昨今、ニュースメディアのあるべき姿が討論されています。
人々は、Web や SNS の発展によりニュースに触れる機会が格段に増え、膨大な量の情報を処理しないとならなくなりました。その中で、「フェイクニュース」と呼ばれる偽のニュース報道が蔓延し、事実無根の偽ニュースが世論を動かしてしまう事態も生まれています。
そんな中、「スローニュース」と言われる分野が注目されています。ニュースを様々な事実や根拠に基づいて深掘りして発信していくジャーナリズムです。
この記事では、スローニュースを扱うメディアの紹介と、それらに共通する重要なポイントについて説明します。
あなたにとって本当に価値あるメディアの見分け方を身につけましょう。
<目次>
1.ニュースのあり方を変えるスローニュースという考え方
2.スローニュースを実行するメディア例
2-1. オランダの会員制メディア De Correspondent
2-2. イギリスの公共放送局 BBC が行う Reality Check
2-3. 社会問題の本質を掘り下げる日本のリディラバ
3.スローニュースメディアに共通する重要なポイント3つ
3-1. 独立性を保つ
3-2. 速報性や量ではなく質にこだわる
3-3. 読者にアクションを起こさせる
4.フェイクニュースに騙されないために個人が気をつけるべきこと
まとめ
1.ニュースあり方を変えるスローニュースという考え方
「スローニュース」という言葉は聞いたことがありますでしょうか?
報道の主流である、毎日アップデートされる速報を日々追いかけて発信していく方法ではなく、特定のニュースを深く掘り下げ読者の理解度を深めていく報道方法のことです。
「スローニュース」が注目された背景としては、反義語である「フェイクニュース」が蔓延していることにあります。昨今、Web や SNS などのプラットフォームの発展により、人々が容易にニュースを入手できるようになりました。しかしそれと同時に、嘘や意図的に作られた偽の情報も簡単に広まるようになってしまっています。
話題性や速報性ばかりを重要視してしまうことで、根拠がない情報が発信・拡散されてしまうといった事態が深刻化しているのです。こういった偽の情報「フェイクニュース」は、その言葉が2017年の流行語大賞にノミネートされるなど社会的な課題として注目されています。
こうした状況下で、これまでニュースに求めていた速報性よりも信頼性を人々は求め始め、実際に「あなたがニュースメディアに一番求めるものは?」という意識調査の設問に対し、83.2%の人が「信頼性」と回答しているというデータがあります。(設問提供:テレビ朝日「 AbemaPrime 」)
これまでの速報性や話題性を重要視したニュースメディアのあり方は、情報を精査し事実確認をした上で発信するスローニュースへとシフトしてきています。
2.スローニュースを実行するメディア例
スローニュースを重要視したコンセプトを持つメディアが増えています。あなたの目で実際にここで紹介するメディアを確認してみてください。具体的なイメージがわくはずです。
2-1. オランダの会員制メディア De Correspondent
オランダの「 De Correspondent(コレスポンデント)」は、2013年に生まれた新興メディアです。
「 De Correspondent(コレスポンデント)」が秀逸な点は、そのコンセプトです。
「例外」を見るのではなく「ルール」を見よう。
「事件」を見るのではなく「構造」を見よう。
「今日」を見るのではなく「毎日」を見よう。
この姿勢が私たちが今までのニュースメディアと違う点だ。
創設者で編集長のロブ・ワインベルグはこのようなコンセプトを掲げ、コレスポンデントを立ち上げました。
広告を一切貼らず、年間60ユーロ(約8,000円)もしくは月額6ユーロ(約800円)の課金制ですが、2017年12月時点で5万6000人の購読者がいます。
広告に頼る必要がないことから、広告主に気を遣った内容のニュースを発信する必要もなく、お金を払って本当にニュースを必要としているユーザーだけにニュースを発信します。
ロブ・ワインベルグは、「現代のニュースは、ファーストフードのようなものだ」と言います。刺激的な味付けで手軽に食べられるファーストフードはついつい食べ続けてしまいますが、栄養はなく自分の財産にはなりません。https://wired.jp/special/2017/de-correspondent/
1日の公開記事数は他のニュースサイトより少ない約5本程度で、それぞれ専門性を持った一流の記者たちが深堀した内容の記事を提供しています。日々移り変わるニュースを表面的に捉えるのではなく、出来事の本質を求めた内容にこだわっています。(「有料読者は約5万、蘭メディアの「コミュニティ」運営術:「デ・コレスポンデント」の成功要因」DIGIDAY)
また、記事の多くは質問形式で終わっており、実名で登録している読者がコメント欄に各々の意見を入力します。記者が記事を発信するだけでなく、読者との相互コミュニケーションも大事にしている点も特徴の一つです。
2-2. イギリスの公共放送局 BBC が行う Reality Check
大手BBCもスローニュースを重要視した施策を打ち出しています。
http://www.bbc.co.uk/news/topics/cp7r8vgl2rgt/reality-check
フェイクニュースの広がりを防ぐため、ニュースの真偽を調査する特別チームを編成し、真偽の確証が取れていないニュースを取り上げ徹底的に検証しています。検証結果は、「 Reality Check(リアリティーチェック)」というシリーズで、1日2本程度の記事や動画コンテンツが配信されます。BBC は今後、特別チームのメンバーを増員し拡大を図っていくようです。(「BBC、「スローニュース」戦略で フェイクニュース対策:連載「リアリティーチェック」の狙い」DIGIDAY)
2-3. 社会問題の本質を掘り下げる日本のリディラバ
日本でもスローニュースの考え方が広まりつつあります。
株式会社リディラバは、社会問題を構造的に伝えるウェブメディアの立ち上げを予定しています。同社は、社会問題に対する無関心を改善するべく、実際に現場を訪れるスタディーツアーの企画や、メディアの運営を行ってきました。
今回新たに、毎日入ってくる事実をそのまま発信するのではなく、事実の背景なども交えて伝えるスローニュースに特化したメディア「リディラバジャーナル」の立ち上げを予定しています。(「なぜ日本のメディアは「無関心の構造」をどうにもできないのか」Yahoo!Japanニュース)
代表の阿部氏は、「メディアの本質は、情報を提供した先に、人の行動を変容させることにある」と述べています。新メディアで社会問題に興味を持つ人の絶対数を増やし、その人たちをスタディーツアーに参加させ、さらに長期的な滞在などエンゲージメントを益々高めていくことを理想としています。
3.スローニュースメディアに共通する重要なポイント3つ
フェイクニュースを防ぐために生まれたスローニュースのメディアですが、共通するポイントが3つあります。それは、
・独立性を保つ
・速報性ではなく質にこだわる
・読者にアクションを起こさせる
この3つです。
3-1. 独立性を保つ
メディアとして独立性を保ち、どこかの肩を持たないことが大切です。
そのためには、広告費に頼らずユーザーからの購読料のみで運営していく形態が理想だと言えます。
広告主の意図を組む必要がないので、ねじ曲がった内容ではなく本質的な情報を発信することができます。
新たにメディアを立ち上げようとしている方は、広告を一切載せずに読者からの課金だけで運営する仕組みを検討してみてください。
メディアのコンセプトが設計できていれば、コレスポンデントやリディラバが行ったような資金調達のためのクラウドファンディングで、ユーザーの反応を見てみるという手もあります。
3-2. 速報性や量ではなく質にこだわる
どれだけ早く報道できたか、どれだけ本数を上げられたかではなく、質にこだわることが重要です。
まず報道する前に事実確認を必ず行い、確証のとれたデータだけを提示する必要があります。
確かに、いち早くセンセーショナルなニュースを発信すればメディアのクリック数や PV 数は伸びるでしょう。しかし、発信した情報に誤りがあればメディア自体の信頼は一気に失墜します。一度失った信頼をまた取り戻すことは容易なことではありません。
3-3. 読者にアクションを起こさせる
単に事実だけを発信する報道では、読者の生活に変化はありません。メディアの役割は、より多くの人々に情報を発信し、社会問題のような課題があれば改善に向けて、人々の行動を促すことにあります。
パッと見て話題性がありそうな見出しだけど中身が薄いといった情報は、読者にクリックされて読まれる可能性が高いかもしれません。しかし、その先の「読者の行動を変える」ことはできません。
読者の行動を変えるためには、淡々とニュースを発信するだけでなく、そのニュースが報道される背景や、取り巻く環境がどう変化しているのかなど深堀した内容を届けることが重要です。読者の考えを変えるような内容であれば、シンプルさにこだわらず文量が多くても読者にとっては価値あるものになります。
4.フェイクニュースに騙されないために個人が気をつけるべきこと
Web や SNS などで気になるニュースを見つけたら、シェアする前に一呼吸おいて「この情報は信頼できるものか」どうかを考えることが大切です。
何も考えずに拡散してしまったら、あなたも知らず知らずのうちにフェイクニュースを広めてしまうことになりかねません。
信頼できる情報かどうか確かめるポイントは、例えば下記のようなものがあります。
・他のメディアでも報道内容を確認する
同じ内容の報道を他メディアが発信しているかを見てみましょう。もしかしたら、メディアそれぞれで違うことを主張しているかもしれません。
・執筆者を確認する
コンテンツを誰が書いているのか確認しましょう。複数のコンテンツを確認して「この人が書いた記事なら信用できる」といった自分のお気に入りの執筆者を見つけることも一つの手です。
・引用元を確認する
情報源の引用元が記載されているか確認しましょう。根拠となる情報源が記されていないコンテンツは、事実として鵜呑みにしないように気をつけて下さい。
毎日触れるニュースを何も考えずに受け取るのではなく、しっかりと自分自身の価値とするために普段から意識してニュースを精査することが重要です。
また、発信する側も、執筆者や引用元を明記するなど、個人がフェイクニュースに騙されないような発信方法を作り出していくことが求められます。
まとめ
ニュースメディアは、その形態を変えようとしています。
簡単に情報が手に入ってしまう時代だからこそ、入手した情報をしっかりと精査した上で発信する仕組みが必要です。
出来事の本質を徹底して発信していくスローニュースは、今後も拡がりを見せていくでしょう。