アイデア出しに困ったとき、何かよい方法はないかとお探しですか?または、「オズボーンのチェックリスト」というものがあるらしいけれどどうやって利用するのかと疑問をお持ちですか?
ナレッジワーカーにとって、アイデアを生み出すというのはとても重要な作業です。しかし、いつでも思い通りにグッドアイデアが浮かぶとは限らず、そのときの気分やモチベーションからの影響を受けることもあるでしょう。そんなときに威力を発揮するのが、このオズボーンのチェックリストです。あらかじめ用意されているリストに沿って質問に答えていくだけでアイデアが続々と出てくる手法なので、多くのナレッジワーカーから重宝されています。
そのうちの一人である筆者が、実体験も含めてオズボーンのチェックリストを効果的に使うために知っておきたいこと、特に実用例を多く紹介しています。
最後にはオズボーンのチェックリストをもっと手軽に楽しく実践できるツールも紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. 瞬時に大量のアイデアを出せるオズボーンのチェックリスト
2. オズボーンのチェックリスト 9 項目+SCAMPER の具体的な事例集
3. オズボーンのチェックリストに使える便利なツール 4 選
4. まとめ
1. 瞬時に大量のアイデアを出せるオズボーンのチェックリスト
1-1. オズボーンのチェックリストとは
オズボーンのチェックリストとは、アメリカのアレックス・F・オズボーン氏によって考案されたアイデア捻出技法のひとつです。同氏はブレインストーミングの考案者としても知られており、とにかくたくさんのアイデアを出すためのノウハウの第一人者として知られています。
あらかじめ設けた 9 項目に対して対象のキーワードを当てはめてみて、そこから何か答えが得られないかということを試しながら気づきを得るのが主な利用方法で、その 9 項目からはこれまでにもたくさんのアイデア商品やヒット商品が誕生しています。
1-2. オズボーンのチェックリストにある 9 項目
オズボーンのチェックリスト試してみるべきとされている 9 項目は、以下の通りです。
- 転用 他の使い道はないか?
- 応用 他からアイデアを借用できないか?
- 変更 変えてみるとどうなる?
- 拡大 大きくしたらどうなる?
- 縮小 小さくしたらどうなる?
- 代用 他に代用できるものはないか?
- 置換 入れ替えてみたらどうなる?
- 逆転 逆さにしてみたらどうなる?
- 結合 組み合わせてみたらどうなる?
このように、1 つの事柄に対して上記の 9 項目を当てはめてみたら何か思い浮かぶのではないか、気づきがあるのではないかというのがオズボーンのチェックリストです。
この 9 項目については、次章で詳しく解説をした上でその発想から生まれたヒット商品や事例などをご紹介します。
1-3. オズボーンのチェックリストの使い方
オズボーンのチェックリストはとても使い方が簡単なアイデア技法です。目の前にある「アイデアが欲しい」と思っている事柄にオズボーンのチェックリストにある 9 項目を当てはめるだけです。
それでは、試しに「クルマ」というキーワードをオズボーンのチェックリストに当てはめてみましょう。
- 転用 EV のバッテリーを家庭用電源にも使えるようにする
- 応用 コウモリからヒントを得た超音波による衝突防止機能
- 変更 ガソリンエンジンを EV に
- 拡大 ビッグサイズの軽自動車
- 縮小 1 人乗りの超コンパクトカー
- 代用 ベロタクシー
- 置換 時計メーカーとのコラボで個性的なデザインのベンツ車
- 逆転 マーケティングをせず、敢えて技術者が作りたいクルマを作る
- 結合 ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車
筆者が思いつくままに当てはめてみたら、以上のようになりました。これらはすべてすでに存在しているものばかりなので、自動車メーカーがオズボーンのチェックリストを活用したかどうかは分かりませんが、とても広い視野で商品開発をしていることが改めて分かります。
身の回りにあるものをオズボーンのチェックリストに当てはめてみると、8 項目は当てはまるのに 1 つだけ既存の商品に当てはまらないものが出てくるといった時があります。そのように当てはまらないものが画期的なヒット商品のアイデアにつながるかもしれず、これがオズボーンのチェックリストの面白いところです。
1-4. 改良版オズボーンのチェックリスト「SCAMPER」とは
オズボーンのチェックリストを改良した、SCAMPER というチェックリストもあります。これはボブ・イバールという人が改良を加えたもので、それぞれの要素を英語で表記した時の頭文字を並べて SCAMPER と呼ばれています。
SCAMPER の内訳は、以下の通りです。
- Substitute 入れ替えたらどうなる?
- Combine 結合したらどうなる?
- Adapt 応用したらどうなる?
- Modify 変更・修正したらどうなる?
- Put to other uses 転用したらどうなる?
- Eliminate 取り除いたらどうなる?
- Rearrange または Reverse 再編成、逆さにしたらどうなる?
ここでお気づきになったかも知れませんが、SCAMPER のほとんどはオズボーンのチェックリストにも登場するものです。唯一、SCAMPER にしか登場していないのは「Eliminate」です。それ以外はオズボーンのチェックリストを踏襲しているので、頭文字をうまく並べて覚えやすくしたものであるという解釈もあります。
実際にやってみる際には、オズボーンのチェックリストにはない「Eliminate」の項目だけを追加して 10 項目でやってみるのがよいのではないでしょうか。
1-5. オズボーンのチェックリストの特徴とメリット・デメリット
1-5-1. オズボーンのチェックリストの特徴
オズボーンのチェックリストが持つ特徴として最も顕著なのが、9 項目という法則性にのっとってアイデアを出していけることです。考案者であるオズボーン氏がこの 9 項目に絞り込むにあたってそれまでにもっとたくさんの項目があったそうですが、本当にアイデア出しに必要なものに絞り込んだ結果が現在の 9 項目です。
すでにブラッシュアップされた 9 項目で検証できることは、そこから生まれたアイデアの中に現実的なものが多いことでもあるので、これは特徴でもありメリットと言えるでしょう。
1-5-2. ブレインストーミングや KJ 法との違い
オズボーンのチェックリストを考案したアレックス・F・オズボーン氏はとても有名なブレインストーミングも考案しています。同じ人が 2 種類のアイデア技法を考案して世に送り出しているのは、それぞれが持つ役割が異なるからです。
ブレインストーミングは参加しているメンバーが自由奔放に意見を出し合うため、その中には荒唐無稽なもの、非現実的なものも含まれます。その中にキラリと光るようなアイデアがあればよいのですが、自由奔放さに任せているがゆえに秀逸なアイデアが出るかどうかは運任せという側面があります。
それに対してオズボーンのチェックリストは最初からアイデアをひねり出す方向性が決められているため、あまり突飛なものは出にくいでしょう。
これは KJ 法との違いにも同様のことが言えます。東工大名誉教授の川喜田二郎氏が考案した KJ 法も思いついたことを自由に付箋に記入していくため、そこに書き込まれる思いつきがどんなものになるのかはやってみるまで分かりません。
その点において、オズボーンのチェックリストは効率よく妙案を出したい時に適していると言えます。
1-5-3. オズボーンのチェックリストのデメリット
デメリットは先ほどの裏返しですが、最初から決められた法則性の中でアイデアを練る技法なので、意外性のあるもの、画期的なものが出てくる可能性は低くなります。いわゆる「置きに行く」イメージのアイデアは出しやすいかもしれませんが、「攻めたアイデア」に出会うためにはブレインストーミングや KJ 法のほうが向いているかもしれません。
2. オズボーンのチェックリスト 9 項目+SCAMPER の具体的な事例集
2-1. 転用 Other Uses
機能はそのままで他に使い道はないかという可能性を探る項目です。主な実例には以下のようなものがあります。
- 正規価格では売れない食べ物を「わけありグルメ」で格安販売
- 放置されていた休耕地を太陽光発電所に
- お茶の殺菌効果を利用して飲用だけでなく消臭剤、石鹸の成分として活用
- 当初は遺言の録音用だった蓄音機を音楽用に転用して爆発的なヒット商品に
- 力の弱い接着剤を「はがせるメモ紙」として商品化、ポストイットが誕生
いずれもそのままでは活用できなくなっているものに別の用途や役割を与え、見事商品価値を蘇らせた実例です。
2-2. 応用 Adapt
応用というと聞こえはよいのですが、ここでいう応用とは他の業種や分野からの真似を意味しています。他業種でヒットしているものを自社の業種でも真似をするとヒット商品になる場合があります。
- コンビニでカフェ並みの本格的なコーヒーを販売(カフェからの応用)
- 健康茶の分野にしかなかったトクホをコーラ飲料に応用
- コウモリが持つ習性を応用した衝突防止車
- 雑誌で成功している企画を Web でも応用
2-3. 変更 Modify
現在の形や機能を何か変えてみたらどうなるか?という可能性を試す項目です。機能以外にも、色や音、香り、仕組みなど対象物の何かを変更してみる考え方です。「転用」は現在の形や機能のままで別の用途を考えますが、ここでは形そのものを変えるところが異なります。
- 中身はそのままでパッケージを変えてみる
- 安いものというイメージのものに高級感を持たせてみる(インスタントラーメンなど)
- 音が鳴らなかったものに音が鳴る機能を追加する
- マイナス穴しかなかったネジをプラス穴にすることで強度アップ
2-4. 拡大 Magnify
大きさを変えてみるという発想は、オズボーンのチェックリストがなくても思いつきやすいアイデアの切り口かもしれません。既存のものを大きくしてみるだけで、さまざまな物事の見え方が変わってきます。
- 既存の「ポッキー」を大きくしたジャイアントサイズがヒット商品に
- 大きなサイズ専門のファッションブランド
- 1 日単位だったテーマパークの入場券を年単位にした年間パスポート
- 敢えて大きく頑丈な腕時計を作って「G-SHOCK」が大ヒット
2-5. 縮小 Minify
既存の商品を小さく、または細分化、機能を少なくすることによって新しい切り口を見出す考え方です。大きいことや多機能なことがよいとされてきた市場において、ミニマリズムの潮流が新しいヒット商品を生み出しやすい項目です。
【ミニマリズムとは】
拡大、完成を目指す従来のベクトルとは異なり、敢えて必要最小限のものに絞った概念です。文化芸術の分野で広がりを見せましたが、近年では生活様式にも採り入れる人が登場しています。
- 往年の大ヒットゲーム機「ファミコン」のミニサイズ版を復刻
- 高齢者や子供向けに敢えて機能を限定した携帯電話端末
- フィギュア、鉄道模型、ドールハウスなどの模型文化
- 「おひとりさま」歓迎の飲食店
2-6. 代用 Substitute
素材や方法、動力、場所などを現状のもの以外で代用できないかという可能性を探る項目です。工業製品の技術革新は、この代用という概念で進歩を続けてきた経緯があります。
- 鉄よりも強度が高くて軽い合金や炭素素材で代用して燃費や性能を向上した航空機
- 発泡酒や第三のビールなど、ビールの原料を置き換えることで節税
- こんにゃく麺を使用したラーメンで糖質制限
- 煙が出ない電子タバコ
2-7. 再編成 Rearrange
現在あるものを構成しているものを素材の状態に分解して、そこから組み立て直すと違うものが生まれるのではないかという視点です。似た材料であってもカレーやシチューを作ることができるのは、再編成の概念によるものです。
- 食券システムの飲食店は料金収受を機械が行うため人的コストを削減
- オフィスのレイアウトを変更して動線や作業効率が向上
- オチを最後に持ってくることで同じ話でも面白い話になる
- 小麦粉を米粉に置き換えて作ったパンはアレルギー物質が少なく子供が安心して食べられる
2-8. 逆転 Reverse
上下や左右、前後、順序などを逆にしてみたらどうなる?という発想の項目です。目に見えているものだけでなく手順や製法を逆にするというアイデア事例もあります。
- 最初は 1 円の価格設定から始まるネットオークションでの商取引
- 夜行性の動物を観察できるナイトサファリ
- 薬味であったラー油に具材を入れておかずに発展させた、食べるラー油
- 安定性が求められる靴底を敢えて不安定にすることで運動強度を高めたリーボックの「Easytone」
- 敢えてマイナスになる情報を使った PR 活動で信用を醸成
- 丈夫で長持ちするのがよいとされた刃物にあって、切れ味が悪くなったら先端を折ることで切れ味を復活させるカッターナイフ
- 匿名性を重視するネット社会で実名を前提としている Facebook
2-9. 結合 Combine
別々のものを合体させたり結合することによって、新しいものを生み出そうとする視点です。全く異なる分野のものを結合させたヒット商品は多数あります。
- 携帯電話とデジタルカメラを結合させたカメラ付き携帯電話、スマホ
- 芸能人やアニメキャラをコンセプトにしたパチンコ台
- 鉛筆と消しゴムが結合した消しゴム付き鉛筆
- スマホとゲームマシンを結合したスマホゲーム
余談になりますが、2016 年に大ブームを巻き起こした「ピコ太郎の PPAP」は、ペンやリンゴ、パイナップルといった関連性のないものを無理やりひとつにするという「結合」の意外性が注目を集めました。
2-10. 番外編 取り除いたらどうなる? Eliminate
上記の 9 項目はオズボーンのチェックリストにあるものですが、この「Eliminate」だけはボブ・イバール氏が提唱した SCAMPER にのみ含まれる独自の項目です。
取り除いてみるという概念なので、どちらかというと「縮小」に近いとも言えます。
- シャンプーや髭剃りをしないことで安さを前面に出した 1,000 円カット
- 素泊まりや B&B など、サービスや施設を簡素化した安い宿泊施設
- 機能を少なくすることで安くした廉価版スマホ
- 文字数を少なくして手軽さを訴求した Twitter
3. オズボーンのチェックリストに使える便利なツール 4 選
3-1. オズボーンのチェックリスト(plusblog)
Web 上でオズボーンのチェックリストの 9 項目に沿って思いついたことを書き込んでいくことができるサービスです。それぞれの項目には詳しい問いかけが表示されているので、より書き込みやすい造りになっています。
3-2. アイデア生産工場
アイデアをひねり出したい単語を入力するだけで、オズボーンのチェックリストに沿った膨大な質問が表示されます。すべての質問に答えるとかなり時間がかかると思いますが、この膨大な質問の中で目を引くものだけの回答を考えてみてもアイデアのヒントになるでしょう。
以下の入力欄に単語を入れると、
このように膨大な質問が表示されます。
⇒ アイデア生産工場
3-3. オズボーンのチェックリスト
Android 端末で簡単にオズボーンのチェックリストを実践できるアプリです。表示される質問に答えていくだけで回答が蓄積され、「マンダラート」のように思考を整理することもできます。
3-4. 強制連想型アイデア発想ツール、オズボーンのチェックリスト
iOS 向けのオズボーンのチェックリスト実践アプリです。正式名称は「強制連想型アイデア発想ツール、オズボーンのチェックリスト。企画会議、起業やビジネス解決 起業や開業、副業のブレストの前に問題悩みなどを思考を整理して発見しよう」となっており、これだけでどんなアプリなのか分かります。
⇒ 強制連想型アイデア発想ツール、オズボーンのチェックリスト
4. まとめ
オズボーンのチェックリストは半ば自動的・強制的にアイデアを引っ張り出すというイメージの技法なので、手順通りに進めれば一定以上のアイデアに出会うことができることがお分かりいただけたと思います。
いざとなったらオズボーンのチェックリストがあると知っておくだけでも安心感があるので、ナレッジワーキングの一助になるのではないでしょうか。
オズボーンのチェックリストは困ったときにこそ威力を発揮してくれるので、妙案が出てこなくて困ったときには、ぜひ実践してみてください!