ブレインストーミングは対面のほうが効果的。その科学的な理由とは

コラボレーション
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執筆:ドリュー・ピアース

 

先日、チーム メンバーの皆と久しぶりに対面でミーティングする機会があり、とても充実した時間を過ごすことができました。「バーチャル ファースト企業」である Dropbox は、大陸の反対側に住む人材を新入社員として迎え入れることのできる体制を築いており、この 2 年以上、オンラインだけで仕事をしてきました。今回、チーム メンバーが 1 つの部屋で互いに直接顔を合わせ、言葉を交わしたのは、バーチャル ファースト宣言以降で初めてとなります。

このところ Dropbox では、リモート ワークのメリットを熱心に訴え、テクノロジーを活用してスムーズに共同作業をするさまざまな方法を紹介してきましたが、この集まりで、なぜ人間的なつながりが重要なのかを改めて痛感させられました。今回、私が特に強く感じたのは、対面であれば、そこにいる全員がごく自然に会話に参加できるということです。と言っても、より多くのアイデアが生まれてくるという意味ではありません。アイデアを練り上げ、全員の同意を得るまでの時間が短くなるのです。それは、はっきりと感じられるほど大きな違いでした。

もしあなたが私たちと同じようにバーチャル ファーストで仕事をしているのなら、おそらく Zoom や Slack、そして Dropbox の CaptureReplay などの非同期の共同作業ツールをフル活用して、創造的な作業の効率を維持しようとしていることでしょう。私にとってこの 2 年あまりは、生産性という意味では自分史上最高と言える期間でしたが、新たな着想を得るという点では決して満足できるものではなく、実り多い時間でもありませんでした。

仕事柄、チーム メンバーとブレインストーミングをするという方なら同意してもらえるかもしれませんが、「イエス アンド」式のコミュニケーション(相手の意見を肯定した後、否定の言葉を言わずに自分の意見を伝える)は、オンラインではどうしてもぎこちなくなってしまいます。「バーチャルなコミュニケーションは対面でのコミュニケーションよりも難しい」と直感的に思ってしまう人のために、ここでは、そのように感じる理由を科学的に分析した最近の研究結果をご紹介したいと思います。

直感をデータで検証する

スタンフォード大学経営大学院マーケティング学部のジョナサン・レバブ教授とコロンビア ビジネス スクール マーケティング学部のメラニー・ブルック助教授は先ごろ、1 対 1 の共同作業においてバーチャルなコミュニケーションがアイデアの着想に与える影響についての研究結果を発表しました。

この研究についてまず興味深いのは、「製品開発は対面での作業のほうが効果的である」という通説を検証する発想が生まれたのは、コロナ禍によって多くの人がリモート ワークを余儀なくされるだいぶ前だったという点です。

「この研究に取りかかったのは、コロナ禍前のことでした」とレバブ氏は振り返ります。「その当時に掲げていたテーマは、『新製品を開発するときは一緒に作業するべき、という通説は本当か?』ということだけでした。」

レバブ氏とブルック氏は、これは実証的問題であると考えました。つまり、19 世紀初頭に起きたラッダイト運動(機械化反対運動)的な考え方が「バーチャルは悪」という憶測を後押ししているだけなのか、それともオンラインでの共同作業と対面での共同作業に測定可能な違いはあるのかを確かめようとしたのです。

「シリコンバレーでは、鋭い直感、つまり自信満々に主張される仮説が幅を利かせています。しかしそれは、データの裏付けがない推測に過ぎません」とレバブ氏は言います。「我々は経験主義者ですので、仮説の裏付けとなるデータを集めたいと思ったのです。」

アイコンタクトが共同作業時の会話を促進する

レバブ氏とブルック氏は、実験室と作業現場の両方で、視線の方向と情報想起の状況を調査した結果から、ビデオ会議の物理的な特徴が創造的なアイデアの着想を阻害していることを示しました。その原因は、画面に視線を向けようと意識し過ぎることにあるといいます。

「バーチャルでコミュニケーションを図るときは、画面に意識を集中させ続けることを余儀なくされます。なぜなら画面は、相手と共有する唯一の空間だからです」とレバブ氏は説明します。「言うまでもありませんが、共同作業で共有する空間として、画面は非常に小さな部類に入ります。」

「シリコンバレーでは、自信満々に主張される仮説が幅を利かせています。我々は経験主義者ですので、仮説の裏付けとなるデータを集めたいと思ったのです。」 — ジョナサン・レバブ氏

過去の研究では、「視線を向ける先」と「頭がどのようにアイデアを結び付けるか」には関連性があることが示唆されています。そこで両氏は、実際に視線を追跡してこの研究結果を検証することにしました。その結果わかったのは、相手に注意を払っていることを示すために画面に目を向け続けていると、異なるアイデアを結び付ける役割を担う脳の機能にアクセスすることが難しくなるという事実でした。

「画期的なアイデアを着想するためには、脳のその機能にアクセスする必要があります」とレバブ氏は話します。「本気で職場改革に取り組むのなら、バーチャルと対面で効果が上がる作業と下がる作業を見極める必要があるでしょう。」

またアイコンタクトの最も重要な役割は、一般に信頼関係の構築だと思われていますが、実はそれ以外にも大切な目的があるといいます。「次に誰が話をするかを決める役割は、主にアイコンタクトが担っていることがわかったのです」とブルック氏は言います。「6~7 人のグループでは、次に誰が話をするかは、非言語的なアイコンタクトによって瞬時に決まっています。」

「何でもあり」の自由な雰囲気を作る

この研究では、さらに驚くべきことが判明しています。それは、共同作業相手に対して感じる緊密さの度合いについて尋ねる質問で、対面の場合とバーチャルの場合で被験者の回答に大きな差が見られなかったことです。

「私たちは、当然心理的な距離に違いがあるだろうと考えていました」とレバブ氏は振り返ります。「しかし私たちの研究では、これといった違いは測定できませんでした。唯一、目立った違いが見られたのが視線の方向でした。」

もう 1 つ、直感に反する意外な結果に映るのは、ブレインストーミング後に行うアイデア検討のような作業は、バーチャルで実施したほうが効果が高いように見えることです。ただしこれは、メタバースのように没入感のある環境のほうがさらに効果的という意味ではありません。

「アバターというのは、人間の縮小版に過ぎません」とブルック氏は説明します。「確かに、メタバースでは空間を共有することができます。しかしそこには、Zoom にあるような人間的な要素が存在しません。Zoom では相手の実際の表情が見えますが、メタバースではそれができないのです。」

「職場改革に取り組むのなら、バーチャルと対面で効果が上がる作業と下がる作業を見極める必要があるでしょう。」

今回の研究結果で非常に喜ばしいものでありながら、あまり注目されていないのが、対面でのやり取りではより多様性に富んだ議論が促進されるという点です。

たとえば、チーム メンバー全員が同じ部屋にいる場合、ビデオ会議のときよりも思い切った意見が出やすくなるのです。一見無関係な意見が、同じ部屋にいる別の誰かによって結び付けられるのを目にしたとき、人は心理的な抵抗を取り払い、自由に意見を述べてもかまわないのだという気持ちになります。その結果、「何でもあり」の自由な雰囲気が生まれるのです。

大人数でのブレインストーミングが難しいのはなぜか

ブルック氏によると、この研究で 1 対 1 のやり取りに焦点を当てている理由の 1 つは、大人数のグループで発生しがちな問題に悩まされるのを防ぐためだったそうです。

「対面でのやり取りに目を向けると、バーチャルでのやり取りに比べ、驚くほど頻繁に作業の妨げや業務とは関係のない雑談が発生していることがわかります」とブルック氏は話します。「一方 Zoom でのやり取りでは、話者交替の機会が対面よりも多くなります。対面の場合と違い、自分が話し終わったときに非言語の合図を送ることができないからです。」

ブレインストーミングに関する過去 50 年間の研究結果を見てみると、ブレインストーミングは概して、大人数よりも少人数のほうが効果的であることがわかるとブルック氏は指摘します。

「一度に 1 人しか発言できない状況では、体系的な考えを持っていたり他者の意見を元にした別の意見を持っていたりしても、発言の順番を待っているうちに議論が別の方向へと流れていってしまい、意見を述べる機会を失ってしまうことがあります。これは発言の阻害と呼ばれるものですが、自分が意見を述べることは、他者の発言を邪魔することにもつながるのです。」

テクノロジーの進化によって、やがては対面でやり取りする必要がなくなると考えている人は、ある簡単な事実を見過ごしているのではないかとレバブ氏は指摘します。それは、人間の脳はテクノロジーと同じスピードでは進化していないという点です。

「コンピュータのチップと違い、脳の進化にべき乗則は適用されません。テクノロジーをコミュニケーションの媒介として利用し、原子化した世界を作ることはできるかもしれません。しかし、それによって生産性や創造性、幸福感を高め、思慮深くなろうとしているのなら、その人は人間の本質というものを完全に見失っていると言わざるを得ないでしょう。」

私たちのチームが久しぶりに対面で集まって得た大きな教訓は、対面でのブレインストーミングが最大の効果を発揮するためには、メンバーそれぞれがミーティング前にアイデアを準備するとともに、ミーティングのテーマを Dropbox Paper ドキュメントで発表しておく必要があるということです。ミーティングでは、参加者全員が対面で意見や異論を出すことで、こうしたアイデアの種が芽を出し、磨き上げられていきます。私たちにとっては、非同期の作業がもたらす効率性と同期での作業がもたらすエネルギーを両立できるこの方法が、ベターなアプローチだと言えそうです。