを早い段階から強く主張しており、オフィス ワーカーとテレワーカーの両方を社員に持つことは「失敗の方程式」だと考えています。(なお Dropbox の過去のインタビューでも、「オフィス ワーカーとテレワーカーが混在するハイブリッド チームが社員のパフォーマンスと定着に課題をもたらすことは実証されている」という、管理職と人事の専門家からの同様の主張があります)。

10 年前、ウクライナに住む 1 人のエンジニアの自宅オフィスから始まった GitLab は、ある信奉者が言うところの「The Little Company That Could(無限の可能性を秘めた小さな会社)」へと変貌を遂げました。シブランディ氏には他にも多くの支持者がおり、たとえば Forbes は「パンデミックで注目すべきビジネス パーソン」の 1 人に同氏を挙げています。また GitLab は人材雇用の面でも抜け目のなさを示しており、ブログに 1 万 7,000 件もの記事を投稿し 10 年前にギネスブックに認定された元 Engadget のブロガー、ダレン・マーフ氏を、今後の成長の舵取りをするリモート統括責任者として迎え入れています。

共通のオフィスを持たずに事業展開しているテクノロジー企業は枚挙に暇がありません。しかしその中でも GitLab は研究に値すると指摘するのは、テレワークとその未来を専門に研究するハーバード ビジネス スクールのラジ・チョードリー教授です。「GitLab の形式的な特徴が彼らに強みをもたらしているとは思いません」と同氏は話しますが、これはつまり、GitLab と他社との違いはその組織編成や事業内容、サービスにあるのではないということです。そうではなく、「GitLab は間違いなくこのモデルのアーリー アダプターであり、それをうまく実践しています。(中略)完全テレワーク体制またはそれに近い体制を導入するプロセス全体が、組織を変革するプロセスになっているのです」(チョードリー氏)。

GitLab の強みは、(Walmart などに比べて)規模が小さく、社員の大部分がテクノロジーに精通していることです。また多くの企業と違い、物理的な製品を扱う、対面でサービスを提供する、常勤の社員を大量にオンサイトからテレワークに移行する、という面倒を抱えていません。ただしチョードリー氏は、ボトムアップではなくトップダウンで DevOps 的思考を取り入れる GitLab の基本的なアプローチは、事業形態を問わずほとんどの企業に適用できるし、そうすべきだと主張します。「重要なのは、仕事の内容ではなく仕事のやり方です。」

では、企業各社の組織変革に適用できる、GitLab の実証済みの手法とはどのようなものなのでしょうか。以降では、大まかに 3 段階の実践に整理してそれを説明します。これは、テレワーク主体の世界での成功を模索する完全テレワーク企業と、それより多いと思われるハイブリッド企業の両者に適用することができます。

1. 非同期で仕事をする

メールで済ませることができたはずの 1 時間の Zoom 会議。多くの人は、不満を感じながらもこの慣習を受け入れてきました。しかし、強制的に行われるリアルタイムでのコミュニケーションが多すぎると、プロジェクトが停滞し、人々が疲弊する原因となります。これは、同じオフィス内で行われる場合でも同様です。社員が複数のタイムゾーンに分散している企業の場合、そうでない企業よりもより明確に悪影響を受けることになるでしょう。

実は、GitLab ではこれまでに 3 回、オフィスを構えることを真剣に検討したことがあります。1 回目に検討されたのは、当時シブランディ氏が暮らしていたオランダの自宅近く。2 回目は米サンフランシスコのベイエリアでした。ベイエリアは昔から、投資家たちがテクノロジー企業の創業者を自分たちの側に置いておくための移転先としてよく選ばれている地域です。しかし検討のたびに、「オフィスへの通勤は時間の無駄」、「シリコン バレーに住む意味はもうない」といった結論に至ったといいます。 チョードリー氏は、2020 年に発表した GitLab の事例研究の中で、非同期に仕事をすること、つまりチーム メンバーを共通のスケジュールに縛り付けないこと、あるいはミーティングを最小限にすることが、「メンバーが世界各地に分散しているチームをうまく機能させるための鍵」だと指摘しています。これによって、「各メンバーがタイムゾーンに関係なくほぼ自立的に仕事をできるようになる」からです。

GitLab の土台であり、現在も成長の礎となっているオープンソース ソフトウェア プロジェクトの多くは、立ち上げ当初から非同期型で動いています。世界中にいる協力者は普段は別々の組織で働いており、自分に都合のいいスケジュールでプロジェクトに貢献しています。メインのオフィスや基準となるタイムゾーンがないまま正式な会社へと発展することは、オープンソース プロジェクトの協力者にとって決して飛躍的な変化ではありません。

チョードリー氏の事例研究によると、GitLab の経営幹部は四半期ごとに会社レベルの目標と成果指標(現在、「OKR」として広く使用されているもの)を設定しています。しかし、この目標をどの程度厳密に達成するかは、個々のチームに委ねられているのだそうです。

非同期で働くことを認めるのは、部下に対する管理職の信頼が全社規模で試されることでもあります。直属の部下を事細かく管理しないように注意する程度なら、それほど難しくないかもしれません。しかし、会社としてのマイルストーンを目標として定めた上で、バラバラのタイムゾーンで働く社員全員が予定どおりにマイルストーンを達成できると信じて干渉しないようにすることは、それとは違うレベルの問題です。

ただこれには、すぐに期待できるメリットもあります。それは、ただそこにいるだけで生産性を発揮しない「プレゼンティーイズム」を行う動機がなくなることです。米国の漫画「ディルバート」に描かれるような、9~5 時で出勤して忙しそうにしつつ、実際にはろくに仕事をしないという実質的なサボりが通用しなくなります。

GitLab では社員に対し、担当のタスクを「Minimum Viable Change(最小単位の変化)」と呼ばれる単位に分割することを推奨しています。これは、ある仕事について、下流工程でのレビュー、承認、使用に必要な最低限の作業だけを実施し、それを時間をかけず次の担当者に回すことを目的としたものです。たとえ数行のコードや 1 段落分の文章でも、今すぐ納品できるのなら全体が完成するまで待つよりはいい、という考えに基づいています。このアプローチでは作業の流れが停滞しないので、お互いの作業について問題点や疑問点、課題を早い段階で指摘できるというメリットが得られます。 また GitLab では、ミーティングは「3 回躊躇してどうしても同期型のビデオ会議が必要だ」となるまでは、明確に非推奨とされます。

2. すべてを自動化する

これは、地球上の人類をロボットに置き換えるという意味ではありません。ワークフローを構成する決まった手順を自動化する、つまり、処理を次に進めるために 1 人の作業者が別の作業者の関与を必要とする場所を見つけ出し、排除することを指します。「タスクを続行するために人物 A が人物 B から言葉をもらう必要がある」、あるいは「人物 B が何らかの操作をしなければ、人物 A の結果を次の段階に進めることができない」といった場面は、非同期の働き方を阻害する大きな要因となります。

ソフトウェア エンジニアというのは、ワークフローを見たら自動化を検討せずにはいられない人たちです。コードのエラーを一瞬で自動的にチェックするようなツールが存在する、あるいは自作できるのに、なぜ他人がチェックし、ソフトウェア本体にマージするのを待つ必要があるのか?そのような疑問を抱かずにはいられない人たちです。

よくできた自動化ツールは高速であるだけでなく、人間よりエラーを起こしません。人間のように手が空くのを待つ必要はありませんし、作業に手間取ることも、忘れることもありません。チーム メンバーが世界中に分散して非同期で仕事をしていても、ワークフローが自動化されていれば、メールのやり取りに丸一日かかる、こちらの平日が相手の休日であることを失念して作業が滞る、などの問題に悩まされずに済みます。さらに、遠く離れたチーム メンバーから早朝や深夜もかまわず対応を求められて燃え尽きてしまうような事態も避けることができるでしょう。

自動化は以前から、ソフトウェア開発および IT サポートにおける「Continuous Everything(すべてを継続的に)」というアプローチの土台となっています。しかし、ほとんどの企業で社員によるセルフサービス化を実現できていない日常的なタスクはまだまだ少なくありません。

たとえば、ビジネス指標レポートの自動化は、社員が各地に分散している企業で全員の足並みを揃えるための強力なツールになります。ダッシュボード ツールを使うことで、週次のステータス レポートや全員参加のミーティングを廃止して、その代わりにアクセス権のある誰もが画面上でいつでもチェックできる統計情報や最新情報にしたり、問題発生時の通知を利用したりできます。社内で起きている良いことや悪いことを管理職が把握できるだけでなく、他部門の成果物を必要としている社員は翌週のミーティングを待たずに問題が発生しているかどうかを確認できます。

ダッシュボード ツールはオープンソースのものが数多く無料公開されているほか、Salesforce の Tableau などの商用ツールをカスタマイズする無料の機能も存在します。筆者は、アジアからオーストラリア、カリフォルニア、ニューヨーク、そして絵に描いたように美しいイタリアの村(ここには、弊社の優秀な社員が 1 人、ロックダウンで閉じ込められています)にメンバーが点在するチームに所属していますが、最新の状況を直接私に尋ねてくるようなメンバーはいませんし、その返答を延々と待たせることもありません。なぜなら、非公開のウェブ ページで、24 時間いつでもトラフィックの統計情報やシステム ステータス、気軽なメモをリアルタイムで閲覧できるからです。 GitLab のソフトウェアは、変更やコメントの投稿、あるいは遠方のチーム メンバーが伝え忘れたその他のイベントが発生したときに自動で Slack に情報を投稿するよう設定できます。

3. すべてを文書化する

GitLab において、コミュニケーションを非同期に保つのと同じように重要なのが、コミュニケーションを社内で公開し、他の社員がそこから学べるようにしておくことです。その一環として同社は、社員向けハンドブックを作成、管理しています。社員向けハンドブックといっても、人事部が制作した誰も読まないような手引きではありません。社員自身が共同で作成する全 1 万ページ以上の大作で、全社員が作成に参加することを求められます。何か疑問がある場合は、まずこのハンドブックを検索するのです。

このハンドブックは Wiki のように誰でも自由に編集できるものではありません。各セクションには、その部分の管理と変更依頼のレビューを担当する社員が割り当てられています。それはちょうど、プログラマがソースコードに対する変更を取り込む前に内容を確認するのと同様の仕組みです。この方法は、「去年のいつだったか、その話題が出てたから検索してみて」と Slack を検索するように促すよりもよほど秩序立ったやり方であり、情報も整理されています。

GitLab では、Slack や Google ドキュメントなど共同作業向けに開発されたツールではなく、オープンソース ソフトウェア プロジェクトのためのコラボレーション システムとして始まった自社製品を使用しています。ただ、同社にとって重要なのはどのツールを使うかではなく、重要な情報を誰でも必要なときにいつでも入手できるようにすることです。不慣れな状況や予期せぬニーズに直面した社員は、社内で推奨される対処法をハンドブックで検索でき、仮に答えが見つからなかった場合でも、相談すべき相手を見つけることができます。

欧州のビジネス スクール INSEAD の博士研究員マルコ・ミネルヴィニ氏は、共著者を務めた事例研究でこの「ハンドブック ファースト」のアプローチについて分析しています。それによると GitLab の新入社員は、最初の 1 週間、特定の仕事を任されるのではなく、「GitLab 流の働き方を学ぶように」と言われます。これには、ハンドブックを読み込んで内容に親しみ、読者の立場と協力者の立場の両方で将来的なニーズに対応できるよう準備することが含まれます。新入社員は、社内におけるコミュニケーション方法についての長大なガイドを暗記することを求められているのではありません。その方法がハンドブックに書かれているということを知る必要があるのです。

「この知識労働の価値は過小評価されています」とミネルヴィニ氏はハンドブックについて述べています。ナレッジワーカーが業務遂行のために必要とする学習の量と、社員の学習をスピードアップするドキュメント作成の時間を天秤にかけた場合、ほとんどの企業には「改善の余地が大いにあります」とミネルヴィニ氏は指摘します。

常に文書化し、情報を最新の状態に保つ習慣は、非同期で仕事をするチームを調和させ、共同作業を軌道に乗せるために欠かせないとチョードリー氏も同意します。同氏による GitLab の事例研究では、論点を明確にするために次のような架空の例を紹介しています。社外向けのポッドキャストで何か話すように依頼された社員が、事前にハンドブックを調べたものの、広報上の失敗を防ぐためのガイドラインを見つけられなかったために、重要な情報を外部に漏らしてしまった、というものです。文書化が徹底されていれば、このような問題は起きなかったかもしれません。

GitLab ではハンドブック以外でも、日々の意思決定やステータス レポート、ミーティングの議題や結論、プロジェクトの進捗状況、発生した問題とその解決策などを文書化しています。そのため、社員は急ぎの質問やそれに対する端的な回答をオンラインで参照できるようになっています。社員は文書化の作業に多くの時間を取られますが、このように情報をまとめておくことはワークフロー全体のスピードアップにつながっています。

GitLab のミーティングは録画されるので、必ずしもそこで発言する必要のない社員は、ミーティングを欠席して後から自分の都合のいいタイミングで録画を視聴できます。またハンドブックでは、「ミーティングの時間を無駄にしないためには、文書化することが重要である」とミーティング出席者にメモを取ることを促しています。社員は、仕事に関するリアルタイムの対話の結論をすべて書き残しておくことを求められているのです。

GitLab がマーフ氏を雇用したのは、多作のライターであることだけが理由ではありません。マーフ氏は、テレワークへの移行とその管理についての詳細なガイドを執筆した啓蒙家でもあります。社員全員が優れた「ドキュメンタリー作家」になれるよう啓蒙することが、マーフ氏に課せられた使命の 1 つです。

幅広い情報を文書化するという行為を、全社員がいつでも本能的に行えるようにする必要があるとチョードリー氏は話します。「オフィス ワークとテレワークのハイブリッド環境であっても、テレワーク ファーストで仕事をしなければなりません。オフィス勤務の社員や、たまたまオフィスに出勤している社員も、テレワークで働いているように振る舞い、テレワークの場合と同じように物事を文書化する必要があります。」

オフィス勤務型の企業はテレワークに移行できる?

こんなジョークを耳にしたことがあるでしょうか。ある会社の社員全員が新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種した後、全社員を対象にした Zoom 会議で CEO がこう言います。「これでオフィス勤務に戻っても大丈夫になったわけですが、今後も出勤は週 1 日のみとします。」 社員たちの拍手が止んだ後、CEO はこう続けました。「出勤日は木曜日です。それでは皆さんよろしく。」

ミネルヴィニ氏に言わせると、この CEO はオフィスの賃料を支払い続ける理由をきちんと理解しています。「本来ならば、スタッフ同士が曜日を調整する必要があると思います」と同氏は言います。仕事を進めるために他の人との共同作業を必要としている社員やチームが、同じ日にオフィスに出勤する必要があるということです。社員たちが本当に望んでいるのは、「邪魔をされずに仕事ができる、人の少ない自宅以外の場所」なのかもしれませんが、それはまた別の問題です。

オフィス ワーカーとテレワーカーをうまく共存させることは、2021 年になって人事担当者の間で広く話題になっているテーマです。しかし、GitLab のスタンスが揺らぐことはありません。それを試すこともしないのです。マーフ氏は言います。「この数十年の間、テレワーカーは賞賛や昇進の機会が少ないことや情報に十分アクセスできない状況を受け入れてきました。それはコミュニティや家族との時間を重視していたからです。コロナ禍以降の世界では、テレワーカーにとっての選択肢が増えることになるでしょう。他により良い選択肢がないという状況でない限り、トップクラスの人材が旧来の働き方を選ぶことはなくなると思います。」

では GitLab は、より良い選択肢を提供するためにどのような工夫をしているのでしょうか?マーフ氏によると、GitLab では、会社が成長していく中で一般社員と経営トップのつながりを保つために多大な努力をしています。

会社が規模を拡大していくにつれ、経営陣は以前よりも頻繁に全社員からの質問を受け付ける機会(AMA)、反復的なアプローチについて話し合う機会、グループ対話の機会を設けるようになっています。社員はこのような場を通じて、同期(ライブの AMA の場合)または非同期(ミーティングの招待状に添付された Google ドキュメントに事前に質問を記入)で経営幹部と交流する機会を得ています。

オープンソース ソフトウェアの開発や DevOps の取り組みは技術系スタッフの間のボトムアップのアプローチでうまくいくものの、企業がテレワーク ファーストへの転換を成功させるためには、経営トップがその価値を信じることが必要だとミネルヴィニ氏は言います。ただしそれで十分というわけではありません。「組織編成の変革に加え、適性のある人材を選ぶことも重要です。GitLab では、新規採用する人材に勤務形態は完全テレワークであることをあらかじめ周知しているほか、人事担当者の選考は一般社員よりも手をかけて慎重に行っています」(ミネルヴィニ氏)。

実際、ミネルヴィニ氏が調査した、完全テレワークで一定の成功を収めているいくつかの企業では、一般的な企業よりも多くの面接や事前チェックを実施し、場合によってはテレワーク チームへの順応性を測るテストも行っています。それでもなお、高い離職率に悩まされるケースが少なくありません。社員と雇用主の双方が現在も模索を続ける新しい働き方に、新入社員がなじめない、あるいは次第に不満を感じるようになる、という場合が珍しくないのです。

テレワーク ファーストへの転換に成功した大企業も、これから多数の離職者を出すことは確実だとミネルヴィニ氏は予測します。ここでも、問題となるのはやはり人材の選考プロセスです。企業がオフィス勤務を前提に雇用した(そしてその企業を選択した)人材の多くは、同じ仕事をテレワークで行うのに最適な人材とはいえません。その観点では、「人員の減少は必ずしも問題にはなりません」とミネルヴィニ氏は説明します。

朗報と言えるのは、複数の人事マネージャーが「テレワーカーの離職が最も多いのは新規採用者とジュニアレベルのスタッフ」だとミネルヴィニ氏に答えていることです。勤務歴が長く互いをよく知るシニアレベルのスタッフは、テレワークへの順応性が高いということです。

いずれにせよ、選択肢は 1 つ

アメリカン フットボールの名選手トム・ブレイディのプレイブックを手に入れても、スーパー ボウルで勝てるとは限りません。同様に、上記を実践してもテレワーク チームが成果を上げられるようになるとは保証できませんし、テレワークを導入すればライバル企業に勝てるようになるとも限りません。

GitLab は非常にうまくやっていますが(先ごろ行われた IPO 前の株式売買の評価額は 60 億ドル)、それでも厳しい競争と同じ市場で圧倒的な資金力を持つリーダー企業の脅威にさらされています。完全テレワーク化だけで成功できると主張するのは、無邪気すぎるでしょう。

GitLab の今後はさておき、明らかなのは、今から 1 年後に多くの人が 9~5 時のオフィス勤務に復帰していることはないだろうということです。仮に新型コロナウイルス感染症が完全に終息していたとしてもです。テレワークと非同期の働き方には、捨て去るにはあまりにも惜しい多くのメリットと魅力があります。テレワークのあり方については今も模索が続いていますが、「すべてを自動化し、すべてを文書化し、常に非同期で仕事をする」ことが出発点になります。この方法を実践すれば、オフィス勤務の場合でも生産性が高まるはずです。

 

執筆者

Paul Boutin

ポール・ブーティン
ポール・ブーティンはエンジニア兼経営者として技術系のスタートアップ企業数社を渡り歩いた後、Wired や The New York Times などのメディアにテクノロジー主導の文化についての記事を執筆しています。長年の Dropbox ユーザーであり、単なる好奇心からではなく、1 つの生き方としてリモート コラボレーションを探求しています。

本ブログは、2021年3月に公開されたブログ記事の翻訳版です。