デザインの世界における UX ライティングの役割

UX ライターの言葉が紡ぐ明るい未来

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目次

  1. すべての言葉に意味がある
  2. 1-1. ダーク パターンと UX ライティング
    1-2. ダーク パターンは必要ない

  3. 議論の土台となる 3 つの事例
  4. 2-1. 罪悪感を与えるオプトアウト
    2-2. ユーザーを惑わす「偽のドア テスト」
    2-3. [キャンセル]を選ぶとキャンセルをキャンセルすることに?

  5. ダーク パターンか、不適切な文言か
  6. より良いコピーがより良いエクスペリエンスを生む
  7. UX ライターの言葉が紡ぐ明るい未来

1. すべての言葉に意味がある

ユーザーが製品に触れる瞬間、その 1 つ 1 つに重要な意味があります。そしてインターフェースに配した言葉の 1 つ 1 つが、製品の成否を左右します。ユーザー インターフェース(UI)の文言は、ユーザーの決定に直接的な影響を与えます。ユーザー エクスペリエンス(UX)ライターの役割は、製品やソフトウェアのユーザーにポジティブで快適な体験を提供することです。UX ライター」は、「プロダクト ライター」という肩書きで呼ばれることもあります。

1-1. ダーク パターンと UX ライティング

ダーク パターンとは、ユーザーを巧みに誘導して、実際には望んでいない決定をさせるためにデザインされた UI パターンのことです。ユーザーをいらだたせたり、恥ずかしい思いをさせたり、意のままに操ろうとする言葉を製品の中に盛り込むことでユーザーの意思に反する決定を促そうとするならば、そのユーザー エクスペリエンスは不快なものになるでしょう。

たとえ不正防止の観点からあえてスムーズな流れを止める「摩擦」を作る必要があったとしても(規制業界ではありがちな場面です)、デザインに採用する言葉次第で、ユーザーがその摩擦を乗り越えられるか、製品の使用を諦めてしまうかが大きく左右されます。

1-2. ダーク パターンは必要ない

UX ライターは、明確で、正確で、役立つような言葉を書くという責任を担っています。加えて、インクルーシブかつアクセシブルな言葉が推奨されます。その上で、読者を不正に操らないような言葉であれば、ベストな文言と言えるでしょう。
しかし、「不誠実に感じられる」文言を作るよう指示を受けることも、時にはあるでしょう。クライアントからの要望は常に受け入れるべきでしょうか?必ずしもそうとは言い切れません。今回は、人を不正に操ろうとする言葉の例を挙げるとともに、そうした言葉にライターはどのように対処すべきかのガイドラインについても紹介したいと思います。

2. 議論の土台となる 3 つの事例

2-1. 罪悪感を与えるオプトアウト

シナリオ:あなたが健康的なレシピを掲載したサイトを眺めていると、大きなポップアップが画面上に現れます。ニュースレターへの登録を勧める内容でした。

提示された選択肢は次のとおりです。

1. メール アドレスを入力
2. いいえ、健康になりたくありません

あなたはニュースレターには登録したくないのですが、健康に気を遣っていないわけではないのです。事実、元気に過ごしたいと思って、そのために健康的な食事のレシピを見ていたわけですから。

もちろんニュースレターを購読しなかったとしても、それで不健康になるわけではありません。そんなことはわかっています。だからといって、「健康になりたくありません」という表現に同意してクリックする気にもなれません。けれどもニュースレターが欲しいわけではないのです。なんだか、相手の思うつぼにはまっているような気になってきます。操られているような気分になり、どちらの選択肢も選びづらく感じます。

これまでにも、こうした「Confirm Shaming(恥の確認ダイアログ)」に遭遇してしまい、ページ自体をそっと閉じた経験は一度や二度ではないでしょう。
これは、「Manipulink(マニピュリンク)」とも呼ばれる手口です。人を意のままに操るという意味の英単語「Manipulate」に「Link」をつなげた造語で、罪悪感を与えることで実際には望んでいない選択をさせようというものです。

2-2. ユーザーを惑わす「偽のドア テスト」

続いては、アプリのインターフェースを作成しているというシナリオです。
あなたは、製品を使うユーザーが目にしたり耳にしたりする言葉を、明確で、簡潔で、正確なものにするという責任を負っています。製品の概念設計からリリース後のプロセスに至るまで、プロダクト デザイナーやプロダクト マネージャー(PM)と協力し、製品の文言作成に取り組んでいます。

ある日、1 か月後にリリースを予定している新製品のキックオフ ミーティングに参加したときのことです。

PM:「このプロジェクトが目指すのは、ある新機能に対して、ユーザーが追加料金を支払う意思があるかを知るためのデータを収集することです。」

ユーザー フローの途中にモーダル ポップアップを表示して、その機能を使ってみたいかどうかを尋ねるようにしたいと言います。ボタン類は、[はい]と、ウィンドウを閉じるための[X]にしてほしいとのことです。

あなた:「わかりました。それで、[はい]をクリックしたら、その新機能の画面に切り替わるということですね?」

PM:「いや、その機能はまだ作っていないんです。どれくらいの人がこの機能に興味を持つかを知りたいんです。なので、『ご興味をお持ちいただき、ありがとうございます』みたいな表現がいいですね。」

ユーザーとしては、あまり良いエクスペリエンスとは言えません。これは、「偽のボタン テスト」や「偽のドア テスト」と呼ばれるパターンです。ユーザーの興味を知るための方法ではあるのですが、ユーザーにしてみれば詐欺にかかって、もてあそばれたような気分になるでしょう。こうした事例は、ダーク パターンなのでしょうか?それとも単に、言葉の使い方が(そしてデザインが)不適切なだけなのでしょうか?

2-3. [キャンセル]を選ぶとキャンセルをキャンセルすることに?

さらに、別のシナリオについて考えてみましょう。あなたは、オンラインで夕食のデリバリーを注文しようとしていたのですが、そこにパートナーが 2 人分の夕食を買って帰ってきました。デリバリーがいらなくなったので、注文を取り消そうと思い、[注文のキャンセル]ボタンをクリックしました。

すると、「この注文を本当にキャンセルしますか?」というメッセージとともに、[OK]と[キャンセル]のボタンが表示されたのです。

このボタンは何を意味しているのでしょうか?[キャンセル]を押すと、注文をキャンセルすることになるのでしょうか。それとも、キャンセルすることをやめて、元の画面に戻るということでしょうか。[OK]とは、キャンセルするという意思表示でしょうか。それとも、キャンセルせずに注文を進めるということでしょうか。

3. ダーク パターンか、不適切な文言か

繰り返しになりますが、ユーザーを不本意な方向に誘導したり、本来であれば選択しない行動を取るようユーザーをだます目的で作られているパターンのことを、ダーク パターンと呼んでいます。

最初の例にあったマニピュリンクは、ユーザーに罪悪感を与えることで、不本意な選択を仕向けるようにしています。罪悪感を覚えるリンクをクリックすることで、別の選択をすることは可能ですが、こうした UI は不快感を与えますし、効果的でないことも実証されています。とはいえ、これは不適切なコピーと呼ぶべきでしょう。

次のシナリオで紹介した偽ボタンの文言(「はい、この新機能を使ってみたいです」)は、意図的にユーザーを混乱させています。ユーザーは何らかの結果を期待して[はい]を選ぶわけですが、その期待をあえて裏切るような結果が提示されてしまいます。これはダーク パターンであり、不適切な文言でもあります。

3 つ目のシナリオで紹介したキャンセルのダイアログでは、意味がわかりづらい 2 種類のボタンが表示されました。しかし、無限にやり取りをさせるために、このような文言が作られたとは考えにくいでしょう。デザインの意図によってはダーク パターンと呼べるかもしれませんが、単に不適切なコピーと捉えるのが妥当でしょう。

4. より良いコピーがより良いエクスペリエンスを生む

デザインの文言をほんのちょっと変えるだけで、ユーザー エクスペリエンス全体が改善することがあります。だからこそライターは、デザイナーやリサーチ担当者、プロダクト マネージャーと緊密に連携することが大切なのです。

コピーを作成している担当者が変更の必要性を訴えた場合、それは言葉の裏に隠れた何かに気がついたからかもしれません。製品の文言を明確で役立つものにすることで、ダークな製品を生み出さずに済みます。

最初のマニピュリンクの例で、ニュースレターを購読する際の選択肢が次のようになっていたとしたら、どうでしょうか?

1) メール アドレスを入力
2) いいえ、結構です

偽のドア テストの例では、そもそも本来の意図をユーザーに伝えていたら、どうなっていたでしょうか?「その機能が使えるようになってほしいと思いますか?」と聞くことで、正直でわかりやすく、人を操ろうとする意図が感じられないメッセージになるでしょう。

キャンセル フローの例で言えば、ダイアログの表示が次のようになっていた場合のことを考えてみてください。

キャンセルの確認

[買い物を続ける] [注文をキャンセル]

5. UX ライターの言葉が紡ぐ明るい未来

プロダクト ライターは、収益を増やすという責任を負っていますが、ユーザーの目に触れる言葉を倫理的に深く考えながら作っていくことも求められています。この 2 つを両立させるには、どうすればいいでしょうか?

「プロダクト ライター」と言っても、すべてのチームに専任のライターがいるとは限りませんから、製品に表示される文言を書く担当者として考えてみましょう。こうした作業は、専任の UX ライターが担当する場合もあれば、プロダクト デザイナーや PM、エンジニア、広報のインターンが担当する場合もあるでしょう。

重要なのは、肩書きに「UX ライター」と付いていない人でも、ダーク パターンを防ぐことができるという点です。逆に言えば、製品コピーを作成する人は皆、「ダーク パターンを未然に防ぐ意識」を求められているのです。

しかし、多くのライターはこう思うことでしょう。「製品の最終的な文言を決める責任は負えない」と。

自信と責任感を持って「No」と言うためには、経験や知識が必要になります。同時に、ある程度の勇気も必要です。デザイン内の文言を通して、ユーザー エクスペリエンスを快適なものにするのがプロダクト ライターの役割であり、その言葉を正確で誤解のないものにすることも大切な使命です。

不適切な文言が引き起こす不適切なエクスペリエンスを解決すること。意図的にユーザーを欺こうとするコピーを拒否し、誠意あるコピーを守ること。それが私たちの役割です。

あなたがライターで、文言に関する提案を拒否しなければならない状況に置かれているならば、以下の表現が役に立つかもしれません。

– ユーザーの混乱を招くような文言には抵抗があります。代わりに、______ と書くのはどうでしょうか?
– この流れは、ミスリーディングになるかもしれません。欲しい情報を求めるための手段として、そういう機能がすでにあるかのような書き方は避けたほうがいいのではないでしょうか?
– UX ライティングでは、アクションのためのボタンを見出しの動詞と一致させることが一般的です。タイトルで示したアクションとボタンの名称を一致させたほうが、よりわかりやすくなるかと思います。たとえば、_______という言い方はどうでしょうか?

現場でこうした提案ができれば、UX ライティングの目指すところへ迷わずに進めるようになるでしょう。ライターは、正しくないと感じるコピーは書く必要がないということを心に留めて、自身が生み出すユーザー エクスペリエンスを誠実なものにできます。ライターがよりわかりやすく使いやすい文言を書くことで、その製品を使うすべての人にメリットがもたらされるのです。これこそが、私たちが目指すべき目標と言えるでしょう。