最高の仕事の妨げになる「認知バイアス」とは?

1959 年 3 月 2 日、シドニー中心部にあるベネロング ポイントという場所で、のちに人類史に残るほどの悲劇的なプロジェクトとなってしまう、とある建設プロジェクトの起工式を多くの人が祝っていました。

当時のオーストラリア首相であった、ジョセフ・ケイヒル氏が記念碑を慎重に打ち付けて、その悲劇のプロジェクト、シドニー オペラハウスの建設が正式に始まりました。

ケイヒル氏は施工開始に至るまでの 5 年間、オペラハウス プロジェクトの必要性を説いて回り、2 億 1,500 万オーストラリア ドル(AUD)という巨額な建設費用に理解を示すよう主張していました。そしてついに建設重機の音が現場にこだまするようになり、ケイヒル氏は肩の荷が下りたような心持ちになりました。それと同時に、止めることができないプロジェクトが始まったのです。

オペラハウスのような大規模な建設プロジェクトには、工期の遅れや予算オーバーがつきものであることをケイヒル氏は知っていました。他のプロジェクトでも、際限なく繰り返される工期延長や手に負えないほど膨れ上がる予算を目の当たりにしてきたからです。そうした点を踏まえて、このプロジェクトでは対策を打っていました。コンクリート製の柱が 588 本、コンクリート製のリブ(肋骨材)が 2,400 本、そしてセラミック製タイルが 100 万枚以上ありましたが、ケイヒル氏はこれらを組み立てる、あらゆる行程を最適化し、リスクを押さえるための措置を講じていました。彼の計画ではうまく行くはずだったのです。

ところが 4 年後、ケイヒル氏の計画は見る影もなく、オペラハウスはまだコンクリート製の枠組みしかできていませんでした。

要件の変更、複合コスト、組織規模での優先事項の変更、甘い見積もり、キャッシュ フローの問題、人間関係の悪化など、数え上げればきりがないほど多くの問題が山積していました。結局、シドニー オペラハウスは 4 年ではなく 14 年かかってようやく完成し、その費用も 2 億 1,500 万 AUD から 31 億 AUD へと膨れ上がりました。当初予算から 1,340 % もの増加となってしまったのです。

ケイヒル氏の失敗は施工前から予測できるものでした。計画どおりに行かないことを示すたくさんの証拠が山ほどあったからです。不都合な事実をすべて無視してまで、彼は実現の可能性を主張しました。さらに興味深いのは、今から振り返ってみれば彼の失敗は当然のことでしたが、おそらく当時の人々は問題ないと感じていたという点です。認知バイアスと呼ばれる現象が、彼の考えを惑わしていたのです。認知バイアスとは、意思決定に影響を与える統計学的な間違いのことを言います。

1979 年、ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏の 2 人の心理学者がある特定の認知バイアスに「計画錯誤」という名前を付けました。カーネマン氏は自身の論文「Intuitive Prediction: Biases and Corrective Procedures(直感的予測:バイアスとその修正手順)」の中で、「人が計画を立てるとき、たいていはベスト ケースのシナリオに基づいています。これが計画錯誤です」と述べており、「たとえ考え直す必要に迫られている場面でさえ、当初の予定どおりに結果が出るはずだと思い込んでしまうのです。」と説明しています。
ケイヒル氏の悲劇的なプロジェクトは、不適切な計画の例としては特にひどいものですが、計画錯誤の例は少なくありません。

認知バイアスが意思決定を誤らせるしくみを理解できれば、こうしたバイアスを抑制しつつより適切な判断ができるようになるでしょう。

起業家やマネージャーは、アイデアを形にして市場投入するまでにかかるコストや期間を大幅に低く見積もるものです。例えば、営業部長は無謀な販売ノルマを設定しがちで、結果として半数以上の営業チームが目標を達成できないという事態が起こっています。また、ミーティングがあれば、予定時間を大幅に過ぎるのが常となっていて、今や不要なミーティングは、仕事の妨げになる代表的な要素とされています。このように世の中には、ひどい計画があふれています。

計画錯誤、そして認知バイアスは、人間の心のしくみを鋭く説明しています。認知バイアスが意思決定を誤らせるしくみを理解できれば、こうしたバイアスを抑制しつつより適切な判断ができるようになるでしょう。

目次

  1. 知らぬ間に発生しているバイアス
  2. 経済学の刷新
  3. 爬虫類脳を理解する
  4. 脱バイアスの導入
  5. バイアスにだまされない方法
  6. 5-1. 確証バイアス
    5-2. 自信過剰
    5-3. 自分の見たものがすべて
    5-4. 現在バイアス

  7. 脱バイアスの実例

1. 知らぬ間に発生しているバイアス

計画錯誤は、認知バイアスの中でも初期に発見されたものです。ただ、すべての認知バイアスが巨額の予算オーバーや 10 年単位の予定オーバーを生み出すわけではありません。ほとんどのバイアスは知らぬ間に起こっていて、あらゆる行動にわずかな影響を与えています。

たとえば誰もが、経験した中でも楽しかった部分だけを覚えている「想起バイアス」や、自分の考えとは相反する事実を無視する「確証バイアス」、心に浮かんだ事例の数に影響を受けて可能性を誤って判断する「利用可能性バイアス」といった傾向があります。気をつけていないと、これらのバイアスによって誤った意思決定をしてしまうおそれがあり、それが個人や組織の生産性を損なうことにもつながります。

ジェシカ・プレーター氏は組織心理学の専門家で、グローバル フォーチュン 500 のある企業でキャリアをスタートさせました。その会社にはしっかりとした従業員評価プロセスがありましたが、マネージャーたちがこのプロセスを十分に実施していないことにプレーター氏は早い段階で気がつきました。年次評価はマネージャーが行い、社員は組織における能力について評価を受け、その年の目標も設定することになっていましたが、マネージャーは、最近の出来事の方に意識が向いてしまうようでした。おそらく、それ以前のことを思い出すのが大変だったのかもしれません。特に、最近の成績が悪かった場合に、それ以前に達成した良い成績を思い出しにくくなる傾向がありました。

プレーター氏はこれが「直近バイアス」であることにすぐに気がつきました。人が最近の出来事の方に高い価値を感じ、もっと前に起きたことの価値を低く感じてしまうバイアスです。

2. 経済学の刷新

1970 年代、経済学者のリチャード・セイラー氏は博士号取得に向けて研究に没頭していました。彼は「消費者は数式によって説明可能な合理的人間である」という時代遅れの理論と格闘していたのです。セイラー氏の研究では、こうした合理性の前提を退け、代わりに経済学は認知バイアスに代表されるような感情的なバイアスや不合理な心理を考慮すべきだと主張しました。

同僚だった経済学者のダニエル・カーネマン氏は、「彼が大学を追われてしまうのではないかと心配していた」と明かしています。セイラー氏は聡明で素晴らしい人だというのは誰もが認めるところでしたが、彼がやっている仕事を、経済学の研究だとは考える人はいなかったといいます。数式を使って理論を説明しようとしていなかったからです。

セイラー氏は研究を続け、1974 年についに博士号を取得しました。彼は 1970 年代の後半をスタンフォード大学で過ごし、そこでカーネマン氏の体系的なバイアス研究に触れることになりました。また、カーネマン氏の理論的枠組みの中で研究を行い、1980 年に「Toward a Positive Theory of Consumer Choice(消費者選択における実証的理論に向けて)」と題した論文を発表しました。セイラー氏の論文はそれまでの常識を覆し、合理的な経済人間という考えを打ち砕きました。これが、行動経済学という革命の幕開けになったのです。

それから数十年にわたって、セイラー氏や同時代の研究者たちによって、意思決定を鈍らせる多くの認知バイアスが発見されました。そのうちの 1 つとして彼は、人が記憶からすぐに呼び出すことのできる情報に頼って意思決定をする傾向を発見しました。これは、「利用可能性ヒューリスティック」と呼ばれます。また人には、変化を受け入れることで大きな利益が見込める場合でも、現状を維持したがるという傾向もあります。これは「現状維持バイアス」と呼ばれます。さらには、不幸に見舞われる確率よりも成功をつかみ取る可能性が高いと考える傾向もあります。これは「楽観主義バイアス」と呼ばれます。

哲学者のゲイラン・ストローソン氏がガーディアン紙に寄せて、認知バイアス革命を端的に表す手厳しい言葉を紹介しています。

そもそも、私たちは自分が何者かわかっていません。私たちは自分が何をしているかや、なぜそれをしているのかも理解していないのです。

3. 爬虫類脳を理解する

私たちがどのように意思決定をしているかを理解するには、私たちの脳がどのように作られてきたのかを知ることが近道です。人間の脳、少なくともその一部分は、驚くほど古いのです。最も古い部分(脳幹と小脳)のルーツは、5 億年以上前の脊柱動物にまで遡ることができます。生物学ではこの部分を爬虫類領域と呼び、痛みを遠ざけ生命維持を追求するというシンプルな目的に特化しているとしています。

人間の脳は、こうした原始的な脳から長い年月とともに進化してきました。私たちはその後、感情、行動、動機、記憶、臭覚を司る辺縁系を発達させました。次に知覚、認知、空間認識、言語を司る大脳新皮質が発達しました。ダニエル・カーネマン氏は自著「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」で、複数の層から構成される脳の進化によって、「システム 1」と「システム 2」と呼ばれる独特の思考形態が生まれたと論じています。

システム 1 の思考は、主に爬虫類脳の領域によってなされ、辺縁系からも一定の影響を受けています。この思考は自動的かつ迅速で、思考に必要な労力は限りなくゼロに近く、自発的にコントロールできる感覚がありません。たとえば、運転中に目の前に人が飛び出してきたら、とっさにハンドルを切って避けようとするでしょう。これは、システム 1 の思考が制御する場面です。

システム 2 の思考は、進化の観点からは比較的新しい大脳新皮質の領域で行われます。大脳新皮質は、代理、選択、集中といった複雑な心的活動に意識を向けることができます。2 つの就職先で福利厚生を詳しく比較しようとすると、このシステム 2 がフル稼働します。どちらのシステムが司る思考も必要であり価値あるものですが、それぞれに限界というものがあります。たとえば、とっさの判断が必要な場面で複雑なシステム 2 を使おうとすれば、どちらにハンドルを切るべきかを考えているうちに人をはねてしまうかもしれません。複雑な意思決定に反射的なシステム 1 を使おうとすれば、脳は思考力を節約するあまり多様な認知バイアスを引き起こしてしまうでしょう。

4. 脱バイアスの導入

たとえば、昇進ポストに応募してきた複数の社員をあなたが評価している場面を想像してください。1 人目の候補者の経歴書は良さそうだったので、業績評価を詳しく見てみることにしました。1 枚目の評価書類はお世辞にも良い内容とは言えず、彼女の労働倫理や能力には疑問が残りました。しかし彼女の残りの評価書類は良いものでした。業績や能力が高く評価され、細やかな仕事ぶりがうかがえる結果でした。しかし、1 枚目で見た評価内容が心に残っています。その件が心象を悪くしていて、あなたはいつもどおり直感に従います。彼女の経歴書を「不採用」のボックスに投げ入れて、次の候補者を見ることにします。

自分の直感に従って正しい判断ができますか?あなたの爬虫類脳は、最初に得た情報に固執していませんでしたか?

バイアス(上の例は「アンカリング バイアス」と呼ばれます)の存在を知ることが、意思決定からバイアスを取り除く最初のステップです。短期的には、バイアスの存在を意識することがバイアスの抑制につながります。ただし、その効果は時間とともに薄れていきます。本当に脱バイアスを達成するには、構造的な変化が必要になります。そのためには、意思決定者の軌道修正と、環境の調整という 2 つの選択肢があります。

意思決定の質を高める最初の方法は、意思決定者の軌道修正です。研究によると、意思決定者の軌道修正とは、「適切なルールや原理を教えて、心理的なギャップを解消する」ことだと言います。現実の場面では、バイアスの影響を抑えるために必要な知識やツールを導入することになります。たとえば、研究者によると、意思決定者は「自分の根拠が間違っているかもしれない」とじっくり考えることを勧めています。この手法を取り入れることで、意思決定者は自説の根拠となる事柄ばかりに着目せず、それと反するような情報にも目が届くようになるのです。

ただし、こうした教育の効果は特定の分野に特化していることが多く、時間とともに効果が薄れていきます。たとえば確率について膨大な訓練を積んできた気象学者は雨を高い精度で予測できますが、株式市場においてその実力は人並み程度しか発揮できません。

もう 1 つの選択肢は、間違いが起こりにくいような環境で意思決定を下すことだと言います。たとえば公衆衛生を研究するアトゥール・ガワンデ氏は、記憶の間違いから生まれるバイアスを抑制するためにパイロットが使っているチェックリストについて述べています。パイロットの意思決定環境を調整することで、深い考察を導き出したり、プロセスの各ステップについてしっかりと検討できるようになります。こうした対策が、悲劇的な墜落と安全な緊急着陸との分かれ道となります。

5. バイアスにだまされない方法

意思決定者を軌道修正したり環境を整えたりすることで、代表的な認知バイアスの多くを抑制し、より良い意思決定ができるようになります。
次は、代表的な認知バイアスにだまされないための効果的な方法をいくつか紹介します。

5-1. 確証バイアス

ピーター・ラザロフ氏は「投資家はその時間の多くを、自分の投資哲学に『都合の良い』戦略やその哲学を裏付けるような証拠を探すのに費やしています」といいます。ラザロフ氏は、友人から投資のコツを聞いている場面を想像することを推奨しています。投資のコツについて自分で調べているときには、ポジティブな点にたくさん気がつきますが、ネガティブな点については目をつぶりがちです。それは投資に対する自分の予想利益を「確証」しようとしているからです。
これは、自分の投資手法とは反する証拠を無視し、都合の良い証拠だけに囚われるという確証バイアスの一例です。

確証バイアスを抑える方法としてカーネマン氏は、自分の仮説が間違っているという前提に立ち、その理由について探すことを推奨しています。ラザロフ氏が挙げた例では、友人から聞かされた投資のコツは間違っているだろうという前提があるため、私たちは悪い点を積極的に探そうとします。間違っているという前提に強制的に身を置くことで、自説に反する情報を受け入れ理解しやすくなり、これが確証バイアスの影響を抑えることにつながります。

5-2. 自信過剰

2003 年から 2013 年にかけて、デューク大学の研究者は非常に多くの CFO(最高財務責任者)に株式指数の S&P 500 について、1 年間の予測をしてもらいました。合計すると、13,000 件以上の予測が集まりました。研究者たちはそれらの予測と実際の S&P 500 の値動きとを比較し、驚くべきことに気がつきました。CFO たちは、株式市場の短期的な先行きについてまったく予測できていなかったのです。彼らの予測と株価の実績の間の相関は、ゼロをわずかに下回る程度でした。
この調査結果とは裏腹に、CFO は自社の株主たちに大きな配当を提供できるという自信に満ちあふれています。これは、判断における主観的な自信が客観的な精度を上回るという、自信過剰バイアスの一例です。

自信過剰バイアスの影響を抑えるために、ゲイリー・クレイン氏は事前検屍と名付けたプロセスを推奨しています。クレイン氏はハーバード ビジネス レビューの記事で、「一般的な評価セッションでは、うまく行かないかもしれない点についてプロジェクト チームのメンバーが話し合うものです。しかし、事前検屍では対象の「患者」がすでに死亡したという出発点から始め、何が間違っていたのかを振り返ります」と説明しています。

チームでも個人でもプロジェクトの開始前にはリスク分析について話し合うものですが、この事前検屍と同等の効果が期待できる手法はほとんどありません。事前検屍では、「未来からの振り返り」を行います。こうすることで、チーム メンバーはあえて悲観的な立場で想像力を働かせることができます。

5-3. 自分の見たものがすべて

チップ・ハース氏とダン・ハース氏の兄弟がビジネスにおける意思決定 168 件を調査したところ、複数の選択肢を検討していた経営者はわずか 29 % だということがわかりました。残りの経営者は皆、最初のアイデアを一途に信じていたのです。
これは、カーネマン氏が「自分が見たものがすべて」バイアスと名付けたもので、英語の「What you see is all there is」の頭文字を取って WYSIATI バイアスとも呼ばれます。本質的に、人の脳はすぐに確認できる限られた情報しか考慮せず、それが情報のすべてだと思い込んで検討を打ち切ってしまうのです。

この WYSIATI バイアスに対抗するため、意思決定の研究者チップ・ハース氏とダン・ハース氏はシンプルな心理的実験を推奨しています。それは、思いついた選択肢が今は選べない状況にあると仮定して、「他に何ができるだろうか」と自問することです。

ハース兄弟は、ブラジルに進出するかどうかを決めようとしている架空の企業を例に出しています。先ほどの脱バイアス手法を使って、ブラジルへの進出が何らかの理由でできないと仮定します。そうすることで、他の選択肢を積極的に考えられるようになります。代わりに別の国に進出できるかもしれません。既存のビジネスの強化に注力したり、オンライン ストアの開設という手段に行き着くかもしれません。

5-4. 現在バイアス

老後に備えて貯蓄しておくことの重要性は誰もが認識していることです。しかし、退職金積立制度を利用している人はそう多くありません。データでも、人々は新しいテレビを購入する際には多くの時間をかけて調査をしていますが、退職金積立制度を選ぶ際にはそれほどの時間をかけていません。これは、現在バイアスと呼ばれるもので、遠い未来に得られる利益よりも、短期的な利益の方に大きな価値を見いだす傾向のことです。

セイラー氏は自著の「Nudge(邦題:実践 行動経済学)」で、現在バイアスを押さえるために「Nudge(ナッジ)」を使うことを推奨しています。ナッジとは本来「肘で軽く突く」という意味の英単語ですが、「選択を強制することなく行動に影響を与えるような環境的変化」という意味で使われています。セイラー氏が取り上げた 1 つの例が、退職金積立制度の初期設定ナッジで、すでに世界中で導入されているしくみです。セイラー氏が推奨するのは、従業員が退職金制度に自発的に加入するのではなく、入社の時点で自動的に加入しているようにする制度です。

2012 年にセイラー氏の推奨する退職金積立ナッジを英国政府が導入すると、わずか 5 年のうちに加入者が 270 万人から 770 万人に増加しました。つまり、500 万人が新たに老後に備えて積極的に貯蓄を始めたことになり、そのきっかけはちょっとしたナッジによるものでした。

6. 脱バイアスの実例

今年に入ってから、マーケティング コーディネーターのオリビア・ラブン氏は新規顧客向けの eBook を新たに制作する業務に取りかかりました。プロジェクト開始のミーティングで、関係者の 1 人が彼女にどれくらいの期間で eBook を作成できるか尋ねました。彼女は、執筆と作成、そして納品のすべてを 4 週間で終えられると答えました。

ミーティング後にラブン氏は、自分の答えについて考えました。クライアントに満足してもらえるようプレッシャーに感じて、その時点でおおむね妥当と思われた 4 週間というスケジュールを口にしてしまった、と振り返って思います。確実な情報を得たいと思い、オフィスに戻った彼女は以前に担当した類似のプロジェクトをチェックしてみます。どれも、開始から完了まで 6~8 週間かかっていました。彼女が約束した 4 週間よりも大幅に長い期間です。

無意識のうちに、ラブン氏は計画錯誤に特に有効な脱バイアス手法、「アウトサイド ビュー」を実践しました。これは、1993 年にカーネマン氏が初めて概念化したものです。アウトサイド ビューは、類似するプロジェクトの分析に基づいて予測を立てる方法です。チームで取り組んで eBook を作るのに、いつも 6~8 週間かかっていたならば、自分が担当してもそのくらいはかかるでしょう。

ラブン氏はクライアントのところに戻り、最初に伝えたスケジュールは適切でなかったことを正直に話しました。過去のプロジェクトの記録を引き合いに出して、6~8 週間のスケジュールがより現実的であることを説明しました。誤りを伝えることは恥ずかしくもありましたが、そのままやり過ごした場合の深刻な結果を考えると正直に伝えて良かったと打ち明けました。

もし彼女が、1959 年にオペラハウスの建設プロジェクトを指揮したジョセフ・ケイヒル氏の立場にあったら、と考えるのも面白いかもしれません。果たして彼女は類似のプロジェクトを調査してそこからから商業的に現実的な見積もりを出し、当初のスケジュールとの歴然とした差に気がつくことができたでしょうか?そして、計画を修正に導くことができたでしょうか?あるいは、主要なステークホルダーがプロジェクト全体を中止するという選択をしていたかもしれません。しかしこれは過ぎてしまったことです。過去の事実に「もし」を付けて語ることはできません。

もっと興味深いことは、ケイヒル氏の間違いを私たちは今でも繰り返しているという点です。今でもプロジェクト マネージャーは、完璧なプロジェクト進行に基づいて開始日を設定しています。ジャーナリストは、初稿の時点から完璧な文章が書けることを前提としています。クリエイティブ ディレクターは、最初に仕上げたコンセプトをクライアントが気に入るはずだという思い込みを持って、ブランド刷新のスケジュールに同意しているのです。

本当に素晴らしい仕事や成果を達成したいのならば、何よりも重要なのは私たちの認知バイアスを知り、それを取り除くことから始めることです。認知バイアスに適切に対処することで、仕事でもプライベートでも、より良い意思決定と結果が望めるようになるでしょう。

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