今や、「働く場所が変わっても生産性を維持できるのだ」ということを多くの人が理解するところとなりました。さて、未来の職場はいったいどのような形になるのでしょうか?
ここで質問です。たとえ中で働く人が 1 人もいないオフィスビルでも、職場と呼ぶことができるでしょうか? テレワークが 1 年以上も続いていますが、人々はまだこの問いに答えられずにいます。多くの大企業がオフィスから撤退するようになり、ニューヨークタイムズによると「この数十年で最も高い空室率」を記録しているとのことです。企業レビューのウェブサイトである Glassdoor のチーフ エコノミストは、一部の人は直接のやり取りを求めてオフィスに戻ってくるだろうと予測しています。困難な状況に終わりが見えない今、答えの見つからない問題が増えているということでしょう。
米国では、在宅でも仕事ができる職種に就く人のうち、71 % が在宅勤務を「常にまたはほとんど」行っていると回答しています。こうした変化によって、ワークライフ バランスの重要性や、オフィスに出社しないキャリア形成について考える時間が生まれています。最近行われた Dropbox 出資による GitLab の調査で世界各国の労働者について調べたところ、3 人に 1 人がテレワークが禁止されたら仕事を辞めると回答していました。
では、今のオフィスはどのような状況にあるのでしょうか。これからのオフィスはどのような変化を遂げるのでしょうか。特に重要な問いは、オフィスに出社しなくなった私たちは、いつかまた出社したくなるのだろうかという点です。
これからのオフィスの展望と可能性
たとえば、世界中の人がワクチンの接種を完了した時代を考えてみましょう。以前と同じようにオフィスで働いている自分自身をイメージできますか? 自宅の仕事場や Zoom にも慣れて、仕事とプライベートの境界があいまいな暮らしが当たり前になっていますか? それとも、在宅とオフィスのいいとこ取りをしているでしょうか。つまり、取り組んでいるプロジェクトに応じて、生産性が高くなる方法を自由に選ぶ働き方です。たとえば、自分だけのタスクを自宅でこなし、同僚とのブレインストーミングの際には出社するといった具合です。多くの場合、在宅勤務とするか出社するかの決定は、生産性とコストを踏まえて事業者が行うことであり、個人の好みでは決められません。かといって、従業員の意見がまったく聞き入れられないということでもありません。
多くの職場、特にウォール街にある職場は、オフィスが従業員を育成する直接的な場となっています。こうした企業はパンデミック中の生産性低下を認識していて、若手の社員ではその傾向が顕著だとしています。また、対面で仕事をしていないと、ジュニア スタッフに対するメンターシップや学びの機会が失われるという危機感も募らせています。こうしたことから、企業はなるべく早い段階でオフィスでの仕事を再開したいと考えています。実際、一部の企業ではすでに 6 月には出社するよう指示しているところもあります。
その他の人々にとって、オフィスはもっと概念的なものです。仕事のための設備が集約された作業場所と言うこともできますし、どこにいようとオンとオフを切り替えられる心のあり方こそがオフィスであると言う人もいるでしょう。このような社員にとって外出禁止令は、自分の好きな方法で働くことができる機会が得られるというメリットがあります。こうした職場では、デスクに向かっていた時間ではなく成果によって評価されます。
現在テレワークをしている人の多くが、今後もテレワークを続けたいと考えている理由は、ここにあるかもしれません。テレワークで成果を挙げられることは、多くの人が知るところとなりました。もし皆さんがテレワークでも成果を出し続けられるのであれば、職場は再び可能性を持つ場所になります。多くのテクノロジー企業がテレワークに賛同し、希望する社員には今後もずっとテレワークを許可するとしています。
また、テレワークとオフィスの両方を組み合わせた、ハイブリッド オプションもあります。社員はテレワークという選択肢を持ちつつ、特定の 1 日や 1 週間は重要なミーティングを対面で行うために全員が出社するという方法です。このモデルでは、自由度が高くより自律的に働くことができます。また、仕事を基準にプライベートを考えるのではなく、プライベートを基準に仕事のスケジュールを組むことができます。社員からの信頼や忠誠心を得ることができ、燃え尽き症候群を防ぐことにもつながります。ハイブリッド型は、共同作業と集中して取り組む作業のバランスを取ることができます。こうした働き方ができなくなっていると人々は感じているようです。
ただし、ハイブリッドという言葉が示すように、このモデルでは、まったく異なる 2 種類の働き方が生まれ、それが不平等を生み出すことにもつながりかねません。かつてはオフィスで働くことで、こうした不平等が緩和されていたのです。わかりやすい違いとしてはまず、個人やチームの間のつながりの薄さが挙げられます。テレワークをしていると、主に所属しているチームが日常的なコミュニケーションの中心となります。結果として、チーム内で独自のルールが生まれる可能性があり、さらにそうしたルールは企業の目標や価値観と一致しない場合もあるのです。そのチームが外部のチームと頻繁にやり取りをしていなければ、こうした独自ルールの把握、監視、修正はどれも難しくなります。
ハイブリッド型のもう 1 つの懸念点は、すでに取り上げた対面でのメンターシップが失われることです。ピア メンターシップ(職位が同じ同僚の間で生まれる学び)は、上下関係のあるメンターシップよりも高い効果を生んでいるという研究があります。ある調査によると、「同じ職位の同僚がメンターとメンティーになった場合、上下関係のあるメンターシップよりもあらゆる面で効果が高い」という結果が出ています。キャリア アップが遅い人々にとって、仕事における対面のつながりがないことは、キャリアに悪い影響を与える可能性があります。さらに、業績評価サイクルの各段階(モニタリングや報奨など)は、対面でのやり取りを頻繁に行っていないと実施するのが難しくなります。一部の社員は昇進のサイクルに乗れなくなり、キャリアの重要なステップから外れてしまうという危険性があります。
柔軟性と人間らしいつながりとの間で適切なバランスを取るために、Dropbox では「バーチャル ファースト」という新しい取り組みを採用しました。Dropbox ではテレワークが主流の働き方となりましたが、人々は間もなく 「Dropbox Studios」に集まれるようになります。Dropbox Studios とは、オフィスである必要はないものの、画面越しではなく対面で実施したほうが良い共同作業やチームの結束といった活動のために作られた物理的なスペースです。
自分だけの部屋
オフィス ビルが時として単なるビルになるならば、あるいは、生産性の条件がさまざまな形や大きさになり得るということを私たちが証明したのならば、未来の職場とはどのようなものになるでしょうか?それは、オフィスの総合的な目的や、そもそも職場とは何か、という点をどう理解しているかによって大きく変わります。そうした理解は、社内のあらゆる人が協力して作り上げていくものになるでしょう。
職場のスタイルとして会社にとって何がベストなのかを最終的に決めるのは役員などの意思決定者ですが、どこで働く社員であっても、意見を述べたり、自分自身が問題解決に参加したりする機会はあります。オフィス勤務が適していないと考える人にとって、これほどまでにテレワークの仕事が多くなった時代はないでしょう。そしてその傾向は、今後も増えていくことになります。この 1 年で、多くの人が試行錯誤を繰り返して、自分に合うものと合わないものを理解し、調整してきました。
デスク ワーカーは、パンデミックの発生とともにサバイバル モードになりました。仕事を失わず、健康でいるというだけで幸運に感じていました。しかし、そんな状態も長く続いてくると、生きていることも、実生活が送れるということも、どちらも同じように重要であると思うようになります。自宅と職場を切り分けようとするルーティンや行動は、パンデミックが始まった頃にはなかった重要なサバイバルの要素です。
こうした移行を推進するために、一部の企業は在宅勤務の手当を支給しています。社員は作業環境やインターネット環境をグレードアップし、腰痛予防になる人体工学に基づいたチェアを購入することもできます。「オフィス中心主義は終わりました」と話すのは、Shopify の CEO トビ・ルーク氏です。同氏は、これからは大半の社員を無期限にテレワークにする計画を実施しています。ビルのメンテナンス、社員用の飲み物、社員向けのその他のサービスの支払いが不要になるため、大幅なコストカットとなる企業もあるでしょう。浮いたお金を投資に回して、生産的で快適な作業環境を作ろうというのは理にかなったことです。こうした過渡期にあって、社員がホーム オフィスに投資して、物理的、精神的、そして感情的なニーズを満たそうというのも妥当なことです。
ただし、職場とは物理的な環境だけを言うのではありません。時間という枠組みからも考えることができます。環境を考えるのと同じアプローチで、働く時間についても考える必要があります。今の勤務時間を変えたほうが、ライフスタイルに合うと思いますか?そんなときは、共同作業用に一定の時間を確保し、それ以外は自律的に働く時間と決めて、非同期型の働き方を試してみてください。「メールでも済ませられるミーティング」の存在に気が付くはずです。
オフィスで働く利点は、勤務開始と勤務終了がわかりやすいということです。自宅でもそうした区切りを設けてみてください。業務の開始と終了をはっきりと決めれば、それ以外の時間をいっそう楽しめるようになるでしょう。多くの人が、同僚との付き合いを懐かしく感じています。そう感じたときには、交流の時間を率先して作るようにしましょう。大事なポイントは、自分にとってどんな方法がベストなのかを知っているということです。
パンデミックから何か教訓が得られるのであれば、それは困難に直面しても私たちはそれに対処できるということです。皆さんの今の職場に精神的意味合いが強いのであれば、ぜひ大きな夢を掲げてください。
執筆者
デュボン・マーフィ
デュボン・マーフィ氏は、カナダにあるバンフ国立公園内の第 7 条約地区に住んでいるちょっと風変わりなライター兼編集者です。アーティストと共同で作品やその制作過程を映像に収め、クリエイターへのライブ インタビューも行っています。
※本ブログは、2021年5月に公開されたブログ記事の翻訳版です。