2019年4月に施行された働き方改革関連法により、規模の大きな企業から順次適用されていきました。2023年4月になると、ついに中小企業でも施行されることになります。そこで、今回は改めて労働基準法の概要や目的を解説するとともに、2023年4月施行の改正労働基準法で具体的に何が変わるのか、そして中小企業が準備すべきことは何かを紹介します。
基本的な労働権を保障する労働基準法
労働基準法とは、労働者の権利を守るための法律です。かつて一部の企業では、労働者の権利を無視した劣悪な労働環境がまかり通っており、長時間労働やサービス残業、パワハラやセクハラなどが常態化しているケースも見られました。そこで、日本国憲法に記載されている労働権に基づき制定された法律が「労働基準法」です。
「労働組合法」や「労働関係調整法」とあわせて、通称「労働三法」とも呼ばれます。なお、労働組合法は労働組合をつくって会社(雇用者)と話し合うための法律です。労働関係調整法は、労働争議により雇用者と労働者が紛争に発展した場合、解決するために労働委員会が斡旋・調停・仲裁を進めることを目的とします。
労働基準法は、労働者の最低限の権利を保障します。具体的には労働契約や賃金、労働時間、休暇休日、災害補償、就業規則といった項目で構成されています。もし雇用者と労働者の合意により労働条件を決めたとしても、労働基準法の基準を満たさなければ無効になります。また基準に違反して労働させていた場合、雇用者は罰金刑・懲役刑の刑事罰を科されます。数百万の罰金や数年~10年もの懲役が科されるだけでなく、企業経営に信用面で甚大なダメージを与えかねません。
労働基準法は現在も改正され続けています。2020年~2021年の改正では、「同一労働同一賃金」や「全労働者の育児・介護休暇取得」といった点が変更されました。どちらも正社員とパートタイムなどで待遇を不平等に区別するのではなく、一律の待遇を求めるものです。
このような背景から、雇用者は最新の動向を理解し、法改正を反映した労働契約や就業規則を考える必要があります。
2023年4月施行の改正労働基準法で中小企業の対応はどう変わる?
近年では、働き方改革の一環として、雇用者に対して時間外労働(残業)の取り扱いを厳しくする法改正が続いています。簡単にいえば、労働者の時間外労働を減らそうとする変更が順次進められています。
中小企業を対象に2020年4月から「時間外労働の上限規制」が設けられたことは記憶に新しいかもしれません。これまで時間外労働は、特別な事情さえあれば「36協定(※)」を労使間で結ぶことで、上限なく働かせることができました。しかし、時間外労働の上限規制では原則として「月45時間・年360時間」の制限が設けられ、特別な事情があっても「年720時間・2~6か月の月平均80時間」などの壁を超えられません。
※36協定:労働者に時間外労働や休日労働をさせるために労使間で締結し、管轄の労働基準監督署に提出が必要となる書類
さらに2023年4月からは「時間外労働の割増率アップ」が変更されます。これまで、中小企業は「1日8時間、週40時間」を超える時間外労働について、60時間以内で25%増の割増賃金(残業代)を支払う義務がありました。60時間を超える分については、大企業のみ50%増で支払わなければなりませんでした。
しかし、2023年4月からは中小企業も対象となり、60時間以上の超過に50%増で、割増賃金を支払うことが義務づけられます。できる限り、基本の労働時間内で収めなければ、人件費が膨大になりかねません。
出典:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
今回、労働基準法だけでなく「労働安全衛生法」も同時に改正されました。労働安全衛生法とは、労働者の安全や健康を守り、快適な職場づくり促進を目的とする法律です。
同法では、これまで雇用者が労働時間を管理する対象として、労働監督者や、みなし労働時間制の従業員を省いていました。しかし、今回の改正で両者とも労働時間を管理する対象となります。
労働安全衛生法第66条の8では、規定の労働時間を超えた労働者に対し、医師による面談指導を義務づけています。厚生労働省は面談の対象者を把握するためにも、労働監督者を含めた勤怠管理をすべきだと通達しました。今後は、全従業員を対象に勤怠管理を行う必要があります。
また、「勤務間インターバル制度」の導入も推奨(努力義務)されています。退勤時間から次の出勤時間までのスパンが短いと、睡眠や休息を満足に取れず、健康に悪影響を及ぼしかねません。そこで一定の休息時間を確保するために定められたのが「勤務間インターバル制度」です。
2022年9月時点では義務化されていませんが、企業での導入により、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」などの補助金を活用できます。この補助金では、事業場で実現した休息時間数が「9時間以上11時間未満」なら最大で80万円、「11時間以上」なら最大で100万円の一部経費を助成します。
勤怠管理システムで従業員の勤務状況を正確に把握
2023年4月に来たる法改正に向けて、中小企業ではどのような準備をすべきでしょうか。
まず、残業代の割増率だけでなく、勤怠管理の対象に労動監督者も含まれるため、従業員一人ひとりの労働時間を正確に把握する必要があります。仮に法律違反となる場合は、すぐに是正できる体制を整えておかなければなりません。しかし、手作業で労働時間を管理すると、人事担当者の負担は大きくなり、人的ミスも起こり得ます。
そこで業務効率を上げ、ミスなく管理するために「勤怠管理システムの導入」をおすすめします。勤怠管理システムとは、紙やExcelではなく、オンラインの専用システムで勤怠管理を行えるものです。
一般的な勤怠管理システムの機能は、勤怠データを集計して帳票出力したり、スケジュール管理やシフト管理を行ったりすることができます。ICカードやパソコンの使用時間などの記録から、正確に勤怠管理を行います。労働者側では、スマートフォンやICカード、生体認証を用いてデジタルに勤怠時間を打刻でき、有給などの申請も簡単にできます。
勤怠管理システムの導入により、アナログで起こっていた勤怠管理作業の人的ミスを防ぎ、人事担当者の負担を減らすことも可能です。また、システムによっては入力した勤怠管理情報と労働基準法の基準を照らし合わせ、違反を検出してアラート通知することもできます。
勤怠管理システムを選ぶ際は、主に「業種業態ごとの事情を反映できる」「予算に合う」「必要な機能が備わっている」の3点を重視することが大切です。
勤務地がオフィス外となる建築業界や、シフト制が基本となる看護・介護業界など、業種業態ごとに勤務形態は異なります。それぞれの事情を反映できる勤怠管理システムであれば安心です。
また、企業で定めている予算に合うだけでなく、勤怠管理で求める機能が備わっていることも重要です。せっかく導入しても、機能が限定されて操作が難しければ、現場で効率的に運用することはできません。
このように、まずはシステム導入によって、アナログでの勤怠管理から脱却し、そのうえで従業員一人ひとりの勤務状況を正確に把握することが、労働基準法対策の第一歩といえるでしょう。
まとめ
2023年4月の労働基準法改正に向けて、従業員の打刻記録や出勤記録などのデータを適切に管理することは必須です。アナログでのデータ管理では、必要なタイミングで必要なデータを探すのに時間がかかったり、データ自体を紛失したり、ウイルス感染などで流出したりする恐れもあります。
機密データの管理には、クラウドストレージの活用が役立ちます。Dropboxでは、データの保管や共有といった一般的な機能のみならず、「データの保護・バックアップ」や「アクセス権限のコントロール」も可能です。
「バックアップ機能(Dropbox Backup)」では、365日間、自動的・継続的にデータをバックアップしてくれます。ランサムウェア攻撃からデータを保護し、ドライブの故障時にも対処できます。また簡単な操作で、ファイルの復元を簡単に実現可能です。手作業でのバックアップでは、作業自体を失念したり、時間を要すこともありますが、Dropboxでは効率よく行えます。
また、企業の機密データに「どの従業員でもアクセスできる状態」は、リスク管理として安心できません。昨今、世間を騒がしている情報漏えいでは、内部不正が関わるケースもあります。そのため、役職・立場に応じてアクセス権限を付与するのが望ましいでしょう。
Dropboxでは、柔軟にアクセス権限を付与できます。Dropboxの特長はフォルダの階層に応じて、アクセス権限の追加・削除が可能な点です。「上位フォルダの中にある、特定のフォルダ(下位フォルダ)には、アクセスしてほしくない」といったシーンで役立ちます。
一般的なクラウドストレージでは、下位フォルダに対して、アクセス権限を追加できても、削除できないケースがあります。一度、アクセス権限を付与してしまえば、取り消すことはできません。その点、Dropboxでは追加、削除どちらにも対応できます。機密データを管理する上で重要な機能です。
Dropboxを用いて、勤怠管理に関わる機密データを安全かつ効率よく管理し、労働基準法改正に備えてはいかがでしょうか。