1995 年の夏、ある日の午後にキム・スコット氏は飼い始めた子犬のベルビディールと一緒にマンハッタンを散歩していました。交差点で待っているときに、スコット氏は道路標識をふと見上げ、ほんの一瞬だけベルビディールから目を離します。
気をそらしたその瞬間、ベルビディールが道路を渡り始めました。交差点に進入しようとする車の先をふさぐような形で。スコット氏は視界の隅で毛のような何かが動いたことに気づき、すぐに視線を戻すと愛犬に向かって突進してくる車が目に入りました。彼女はとっさにリードを引いてベルビディールを引き寄せます。その直後、すぐ脇を車が飛ぶように通り過ぎていきました。
心臓が止まったような心持ちで、そこに立ち尽くしてしまいました。そこにいた男の人、まったく知らない人でしたが、その人が私を見て「その子犬のことを本当に大切にしているのが見ていてわかったよ。だけど、お座りを覚えさせないとその子を死なせてしまうことになるよ」と言ったんです。
この男性とのやり取りで、スコット氏は 2 つのことに気がつきました。まず、この赤の他人が、スコット氏とベルビディールのことを心から心配しているようだった、ということ。彼はスコット氏の様子から、愛犬を大事にしていることがわかったようです。そんな愛犬を失って悲しむスコット氏の姿を見たくないと思ったのでしょう。そしてもう 1 つ、彼はスコット氏の行動について正面から異を唱えたのです。スコット氏は、この時のやり取りが彼女の革新的なコミュニケーション メソッドの出発点になったと話しています。そのメソッドとは、上司が同僚を心から気にかけつつ、言いにくいことをズバリと言うラディカル キャンダー(徹底的なホンネ)です。
このラディカル キャンダーを活用して、スコット氏はこれまでに世界的な成功を収めた革新的なチームを率いてきました。彼女の経歴書には、シリコン バレーの大企業が名を連ねています。Google の創業当初には AdSense のチームを統率し、Apple ではリーダーシップ セミナーを作り上げ、Twitter、Qualtrics、Dropbox では CEO のコーチングを担当しました。
2017 年 3 月 14 日、スコット氏はこうした一流企業でコミュニケーションについて学んだすべてを一冊の本にまとめ、「Radical Candor(邦題:GREAT BOSS シリコンバレー式ずけずけ言う力)」を著しました。この本は世界中で大反響を呼びました。テクノロジー業界で瞬く間に広がり、その後さまざまな業界へと伝播していきました。突如として多くの人々が、コミュニケーション モデルの全面的な転換について話し合い、より率直になることについて語るようになりました。
Dropbox はスコット氏に連絡を取り、ラディカル キャンダーの文化を作るためのヒント、従業員のモチベーション アップにラディカル キャンダーがどのように役立つか、そしてテクノロジーが人間のフィードバック処理をどのように損なっているかについて伺いました。
【キム・スコット氏への質問 10】
- 初めて聞くという方に向けて、ラディカル キャンダーがどのようなものか説明していただけますか?また、既存のフィードバック モデルとはどういった点が異なるのかも教えてください。
- 相手に直接伝えるのが難しいのは、どうしてですか?
- ラディカル キャンダーの四象限はどのように思いついたのですか?心から気にかけることと、言いにくいことをズバリと言うことの両方が重要なのはなぜでしょうか?
- ラディカル キャンダーが他のフィードバック モデルよりも効果的なのは明らかです。それなのに、どうして私たちは目先のことに囚われて効果の薄いフィードバックに固執してしまうのでしょうか?
- ギャラップが行った最近の調査では、労働者の 3 分の 2 がやる気を失っていると答えています。多くの社員が不満を抱えているような状況で、ラディカル キャンダーをどうやって推進していけばよいのでしょうか?あるいは、ラディカル キャンダーを使って社員のモチベーションを取り戻すことはできるのでしょうか?
- 従来的なフィードバックとは、上下関係を基にしていました。しかし、ラディカル キャンダーは同僚同士でのフィードバックのやり取りを推奨しているように見えます。実際にそうなのでしょうか?
- Dropbox が行った最近の調査によると、知的労働者は役員の意見よりも現場に最も近い同僚を信頼する傾向にあるようです。そんな状況で、一般の社員はどうやって役員にズバリと言う勇気を持てばよいのでしょうか?
- 昨年のインタビューで、フィードバックをシステム化することは難しいとお話されていますね。その理由について教えてください。
- 実際に話し合いを行う際に、伝え方は重要になりますか?対面で伝えた方が良いのでしょうか?メールや Slack を使ってもかまいませんか?
- フィードバックを求め、伝え、受け入れ、そして消化する私たちの能力を、テクノロジー全般が損なっていると思いますか?
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Q 1.どうぞよろしくお願いします。
初めて聞くという方に向けて、ラディカル キャンダーがどのようなものか説明していただけますか?また、既存のフィードバック モデルとはどういった点が異なるのかも教えてください。
キム・スコット氏: まず、多くの人に共通していることは、私たちがフィードバックを伝えていないということ。伝えるのが難しく、そして怖いと感じているのがその理由です。フィードバックを伝えるのがなぜ難しいのか、なぜ恐れてしまうのか。私はこれを体系的に考えられるような方法を作り出しました。
そしてもっと重要なこととして、フィードバックをどうやったら楽に伝えるようになるのかも考えたのです。私の場合、「フィードバック」という言葉を聞くとつい警戒して、できれば耳を塞ぎたくなるような気持ちになります。なので、ここでは「ガイダンス」という表現にしたいと思います。ガイダンスとは、賞賛と批判の両方を意味する言葉です。
良いガイダンスには、2 つの重要なポイントがあります。1 つ目は、相手に対して一個人として思いやりを示すことです。もう 1 つは、相手に対して言いにくいことをズバリと言う点です。その人の陰口を第三者に言うのではありません。本人に直接話す必要があるのです。
Q 2. 相手に直接伝えるのが難しいのは、どうしてですか?
私は 2 年間ビジネス スクールで学び、その中で非常に重要なことに気がつきました。人生における困難な問題はすべて、煎じ詰めると縦横 2 マスの枠組みの中に入れることができるのです。まっさらなページが大きな十字で 4 つに区切られているところをイメージしてください。思いやりを伝えると同時に相手を批判できたら、その行動は「ラディカル キャンダー」の枠に入ります。
相手に言いにくいことをズバリと言っても、心から気にかけることができない場合が、時としてあります。この枠を私は「イヤミな攻撃」と呼んでいます。当初、私はわかりやすいという理由からこの枠を「ろくでなしエリア」と呼んでいました。しかし、とても重要なことに気がついて、名前を変えることにしたのです。「ろくでなしエリア」という名前を付けてしまったことで、枠の中に上司や同僚の名前を書き入れる人が増えてしまったのです。どうか、こうした使い方はしないでください。これは、マイヤーズ ブリッグスの性格診断テストのようなものではありません。これらは、私たち全員が日常的にしているミスを体系化したものだからです。ということで、右下の枠は「イヤミな攻撃」です。相手を批判しているだけで、思いやりを伝えていない場合が該当します。
自分が嫌な奴だということに気がついたときはたいてい、先に「心から気にかける」の方向には進まずに、「言いにくいことをズバリと言う」の方向に行ってしまったときです。こんなときは、「ごめんなさい。そういう意味で言ったわけではないんです。たいしたことではありません。すべて順調です」などと口走ってしまうのです。しかし実際は、たいしたことですし、問題はあるのです。結果として、この中でも最悪の枠に入ってしまうことになります。直接的な異を唱えずに、思いやりも伝えないというのは「摩擦の回避」という枠になります。これは、有害な行動です。消極的ながら攻撃的な行動です。駆け引きに囚われた行動です。職場で起こりうる出来事の中でも、最もたちの悪い行動になります。
イヤミな攻撃や摩擦の回避についてのストーリーは、たくさんの修羅場が登場するので話していても楽しいものです。しかしもっと重要なのは、この最後の枠です。私たちはこの枠で最も多くの間違いをおかしています。この枠は、心から相手を気にかけていても、相手の気持ちを損ないたくないという考えから、相手が知っておくべきことは伝えないという行動です。この領域は「過剰な配慮」と名付けました。
Q 3. ラディカル キャンダーの四象限はどのように思いついたのですか?心から気にかけることと、言いにくいことをズバリと言うことの両方が重要なのはなぜでしょうか?
以前、Google の設立者と CEO を相手に AdSense ビジネスの状況についてプレゼンをする機会がありました。部屋に入ると、共同設立者の 1 人セルゲイ・ブリンがトレーニング マシンで汗を流していました。当時の CEO エリック・シュミットもいて、部屋の反対側でメールを書いているようでした。あまりにも没頭している様子だったので、彼の脳がパソコンに直結しているような印象を受けました。
こんな状況に置かれたら、誰もが緊張するはずです。当然、私も緊張していました。彼らの意識をどうやってこちらに向けようか、と思案しました。しかし幸運なことに、担当していたビジネスの業績は上り調子で、新規獲得した顧客の数を伝えると、エリックは驚きで椅子から滑り落ちそうになりました。
「信じられない!何か必要なものはありますか?たとえばエンジニアを増やすとか、マーケティング担当者が足りていないとかは?」
といった反応が返ってきたので、プレゼンは成功したと感じました。
ミーティングを終えて部屋を出るとき、当時の上司シェリル・サンドバーグのすぐそばを通りました。きっと、ハイタッチをして、激励の言葉をくれるだろうと思っていました。
しかし彼女は、「帰りに私のオフィスに寄っていかない?」と言ったのです。プレゼンで何かまずいことをしたのだな、と思いました。高揚していた気持ちが、突如として絶望へと変わっていきました。
シェリルはまず、プレゼンで私がうまくできた点を話してくれました。そして最後に、こう言ったのです。
「ミーティングでは、えーとを何度も言ってましたよ。自分でも気づいてた?」
私は手を振り払うような仕草をして、「あれは口癖ですよ。たいしたことではありません」と答えました。
まさかこれが、私のやってしまった「まずいこと」だったのだろうかと考えました。こんな些細なことを気にする人がいるだろうか、と。
するとシェリルは、「とても優秀なスピーチ コーチが Google にいるので、紹介します。費用は会社が出しますよ」と言うのです。
私はまた手を横に振る同じ仕草をして、「結構です。忙しくて時間が取れません。プレゼンでお話ししたとおり、新規顧客の数がすごいんです」と言って断りました。
すると彼女は立ち止まって、私の目をまっすぐに見つめました。
「はっきり言わなければ伝わらないようなので、言わせてもらいます。2 単語話すたびに『えーと』が続くようじゃ、馬鹿みたいに見えてしまうんです」という彼女の言葉を聞いて、私の意識がようやく全面的に彼女の方を向きました。
馬鹿みたいに見えると言ったシェリルの発言を意地悪だという人もいるでしょう。けれど実際には、私のキャリアで受けた最も親切な言葉だったと思います。彼女がこうした言葉を選んで伝えてくれなかったら、私はスピーチ コーチのもとへ行こうとは思わなかったでしょう。スピーチ コーチに会ってみて、シェリルの言ったことが大げさではなかったことに気づきました。文字通り 2 単語話すたびに「えーと」を連発していて、私はこのことに気がついていなかったのです。それまで、私はいろいろなプレゼンをしてきたんですよ。たとえるなら、大きなほうれん草のたべかすが歯にはさまった状態で 20 年間も仕事をしていて、誰もこのことを教えてくれなかったような気持ちです。
これがきっかけで、考えるようになりました。シェリルはどうして、いとも簡単に私を批判できたのか。もっと不思議に感じたのは、どうして他の人たちは私に教えてくれなかったのか、ということです。
シェリルが良い上司である理由について深く考えたことで、「心から気にかける」と同時に「言いにくいことをズバリと言う」ということにたどり着くことができました。
Q 4. ラディカル キャンダーが他のフィードバック モデルよりも効果的なのは明らかです。それなのに、どうして私たちは目先のことに囚われて効果の薄いフィードバックに固執してしまうのでしょうか?
これは重要な問いです。私も、いろいろな仮説を考えています。正しい答えを見つけられたとは言えませんが、問題の 1 つに私たちが皆ネガティビティ バイアスを持っていることがあると考えています。
私たちのネガティビティ バイアスは、社会的な状況において特に強くなります。人間社会の発展において、部族から締め出されることは死を意味していました。自力で生きることができなければ、集団に受け入れられるためにあらゆることをするでしょう。
私の経験から言うと、もしあなたがラディカル キャンダーを実践すれば、10 回に 9 回は良い結果になって驚くはずだと思います。しかし逆に言えば、10 回に 1 回は失敗してしまうのです。
私たちは、9 回の成功よりもこの 1 回の失敗の方に意識が強く向いてしまうのだと思います。そこで私は、相手の反応を評価する方法を教えています。ネガティブな反応を受けたときに、このフレームワークで進むべき適切な方向を選べるようにしています。
言いにくいことをズバリと言う方向に進むべきタイミングなのか、心から気にかける方向に進むべきタイミングなのかを判断する方法を指導しているのです。しかし、一筋縄ではいかない場合があります。相手が怒ってしまった場合、ついつい批判を引っ込めたくなってしまうのが私たちです。
私が Apple にいたときは、役者を起用してロールプレイを行っていました。わざわざ役者を使ったのは、彼らは指示を受けて涙を流すという技術を持っているからです。才能豊かなソフトウェア エンジニアたちでも、ロールプレイの相手が泣き出してしまうと突然たじろいで主張を引っ込めてしまうのです。
感情的な場面になったら、そうした感情をしっかりと受け止める方法を知ることが大切です。
そして「気分を害してしまったようで、その点については申し訳なく思っています。ですが、気を悪くさせようと思っていたわけではありません。あなたの助けになりたいと思っているのです」と伝えます。
これは、大がかりなカウンセリングとは違います。たった一言二言で、相手のためになりたいという意思を話し、思いやりと批判の両方を伝えるのです。
Q 5. ギャラップが行った最近の調査では、労働者の 3 分の 2 がやる気を失っていると答えています。多くの社員が不満を抱えているような状況で、ラディカル キャンダーをどうやって推進していけばよいのでしょうか?あるいは、ラディカル キャンダーを使って社員のモチベーションを取り戻すことはできるのでしょうか?
ラディカル キャンダーは、従業員のモチベーションを回復させるための絶好の手段だと思っています。職場での嫌なことの 1 つは、透明人間のような扱いを受けることだと思います。誰かが人を苛立たせるようなことをしたときでも、私たちは何も言わずにやり過ごしてしまうことがとても多いと思います。その人は何かが問題であることはわかるのですが、具体的に何がどう悪いのかまではわかりません。どちらの人も、無視されているような気分になるので、人間関係にとっては最悪です。
これらは、まさに人と人との関係です。家族関係、恋愛関係、友人関係とも違いますが、それでもこれは人間関係です。人が本当に嫌だと感じるのは、関係の中で無視されていると感じたり、存在しないものとして扱われたりすることです。
まずは、不満を抱えていると思う人にフィードバックを求めることです。たとえば、あなたの行動がその人を苛立たせているかもしれません。自分の行動をはっきりと理解し、その行動をやめるか、やめるよう努力しなければなりません。相手に同意できない場合は、相手の発言のうち納得のできる 5 % を探す必要があります。そして、その 5 % を軸に、なぜ同意できないのかを伝えるていねいな理由を肉付けしていきます。こうすれば、少なくとも相手が無視されていると感じることはないでしょう。
ですからステップ 1 は、フィードバックを求めることです。フィードバックを受けられない人が、他人にフィードバックをするというのでは困ります。
ステップ 2 は、批判よりも賞賛を多く伝えることです。多くの調査や研究では、批判に対して賞賛を 3 倍、5 倍、あるいは 7 倍くらい多く伝える必要があるということがわかっています。ですが、この比率を厳格に当てはめることはおすすめしません。比率をしっかり守ろうとすると、最終的には不誠実で無理のある賞賛をする羽目になりますからね。具体的で意味のある、誠実な賞賛を伝える必要があります。
また、賞賛は頻繁に伝えることをおすすめします。職場では、人を褒めることを避けてしまいがちです。それは、他人を批判した方が賢そうに見えるからでしょう。しかしあなたの職務は、自分を賢そうに見せることではありません。人間関係を確立することが大事なのです。頻繁に、そして誠実に、人を褒めてください。良い点を積極的に見てください。
しかしある時点で、「実は困っていることがあって、その件についてあなたと話したいんですが、今話してもよいですか?」と聞いてください。批判を伝える際には、自然な場所で行うのがよいでしょう。また、相手が心を開けるような適切なタイミングを選ぶようにしてください。
Q 6. 従来的なフィードバックとは、上下関係を基にしていました。しかし、ラディカル キャンダーは同僚同士でのフィードバックのやり取りを推奨しているように見えます。実際にそうなのでしょうか?
上司が部下からフィードバックを得ることは、とても重要だと考えています。むしろ、上司はフィードバックを与えることよりも、受けることの方が大事ではないでしょうか。その理由の 1 つは、上下関係ほど人間関係に悪影響を及ぼすものはないからです。
上司であるというのは、価値判断とは無関係です。「私はあなたより優れているから、私はあなたを批判するし、あなたは私に従うのだ」というアプローチでは、物事は良くなりません。人間としての常識的な配慮が互いにできるよう、人と人が向き合う対等な場を作ることが大切です。
ラディカル キャンダーとは、結局のところ人と人とのコミュニケーションです。上司、同僚、従業員など、誰に話すときでもまずは相手のフィードバックを求めること、そして良い点に目を向けることは非常に重要です。批判よりも多くの賞賛を伝えてください。そして、相手に関して自分が困っている部分を伝えて、一緒に解決してください。
これを、他の人たち同士の間でも推奨することが大切です。職場でよく起こりがちなのが、誰かがあなたのところへやってきて、そこにいない人の噂話を始めることです。そして、その場にいない人の批判へと発展します。誰かの行動について、不平や不満が飛び交います。こうした状況では、親身になって話を聞いてやりたくなるものです。しかしこんな時に話に耳を傾けるのは、良い対応ではありません。
代わりに「本人のところに行って、そのことを伝えてくるのがいいでしょう。直接話すべきです。私は社内政治や噂話には関わらないようにしているので」と答えるべきです。
この対応によって、社内政治という「鍋」をかき回すことになります。言いたいことがあるなら、相手に直接伝えるよう後押ししてください。あなたが当事者たちの上司であれば、彼らによる問題解決を見届けてください。問題が解決できなかった場合は、あなたのところに当事者を集めて全員で話し合いをします。
Q 7. Dropbox が行った最近の調査によると、知的労働者は役員の意見よりも現場に最も近い同僚を信頼する傾向にあるようです。そんな状況で、一般の社員はどうやって役員にズバリと言う勇気を持てばよいのでしょうか?
役員にできる重要な対策は、「権力者に真実を話すことを恐れない」という単純で悪影響のないプロセスを導入することです。この方法は、「スキップ レベル ミーティング」と呼ばれることもあります。たとえば、あなたが複数の中間管理職の上司だとしましょう。年に一度、中間管理職が受け持っている部下たちと直接話し合いを行います。この場に、中間管理職の人たちは同席しません。
たとえば、私の部下にアンとトーマスという中間管理職がいるとします。まずはアンのチームとミーティングを行います。アンは出席しません。
ここで、「アンがより良い上司になるため、またはリーダーシップの手腕を発揮するために、彼女がすべきことややめるべきことは何ですか?」と質問します。
このミーティングの目的は、私からアンにそのことを話すのではなく、チーム メンバーから直接アンに話せるようにすることです。もちろん、上司に率直に意見をすることは難しいという点については理解しています。だからこそ、このミーティングを行っているのです。上下関係を乗り越えようとしているのです。
私はミーティング中にメモを取ります。アンにはミーティングでどんな意見が出たかを伝えますが、誰が言ったのかは話しません。より良いリーダーになるためにアンができることを、皆で話し合って 2~3 個見つけます。このプロセスをトーマスのチームとも行います。これで、このミーティングは全員に行うプロセスとして認識されるわけです。アンやトーマスがリーダーとして問題があるという報告を受けて、彼らを罰しようというわけではないのです。あくまで 1 つのルーティンとして行います。
次に私がすべき重要な仕事は、アンやトーマスと協力してこれから何をすべきかを決めて、実際に起こした行動をどのように伝えるかを考えることです。
また、「誰かの人格を変えることが目的ではない、ということをわかってください。アンはこれからもアンのままで変わりません。人間性を批判するのではなく、一緒に仕事をしやすくするために何ができるのかに注目しましょう」と伝えることが重要です。
Q 8. 昨年のインタビューで、フィードバックをシステム化することは難しいとお話されていますね。その理由について教えてください。
マネージャーが部下をコーチングしたり成長させたりできるようにする「成長のためのフィードバック」と「勤務評定」は大きく異なります。ラディカル キャンダーの著書の中で私が書いたことのほとんどは、成長のためのフィードバックです。ちょっとした場面で行う 2 分程度の話し合いです。そのため、不規則に行われるこうした短い会話を業務に体系的に組み込むことは非常に難しいでしょう。しかし、とても重要なものです。たとえるなら、歯磨きと歯の根管治療の違いのようなものです。私が話すことはたいてい、歯磨きについてです。
ただし、根管治療を行わなければならない場面もあります。多くの企業にとって、勤務評定や人に点数を付けるのをいっさい廃止するというのは、大きな変化でしょう。ただし、成長のための話し合いを行う方法を社員に伝えることを重視するのであれば、そう悪い結果にはならないでしょう。成長のための話し合いを行わずに勤務評定だけを行うのは、虫歯のまま詰め物をするようなものです。そんなことをすれば、虫歯はますます悪化するでしょう。
勤務評定を廃止しようとしている多くの企業は、成長のための話し合いを導入した後、最終的には勤務評定を再導入することになると思うのです。勤務評定は、ラディカル キャンダーをさらに強化するようにも作れますし、ラディカル キャンダーを台無しにするようなしくみにすることもできます。私の意見では、ラディカル キャンダーを強化するような勤務評定制度を作るべきで、勤務評定は成長のための話し合いに取って代わるものではないということをはっきりさせるべきだと思っています。多くの企業で、「勤務評定を行うのだから、成長のための話し合いは今でなくてもいいだろう」という間違った判断が起きてしまうためです。これは非常に危ういことで、大惨事につながります。
ですから、勤務評定制度の中で成長のための話し合いが持つ重要性を繰り返し伝えるようにすべきです。
Q 9. 実際に話し合いを行う際に、伝え方は重要になりますか?対面で伝えた方が良いのでしょうか?メールや Slack を使ってもかまいませんか?
ガイダンスを伝える方法はとても大切です。可能な限り、対面で直接伝えるのがベストです。コミュニケーションの 80~90 % は非言語的なものです。先ほどの Google でのプレゼンを例に話しましょう。シェリルが対面で話していなかったら、手を払いのけるような私の仕草を目にしていなかったでしょう。この仕草を見なければ、シェリルは直接的な批判の方向に進むべきだ、ということがわからなかったでしょう。成長のための話し合いは、できる限り対面で行うことがとても重要です。
テクノロジーを使った方法には、優先度があります。ビデオ通話は、音声通話よりも優れています。このインタビューでは音声だけが記録されていますが、互いの姿を見て話ができています。色味がわかった方が、より良い話し合いができます。動画があった方が、音声のみよりも良いのです。電話は、メールと比べるならば、はるかに優れています。そして、フィードバックを文面で伝えるべきではないと強く思っています。
Q 10. フィードバックを求め、伝え、受け入れ、そして消化する私たちの能力を、テクノロジー全般が損なっていると思いますか?
メールや SMS で伝えた方が早いと感じるのは当然でしょう。誰かに電話をかけたり、電話を受けたりする場合は相手の反応を聞かなければなりませんから。しかしこれは大きな間違いです。メールで伝えた場合に起こる苛立ちや誤解を考えれば、相手の反応が見えないことが原因で誤った方向に進んでしまう可能性が高いことがわかるでしょう。
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