目次
- Amazon や Netflix、そして iPhone が日常生活に欠かせないものとなる以前、同じようなアイデアで新天地を切り開きながら定着に至らなかったサービスも
- Webvan が残した教訓から Amazon が得たもの
- 失敗から学び試行錯誤を繰り返せば、大きな成功をつかむことができる
- インフラが普及速度の鍵を握る
1. Amazon や Netflix、そして iPhone が日常生活に欠かせないものとなる以前、同じようなアイデアで新天地を切り開きながら定着に至らなかったサービスも
世界を変えるようなアイデアを持っていても、あるいは市場にいち早く参入できても、成功に結び付かないビジネスがあるのはなぜでしょうか?ときには、後発のビジネスが成功をつかむ場合もあります。
起業家が優れたビジョンを掲げているのに、時代が追いついていないというケースもあるでしょう。でも、アイデアは抜群なのに、ビジネスを軌道に乗せるために十分な集客がタイムリーにできなかったという場合はどうでしょうか。あるいは、資金調達やアイデアの先駆性よりも、もっと基本的なことが欠けている場合もあります。
1-1. 線路は列車と同じくらい重要である
Webvan がオンラインで食料品の注文を受けるようになったのは、1999 年のことです。高級食料品店 Whole Foods の品揃えをスーパーマーケット Safeway の手頃な価格で 30 分で玄関先に届けるサービスを目指していました。20 年経った今でも、魅力的な提案に思えます。投資家も、私のように出不精の食いしん坊も、大きな期待を寄せたのは無理もないことです。
1999 年の IPO で 3 億 7,500 万ドルを調達し、ピーク時には企業規模 12 億ドルにまで達した同社ですが、わずか 2 年後には 8 億ドルの赤字を出して破産申請することになりました。
現在、ほぼ同じようなビジネス モデルの Instacart は、20 億ドルの資金を調達し、企業価値は 80 億ドル近くにまで達しています。また、Amazon は食料品のデリバリーに非常に大きな可能性を見いだし、Whole Foods の買収に 134 億円を投じて、配達料金を引き下げることでデリバリーを利用する顧客の獲得に乗り出しています。
2. Webvan が残した教訓から Amazon が得たもの
では、なぜ Webvan は、ビジネス スクールで「間違った拡大方法」の事例として取り上げられてしまうほどに、華々しく失敗し倒産してしまったのでしょうか。
1 つの理由は、Webvan が先行者利益を得ようと躍起になりすぎ、自社の倉庫や発送設備の建設に何百万ドルもの資金を無駄に費やしてしまったことです。
一方の Instacart や Peapod Online Grocer は、既存のスーパーマーケットが持つインフラを利用してビジネスを展開しています。
Amazon は webvan.com のドメインを購入し、Webvan の元従業員を 4 人雇用して Amazon フレッシュの立ち上げに参加させました。Webvan が残した教訓から Amazon が得たものは、何だったのでしょうか。
ロイターによると、Amazon Robotics(旧 Kiva Systems)は、Webvan の技術を活用しています。この技術は、Amazon フレッシュの戦略において重要な位置を占めています。Whole Foods の買収によって Amazon フレッシュの事業は終了するという声もありましたが、デリバリー サービスは続き、今ではプライム会員向けの無料特典になっています。
インフラの弱さが事業展開に大きな影響を与えるのは、食料品を扱うスタートアップに限ったことではありません。
電気自動車市場の例を見てみましょう。ガソリン価格は高騰を続け、化石燃料の枯渇も心配される中、電気自動車の販売には拍車がかかるはずだと思うかもしれません。しかし、米国での電気自動車の普及は、中国やヨーロッパに比べて圧倒的に低いのが現状です。
Tesla の電気自動車には驚くほどの需要がありますが、売上は他の自動車メーカーに後れを取っています。理由の 1 つに、充電ステーション ネットワークの整備が予想よりも進んでいないという点があります。
このようなインフラは公共事業として整備すべきなのですが、この分野への投資は遅れています。米国とカナダには、電気自動車充電ステーションが 26,341 か所ありますが、公益企業が所有しているのはわずか 156 か所に過ぎません。ドライバーがいつでも充電できる場所が見つけられるようになるまで、この業界の視界不良は続きそうです。
<教訓 1>
適切な流通チャネルがなければ、いくら多くの専門家が賞賛したとしても、新しいアイデアは受け入れられない。
2-1. 時代の先駆者がアーリー アダプターを捉える
Netflix は、1.5 億人もの登録者を抱え、ビデオ ストリーミング界の代名詞に成長する以前、何度となく実証されていない技術をあれこれ導入しては試してきました。
同社は米国郵便公社を利用して、まず郵送による DVD レンタル ビジネスを立ち上げました。標準的なメディアがまだ VHS だった頃で、映画のストリーミング技術が誕生する数年も前のことです。
当初、DVD の郵送レンタルでは競合の Blockbuster が優勢に立っていると見られていました。Blockbuster はすでに実店舗で成功を収めていたからです。しかし Blockbuster は、新たなテクノロジーの可能性になかなか目を向けようとしませんでした。様子をうかがう Blockbuster を尻目に、Netflix は迷わず行動を起こします。
3. 失敗から学び試行錯誤を繰り返せば、大きな成功をつかむことができる
ビデオ ストリーミングへの転換は、Netflix にとって未来への投資でした。Netflix は AWS を基盤として、可能な限り早い段階からストリーミングを始めました。
当時を振り返る Amazon の導入事例によれば、「Netflix は AWS を使って、データベース、分析、おすすめを提案するエンジン、ビデオ トランスコーディングなどさまざまな機能を利用し、1,000 個ほどの Amazon Kinesis シャードを同時に実行して膨大な量のトラフィック フローを処理しました。」
こうしている間に、Blockbuster の経営は破綻してしまいます。皮肉なことに、2000 年代初頭に Blockbuster は Netflix をわずか 5,000 万ドルで買収するチャンスを逃していて、これが運命を決定づける判断となりました。2000 年代が終わる頃には Blockbuster は破産を申請し、Netflix は市場に君臨する道をひた走っていました。
教訓 2
インフラを拡張する方法によって、結果が大きく変わることがある。
3-1. 大きなビジョンにさえ盲点はある
90 年代初頭、2 つのチームが携帯情報端末(PDA)という新たな製品カテゴリで、革新的なデバイスの開発を競っていました。どちらも Apple 関連のチームでしたが、最終的に熾烈な開発競争を繰り広げることになります。
子会社の General Magic に所属する野心的で理想主義者のエンジニアたちは、Magic Cap という OS を開発しました(この OS を搭載した PDA は Magic Link の名前でソニーがリリース)。
一方 Apple の社内チームは、極秘に Newton を開発していたのです。スマートフォンが世界を変える 10 年以上も前に、これらの 2 つのチームは現代の Wi-Fi 環境の礎を築いたのです。
最近制作されたドキュメンタリーでは、General Magic のチームが先見の明のある優秀な人材で構成されていたことが記録されています。ところが、時代を先取りするアイデアも、それを物理的な製品に落とし込むのは簡単ではありません。
残念ながら、Fast Company が評しているとおり、「世界がまだ追いついていなかった」のです。
当時はまだ、世間がその必要性を感じることができませんでした。製品をつなげるネットワークは AT&T がすでに整備していましたが、製品を消費者の心につなげることができなかったのです。そして 1996 年には、AT&T が PersonaLink のサービスを終了するに至ります。
4. インフラが普及速度の鍵を握る
しかし失敗したメンバーたちの知見は、決して無駄にはなりませんでした。General Magic に携わった 1 人は、iPod の生みの親として、そして Nest の共同創業者としてその名を知られるようになりました。
General Magic という会社は主役の座を明け渡すことになりましたが、物語はハッピー エンドで幕を閉じたのです。
教訓 3
失敗から学び試行錯誤を繰り返せば、大きな成功をつかむことができる。
4-1. 軽量なインフラが迅速な普及につながる
Alexander Graham Bell が Thomas Watson にかけた電話が初めて通じたのは 1876 年の 3 月でした。しかし電話機が一般の家庭に普及するには、そこから 100 年の歳月を必要としました。一方、携帯電話はわずか 15 年で 96 % の普及率を達成しています。
普及の早さの鍵を握っているのは、インフラです。ケーブル テレビは 1948 年にサービスを開始していますが、国中の視聴者に届けるには大がかりなインフラが必要で、その建設には長い年月がかかります。こうした背景があるため、テレビ放送ほどは普及していません。
インフラが軽量であればあるほど、イノベーションが定着し発展していくことは、歴史が示しています。
その一例は、クラウドベースのソフトウェアです。これは、現代で最も普及の早いテクノロジーの 1 つです。ソーシャル メディアからリモートでの共同作業ツールまで、クラウド アプリはこの 10 年ほどの間に私たちのコミュニケーションや仕事の場所と方法を変えてしまいました。世界各地にいる、異なる時間帯の人々を結び付ける存在になっています。
教訓 4
インフラが軽量であれば、大きなアイデアはより大きく羽ばたくことができる。
4-2. 新たな巨人となるか、目の前にいる巨人の肩に乗るか
最近は、5G や AI が可能にするスマート テクノロジーの話題であふれています。しかし、こうした要素は本当に便利なイノベーションを生み出すでしょうか。それとも、ただ目新しいだけで誰も必要としないもので終わってしまうでしょうか。
歴史にその答えを求めるならば、「すでに根付いている基盤を足掛かりとして、生まれたての技術をさらに発展させることができれば、そのイノベーションは生き残る可能性が高い」といえるでしょう。
気候変動など喫緊の課題の解決に向けて進むためには、既存のインフラの多くを調整、更新、変革する必要があります。
科学者が太陽電池の効率を高める新しい方法を生み出すなど、再生可能エネルギーには期待が寄せられ続けていますが、普及を妨げている 1 つの要因は、電力を備蓄する効果的な装置がなかったことです。
しかし今、リチウムイオン電池の容量を 10 倍に増やす技術が開発されようとしています。野心的なスタートアップの Energy Vault などは、再生可能エネルギーを 24 時間連続して安定供給できる方法を開発しています。
「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」の著者は、イノベーションとは、何もない空間から突然生まれるのではないと話しています。頭の上で電球が光るような突然のひらめきも、しっかりとした電線がその電球につながっていなければ、光はすぐに消えてしまうでしょう。
教訓 5
試行錯誤やインフラは、イノベーションと同じくらい重要である。
執筆者について
ドリュー・ピアースは、Dropbox のブランド マーケティング チームでコンテンツ ストラテジストを務めています。