働き方改革に関する一連のブログ記事で、私たちは変わりつつある現代の仕事環境をつぶさに観察し、改善案としてよく挙げられる方法を検討してきました。
このシリーズのパート 1 では、生産性向上の神話に真っ正面から取り組み、より多くのことをより速くこなすことが社会常識として求められているにもかかわらず、経済的生産性の成長率がこの 30 年で最も落ち込んでいるのはなぜなのか、米国労働統計局(BLS)の調査結果を踏まえて検証しました。
パート 2 では、Dropbox が米国のナレッジ ワーカー 500 人以上を対象に行った調査をもとに、そこから得られた 4 つの大きな教訓に注目しました。
今回のブログでは、調査の結果をヒントに働き方を改善する 6 つの方法を探ります。
目次
- 葛藤にどう対処するか
- 燃え尽き症候群に注意
- 成功する職場とは
- 社員が活躍するために必要なもの
- 目的意識について
- これからの働き方
4-1. 方針
4-2. ツール
4-3. 社風
1. 葛藤にどう対処するか
現代のビジネスは、ますます複雑で流動的になりつつあります。仕事で必要となるソフトウェア ツールは増加の一途を辿り、モバイル デバイスが進化を遂げたことで、どこにいても仕事に追い回されるようになりました。組織で扱う情報はすさまじい速さで流れ、あちこちに分散していきます。
この新たな現実を踏まえ、現代の仕事環境で人々は対立する価値観の間で生じる葛藤にいかに対処するか、苦心していることがわかります。上司や管理職に頼るべきか、身近な仕事仲間に頼るべきかで悩んだり、自分の裁量で進める業務と相互に協力する業務のバランスで悩んだり、すでにある方法を用いるべきか、新しい方法に投資すべきかで迷ったりと、さまざまな葛藤が存在します。
葛藤そのものが悪いわけではありません。働く人々の多くが、相容れない価値観の間で適切なバランスを見出すことができたときに満足感を覚えたと言っています。葛藤は健全な範囲であれば、感覚を研ぎ澄ませたり、創造性を高めたり、問題解決に力を発揮します。ところが、葛藤をうまく乗り越えられないと、精神的に疲弊して気力がなくなり、仕事に実力を発揮できなくなります。
2. 燃え尽き症候群に注意
葛藤にうまく付き合えないのだとすると、その理由は何でしょうか?理由のひとつとして、社風に合っていないことが考えられます。プロジェクトを進める際に明確なルールを必要とする人もいますが、多くの組織では自発的で型にはまらない方法が好まれています。職場のツールが関係していることもあります。コミュニケーション アプリを通じていつでも連絡がとれる状態が、社内の常識になっていないでしょうか。誰にも邪魔されずに集中できる時間がもっと欲しいと思っている社員も、少なからずいるはずです。また、会社の方針が厳しくて、うんざりしている人もいるかもしれません。「勝手な離席禁止」が規則になっている組織だと、会議は開きやすいかもしれませんが、社員を縛り付けることにもなり、創意工夫に富んだ発想が得られにくくなります。
いずれの場合も、そのままでは社員は燃え尽きてしまうでしょう。極端なやり方を押し付けられると、人は重圧を感じ、自分には状況を変える力がないと思ってしまいます。与えられた緊張状態の中でほどよくバランスを取り、満足感を覚えるのではなく、決まったやり方で働き、行動し、考えるよう強いられてイライラしてしまうのです。さらに、意義ある仕事ができないと、自分には居場所がないと感じるようになります。
3. 成功する職場とは
反対に、葛藤にうまく対処できる社員は仕事で活躍し、気分が安定していることが多いようです。自分はさまざまな価値観をバランスよく受け入れている、自分なりのスタイルと自分の好みに合った方法で働けている、ということを自覚できているのです。仕事を意味のある大切なものとして捉え、魅力を感じているのでしょう。
さらに、仕事を意味あるものと捉えている社員は、満足度が高いだけでなく、優れた成果を生み出す傾向があります。こうした社員の多くは、「仕事をきちんとこなすために、ゆとりを持って臨んでいる」ようです。その結果、さらに効果を高めて、自分にとっても会社全体にとっても、より良い状況をもたらしているのです。
バランスのよい状態とは、「ワークライフ バランス」よりもさらに高い次元で双方の充実を図る「ワークライフ インテグレーション」にほかなりません。回答者の中には、これを仕事と私生活の比重をまったく同じにすることを求める基準と捉えている人がいました。しかし、「ワークライフ インテグレーション」はもっと包括的な考え方です。仕事と私生活が対立しないようバランスをとるだけでなく、仕事そのものの「中」でも、物事が対立しないようバランスをとろうという考えです。
4. 社員が活躍するために必要なもの
仕事に満足している社員の間では、決まって職場における主体性が話題になります。この会社では、変化を自由に起こせる、自分だけの働き方を選べると感じている社員は、葛藤にうまく対処できる傾向があります。身動きができないと感じている社員とは異なり、生活や状況が変わっても順応することができます。社員の主体性は、次の 3 つの領域に見ることができます。
4-1. 方針
方針は職場の必要悪です。邪魔になることもありますが、なければ物事を系統立てて進めることができません。ただし、融通があまりにもきかず、何事も杓子定規だと、社員の間に不満がたまりかねません。
実際、今回の調査でも、業務上必要でない場合でも自席にいることを求める会社の方針があるという回答や、管理職が多すぎて、ちょっとしたことを決めるのにも大勢の承認が必要になる、という回答がありました。
会社の方針のせいで葛藤が生み出されているかどうかを見極めるには、いくつかの問いかけでわかることがあります。たとえば「方針は神経質すぎないか?ごく一部の極端な事例のために作られたものではないか?」「方針が作られたのは、会社が今よりも小さく、組織形態が違っていた何年も前のことではないか?」などと問いかけてみます。いずれの場合も、社員の中には、こうした方針のために、スケジュールや方法、日常業務のフローに重要な変更を加えようという気持ちをくじかれている人がいると思われます。
次に、会社の方針が社員に自由裁量権を与えているかどうかを考えることが大切です。社員よりも組織に権限を与えているのでは意味がありません。優れた方針とは、やっかいな状況にある社員の力になったり(社内のいやがらせを内密で報告する方法など)、混乱時の指示を明確に示すものです(危機的状況でどうすべきかなど)。ところが中には、社員の行動を制限して、全員を管理下に置こうとするだけの方針もあります(勝手な離席を禁止するなど)。方針の目的が社員を「支配する」のではなく「会社の力にする」ことにあると、社員は何かに縛られているのではなく、守られているという気持ちになります。
4-2. ツール
ナレッジ ワーカーは勤務中、スマートフォン、モニター、タスク管理ツール、営業成績追跡ツール、冷水器や椅子に至るまで、実に多種多様なツールを使います。メモ用アプリなど、社員が自分で選ぶツールもありますが、それ以外は、会社がツールを標準化しておく必要があります(各種手当を請求するための HR ポータルなど)。
職場のツールは、社員が手段を得るためのさまざまな機会を提供するためのものなので、シンプルなものから多機能なものまで幅広く揃えることが必要です。社員は、好きなメーカーのノート パソコンを選べますか?業務上の必要に応じて、アップグレードを申請できますか?仕事中に座る椅子については、どうでしょう?デスクワークは何時間ですか(週に何日くらいですか)?ソフトウェアは豊富に揃っていますか?好きなツールを選んで、ユーザー登録することができますか?どの程度、自由に選べますか?
さらに突っ込んだ質問をしてみましょう。会社が大きな変化を必要としているとき、社員の意見はどの程度考慮されますか?どの機能を最も優先すべきでしょうか?ツールはできるだけコストを抑えて組織全体へ簡単に展開できますか?雇用形態や働き方にかかわらず、社員全員がツールを利用できるようになっていますか?社員がチームで協力しあい、効率よく仕事に打ち込めるような体制を築けていますか?
これらすべての質問への回答を社員から得るのは難しいかもしれませんが、調査の結果、回答者のほとんどが、時に主体的に関わりたいと少なからず思っていることがわかりました。誰もが方向転換したり、何か違うことを試せる機会が定期的に欲しいと考えているのです。
今回の調査を指揮したジェニファー・ブルックは、職場のツールに関する葛藤を次のように説明しています。
仕事や社員を機械に例えてみましょう。機械であれば調整し、うまく使いこなし、修理することも可能です。しかし、どんなに順調に動いている機械でも、壊れることはあります。会社が事業の拡大、利益、売上を何よりも優先し、社員を人として扱わなければ、彼らは簡単に壊れてしまいます。壊れたものに対してできることは、当然限られてきます。診断するか、直すか、それとも捨ててしまうかです。普通の社員が、職場で使うツールの開発や選定に関われることはめったにありません。しかしこうしたツールは、業務で活用されてこそ意味があるのです。
職場で使うツールが日々増え続ける中、人間性を念頭に置くことがいっそう大切になっています。ツールは現在もこれからも、仕事をより良くするものでなければなりません。自分の人間性が無視され、プロセスが無菌の実験室や組み立てラインのようになっていけば、誰でもイライラして怒りっぽくなるものです。新しいテクノロジーを採り入れるときは、社員の気持ちや反応を人間として考慮し、それに合わせた方法で導入すると、期待していた効果が得られます。
4-3. 社風
社風は根強く、簡単には変わりません。長い年月をかけて築かれたものが多く、創業者や社歴、人材採用の傾向など、さまざまな要素が影響しています。方針の見直しやツールの入れ替えができたとき、新しい方針やツールが社員の過半数に受け入れられることで、頑固な社風もようやく少しずつ変化していくのです。
回答者に社風について聞いたとき、話題になったことがいくつかあります。たとえば、社員は土日祝日関係なく、24 時間 365 日働けると思われている、という回答がありました。その会社では、プロジェクトを成功させるために日曜の朝のメールや夜中の対応が求められたそうです。これ以外にも、前例に基づいて業務を進めようとする傾向がある、つまり「これまでどおりの方法」でやりたがるという回答もありました。社風と根本的に相性が合わないと、社員は自分は役に立たない、無視されていると感じることが多くなります。
社風を変えるのはなかなか難しいものですが、まずは社風をよく知ることから始めてみてはどうでしょうか。自社の傾向がわかれば、自分とは仕事のやり方がまったく違う同僚がいても、いちいち気にせず、逆に感心できるようになるかもしれません。社風をよく知れば、組織を徐々に変えていくこともできます。もちろんそれには、新しい社員が増えて、率直な話し合いができるようになることが必要ですが、それでも何も変わらないということはなくなるはずです。
健全で充実した雰囲気の職場を作るには何が必要かについて、ブルックは次のように述べています。
仕事がうまく回っているという雰囲気が職場にあるとしたら、それは社員が大切な存在として扱われ、尊重され、自分は注目されていると感じているからです。社員一人ひとりがチームの一員として、チームの目的や使命、リーダーとつながっているからです。つながっているという感覚があるから、社員は自主的に働き、自分の仕事は自分でやるという明確な意思を持ち、柔軟な姿勢で仕事に臨み、仕事でも私生活でも、いくつもの葛藤にうまく対処することができるのです。
5. 目的意識について
とは言え、会社の方針、ツール、社風を巡る葛藤に対処しようと一生懸命努力しても、バランスよく折り合える点が見つからなかったら、その人はどうなるのでしょうか?調査によると、その場合は、他の社員の手伝いや会社の社会貢献活動を通じて仕事に目的を見出し、若干アンバランスな状態を受け入れようとするようです。会社の社会貢献活動があまりぱっとしない場合でも、自分がやっていることはどれも会社全体にとって重要な意味があると感じることで、同じように目的意識を感じ、モチベーションを維持できます。
6. これからの働き方
働き方は、これから大きく変わっていくでしょう。2017 年に行われた調査では、注意力の持続時間と情報を記憶する力の両方が、スマートフォンが原因で衰えているのではないかという兆候が見られています。ただし注意しなければいけないのは、これが実際にはどの程度危険なことなのか、長期的にどのような影響が見られるかについて、現時点では正確に予測できないということです。この 20 年の間に、新しいアプリ、新しいツール、新しいテクノロジーが次々登場していますが、それがいったい何をもたらすかは未知数なのです。
こうした新しいツールのおかげで、私たちは多くのことができ、いつでもつながり、時間と場所を選ばずに共同作業ができます。その一方、最新テクノロジーのせいで、つながりを絶って仕事と距離を置くことがほとんど不可能になりつつあるのも確かです。現代の職場では、葛藤に対処しつつ、新たに生じた複雑な問題と折り合うことが大きな課題となっています。意味のある仕事に集中して取り組み、成果を挙げるには、どうすればよいのでしょう?
まずは、働く環境についてじっくりと考えることから始めましょう。パート 1 で考察したように、「もっと速く、もっと多く」を追求し続けても、いまや何の役にも立ちません。生産性の成長率が、この 30 年で最も落ち込んでいることがその証拠です。そろそろ新たな考え方が必要でしょう。
私たちが方針、ツール、社風などにおいて、自分なりの関わり方を見出し、目的意識を持つことができれば、現状を改善できる可能性は高くなるでしょう。生産性自体が問題というよりは、「より多くの仕事を、より速く」こなすことを良しとしていた考え方の根幹を疑う必要があります。仕事の量とスピードだけを重視するのではなく、職場の葛藤と上手に付き合うことも重視すべきなのではないでしょうか。仕事の中にバランスの良いポイントを見つけることができれば、社員も会社も、追い求めていた成果と効果を手にできるかもしれません。