本記事は Dropbox のデザイナー、ライターのMelody Quintana がこちらで書いた記事を翻訳したものです。
最近、文章を書くことがデザインの重要なスキルとして大きな注目を集めています。ユーザー エクスペリエンスを設計するチームの多くが、インターフェースの表現とその伝え方の重要性に気づき、ライターを起用するようになってきています。
私はこれまで、プロダクト デザインと文章作成の仕事を続けてきました。Facebook のコンテンツ ストラテジストだったときは、文章作成プロセスの重要な要素として、デザイン思考を採り入れていました。現在は Dropbox のプロダクト デザイナーとして、文章作成の仕事で培った経験を毎日役立てています。
得意なことを仕事に活かせないのではと思ったこともありましたが、結果的には新しい意味を見つけることができました。デザインの仕事に移った後は、文章を書くことが前よりも自由で、生き生きとしたことのように感じられたのです。たとえるなら、授業の 1 科目に過ぎなかった読書という行為が、今では楽しいひとときに変わったようなものです。文章の出来にすっかり頓着しなくなったとき、私は完成した文章そのものよりも、書くという行為から、より多くのことが得られるのに気づきました。私にとって書くことは、ものを考え、想像し、学ぶための自然な方法なのです。
この記事では、書くことをデザイン プロセスに役立てる方法をいくつかご説明し、言葉がすらすら出るようになるための、簡単で遊び心のある練習方法をご紹介します。さあ、ためらいを捨てて、最新のクリエイティブなツールをフル活用しましょう。
1. 思考を整理する
物事を理解しようとするとき、私たちは書くことを通じて、自分自身に問いかけることができる。書くことは自分を映す鏡であり、フィードバック システムであり、デザインを理解し、表現するための手段になる。 — ニコール・フェントン、Words as Material(素材としての言葉)
デザイン思考は、直線的なアプローチではありません。まとまりのないさまざまなアイデアを、書くことによって結び付け、意味のあるものに変えることができます。クローゼットの中を整理するように、アイデアを正しいグループに分けて、重ねていくのです。この思いつきはお気に入りだから、この棚に置こう。この問題は解決していないから、あちらに吊しておこう。このようにアイデアを整理していくのが、デザイン思考のアプローチなのです。
「自分自身と会話をする」ためには、立ち止まることも大切です。時間をかけて自分の意図をふくらませたら、それを文章にしましょう。書くことを、デザイン思考のプロセスに組み込むのです。アイデアをまとめ上げ、知識を身につけ、質問を作り、自分の視点を明確にするために、書くことを活用しましょう。
書くことをコンスタントに続けていけば、進歩している感覚を強めていけるはずです。デザインがひとつの行程だとすれば、書くことで刺激を受けて、踏み出す一歩を見極めることができるのです。その一歩の大小を気にすることはありません。
1-1. 書く練習:プロセスを日誌に記録する
作業日誌を付けてみましょう。毎日 10 分間を目標にして、自分だけが読む日誌を一気に書くのです。私の経験では、1 日の始めか終わりに行うのが効果的です。
日誌には、最近決定したことを書きます。他にも、決定が難しくて保留していることがあれば、その理由を書いてみましょう。プロセスで次に検討したいと思う大きな課題を取り上げたり、テストしてみたいソリューションについて詳しく説明したりするのもよいでしょう。ユーザー調査からわかったことを整理して書いたり、共同編集者とのやり取りを創作したりするのでもかまいません。10 分間、何でも思い付いたことを自問しながら文章に書く時間を取るようにしましょう。
2. 物語を創る
こうした原則、つまり感情に訴えるデザインには、ひとつの共通したテーマがある。それは、心理学と職人技を活用して、つながりの反対側には機械ではなく人がいると感じさせるようなユーザー体験を生み出すことだ。— アーロン・ウォルター、Designing for Emotion(感情に訴えるデザイン)
感情に訴えるような精巧なデザインは、その背後に物語の力を秘めています。物語によって、デザインされたものを使う人々との関係が良くなるのです。ユーザーを物語の主人公として見ることで、ユーザーが苦労していることを理解しやすくなり、共感を抱くことができます。デザインが意図している物語への理解を深めるには、ペルソナ、ストーリーボード、フローチャートを活用するとよいでしょう。
デザイナーはよく、スケッチを通じて作品の物語を描きます。HCI(ヒューマン コンピュータ インタラクション)の先駆けであるビル・バクストン氏によると、スケッチとはデザイン思考における定義付けの行為です。私たちにとってのスケッチとは、アイデアを提案し、可能性を探り、行動を引き起こし、質問をするために、短時間で作られ、自由に活用できるものです。デザイナーだけが使える、問題解決のための重要なツールと言えるでしょう。
物語を書くことは、スケッチに似ていると私は思います。スケッチも書くことも、どちらもお金をかけずにすばやくアイデアを記録することができます。言葉は視覚的に訴えるものではないので、ソリューションを曖昧なままにしておけるという利点もあります。物語は、私たちが想像力を働かせる余地を与えてくれるので、デザインの人間的な意味合いを探るために役立ちます。いわば、私たちが描くことのできる、最もリアルでないスケッチと言えるでしょう。
2-1. 書く練習:未来の記事の見出しを想像して書く
最も効率的な方法で物語を書く職業のひとつが、ジャーナリストです。新聞や雑誌の見出しや小見出しには、物語のエッセンスが要約されています。多くの記事は、逆ピラミッド構造を使い、読みやすく短い文で情報を伝えています。
あなたのデザインが世に出たときのことを想像してみてください。新聞のページをめくっていると、あなたの作品に関する記事があったとしましょう。見出しや小見出しには、何と書いてありますか?いろんな言い回しや切り口を楽しく考えてみましょう。試しに記事を数行書いてみて、物語をつなげてみるのもよいかもしれません。完成したデザインについて詳しく述べるのではなく、記事が伝えている、より大きな物語、つまりデザインが人々に及ぼした影響に焦点を当てましょう。
これは、言葉で概念をスケッチする練習になります。自分のビジョンを明確にし、作業の指針となる目標を定めるのに役立つはずです。練習が終わったら、チームの連携を強めるために、その物語を関係者に披露するのもよいでしょう。よく読んでいる新聞や雑誌をまねた記事をあなたの言葉で書き、ディスカッションを楽しむための素材にしましょう。
3. 言葉を使ってデザインする
長い間私は、本当に効果的なデザインを実現するのは実際のデータである、という信念を持っている。デザイン プロセス全体で実際のコンテンツや情報、アクティビティなどを使ってデザインを決めるための情報を提供し、意思決定の結論に導くことによって、効果的なコミュニケーションの取れる、釣り合いの取れたプロダクト デザインが実現する。— ルーク・ロブルースキー、Death to Lorem Ipsum(Lorem Ipsum にさよならを)
デザイナーは、問題を解決することが大好きです。問題解決の手段には、一番使い慣れているツールを使う傾向がありますが、多くのデザイナーにとって、それはピクセルとコードです。何が効果的かを確認するために、模型や試作品を使って実験するのです。
言葉もまた、デザインを形にするためのツールのひとつですから、使わない手はありません。ボタンをデザインするなら、アクションを示す言葉を違えるとエクスペリエンスの色合いがどのように変わるのか、考えてみてください。ナビゲーションをデザインするなら、さまざまなラベルがナビゲーション パスにどのような影響を及ぼすのかを検討しましょう。チームに UX ライターがいる幸運な方は、声をかけて一緒にコンテンツをじっくり考えてみてください。
デザイン上の問題に取り組むときは、最も難しくて手間のかかる問題を言葉で解決するのか、それ以外の方法を使うのか、そこが重要な判断のポイントになります。たとえば、アイコンの上に名前を表示するポップアップ ヒントは、言葉によってデザインのユーザビリティを高めている素晴らしい例です。
しかし、クリックしたときに起こる動作を説明したり、クリックすべき理由を示したり、アクションを促したりすることは、ポップアップ ヒントの役割ではありません。デザインによってもっと良い対応ができるような機能性の問題は、言葉によって解決すべきではないでしょう。
3-1. 書く練習:いろいろな言葉を試してみる
インターフェースのプランを立てるとき、私たちは、数多くのビジュアル素材やインタラクションを幅広く集め、いろいろと試してみます。同じテクニックを UI のフレーズでも使ってみましょう(チームに UX ライターがいる幸運な方は、ライターと協力してください)。
あなたは今、オンボーディングのためのフローを設計しています。そこには、次のアクションを促す機能があります。ここで使えるフレーズを、10 個ほど書き出してみてください。それぞれのメッセージを選んだときに、デザインの感じ方はどのように変わりますか?そのフレーズによって、デザイン プランはどのように変わるでしょうか?
最後に:とにかく書く
この記事を通じて皆さんに伝えたかったことを 1 つ挙げるとすれば、「上手く書けるようになるには、とにかく書く」ことです。デザインについて書かれた記事を、いくつかご紹介します。書く力を向上させるための参考になれば幸いです。
文章技術を向上させるためのヒント:
- How to design words(言葉をデザインする方法)、ジョン・サイトウ
- Interface Writing: Code for Humans(インターフェース ライティング:人間のためのコード)、ニコール・フェントン
- 伝わる Web ライティング – スタイルと目的をもって共感をあつめる文章を書く方法、ニコール・フェントン、ケイト・キーファー・リー
- From Button Copy to Bots: Writing for user interfaces(ボタンのコピーからボットまで – ユーザー インターフェースの文章作法)、エイミー・シボドー
- Voice & Tone(表現とその伝え方) – オープンソースの UX コンテンツ ガイド、MailChimp チーム
デザイン的に優れたライティング ツール:
- Dropbox Paper
- Bear
- Hemingway
- 紙と鉛筆