労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)により、2022年4月から中小企業を含むすべての企業が、法的に明確化されたパワハラ基準に基づく具体的な防止措置への取り組みが義務づけられます。ですが現状では、パワハラの基準が個人によって解釈が異なり、対策しづらいのが課題ではあります。そこで本稿では、どんな行為がパワハラに該当するかを説明するとともに、効果的なパワハラ防止対策について紹介します。
パワハラの現状と対策の法制化
厚生労働省の調査(※1)によると職場のいじめや嫌がらせに関する都道府県労働局への相談は、平成30年度に8万2千件超ありました。ちなみに、職場のいじめや嫌がらせに関する相談は7年連続で全ての相談の中でトップです。このことからもわかるように、ハラスメントのない社会の実現に向けて、職場のパワハラ対策を強化することが急務になっています。
※1 参照:厚生労働省「労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について」
そこで労働施策総合推進法が改正され、職場のパワハラ対策が令和2年6月1日から大企業の義務になっていましたが、令和4年4月1日からは中小企業でも義務の対象になります。
同法では、パワハラの具体的な定義や事業主が講じる雇用管理上の措置の具体的な内容を定めるため、厚生労働大臣が「指針」を策定することを明記しています。
職場におけるパワハラの3要素と具体例
厚生労働省が公表した指針によると、次の3要素を全て満たすものが職場におけるパワハラと見なされるとのことです。ただし、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しません。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 労働者の就業環境が害される
厚生労働省では、具体的にどのような言動がパワハラに該当するのか、代表的な言動として6つの類型を例示しています。
① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
相手にモノを投げつけたり、殴ったりする行為が該当します。
② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)
長時間にわたり必要以上に厳しい叱責を繰り返したり、他の労働者の面前で威圧的な叱責を繰り返し行ったりするケースなどが該当します。一方で、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない場合にある程度強く注意することは該当しないと考えられています。
③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外れ・無視)
意に沿わない者に対して、業務メンバーから外したり、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりする場合です。ただし、新人に対して短期集中で研修を実施する場合や、懲戒規定に基づいて処分を受けた者を通常業務に復帰させるために、一時的に別室で必要な研修を受けさせるような場合は該当しません。
④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する、仕事を妨害する)
業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的にさせることは、過大な要求にあたると考えられパワハラにあたる可能性があります。また、新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責するのは過大な要求にあたると考えられます。一方で、育成のため現状よりも少し高いレベルの業務を任せることは該当しません。
⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること、仕事を与えないこと)
「気にいらない」という理由で嫌がらせのために仕事を与えない、もしくは管理職を退職させるために誰でもできる業務を行わせることが該当します。
⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
職場外でも継続的に監視したり、私的な写真撮影をしたりすること。また、性的指向や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに暴露することはパワハラに該当します。特に後者については、「プライバシー保護の観点から、機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要」と強調されています。
もちろん、これらは想定されるパワハラの一例に過ぎません。厚生省労働省が公表する「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要)」(※2)によると、行為者と被害者の雇用形態は「正社員から正社員へ」の割合が、行為者と被害者の関係は「上司(役員以外)から部下へ」の割合が最も高かったということです。思いがけずパワハラに該当する言動をとってしまわぬよう、こうした傾向について理解しておくことも大切ではないでしょうか。
※2 参照:厚生省労働省「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要)」
職場のパワハラ対策は方針の明確化と周知から
それでは、どのような施策を講じることがパワハラ防止に役立つのでしょうか。厚生労働省では、大きく4つの項目を挙げています。
① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
職場におけるハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること。行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること。
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口を設けたり、相談窓口担当者が適切に対応できるようにすること。また広く相談に対応すること。
③ 職場におけるセクハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応
事実関係を迅速かつ適切に確認し、事実確認できた場合には被害者に対しての配慮措置を適正に行うこと。また、行為者に対する措置を適正に行うこと。加えて、再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認できなかった場合も同様)。
④ 上述した①~③までの措置と併せて講ずべき措置
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
これを読み解くと、まずは方針を明確にして就業規則等の文書として周知することが最優先であり、最初の一歩であることがわかります。同じく「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要)」によると、回答企業の約8割が、パワハラ、セクハラおよび妊娠・出産・育児休業等・介護休業等ハラスメントに対する雇用管理上の措置として、「ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」および「相談窓口の設置と周知」を実施していると回答しています。
参照:厚生省労働省「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」を基に作成
まとめ
パワハラ対策では、会社の方針や施策について文書化して周知すると同時に、プライバシーへの配慮も重要となります。つまり、必要なものはしっかり共有して、限定すべき情報は厳重なコントロール下に置くことが大切だと理解できます。
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