TED の講演では、斬新な建築、地球規模の変化に向けた構想、革新的なテクノロジーのデモなど、今後数十年に及ぶ壮大な構想がよく取り上げられます。
TED2019 もそうした野心にあふれていましたが、一方で現実主義的なテーマもありました。
今回は、さまざまな分野の TED スピーカーが勧める、より良い未来を築くために今すぐ実践できる 3 つの具体的な行動をご紹介します。
目次
1. 考え直す:スピードと効率にそれほど執着すべきか?
睡眠不足の驚くべきデメリットについて語る、
睡眠科学者マシュー・ウォーカー氏
より速く、より短時間で、より大きな規模でというのがテクノロジーの本質です。しかし、歴史家のエドワード・テナー氏は、こうした効率性が意図しない結果をもたらす場合が多いと問題を指摘しています。
19 世紀、アイルランドでは驚異的な技術革新によってジャガイモの生産が伸び、何百万人もの食料源として供給の安定と拡大が見込まれていました。ところが、生産拡大によってカビを原因とする疫病が蔓延し、ジャガイモの不作が何年も続いたことで大飢饉が起こりました。
テナー氏は「現代の効率性の問題はそこまで深刻ではないものの、より慢性的」と言い、電子カルテのようなデジタル ソリューションには想定外の副作用があると指摘しています。
デジタル ソリューションは概して大規模な組織には役立つものでしたが、小規模な組織にとっては、実は余分な作業を増やしてきたのです。
テナー氏によると、私たちは現代の映画や文学で確立されたルールにそぐわない想像力豊かな物語を、アルゴリズム的なツールを使って排除し無視しているのです。
また、より良い考え方は「インスピレーションに満ちた非効率」から始まると言います。「データと、それを測る物差しは大切ですが、それだけでは十分ではありません。人間の直感とノウハウを発揮する余地を残しましょう」という同氏の言葉は情け容赦なく効率を求める衝動を鎮めようというアドバイスかもしれません。「周りの景色に見とれて、思わぬ発見をするのも良いではありませんか。」
睡眠科学者のマシュー・ウォーカー氏も同様に、現代人は十分な睡眠を取ることをおろそかにしがちであると嘆いています。ウォーカー氏は、一連の研究成果から、睡眠が多少不足しているだけでも物忘れや学習効果の低下、自殺率やがん発生率の上昇につながることが実証されているとし、「今こそ、気まずい思いや怠け者の汚名を着せられることなく、一晩ぐっすり眠る権利を取り戻すとき」と主張します。
睡眠についてウォーカー氏は、カフェインとアルコールの量を減らすことで間違いなく効果があると述べ、さらに室温を下げて規則正しく寝起きすることを推奨しています。「室温を低めに保ち、摂氏 18 度くらいにしてください。そして毎日同じ時刻に就寝し、同じ時刻に起床します。規則性が最も効果を発揮するのです。決まった時間に睡眠を取ることで、睡眠の質と量を向上させることができます。」
2. 自問する:本当に目指すものとは?
Twitter が変えるべきことについて語る、
CEO ジャック・ドーシー氏
Twitter の創業者兼 CEO であるジャック・ドーシー氏は、同社を初めて成長の軌道に乗せたとき、目立たせる指標をチームでいくつか選びました。
これまで Twitter にはフォロワー数が大きな太字フォントで表示され、ユーザーの自己顕示欲をあおっていました。また、「お気に入り」(後の「いいね」)の機能が組み込まれたことで、ハートのアイコンをタップしてツイートに賛同できるようになりました。
今、ドーシー氏は、これらの決定が正しかったのか疑問に思っています。
「このサービスをもう一度始めるとしたら、おそらくフォロワー数はそれほど強調しないでしょう」とドーシー氏は言います。「『いいね』の数もあまり強調せず、そもそも『いいね』は作らないと思います。この機能があっても、今私たちが最も重要だと考えている、コミュニティへの健全な貢献にはならないからです。」
Twitter 創生期のチームが選んだこれらの指標は、今日の Twitter に大きな影響を与えました。同社は今、嫌がらせを封じ込め、毒のある発言を健全な会話に換えようと奮闘しています。ドーシー氏は、単なるフォロワー数、「いいね」やリツイートの数ではなく、人々が学んだことや感じ取ったことを測る新しい指標を構想しています。
偽情報問題の専門家クレア・ウォードル氏も同様の問題について取り上げています。ほとんどのソーシャル ネットワークは超理性的といえるエンジニアが構築していますが、多くのユーザーが同じように考えているとは限りません。
同氏は、「人と情報との関わりは理性的なものではなく、感情的なものなのです」と言います。嘆かわしいことですが、つまり、ソーシャル メディアで最も効果のある投稿は、怒りや憤りをかき立てるものであり、思慮深く建設的な書き込みが同じように私たちの心をつかむことはない、ということです。
指標は常に再評価する必要があるという点で、ドーシー氏とウォードル氏の意見は一致しています。目標の数字を達成したと言っても、その数字自体は正しいものでしょうか。実際は社会や人間関係に害を及ぼすようなことを自画自賛しているかもしれません。同じことは個人にも当てはまります。あなたはどこに時間とお金をかけようとしていますか?その最終的な目的は何でしょうか?
3. 交流する:自分の殻を打ち破った先に
慈善団体への寄付と満足感について語る、
幸福学研究家エリザベス・ダン氏
スマートフォンとインターネットの出現により、人と人とがつながる方法は増える一方ですが、いろいろな意味で、テクノロジーは私たちの孤立を深めてきました。人は、血が通わず人間味のないオンライン フォームで慈善団体に寄付をし、幸せを装った虚像をソーシャル メディアに映し出しながら孤独に浸ります。
そして社交の場では、ロボットのように当たり障りなく振る舞い、いつも変わらず一歩下がって礼儀正しさを見せます。
3 人の TED スピーカーは、このような行動に疑問を投げかけています。
幸福学研究家のエリザベス・ダン氏は、慈善団体に寄付をしても満足感は得られないと述べています。ダン氏自身もこれまで、名の知れた著名人やテレビでよく見る有名な慈善団体に寄付をしていましたが、かねてから支援していた移民の家族に実際に空港で会ったときに初めて、他人に手を差し伸べることで得られる人間的な満足感に気づいたのです。
慈善団体は寄付をした人にペンやカレンダーのお礼を送るのではなく、寄付による具体的な影響を確かめる機会を提供してほしいとダン氏は言います。
そして寄付をする人々に対しては、できれば受ける側の人を見つけて面会するよう勧めています。
脚本家、作家、アーティストとして活躍するジョニー・サン氏も、胸に秘めた孤独を他人とシェアしよう、という心のこもったメッセージを伝えています。
悲しい、怖い、淋しいという気持ちを誰かがシェアしてくれると、私は淋しさを少し紛らせるのです。
ー ジョニー・サン氏
サン氏は、2017 年に漫画の作品集を発表しました。作品を通して自分の不安な気持ちを率直に語っていますが出来上がった漫画は温もりのある楽天的なものです。サン氏の漫画には愛らしく不格好な森の生き物が登場し、多くの読者をほのぼのとした気持ちにさせています。
3 人目の紛争解決仲介者プリヤ・パーカー氏は、日常の社交的な集まりについて見直すべきだと主張します。こうした集まりは元々「優れた議論を育む」ことを学ぶ場でしたが、誕生日パーティーやベビー シャワーのような集まりは、ほとんどが既成概念となりすぎて意外性に欠けるとパーカー氏は嘆いています。
最高の集まりは優れた論争を育むことを教えてくれます
ー プリヤ・パーカー氏
これからは「意見を言うのではなく物語を聞く」というような「即席ルール」を確立する、あるいは会場で最初にスマホのメッセージをチェックした人が食事代を払うという夕食会を開くなどもいいかもしれません。
人は自分の安心領域から引っ張り出されたときに新たなつながりを持つことができ、そのつながりには心地よい驚きがあります。
私たちは、最高の状態で集まることによって、自分のことをお互いに知ることができます。集まることの醍醐味は生きることの醍醐味だからです。ー 自身の経験から語るパーカー氏