私たちの働き方は、途方もないスピードで変化しつつあります。いつ、どこで、どのように仕事をするか。そのことに関するこれまでの習慣や想定は、まったく当てにならなくなりました。これは、目もくらむような大きな変化です。
Dropbox は今、バーチャル ファースト企業への転換に取り組んでいます。バーチャル ファーストとは、テレワークを基本としつつ、チーム コラボレーションの際には対面で集まる(安全性を確認した後に)という働き方の変革を意味します。これは、Dropbox にとっても新たな試みです。私たちは、バーチャル ファーストを実践するための試行錯誤を今も続けていますが、今回、これまでの経験から得たいくつかの原則を整理し、バーチャル ファーストな働き方に適応するためのリソースとしてまとめました。それが、このバーチャル ファースト ツールキットです。私たちは今後も、さらに実践と試行錯誤を重ね、その結果得られた知見を新たなコンテンツとして追加していきます。本稿では、バーチャル ファーストで健全さを保つ方法を紹介しています。バーチャル ファースト ツールキットのその他の記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
バーチャル ファーストとは、非同期を基本とする働き方です。条件反射的にミーティングの日時を決めるのではなく、Dropbox Paper などのコラボレーション ツールのほか、メールや Slack を使って問題を解決するやり方です。ただし、やり取りのほとんどが画面や文字を介して行われるようになると、誤解が生まれやすくなります。これからは、明確で、温かみがあり、誰もが参加できるようなやり方を模索していく必要があります。今回は、遠く離れた相手にも、メッセージを誤解なく伝える話し方や書き方を紹介したいと思います。
目次
1. 理解を得られる書き方
送られてきたドキュメントがわかりにくい。受け取ったメールが長すぎる。Slack のメッセージがあまりに簡潔。こういった経験は誰にでもあるはずです。単にわかりづらい、というだけならまだいいほうで、最悪の場合「同僚が私に腹を立てているかもしれない」と勘違いしてしまうかもしれません。バーチャル ファーストの世界では、単にメッセージを届けるだけでなく、メッセージを理解してもらうような書き方がこれまで以上に重要になります。
以下に、その具体的な方法を紹介します。
明確にする
書き始める前に、「読み手に一番理解してもらいたいことは何か」や「読み手に次にしてほしいことは何か」を考えてください。こと細かに書きすぎて相手を圧倒してしまわないよう注意しつつも、正確な表現と明確なアクション依頼を書きましょう。「フィードバックをお待ちしています」と書くよりも、「金曜日の午後 4 時までにフィードバックをお願いします」とする方が良い伝え方です。
具体的な情報で書き始める
ジャーナリストはよく、「結論を先に書く」ことを重視します。要点を明確することで、趣旨が伝わりやすくなります。
簡潔に書く
企業のコミュニケーションにおいて悩みの種となるのが、「長すぎると読まれない」という問題です。読み手の時間を尊重して、簡潔に書くようにしましょう。重要なポイント:ドキュメントを半分に短縮します。
ドキュメントをスキャンできるようにする
大きなパラグラフを細かく分割する、見出しを太字にする、箇条書きを使うなどして、ドキュメントを読みやすくしましょう。重要なポイント:並列構造を使います。見出しはすべて動詞または名詞で揃えて、混在させないようにしましょう。こうすることで、より論理的な構造になります。
初心者を想定して書く(たとえ相手が専門家でも)
短くシンプルな文は読みやすいだけでなく、楽しいとさえ感じるはずです。たとえばヘミングウェイなど、多くの文豪が小学校 5 年生レベルの言葉で小説を書いているのはこのためです。大仰な言葉やうんちくを並べて読者を感心させようとするのではなく、次のような書き方を心がけてください。
- 平易で日常遣いの言葉で書く
- 業界用語(プログラムを走らせる)や複雑で文字数の多い熟語を避ける
- 相手が 10 歳であると想定して書く
シンプルに書いた方がスマートな印象になります。
伝わっているかを確かめる
人は誰でも賢く見られたいものです。そのため、あなたの発言が理解できない場合でも、質問せずにやり過ごしてしまうことがあります。次に機会があれば、「現在、Q4 ロードマップの PSO でフェーズ 3 のイテレーション中ですが、ここで OKR のフライウィールを活用する必要があります」などと発言したら、次のように聞いてみてください。
- 今の話はよくわかりましたか?
- 「OKR のフライウィール」についてもう少し説明が必要な方はいますか?
- 他に何か不明な点はありませんか?
もし、あなた自身がわからないと感じることがあったら、率直に聞いてみましょう。同じように、わからずに困っていた同僚から感謝されるでしょう。
感情的知性の高い言葉を使う
たとえば、「その決定をした理由は何ですか?」といったシンプルな質問であっても、直接伝えていればまったく問題にならないでしょう。しかしこれが、Slack やメールで届くと、表情や声の調子がわからないため、問い詰められているような気分になるかもしれません。以下のように、慎重に言葉を選ぶことで誤解を避けるようにしましょう。
- まずは、相手を理解するよう努める:
すぐにフィードバックやソリューションを伝えようとせずに、相手が何を言おうとしているのかを理解するようにしてください。「もう少し詳しく教えてください」や「X を提案しているということですね。私は Y についても考えていますが、どう思いますか?」といった質問を投げかけることから始めてみるのがよいでしょう。
- 善意を前提とする:
誰もが、明確なコミュニケーションのためにベストを尽くしています。届いたメッセージに違和感を覚えても、相手があなたを怒らせようとしているという前提を持たないようにしてください。それでも意図がわからなければ、直接相手に尋ねてみましょう。「金曜日のミーティングのときに、X の件で私に怒っていたように感じたのですが、実際にそうでしたか?」
- 真心を伝えるためにいっそうの努力をする:
離れた場所で働いていると、恐怖や不安が膨れ上がってしまうことがあります。そのため、私たちが発する言葉が温かく相手を受け入れているのだということが伝わるよう、いっそうの努力をする必要があります。意見を表明すること(「いいと思います!」など)や、センテンスが短すぎないか(「OK」など)をチェックすることも効果的です。絵文字も遠慮なく使っていきましょう。
- ユーモアに注意する:
仲の良い同僚なら皮肉や辛辣なジョークも笑って受け止めてくれるかもしれませんが、相手が大人数になると問題となるかもしれません。気の利いた発言をしようとする前に、相手がどのような人たちかを考えるようにしましょう。
- 怒っても、その気持ちを送信しない:
怒っているときには、客観的になるのは難しいものです。苛立ちやストレスに駆られて行動を起こしている人は、説得力に欠けてしまいます。厄介なメッセージを送る前に、落ち着いてよく考えられるまで時間を取りましょう。
2. ツールを使いこなす
ビジネス ツールは世の中にあふれています。ツールが選べるのは良いことかもしれませんが、選択肢が多いことが災いして「大量の Slack、大量の GChat、そして大量のテキスト メッセージ」に圧倒されることもあります。バーチャルな働き方で最大の成果を生み出すためには、どのような連絡にどのツールを使うべきかをチームで決めておく必要があるでしょう。
「即座に同期」をやめて「基本は非同期」にする
多くの職場で、同期型のコミュニケーション(リアルタイムのミーティングやチャット)は標準的な連絡手段です。残念ながら、こうしたアプローチは無駄の多いミーティングを生み出す危険性があり、従業員の健康や生産性に悪影響を与えてしまいます。バーチャル ファーストに移行する際には、すぐにミーティングを設定するのではなく、まずは非同期型のツール(Dropbox Paper、メール、Slack)を活用するようにしましょう。
適切なタスクに適切なツールを使う
企業によって、推奨されるツールは異なります。ここでは、Dropbox でよく使われているツールを紹介します。また、バーチャル ファーストへの移行にあたって、使用ツールをどのように合意したかにも触れてみたいと思います。私たちは今後もテストと試行錯誤を繰り返し、時間をかけて変更を行っていきます。
【非同期型】
Dropbox Paper
Paper は、Dropbox が開発した共同作業向けのドキュメント編集ツールです。
Paper はプロジェクト管理にも効果的です。
- 最適な用途:執筆と編集。アイデア出し。簡易的なプロジェクト管理。デザインのレビュー。ミーティングの計画。
- あまり適していない用途:大人数のグループでのリアルタイム共同作業、ミーティング、チャット。大がかりなプロジェクト管理(ロードマップの作成など)。
- アドバイス:1 週間を通じて、上司と共有している Paper ドキュメントに質問事項を追加していくのがよいでしょう。そうすれば、その都度 Slack でお互いの時間を消費することなく、1 対 1 のミーティングで使うアジェンダをまとめることができます。
メール
社内用のメールには Gmail を使用しています。
- 最適な用途:皆に知っておいてもらいたい重要な情報の共有(Slack では見失いやすい)。長めのドキュメントや指示書の送付(Slack では読みづらい)。組織外の人を含めた連絡。
- あまり適していない用途:リアルタイムで行う共同作業、ミーティング、チャット。複雑なディスカッション。
- アドバイス:メールの情報は孤立化します。そのため、スレッドには適切な宛先を指定しておくようにしましょう(または、共有フォルダや Paper ドキュメントでのやり取りに切り替えるのも有効です)。
Slack
Slack は、チャンネルごとにやり取りを行うメッセージング ツールで、同期型と非同期型の両方の側面を持つソリューションです。
- 最適な用途: リアルタイムのディスカッション。すぐに回答が必要なシンプルな質問。状況報告。進捗確認などのやり取り。コミュニティ意識の醸成。かわいらしい動物の GIF アニメ。
- あまり適していない用途: 複雑なディスカッション。ブレインストーミング。プロジェクトの文書化。
急いで回答する必要のない質問やトピック。
- アドバイス:
- Slack は、集中を妨げる原因にもなるため、重要な情報を逃すことや、返信し忘れることがあります。特に重要な情報を伝える際は、メールを使うことをおすすめします。
- 公開することが有益なトピックであれば、DM で送らずにグループ スレッドで発信しましょう。
- Slack のチャンネルを簡単に見分けられるよう、一貫性のある名前を付けましょう。たとえば、デザイン部門であれば、名前の最初をすべて「デザイン」で始めるなどです。
- 全員からの回答が絶対に必要という場合を除き、@channel を使ってグループ全体にメッセージを送るのは避けましょう。
- 各チャンネルの上部には、重要なドキュメント(計画書、重要情報、連絡先など)を固定表示しましょう。
Jira
Dropbox では、Atlassian が開発しているプロジェクトと問題を追跡するツールを使用しています。
- 最適な用途:複雑なプロジェクトの整理、優先順位付け、追跡。タスクや問題の割り当てと追跡。単一の「情報源」となるロードマップの作成。
- あまり適していない用途:簡易的なプロジェクト管理。クリエイティブまたはデザインのレビュー。
- アドバイス:Jira は、Slack や Gmail などのツールと連携できるので、誰かが Jira であなたにチケットを割り当てると、自動で通知を受け取ることができます。
【同期型】
Zoom
Dropbox では、ビデオ会議に Zoom を使用しています。
- 最適な用途: 真に意味のあるミーティング。関係者とのタイプ 1 の意思決定(後から修正できない決定)を行う場合。複雑または感情面で繊細なトピックについて話し合う場合。コーヒーを飲みながらの雑談やチームの士気向上。
- あまり適していない用途: メールや Slack で済ませられるミーティング(状況報告、参考情報の周知、ミーティング日時の調整)。
- アドバイス:
- Zoom 疲れというものは本当に存在します。Dropbox では「カメラをオンにする」ことを基本としています。ただし、疲れている場合は、カメラをオフにするか、電話ミーティングに切り替えてもらうとよいでしょう。
- 自分が発言していないときにはミュートにします。
- 全員参加型のミーティングにするためのベスト プラクティスを実践します。
- 可能な場合は有線でインターネットに接続します。Wi-Fi よりも有線のほうが接続が安定します。
- メール、着信音、Slack 通知に気を付けます。Zoom ミーティングに参加しているときに邪魔が入らないよう、メールや電話の着信、Slack やカレンダーの通知をオフにしましょう。
3. ミーティングでの成果を高める
ミーティングは、チーム メンバーから最新情報を得て、プロジェクトを進めるための主要な方法です。しかし同時に、時間とお金を無駄にする主な要因でもあります。非同期型の働き方が基本になったときに、正しいミーティングを行う方法を紹介します。
ミーティングをすべき時間と避けるべき時間を知る
「手短に Zoom で話しましょう」というのは無害に思えますが、実は生産性に悪影響かもしれません。本当にミーティングをすべきかどうかを確かめる方法があります。
ミーティングの必要があるもの
以下に挙げるものは、ミーティングのメリットがあります。
- タイプ 1 の意思決定(後から修正できない決定):
2 つある製品の開発方針から 1 つを選ぶ。新しいチーム メンバーを採用する。
- ディスカッションが必要な複雑な問題:
企業のナラティブの定義。6 か月単位のロードマップ策定。進行中プロジェクトのスコープの見直し。
- 計画と反省:全員の認識を揃えるためのプロジェクト キックオフ。最近のプロジェクトから得た知見について話し合う簡単な反省会。
- 感情面で繊細なトピック:
厳しいフィードバックを返す。個人的な問題について話し合う。
- 部下のサポート:
定期的に行う 1 対 1 のミーティングで、キャリア形成を支援し、部下の働きを会社の目標に結び付ける。
ミーティングの必要がないもの
以下に挙げるものは、ミーティングのメリットがありません。
- 状況報告:
プロジェクトの進捗について伝えたい場合、緊急でなければ Slack やメール、Paper ドキュメントを使うようにしましょう。
- 参考情報の周知とプロセスの文書化:
プロセスのドキュメント、組織図、製品仕様を Dropbox Paper などを使って 1 か所に集めます。読んでもらいやすくなるよう、簡潔に記載してください。
- ミーティングをするためのミーティング:
オフラインでのミーティングを計画してみてください。
事前によく考えるべきもの
以下に挙げるものは、ミーティングのメリットがあるかもしれません。
- フィードバックの収集:
まずは、メールや Dropbox Paper を使ってフィードバックを集めましょう。文字情報のやり取りでうまくいかない場合には、ミーティングを開催しましょう。
- アイデアのブレインストーミング:
グループで行うブレインストーミングの多くは、効果的ではありません。まずは Paper ドキュメントを使ってブレインストーミングを行いましょう。対面でのセッションが必要だと思われる場合は、慎重に計画してください。
- 業務終了後の誘い、気さくなおしゃべり:
プライベートな付き合いをしたくないという人もいますので、相手に確認をしてみましょう。
不要なミーティングを断るのも仕事のうち
本来は必要でないミーティングへの参加を求められた場合、丁寧に断ってかまいません。断る際の例文をいくつか紹介します。
- 「招待ありがとうございます。ミーティングを開催する前に、メールで解決できないかと思っていますが、いかがでしょうか?」
- 「最近はミーティングが多くて、もう少しスケジュールどおりに仕事を進めていきたいと考えています。まずはミーティング以外の方法で解決してみるのはどうでしょうか?」
- 「喜んでフィードバックさせていただきます。ミーティングの予定を決める前に、あらかじめ Paper で内容を確認させてもらえませんか?」
チームでミーティングを開催することになり、そのミーティングに参加できない場合は、代理の人に参加してもらい、ミーティング後に議事録をチェックしましょう。
実りあるミーティングにする
ミーティングが上記の「ミーティングの必要があるもの」の項目に該当する場合、次のヒントを参考に参加者全員の時間を有効活用できるようにしてください。
事前準備
- タイムゾーンを考慮する:
同僚が別の地域で働いている場合もあります。参加しやすい時間にミーティングを設定しましょう。
- 責任者を決める:
全員をまとめられる人がよいでしょう。
- 目標を設定する:
「ミーティングが終わる時点で、X を達成したいと思います」
- 背景情報とアジェンダを設定する:
「最後のミーティングでは、X について話し合いました。今回は Y について話しましょう。これが重要なのは Z であるためです。取り上げるアジェンダは、A、B、C です」
- 適切な人を参加させる:有意義な貢献ができる権限、経験、または見識のある人に参加してもらうのがよいでしょう。一般に、参加者が 7 人になると生産性が落ちてきます。参加者の数は管理可能な範囲に収めてください。終了後は、内容について知りたい人に議事録を送信できます。
順調に進める
- 事前に参照資料を送付する:
必要に応じて、ミーティングの最初に 5 分間の黙読時間を設けてドキュメントの内容を確認します。
- 議事録担当者を指名する:
シンプルな議事録を作成して終了後に送付できる人に依頼しましょう。
- 時間を守る:
開始時には 5 分間の余裕を持ち、予定の 5 分前に終了しましょう。
- 短時間で切り上げる:
本当にまる 1 時間が必要なのか、25 分で十分なのかを考えてください。与えられた枠が広くなれば、それに伴って会話も長くなるものです。
- 最後にアクション プランで締めくくる:
次に何をすべきかを伝え、その担当者を決めます。
全員が貢献できるミーティングにする
多様な考えが出たほうが、優れたアイデアや決定ができるものです。さまざまな意見を出せる余地を作っておいてください。具体的には、以下のヒントを参考にしてください。
- 発言していない同僚に積極的に参加を促す:
発言のほとんどを小数の人が占めている場合は、次のように伝えてみるのもよいでしょう。「数名からたくさんの意見が出ています。他にも多様な意見も聞いてみたいと思います。○○さんは、このトピックに詳しかったですよね?何か意見をもらえませんか?」
- 反対意見を表明しやすい環境にする(または、間違ってもよい という雰囲気を作る):
たとえば、「ドキュメントを読んでみて、X という仮定を立ててみました。自分では正しいように思うのですが、そこまで自信はありません。意見を聞かせてもらえませんか?」などと発言して、率先してオープンな雰囲気を作りましょう。同意できない場合は、相手を尊重しつつその点を伝えましょう。同時に、相手の意見を理解するよう努めてください。「つまり、X であると仮定しているということですね?」(一呼吸置いてから)「ありがとうございます。私には別の意見があるのですが、お話ししてもいいですか?」
- 個別の場を作る:
トピックから脱線しそうになっているときには、丁寧な言葉でディスカッションの方向を元に戻します。「とても楽しい話なのですが、もう少し時間がかかりそうですね。このトピックはミーティングの後に続けることにして、先にアジェンダを進めるのはどうでしょうか?」