アイデア出しやアイデアの整理に困ったことはありませんか?そんなときに便利なのが、KJ 法という方法です。KJ 法はバラバラに存在している思いつきを整理して、ロジックを組み立てるのに有効な手法として広く用いられています。
簡単に用意できるものだけで手軽に始められるのも魅力で、やり方を覚えるとさらに効率よく思考の整理ができるようになります。
企画書やプレゼン資料など、これまで現場でアイデア出しに何度も KJ 法を活用してきた筆者が、実体験に基づいた KJ 法の基礎知識と手順の解説をします。フリーソフトでさらに簡単に KJ 法を実践するためのツールも紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. KJ 法の基本
2. KJ 法を実際にやってみよう
3. KJ 法の実践に役立つ便利なツール 3 選
4. まとめ
1. KJ 法の基本
1-1. KJ 法とは
KJ 法は、付箋など小さなカード上の紙に思いついたことを書き、それをグループ化していくことで頭の中にある思考をまとめ上げていく手法のことです。考案者である川喜田二郎さんという東京工業大学の名誉教授のイニシャルをとって、KJ 法と名づけられました。
アイデアというのは頭の中に散らかった状態で生み出され、保管されるという前提に立ち、それをいかに整理してひとつの考えにまとめていくかが課題であり、KJ 法はその整理と視覚化に役立つとされています。
初めて KJ 法が世に発表されたのは 1967 年で、川喜田氏の著書「発想法」の中で効果的な研究・研修方法であると紹介されました。
1-2. KJ 法の基本的な考え方
バラバラで法則性がなく、相互の関連性もよく分からない状態の「思いつき」は頭の中に無数にあります。まだ思いつきに過ぎない事柄の数々から法則性や関連性を見出し、まとめていくことで有用なアイデアへと昇華させることができるというのが、KJ 法の基本的な考え方です。
その方法は極めて原始的です。思いつきという形で頭の中に浮かんださまざまな事象をカードに書き出していき、それをたくさん並べてそれぞれの中で同じカテゴリーに属するものをグループ化していき、それ以上はまとめられないというところまでグループ化した時点で、それぞれのグループに集められたカードに書かれている内容をつなげていくと「いくつかのアイディア」があぶり出されるという具合です。
原始的であるがゆえに手軽で取り組みやすく、考案された当初から多くの企業などで実際に用いられています。
1-3. ブレインストーミングとの関係
KJ 法のように思いつくままにアイデアを書き出していって、そこからまとめ上げていくという作業は、あるアイデア手法と相通じるものがあります。それは、ブレインストーミング(ブレスト)です。
ブレインストーミングは参加したメンバーが自由に意見を出し合って記録していき、そこからよいものを抽出するという手法です。散在している思いつきをアイデアに昇華させていくという手順は KJ 法と同じなので、ブレインストーミングの流れで KJ 法を活用することもできます。
メンバーがそれぞれの思いつきをカードに書き込み、それを机の上に並べてグループ化していけば、ブレインストーミングと KJ 法のそれぞれよいところをいかしたアイデア会議が成り立ちます。
1-4. KJ 法のメリットとデメリット
1-4-1. KJ 法のメリット
KJ 法が持つ最大のメリットは、アイデアに詰まったとき、困ったときに「ひねり出す」という感覚で効率よく頭の中の思いつきを可視化することができます。筆者の経験上、本当にアイデアに困ったというときの奥の手として利用して何度もピンチを救ってくれたことがあります。
同じカテゴリーの付箋やカードをグループ化していくという作業を通じて、丁寧にロジックを組み立てていくことができます。いわゆるロジカルシンキングによって組み立てられたアイデアはロジックが破綻しにくく、より説得力の高いものになります。
もうひとつ、KJ 法を利用することによって自分の頭の中やメンバー内にある少数意見を考慮できるというのもメリットです。少数意見なので全面的に採用する必要はないかもしれませんが、それを考慮することによってよりブラッシュアップされたアイデアを組み立てることができます。
1-4-2. KJ 法のデメリット
原始的な作業で頭の中の思いつきを整理しやすい KJ 法ですが、原始的であるがゆえに付箋やカードを用意する作業など、手間がかかるのは KJ 法のデメリットです。このデメリットについては、フリーソフトやアプリなど便利なツールを使うことによって解消できます。
また、書き出していく思いつきというのがすべての事象を網羅しているわけではなく、複数のメンバーでやる場合であってもメンバーによって出される思いつきが偏りがちです。複数の人でやってもそうなるのですから、1 人でやるとさらに偏りが出やすくなるでしょう。
このデメリットについては、「人のやることなので完全ではない」ということを念頭に置いておく必要がありそうです。
1-5. 意外に広い KJ 法の活用範囲
ここまで、KJ 法についてアイデアをまとめ上げるための手法という視点で解説をしてきました。しかし KJ 法はそのためだけに考案されたものではなく、散在している情報や部分的な情報だけでは全体が見えないものに対する解決アプローチとしても利用可能です。
生産性が上がらない製造現場で原因をあぶり出す場合や、売り上げが落ちてしまった商品に対するテコ入れなど、問題解決にも KJ 法は広く利用されています。
2. KJ 法を実際にやってみよう
実際に KJ 法でアイデアをまとめ上げていく作業を、時系列で解説します。初めて実践する方は、以下の手順通りに KJ 法を進めてみてください。
2-1. 準備するもの
KJ 法でアイデアをまとめ上げていくには、思いつきを書き出していくための付箋が必要です。次章ではパソコン上でそれを行うためのツールをご紹介しますが、ここでは敢えて付箋またはカードを使ったアナログ的な方法で進めたいと思います。
そこで、ポストイットなどの付箋または同じ大きさのカードを数十枚用意してください。あとは、この付箋に思いついたことを書き込むペンだけあれば準備完了です。
2-2. KJ 法を進める 4 つのステップ
2-2-1. アイデアの書き出し
アイデアをまとめたいテーマに関連のあることで、思いつくことを 1 枚ずつ書き出していきます。頭の中にある発想だけでなくても構いません、ネットで調べて出てきた情報であっても自分で書き出しておきたいと思えるものであれば、何でも OK です。
複数の人でやる場合は、お互いが書いているものを見せ合いながら楽しむイメージで書き出していくとブレインストーミングのように考えが浮かびやすくなります。
こうして書いた付箋を、机の上に無造作に並べていきます。現段階で机の上は以下のような感じになっていると思います。
この時、並べられていく付箋にどんなことが書かれているのかを眺めてみるとアイデアの全体像を早くつかめるようになるので、関心を持って眺めることを意識するとよいでしょう。
2-2-2. アイデアの分類
次に、KJ 法の肝であるグループ化をします。たくさん並んでいる付箋の中で内容が似ているもの、同じカテゴリーに属すると思われるものをグループでまとめていきます。このときの視点は主観的なもので構いません。
このときに注意したいのが、どのグループにも属さない付箋の存在です。無理にどこかに含めようとせず、そういう付箋はグループから外しておきます。
この作業を終えると、机の上はこのような感じになります。
2-2-3. 表札をつける
グループ化をした次は、それぞれのグループに表札をつけます。そのグループに名前をつけるとしたら?という思考で一番上に表札をつけていきます。図では便宜上違う色で表記していますが、これは同じ色の付箋でも構いません。
2-2-4. 分類を視覚化する
いよいよ KJ 法での作業はクライマックスを迎えます。グループ化をした分類をした付箋群ですが、このグループ同士にも一定の関連性が見られると思います。ひとつのテーマから派生している思いつきなので、そうなるはずです。
そうした近い関係にあるグループを隣同士に並べて、可能であれば全グループが同じところに隣り合わせになるように関連性を見出していきます。
図のように矢印で関係性を表現したり、2 重線で対等な関係を表現したりするとより全体像が見えやすくなります。この図では外れた付箋以外の全グループを関連づけていますが、関連が薄いと判断したグループはグループごと外しても構いません。
こうした関連性の見出し方は、マインドマップの手法とよく似ています。「今すぐマインドマップを作成できる基本テクニックとおすすめアプリ 6 選」ではマインドマップの作成をこの記事のように時系列で解説していますので、考え方の参考にしていただければと思います。
2-2-5. アイデアをまとめる
最後に、それぞれのグループの付箋に書かれている言葉をできるだけ使いながら、グループごとに 1 つの文章につなげていきます。グループ同士で関連性がある場合は、大テーマから小テーマへと流れていくことを意識しながらグループ間でも文章をつなげます。
図のような矢印が引かれていることに従うと、左上のグループが大テーマを担い、そこに矢印が向かっているところが小テーマとなります。そして右上のグループは大テーマの情報を補完する補足情報という位置づけです。
この順序に従って文脈が通るように清書すると、KJ 法で導き出されたアイデアが形になっているはずです。
2-3. KJ 法を成功させる 3 つのコツ
2-3-1. 無造作に並べられたカードから全体像をつかむように努める
敢えて手作業でカードを無造作に並べるというのも、実はひとつのポイントです。カードに書き出すという作業も含めて、考えたことを形にしていくのは脳が活性化されるだけでなく、思考をより強く認識できるようになります。
机に並べられたたくさんのカードを見て、そこから何かを感じ取るように努めると、先入観などに邪魔をされることなく考える機会が得られます。慣れてくると最初にカードが並んでいる段階でアイデアをイメージできるようになるので、この作業を大切にするのは KJ 法のコツです。
2-3-2. どのグループにも属さないカードを少数意見として取り扱う
前述の作業で、どのグループにも属さなかったカードがありました。実際にやってみるとこうしたカードは必ず存在するので、これを少数意見と見なすことができます。
ただし、少数意見というのはあくまでもマイノリティ的な存在なので、それを中核にすえる必要はありません。アイデアを練り上げていく際に意識するという程度の扱いで十分です。
大切なのは、最初から「これは荒唐無稽だ」と門前払いをするのではなく、内容に目を通して頭の片隅に置いておくということです。
2-3-3. グループ化に納得できない場合はやり直す
カードをグループ化する作業は、一度で完成するとは限りません。グループ化してみたものの、何か違うと感じる場合は何度でもやり直して構いません。その結果、グループの分け方が変わったり、それまではグループに入っていたものが外されるということもあります。
何度もグループ分けをやり直すごとにカードの構成が変わるのであれば、それはアイデアがブラッシュアップされていると解釈してよいでしょう。
2-4. KJ 法でアイデアをまとめた 3 つの実例集
KJ 法によるアイデア整理が実際に行われた事例を見てみましょう。いずれも複数の人たちによって行われた KJ 法によるブレストの結果です。
2-4-1. 芹橋地区におけるまちづくりの提案(立命館大学)
立命館大学の建築都市デザイン学科で行われた環境デザインに関するブレストの結果です。KJ 法によってアイデア出しと整理が行われ、以下のように整理されました。
2-4-2. 子供と携帯電話(信州上田夏季大学2009)
子供と携帯電話の関係について、起こりうる問題とその解決策が話し合われたミーティングの結果が KJ 法でまとめられています。
⇒ 【出典】[子どもと携帯電話]信州上田夏季大学2009「子どもと携帯電話」分科会
2-4-3. 釜石「魚のまち」懇談会
漁業という有力な産業があるにもかかわらず、十分にアピールできていない釜石市の問題をどうやって克服するかという会議が行われ、そこで出されたアイデアの数々が KJ 法でまとめられています。
3. KJ 法の実践に役立つ便利なツール 3 選
3-1. IdeaFragment2
KJ 法による思考の整理を念頭に置いて開発された Windows 向けのフリーソフトです。作者自身が「いわゆる KJ 法のようなことが画面上でできます」と述べている通り、机の上でやる作業をソフト内で手軽に実践できます。
3-2. せせらぎ
Excel 上で動くフリーの KJ 法ツールです。思考片と分類用という 2 種類のパーツを画面上に配置していくことで机の上で行う KJ 法の手順を再現できます。
⇒ せせらぎ
3-3. iCardSort
スマホで KJ 法に限りなく近いアイデア整理ができる iOS 向けアプリです。有料アプリですが、机の上で行う作業を忠実に再現しており(背景が木目調になっている凝りようです)、手作業と同じ感覚で KJ 法を実践できます。
4. まとめ
すでに考案されてから 50 年が経過しているほど古典的な手法となった KJ 法ですが、今もなお多くの企業などで活用されているという実績の豊富なアイデア技法です。名前だけを見るとどこか難しい印象も受けるのですが、ここまでお読みいただいて、実は簡単に今すぐ実践できるものであることがお分かりいただけたと思います。
KJ 法は 1 人やるのも、複数の人でやるのも、それぞれに意義があります。アイデアに困ったら、もしくはもっと秀逸なアイデアはないかとお考えのときに、この記事で解説した手順を用いてぜひやってみてください。