私たちの働き方は、途方もないスピードで変化しつつあります。いつ、どこで、どのように仕事をするか。そのことに関するこれまでの習慣や想定は、まったく当てにならなくなりました。これは、目もくらむような大きな変化です。
Dropbox は今、バーチャル ファースト企業への転換に取り組んでいます。バーチャル ファーストとは、テレワークを基本としつつ、チーム コラボレーションの際には対面で集まる(安全性を確認した後に)という働き方の変革を意味します。これは、Dropbox にとっても新たな試みです。私たちは、バーチャル ファーストを実践するための試行錯誤を今も続けていますが、今回、これまでの経験から得たいくつかの原則を整理し、バーチャル ファーストな働き方に適応するためのリソースとしてまとめました。それが、このバーチャル ファースト ツールキットです。私たちは今後も、さらに実践と試行錯誤を重ね、その結果得られた知見を新たなコンテンツとして追加していきます。本稿では、バーチャル ファーストで健全さを保つ方法を紹介しています。バーチャル ファースト ツールキットのその他の記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
チームの幸福感や生産性を高める取り組みを進めるのに、必ずしも経営幹部が主導する必要はありません。新入社員でも経営幹部でも、あるいはスーパー コンピュータでも、バーチャル ファースト戦略の中で周囲が生き生きと働けるよう手助けすることはできます。ここでは、Dropbox が学んだその方法をご紹介します。
目次
1. 多様性、公平性、包摂性(DEI)を重視する
組織は、多様性があるほうが賢明な判断を下しやすくなります。また業績も向上します。Dropbox では、組織を上げて多様性、公平性、包摂性の推進に取り組んでおり、すべての企業が多様性を重視すべきだと考えています。
多様性のあるチームを作る
人材採用は、多様性を確保する機会の 1 つです。欠員が出たら、少なくとも女性 1 人、少数派であるマイノリティ 1 人を面接するようにしましょう。これは特に上級職において重要なことです(この仕組みを「ルーニー ルール」といいます)。テレワークを導入すると場所や業種にこだわらず社員を採用できるようになるので、この取り組みを実践して多様な人材を採用しやすくなります。
- 自分に似ていない人材を探す:友人に紹介を頼むだけでなく、人材を探す範囲を広げてみましょう。自分が属するコミュニティにはいないような人を探してみることをおすすめします。
- 包摂的な言葉を使う:職務記述書や仕事上の特典についての文章を書くときは、特定の属性を持つ人を対象にした言葉遣いをしないようにしましょう。
たとえば、「精力的」、「成果主義」といった表現は男性に、「社交的」などの表現は女性について使われる傾向にありますが、固定観念を強化するような決まり文句を安易に使うべきではありません。「ロックスター」などの極端な表現、曖昧な表現も避けるようにしてください。Textio というソフトウェアを使うと、文章の包摂性を高めることができます。
- 雇用計画を立てる:多様性のあるチーム作りは、今自分たちがうまくやれていること、改善の余地があることを評価するところから始めましょう。
チームの公平性を確立、強化する
バーチャル ファーストを目指すということは、チーム メンバーの能力開発と
メンバー同士の支え合いについてもっと意識的になるということでもあります。
- 仕事を公平に割り振る:もしあなたがマネージャーであるなら、半年に一度、少し時間を作ってチームのプロジェクトを振り返ってみましょう。誰がどのプロジェクトに貢献しているか、個々の仕事を自分がどのように割り振っているかを確認するのです。優先度の高いプロジェクトやクリエイティブなプロジェクトを、特定のメンバー(声の大きいメンバーや積極的なメンバーなど)にばかり割り振っていませんか?
もっと公平に仕事を割り振る余地がないかどうか確かめてみましょう。
- 少数派であるマイノリティ(URM)を支援する:能力のあるマイノリティの社員が、希望の役職や社内開発プログラム、社外アワードに応募できるよう支援しましょう。このような支援はすべての社員にとって重要なことですが、マジョリティに囲まれて働くマイノリティにとっては特に重要です。
- 勤務評定を公平に行う:勤務評定に無意識のバイアスが入るのを防ぐため、職務要件に照らして評定を実施し、自身の評価やフィードバックの裏付けになる具体例を示すようにしましょう。曖昧な表現や主観的な評価、生来の特質に注目した言葉(「勤勉」、「忠実」、「生まれついてのリーダー」など)は使わないようにします。
- 「職場の家事」に目を向ける:書記の作業や関係構築、整理整とんなどの仕事は、何かと女性に割り当てられがちなものです。もし誰かが過剰にこのような仕事を割り当てられていたら、その一部を代わりに自分が引き受けるか、作業を分担するよう他のメンバーに促してください。
- ミーティングの包摂性を高める:Zoom セッションやブレインストーミング、チャットでのバイアスを減らすヒントをこちらでご覧ください。
DEI 能力を高める
自分のバイアスを認識して減らす方法を知ることは、健全な職場を作るための重要なステップです。自分自身を訓練するいくつかの方法をご紹介しましょう。
- 適切なトレーニングを受ける:Dropbox ではすべての社員に対し、「DEI
Fundamentals(DEI の基礎)」や「Inclusive Leadership training(包摂性のあるリーダーシップのためのトレーニング)」などの教育コースを受講し、「Truth and Reconciliation(真実と和解)」シリーズなどのスピーカー シリーズに参加するよう呼びかけています。同様のプログラムを、すべての人が受講できるようになることが Dropbox の願いです。
- 社員リソース グループ(ERG)に参加する:ERG は、マイノリティ向けに能力開発やメンタリングを提供する社員主導のグループです。
- バイアスを認識するための手法を学ぶ:自分自身に影響を与えている可能性のある無意識のバイアスを認識することは、それが無意識であるだけに簡単ではありません。しかし不可能ではありませんし、大切なことです。
まずは、こちらのヒントをご覧ください。
- 交友関係を広げる:よく見知った人たちとだけ交流するのではなく、交友の場を広げ、Slack の社内有志グループに参加してみましょう。通常であれば知り合うことのない人たちと関係を築くきっかけになります。
2. チーム力を高める
優れた成果を上げているチームの土台には、メンバー間の強い信頼関係と明確なビジョンがあります。非同期のコミュニケーションが主流になっている今日、目標、価値観、役割を明確にすることは、チーム力を高める最も確実な手段の 1 つとなります。
信頼関係を強化する
信頼は、チームが効果的に機能するための根幹となるものです。互いを信頼し合うチームでは、意見が対立しても健全な議論で乗り越えることができ、チームの目標に向かって積極的に取り組み、結果に対して互いに責任を負うことができます。
マネージャーやチーム メンバーとの信頼関係を構築するには、正しいことをし、(本心では気が進まないときでも)誠実な態度を取り、本当の意味で思いやりを持って行動することが大切です。
共通の価値観を見つける
コミュニケーションや意思決定の方法といったチームの規範は、一般的には有機的に培われるものです。しかしそれを計画的に設計すると、チーム メンバー間の強固な関係を構築し、共同作業のための理想的な状況を作り出せることがあります。まずは、Team Values Toolkit から着手することをおすすめします。
ビジョンと目標を明確にする
優れたチームは、自分たちが目指しているものとその理由を理解しています。もしチームのビジョンや目標がメンバーに周知されていなければ、いったん立ち止まりましょう。マネージャーに対し、企業戦略を平易な言葉で説明するように求めるか、チーム憲章をともに作成することを提案してみましょう。
役割と責任を定義する
団結力のあるチームでも、難しい意思決定を下すときには立ち往生してしまうことがあります。そんなときに物事を前に進めるためには、プロジェクトを始める前に、「誰が何に対して責任を負っているのか」を明確にしておきましょう。
Dropbox では、DACI というモデルを好んで使っています。
実行者(Driver):プロジェクトを前に進める責任を担う 1 人の人物。すべての作業を直接担当する訳ではありませんが、関係者を集め、進捗状況を周知し、
推奨事項を承認者に提示します。
承認者(Approver):プロジェクトの成果に責任を負う 1 人の人物または少人数のグループ。推進者から推奨事項を提示されたら、承認者が最終的な意思決定を下します。
貢献者(Contributor):関連する専門知識を持ち、意思決定に影響を与える人物。推進者が根拠のある推奨事項に達する手助けをしますが、意思決定を妨げることはしません。
報告先(Informed):意思決定による影響を間接的に受ける人物。意思決定についての情報提供を定期的に受けます。
フィードバックを効果的にやり取りする
より大きな成果を上げるためにできることがチーム メンバーにあるのなら、
相手を尊重しながら効果的にそれを伝えることが重要です。
フィードバックのやり取りでは、以下の点に注意しましょう。
- チームの長期的な成功に関連付けてフィードバックを伝える(些細な問題や主観的な問題に言及しない):「○○さんは、チーム メンバーがそれぞれの仕事に集中できるよう手助けしていたら、もっと大きな成果を上げることができたかもしれない」というフィードバックは、「○○さんのユーモアは理解できない」というフィードバックよりも意味があります。
- 特性ではなく、振る舞いに焦点を当てる:「プレゼンのとき、もっと大きな声を出し、相手の目を見るようにすれば、話の説得力が増すだろう」は意味のあるフィードバックですが、「○○さんには経営幹部らしい存在感がない」というフィードバックにはあまり意味がありません。
- フィードバックを受けるときはまず耳を傾ける:一足飛びに反論しようとするのではなく、まず相手が話している内容を理解するように努めましょう。よくわからなければ、「もう少し詳しく説明してもらえますか」と伝えましょう。
意見の対立が生じても冷静に対処する
誰か他の人と共同作業をしていたら、ときに意見の対立が起きるのはあたりまえのことです。意見の対立に建設的に対処する方法をご紹介しましょう。
- 健全な対立はチームの成長につながり、協力して画期的な解決策を見いだすチャンスであると理解する。
- 対立時の注意事項を全員が理解する(すべての意見を正当なものとして尊重する、
人格攻撃はしない、人物と地位を切り分ける、誰かが話をしているときに口を挟まない、など)。 - 対立を放置するのではなく、対立の存在を認めて話し合う:「前回のミーティングで私の発言に、あなたが納得していないことはわかっています。私も同じように不満を感じていました。あなたの考えをきちんと理解できているかを確認したいので、その件について話し合いませんか?」
- 誰かが話をしているときは、口を挟む前に注意深く耳を傾ける。
- 話し合いをするときは、協力して論点を明確にする。
- 自分が間違いを犯したときは真摯に謝る。
- 全員の意見を聞いたら、次のステップについて同意を得る。
重要な意思決定を巡って意見の対立が生じた場合は、「異議を唱えつつ協力する」というアプローチで対処することをおすすめします。
定期的に熟考する
深く考える習慣を身に付けることは、常に学び続けるための効果的な手段です。
特に方法を定めず自由に考えるほうがリラックスできるかもしれませんが、体系的なアプローチのほうが生産的です。
- チームで長年の問題に悩まされている場合は、「5 回のなぜ」法で問題の根本原因を特定しましょう。
- 大規模なプロジェクトを始めようとしている場合は、「実施前の分析」で潜在的なリスクを洗い出し、緩和策を検討しましょう。
- プロジェクトが終わったばかりなら、簡単な振り返りを行って、うまくいったこと、次回に向けて改善の余地があることを話し合いましょう。
3. リーダーとして賢明に振る舞う
優れたマネジメントの原則はそう滅多に変わりません。しかしテレワークで働いていると、マネジメントの不在をより深刻に感じさせられます。ここではリーダーの地位にある読者に向けて、チーム メンバーが安心して能力を発揮できる環境作りのヒントをご紹介します。
部下をよく知る
時間をかけて部下(とその部下)の動かし方を理解しておくと、彼らと強固な関係を築きやすくなります。部下を知るには、次の点を理解するよう努めましょう。
- 彼らの強みと改善が必要な領域は何か?
- 彼らが好むコミュニケーション方法や働き方はどのようなものか?共に働くにあたってアンケートをとると、より詳しい情報を把握できます。
- 現在のテレワーク環境はどのようなものか?うまくいっていること、うまくいっていないことは何か?
- キャリアで目指していることは何か、今年の目標は何か?
心理的安全性をもたらす
リーダーである以上、チーム メンバーとの信頼構築は最優先課題とすべきです。テレワークへの移行によって、直接顔を合わせる機会がめっきり減った今日、信頼関係を築くのには以前よりも少し多くの努力が必要になります。そのための方法をいくつかご紹介しましょう。
- 「あなたはどう思いますか?」、「何か悩み事がありますか?」などと話しかけ、
関係を深めるきっかけを作る。 - 「何か困っていませんか?」と尋ねる習慣を身に付ける。
- 相手が話しているときは積極的に耳を傾ける(途中でさえぎらない、口を挟まない)。
- 自分の過ちを認める(そのうえで教訓を共有する)。
- 新しいアイデアを提案し、チーム メンバーにも同じことを促す。
- 「疑わしきは罰せず」を体現する。
優れたコーチになる
マネージャーは、「すべての問題に対する答えを持っていなければならない」と考える傾向があり、部下が抱えるあらゆる問題に首を突っ込もうとしがちです。しかし、他人の学びと成長を支えるためには、マネージャーとしてのメンタリティよりもコーチとしてのメンタリティのほうが効果的な場合があります。つまり、定石どおりの指示を下すのではなく、相手に考えさせる指導や支援体制を提供したほうがよいということです。これは特に、バーチャル ファーストに取り組んでいる組織のように、環境が大きく変化している場合に言えることです。ここでは、コーチとしての能力を高めるヒントをご紹介します。
- 自由に回答できる質問を投げかける:部下が問題を抱えてやってきた場合は、単に何をすべきかを伝えるのではなく、じっくり考える手助けをしましょう。たとえば、「これまでにどのようなことを考えたか?」、「理解する必要のある重要なことは何か?」、「魔法の杖があったら何をするか?」などの質問を投げかけるところから始めます。
- 目標を明確にする:成果を上げるには、何を目指しているかを理解している必要があります。部下が物事の全体像に意識を向けることができるよう、適切な目標を設定し、「ここで最も重要なことは何か?」、「この部屋から出て行くときに、今はまだ手元にないどんなものを手にしていたいと思うか?」などの質問を投げかけます。
- フィードバックを効果的にやり取りする:優れたコーチの仕事がそうであるように、フィードバックが(年 1 回の勤務評定のときだけでなく)定期的に交わされる文化を作り出すことは重要です。フィードバックを建設的なものにするためには、状況、行動、その影響を示すようにしましょう。たとえば、「午前中のミーティングで、2 つのスライドについての質問に答えられませんでしたね。また数字もいくつか間違っていました。これが原因で、チームの評価が損なわれてしまうのではないかと心配しています」のようにフィードバックします。
- 能力開発を優先する:マネージャーにとって、部下の成長を後押しすることは最も大切な仕事の 1 つです。自分の成長計画を作成するよう部下に促し、半年に 1 回、キャリアについて話し合う機会を設けましょう。
成果を認め、報いる
ポジティブ フィードバックには、ネガティブ フィードバックと同じように建設的な効果を持たせることができます。あなたの部下がすばらしい成果を上げたのなら、賞賛の言葉を伝えましょう。相手を誉めるときは、次のようにすると効果的です。
- 明確で具体的な内容にする:「こんなに短い期間でプレゼンテーションをまとめてくれて本当に助かりました。期限までわずかな時間しかなかったにもかかわらず、要点が明確になっており、説得力がありました。チームを見事に代表してくれて感謝しています」というフィードバックは、「よくやってくれましたね」というフィードバックよりも建設的です。
- 勤務評定に反映する:リアルタイムのフィードバックは大切ですが、勤務評定に反映するのを忘れてはなりません。
- 格式ばらない:社内の簡単な表彰式のような機会を利用して感謝を伝え、謝意を示しましょう。
自主性を促す
統率がコンプライアンスにつながるのなら、自主性を認めることはより積極的な姿勢を促すことにつながります。大切なのは忙しく働くことではなく仕事の成果だということをチームに伝え、メンバーのやる気を引き出しましょう。目標達成に必要なツール(明確な目的や励ましのフィードバックなど)を与え、目標を達成するために最も効果的な方法を慎重に検討するように促しましょう。
スピーディーに対応する
ある調査によると、メールに対するマネージャーのレスポンスの速さは、当人に対する部下の満足度を示す有力な指標になるのだそうです。今日のマネージャーには、一般社員ほど常に「オン」であることは求められませんが、部下の動向に注意を向けることは重要です。チームとは健全なコミュニケーションを保つようにし、何か求めがあったときはしかるべき期間内に対応するようにしましょう。定期的な 1 対 1 のミーティングの開催に合意し、確実に実施します。スピーディーな対応は、あなたが部下のことを気にかけているというサインになり、人を動かし続けるためのカギになります。
支援の手を差し伸べる
ミーティングを頻繁に欠席する、締め切りを守らない、仕事中の表情に生気がない。これらは、燃え尽き症候群に陥っていることを示す兆候です。チームの誰かが辛そうにしているときは、手助けをする姿勢を示しましょう(ただし、仕事ぶりが極端に悪化している場合や個人的に深刻な問題を抱えている場合は、人事担当者に相談してください)。