あなたは DJ です。これまで、自らが繰り出すビートで人々を熱狂的に踊らせてきました。では、こうした DJ パーティの雰囲気をライブ ストリーミングで再現しようと思ったら、あなたはどうしますか? Dropbox では今回、人気 DJ の JFB 氏にインタビューを申し込み、この質問をぶつけてみました。DMC World DJ Championships の英国チャンピオンに三度輝いた JFB 氏は、音楽テクノロジーと聴衆との双方向のやり取りを組み合わせたライブ パフォーマンスで広く知られています。今回のインタビューでは、コロナ禍のロックダウン等によって大勢で集まる機会が失われる中、音楽ファンをオンラインで楽しませる新たな方法をどう模索しているのかを伺いました。
Dropbox: DJ プレイに興味を持ったきっかけは何ですか?
JFB: 初めて行ったレイヴがきっかけでミックステープを聴くようになりました。ミックステープを聴いて驚いたのは、音楽が途切れず延々と続いていくことです。当時の私は、ミックスについて何一つ知りませんでした。レイヴでは DJ テーブルに何が載っているか見ることができなかったので、DJ たちはシンセサイザーか何かを生で演奏しているのだと思っていたのです。
あるとき、そのレイヴについて友人に質問したところ、自分も DJ をやってるから機材を見に来いよと言われ、彼の自宅を訪ねました。卒業式の日のことです。友人はターンテーブル 2 台と DJ ミキサーを持っていて、レコードで音楽をかけてくれました。「これは知ってる。レイヴで聴いたやつだ」と言うと、「こんな風に DJ ミキサーを通して、もう 1 つのターンテーブルにはレコードをもう 1 枚載せて、タイミングを合わせながら 2 つのレコードをミックスするんだ」と教えてくれました。面白いと思った私は、わずかな貯金をつぎ込んで安物のターンテーブル 2 台とミキサーを買い、2~3 か月の間、そのプレイを真似していました。そうしてプロの DJ プレイヤーになったのです。
Dropbox: テクノロジーや機材の進化は、あなたのパフォーマンスにどのような影響を与えていますか?
JFB: 一緒に仕事をしている何人かのプロデューサーに、スクラッチをしてほしいと頼まれ、音源をまとめたサンプル CD を渡されたことがありました。スタジオ入りの前に機材一式を用意してもらい、人生で初めてレコード以外のものをスクラッチしたのですが、まさにぶっ飛ばされたような気持ちになりました。ただ当時の私にとって、その機材はとても手を出せるような値段ではありませんでした。
2006 年には、Serato Scratch Live という製品が登場しました。これはインターフェース ボックスのようなものでした。まずターンテーブルに接続し、さらに楽曲データを保存したノート パソコンに USB で接続します。そしてパソコンの中の楽曲データを、「ノイズ マップ」(私たちは「タイムコード」と呼んでいました)と呼ばれる信号を持つ 2 枚の特殊なレコードで操作します。ノイズマップというのは、簡単に言うと、ターンテーブルの針が拾うレコード上のトーンのことです。このトーンに、針がレコード上のどの位置にあるかをパソコンに伝える情報が含まれています。遅延が心配になるかもしれませんが、人が気付くほどの遅延はほとんど発生しません。この製品の存在を知った私は、すぐにそれを買いに走りました。DJ プレイヤーとしての人生を一変させた製品といっても過言ではありません。
「レコードではないものをスクラッチしたのはこのときが初めてだったのですが、まさにぶっ飛ばされたような気持ちになりました。」
Dropbox: 制作プロセスについて教えてください。普段の作業はどのようなものでしょうか?
JFB: 制作は試行錯誤です。左右のターンテーブルを使ってどんな音でも作り出せるので、可能性は無限にあります。ただ基本的な手順としては、今は Logic という製品を使っていますが、デジタル オーディオ ワークステーション(DAW)と呼ばれる音楽制作プログラムと、定義済みの空のプロジェクトを使います。
また、スクラッチで使用するレコードやプラッターに頭出し用のシールを貼ります。シールを貼った位置は、33 RPM、つまり 1.8 秒でターンテーブルを 1 周します。音楽制作プログラムの 1 小節は 133.3333 BPM にします。100 BPM に設定してもいいのですが、その場合は 1 小節の 2/3 になります。133.3333 BPM なら、レコードの 1 周分ということです。
無音の WAV ファイルも使います。このファイルはいわばマーカーです。プロジェクトを開き、適当な BPM を設定しますが、このマーカーを合わせておくことで、シールを貼った開始点がどこにあるかを視覚的に把握できるというわけです。開始点は自由に選ぶことができます。
これがレコードだとすると、針を落とす場所にシールを貼ります。昔は、実際のレコードにこうしたシールを貼っていたものです。左右のターンテーブルの違うセクションの音声を編集して音を揃え、新しいセクションの開始点がそのマーカーで揃うようにします。 こうすることで、ビート ジャグリングを自由にアレンジしたり、音源をすばやくキューイングしたりできます。シールを使うことで、画面の波形を見るよりはるかに簡単に目的の場所を見つけられるのです。またシールを貼った場所を何度も移動することで、それを体に覚え込ませることができます。ただし、先ほども述べたように可能性は無限にあり、作業プロセスやその進め方もいろいろあります。
Dropbox: 今説明してもらったのは、あなた自身が開発したテクニックですか、それとも他の DJ から学んだものでしょうか?
JFB: 私より先に、多くの人が思いついていたアイデアもあります。ただ、アイデアを他の人と共有しようと考える DJ は多くないようで、他の人がやっているのを見て覚えるという場合が多いですね。「いったい何をやっているんだ?どうなっているんだ?」と思いながら見ています。自分なりの工夫も加えますよ。
Dropbox: 機材はどのように選んでいますか?今、特に気に入っている機材は何かありますか?
JFB: メディア プレイヤーの Denon DJ SC6000M は優れた機材だと思いますね。音源をレコードのように操作できる点が気に入っています。波形をスクリーンで確認できるすごく便利な機能があって、今自分が何をしているのかを正確に理解できます。キュー ポイントをたくさん設定できますし、エフェクトも多彩。ファイル管理システムもよくできているのでファイル整理が簡単です。すごいマシンですよ。
ただ、私の愛用品としてよく知られているのは RANE 12 です。DJ SC6000M と同様、針のないフルサイズのプラッター ターンテーブルで、恐ろしく精密で堅固な作りです。この RANE 12 と Serato 対応の RANE 70 と 72 がお気に入りのスクラッチ ミキサーです。
Dropbox: ライブ ストリーミング ショーでは、Dropbox リンクを見せて、スクラッチする動画をショーの間にアップロードするようファンに呼びかけています。何がきっかけでこのアイデアを思いついたのですか?
JFB: パソコンで DJ スクラッチを行うときにいつも使っている Serato DJ というプログラムでは、動画をスクラッチすることもできます。このプログラムには、どんな動画でも取り込むことができます。以前、友人と一緒にやったイベントで、複数のノート パソコンをネットワークでつなぎ、Dropbox のようなファイル共有の仕組みを使って DJ をしたことがありました。もう何年も前の話ですが。1 台のノート パソコンにビデオ カメラを接続し、動画編集マシンとして使用しました。そして人々をステージに上げ、くだらないことをしゃべらせたり楽器を演奏してもらったりしました。動画の撮影者が停止ボタンを押すとすぐ、その動画が自動的に保存され、名前が付き、共有フォルダにコピーされます。そのパソコンは、LAN 経由で私のパソコンに接続されており、保存されたファイルが私のパソコンのフォルダに取り込まれます。このファイルを LAN 経由でスクラッチするのですが、それでも十分な速度を確保できていました。
コロナ禍でロックダウンが実施され、多くの人が動画配信を始めましたよね。そこで私は考えました。「双方向型で、他の人とは違う楽しいことをするにはどうしたらいいだろう?」と。そして、「やはりスクラッチを使った何かにすべきだろう。人の顔の動画をスクラッチしたら面白いんじゃないか?」と思い至りました。これを実現するにはどうすればいいか、しばらく悩んだ後、「そういえば、Dropbox にはファイル リクエスト機能があるじゃないか」と思い出したのです。 ただ、それをスムーズに行えるかという問題がありました。
「『人の顔の動画をスクラッチしたら面白いんじゃないか?』と思い至りました。そして『そういえば、Dropbox にはファイル リクエスト機能があるじゃないか』と思い出したのです。」
そこで、一連のテストを行ってみました。ファイル リクエストで自分に動画を送り、それがどれくらいの時間で届くかを見てみたのです。しかし、ふと思いました。「待てよ、動画を送るときは何を使う?誰もがパソコンを持っているわけじゃない。ビデオ カメラを持っているとも限らない。スマートフォンから送る人が多いはずだ」と。そこで考え直しました。「それなら、自分のスマートフォンで試してみよう。」
ファイル リクエストのリンクを作成し、スマートフォンでそのリンクを開いたところ、自動的にブラウザが開き、[ファイルを追加]というボタンが表示されました。このボタンをタップすると、[写真またはビデオを撮る]というオプションが表示されます。「よし!」と思ってオプションをタップすると、自動でカメラが開きました。完璧です。動画を撮影し、ファイル リクエストに送信したところ、30 秒も経たないうちにアップロードされ、そのまま簡単にスクラッチを始めることができました。
このライブ ストリーミングには、オーディオのスクラッチを行うためのパソコン 1 台と、動画のスクラッチを行うためのパソコンがもう 1 台必要です。動画用のパソコンでは、ブラウザで Dropbox を開いておきます。この状態で、何人かの友人にテストを手伝ってもらいました。興味深かったのは、スマートフォンの機種によって、横向き/縦向きが違う、上下逆さになっている場合がある、などの違いがあることでした。幸い、Serato の動画機能には動画の向きを 90 度ずつ簡単に変更できるエフェクトが用意されていたので、大きな問題にはなりませんでした。
とてもうれしかったのは、Twitch で行ったテスト ストリーミングで、ちょうど 100 人のユーザーが視聴してくれたことです。Twitch での初めてのストリーミングだったのですが、友人たちが他の人たちを誘って見てくれたのです。皆、ストリーミングを気に入ってくれていました。その後で Serato DJ の別のストリーミングをやったときは、Twitch のトップ ページに掲載され、多くの人が視聴してくれました。環境を整えるのが驚くほど簡単だったので、とても満足しています。
Dropbox: 聴衆のエネルギーはご自身のパフォーマンスにどのように影響しますか?観客が踊っていたら、もっと盛り上げようと考えたりしますか?
JFB: いつも、できるだけ盛り上げようと考えていますよ。その場の雰囲気にはすごく影響されます。自宅のスタジオで視聴者と交流するというのは、すごく奇妙な感じがします。私はたくさんのライブをこなしていて、運が良ければ 1,000 人の聴衆を相手にプレイできるのですが、たいていのライブ会場は小規模で、聴衆も 100~200 人くらいです。それがライブ ストリーミングでは、突然 1 万人の相手をすることになります。こんな状況で交流できるようになるなんて、以前は考えもしませんでした。
ほとんどの DJ は寄せられたコメントに目を通しますし、返事を書きます。人がそうしたやり取りを好むのは、一体感が持てるからです。その感情はたぶん、クラブでプレイするときよりも強いのではないでしょうか。視聴者にとっては、音楽を楽しんだり憧れの気持ちを抱いたりしているアーティストや DJ とつながるチャンスになります。実際 Twitch では、とてもいい雰囲気のコミュニティが育っています。ですが、このビデオ スクラッチでは、それをはるかにしのぐ良い関係を築くことができました。このような機会をもっとたくさん作らなければなりません。
「オプションをタップすると、自動でカメラが開きました。完璧です。動画を撮影し、ファイル リクエストに送信したところ、30 秒も経たないうちにアップロードされ、いとも簡単にスクラッチを始めることができました。」
Dropbox: ツアーを再開して、ライブ パフォーマンスができるようになったら、ビデオ スクラッチをセットに取り入れますか?
JFB: ビデオ スクラッチをダンス フロアに取り入れることができたら、すばらしいでしょうね。すべての会場に大きなスクリーンがあるわけではないのですが、これはとてもいいアイデアだと思います。イベント プロモーターが会場で Dropbox リンクを紹介できる仕組みを何か用意できるかもしれません。そうすれば、聴衆が会場で自分自身の動画を撮影し、それをライブでトラックの冒頭に取り込むといったことができるでしょう。撮影した動画には、頭をくるくる回転させるようなエフェクトをかけることができます。
ただ心配なのは音声です。クラブの中はうるさいので、スマートフォンで撮影した動画をそのままスクラッチしようとしても、会場内の音声が再生されてひどいことになってしまいそうです。でも、パソコンをもう 1 台用意して、動画を再生するパソコンにネットワーク接続するだけで、Dropbox を介してすべての動画にアクセスし、撮影されたばかりのおかしな動画や面白い動画を確認できます。そこからすばやく動画を選び出し、Serato の機能で動画だけを切り出してオーディオ トラックに重ね、トラックの冒頭に付け加えて、回転などいろいろ変わったエフェクトを適用できます。これはとてもいいアイデアですね。提案ありがとうございます。
Dropbox: 思っていたとおりのイメージです。特にビデオ スクリーンのある会場では、「自分が映ってる!さっき送った動画だよ!」なんていう楽しみ方ができそうです。
JFB: 一緒にいる友人をびっくりさせることもできますね。
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本ブログは、2021年3月に公開されたブログ記事の翻訳版です。