売れる仕組みづくりにグロースハックがいいらしいと聞いたものの、グロースハックって何?という疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。ビジネス用語の世界ではどんどん英語を語源とする用語が登場するので難しく感じるかもしれませんが、このグロースハックには多くの企業がすでに取り組んできたことも含まれています。だからこそ、これまでの取り組みを体系立ててより効果が出やすい形にするグロースハックは有効だと言えます。
まずはグロースハックという言葉の意味や概念の解説から、すでに大きな成功を収めている事例、そして今すぐグロースハックを始めたい方のためのチェックポイントをまとめました。グロースハックで結果を出したい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. グロースハックが変える「売れる仕組みの作り方」
2. グロースハックの代表的な成功例
3. グロースハックを今すぐ始める 4 つのチェックポイント
4. まとめ
1. グロースハックが変える「売れる仕組みの作り方」
1-1. グロースハックとは
グロースハック(Growth Hack)とは、市場の動向やニーズを商品開発の段階から研究をしてマーケティングにも採り入れていく手法のことです。マーケティングは売り方を研究・改善する手法ですが、グロースハックは商品づくりの段階から市場のニーズを考慮して、さらに売り出した後もモニタリングをしながら常に改善を続け、その結果として売れる仕組みを作っていくことを言います。
常に改善を続けていくというグロースハックの特性上、発信する情報に修正を加えやすいネットサービスなどでよく用いられており、サイトリニューアルや新機能追加、特典を伴うキャンペーンなどで広く実践されています。
1-2. グロースハックが注目される理由
グロースハックが注目されているのは、その効果がとても大きく、爆発的なヒットとなったネットサービスなどが続出しているからです。代表的な例としては Dropbox、Airbnb、クックパッド、Facebook などが挙げられ、これらのサービスが爆発的なヒットとなったのは常にユーザーの目線でサービス内容や打ち出し方を改善し続けた結果、つまりグロースハックが奏功したからだと言われています。
マーケティングは商品の売り出し時に立てた戦略によって行われますが、グロースハックは発売後も継続的にモニタリングと改善が続けられるため、いわゆる PDCA サイクルを回し続けることになります。
PDCA サイクルは業務改善のために用いられる定番の手法ですが、グロースハックは販促活動にそれを採り入れたという点がユニークです。
1-3. グロースハックの基本的な要件
1-3-1. お金をかけない
マーケティングは一定の予算を投じて行われるのが普通ですが、グロースハックの特徴として「お金をかけない」というものがあります。マーケティングと違ってグロースハックは継続的なもので、長く続けるとなるとお金をかけない方法を確立しておくことが重要な意味を持ちます。
特にネットサービスの場合は高度なアクセス解析ツールを無料で使える環境が整っているので、こうしたツールをいかに使いこなせるかがポイントになります。
1-3-2. 検証と改善をし続ける
グロース(Growth=成長)させていくことがグロースハックの肝なので、商品を投入した後にもこまめにモニタリングを続け、その結果に基づいて絶えず改善を続けていくこともグロースハックの重要なポイントです。中にはうまくいかない場合もあると思いますが、その場合は失敗例としてノウハウを蓄積し、改善し続けることで効果を高めていくと、やがて大きな結果を生むことができます。
1-3-3. 売り方だけでなく商品そのものも改善の対象
ターゲットの設定や売り方の工夫など、マーケティングでは売り方に的を絞った戦略が立てられますが、グロースハックでは商品開発の段階から売れる仕組みづくりを模索します。
工業製品であれば売り始めた後はマイナーチェンジという方法で改善し続けることになりますが、ネットサービスの場合は Web コンテンツの改善や特典の見直しなどで微調整を続けられるため、よりグロースハックの効果を実感しやすいと言われています。
1-4. グロースハックの AARRR を理解しよう
グロースハックでは正確な現状把握と目標設定のために 5 つのプロセスに分解をした分析手法がとられます。5 つの頭文字を並べて AARRR と呼ばれ、「アー」と読みます。この AARRR を列挙すると、以下のようになります。
- Acquisition 顧客の獲得、増加
- Activation 顧客の活性化、満足度向上
- Retention 利用の継続、リピーター獲得
- Referral 顧客の紹介
- Revenue 顧客の課金行動促進
これを見るとお分かりかと思いますが、顧客の行動が時系列に並んでいます。最初に顧客を獲得して満足度を高めて繰り返し利用を促進、そして自分以外にも紹介する行動を促進します。最終的にはそれを実際の収益につながる課金行動へとつなげるのが、グロースハックの基本的な流れです。
この AARRR を理解しておくと、グロースハックに取り組んでいる際に現在どの段階の取り組みをしているのかを把握しやすくなります。
1-5. グロースハックに求められる ABCDE の資質とは
AARRR に加えてもうひとつ、グロースハックを実践する人(グロースハッカー)に求められる資質を解説しましょう。グロースハックを成功に導く資質は、以下の ABCDE に集約されます。
- Analyticity 分析力に長けている
- Broad interest 好奇心に富んでいる
- Creative 創造性が豊かである
- Discipline 自らを律し、地道に取り組める
- Empathy ユーザーの気持ちに共感できる
グロースハックはきわめてクリエイティブな作業ですが、その一方でとても地道な作業の連続です。Web サイトのボタンの色を変えてみる、配置を変えてみるといった微調整を繰り返しながら最適解を探していくので、クリエイティブでありながら地道な作業に取り組めるという一見すると相反するような資質が求められます。
1-6. グロースハックの基本的なフロー
1-6-1. ターゲット、ペルソナ設定
グロースハックの初期段階はマーケティングと同じようにターゲットとなる人物像を描き(ペルソナ)、その人物像が何を求めているのかを意識しながら戦略を立てます。
1-6-2. 目標設定
次に設定するのが目標、ゴールです。今回の取り組みにおける目標地点はどこなのか、グロースハックによって改善していくことによって導かれる最終的なゴールを設定します。
この目標設定においては、夢物語のようなレベルではなくあくまでも現実的なものを設定する必要があります。グロース ハックは魔法の杖ではなく、日々の地道な努力による改善の繰り返しです。その改善の結果、達成したい目標という視点を持つようにしましょう。
1-6-3. 商品の分析、改善案の提示
グロースハックは商品そのものの改善も含んでいるため、商品の現状分析を行います。特にグロースハックがよく用いられているネットサービスにおいては、アクセス解析を行うことによって顧客の選好や動向が分かるので、アクセス数が多く滞在時間が長いコンテンツを成功コンテンツと位置づけて成功の理由を探り、その逆で結果につながっていないコンテンツに成功コンテンツで得られた気づきを反映していきます。
1-6-4. 評価、見直し
最後に今回の改善点がどういう結果につながったのかという検証、評価を行います。設定した目標に到達することができたのか、できていないのであれば何が足りなかったのかを洗い出していきます。
ここで得られた気づきを、次の改善に役立てるという繰り返しがグロースハックなので、PDCA サイクルのように何度も繰り返すことが重要です。
2. グロースハックの代表的な成功例
2-1. Dropbox
オンラインストレージ最大手として世界に億単位のユーザー数を誇る Dropbox は、世界的なシェアの獲得にグロースハックが奏功した事例として広く知られています。Dropbox の事例に見られるグロースハック的な改善点は、主に以下の通りです。
- ユーザー登録に絞りシンプルさを極めたサイト設計
- 登録手順の簡素化
- 友人招待に特典をつけてユーザー自身による拡散を促進
- SNS との連携により知名度の向上、SNS からのユーザー獲得
- デバイス、プラットフォームを多様化して潜在ユーザーの絶対数を増やす
他にも細かいものも含めると実に繊細なグロースハックが行われたこともあり、Dropbox はテレビ CM などのメディア展開をすることなく世界的なシェアの獲得に成功しました。
上のスクリーンショットのコピーもABテストを実施した結果採用されています。
2-2. Airbnb
民泊サイトとして知られる Airbnb も、今や世界的なシェアを持つネットサービスです。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの民泊サイトとしての地位を確固たるものとしていますが、スタートアップ当時はユーザー数の伸び悩みで試行錯誤をしていた時期もあったそうです。その時期からグロースハックに取り組んでおり、以下のような取り組みが結果につながっていると Airbnb 自身も認識しているようです。
- 初期に登録していたユーザーを連れて、同じく登録しているユーザーの家に飲みに連れていくなど具体的な利用方法を実践して見せた
- サイト上の些細な変更を加えた場合であってもアクセス解析を行い、反応に敏感であった
- 仮説を立てて実践、その結果を評価するというプロセスを大胆に行うことにこだわり、グロースハックの典型的な動きをとった
- 旅行好きな人は旅の経験を発表したがるという心理を利用して口コミを充実させサイトの価値を高めた
大々的な広告戦略というよりユーザー同士の口コミでジワジワと利用者数が伸びてきた Airbnb は、やはり旅というテーマと口コミの親和性に着目した点が大きいと言えるでしょう。同時に旅の楽しさを提案し続けてきたことによって、潜在的なニーズの掘り起こしにも成功したことも見逃せません。
2-3. クックパッド
レシピサイトの最大手として、料理をする人であれば必ず一度は使っていると思われるクックパッドですが、このサイトも地道なグロースハックによって現在の地位を獲得したことで知られています。
クックパッドが取り組んだグロースハックの目標設定は、有料会員の獲得です。目標設定として 3 年で 400 万人という数値が示されました。それに対する取り組みは、主に以下の通りです。
- 有料会員登録をしても一定期間は無料で利用可能(有料会員のメリットを体験してもらう)
- 誕生月には 3 か月分の無料クーポンを進呈
- 「クックの日」として 9 月 9 日には全員に 2 か月分の無料クーポンを進呈
- メルマガ、スマホサイトなどできめ細かな AB テストを実施
対象となっているユーザーは料理をする人ということで主婦層などがペルソナ設定されているため、無料クーポンという直接的な特典が刺さりやすいことが度重なるテストの結果、明らかになっています。それを丁寧に実践して結果につながったものだけを残していくというグロースハックが大量の会員獲得につながっています。
3. グロースハックを今すぐ始める 4 つのチェックポイント
3-1. PMF (Product Market Fit)
PMF をそのまま直訳すると、製品が市場にどれだけ適切かどうかという意味合いになります。グロースハックの実践では、それに加えてその製品が狙っている市場の質がどうなのかという視点も含めて PMF と呼びたいと思います。
つまり、狙っている市場の質が高い前提で、その市場のニーズにどれだけ応えられているかというのがグロースハックの第一段階で判断すべきことです。
ここで市場のニーズにどれだけ応えられているかを知るには、この概念を提唱したマーク・アンドリーセンの言葉に明確な答えがあります。なお、このマーク・アンドリーセンという人物はインターネット黎明期に隆盛を極めたブラウザ「Netscape」の創始者であり、Facebook や eBay の成長にも深く関わっている人物です。
そんなマーク・アンドリーセンは、PMF を測るにはその製品が「市場からなくなったら困るか?」「なくなったら困るなら、いくらまで払えるか?」という質問に対する答えを見るのが分かりやすいと説いています。
市場調査などによってこの質問を投げかけることができるなら、これらの問いに対して高いニーズを感じさせる結果となるかどうかが物差しになります。
3-2. グロースハック的な思考を持つ
グロースハックには独特の思考プロセスが求められるので、グロースハック的な思考を持つようにすることは成否にも大きく関わります。では、どんな思考がグロースハック的なのでしょうか。
考えられるものを、以下に挙げてみました。
- 失敗して当たり前なので、むしろ失敗事例をたくさん作って資産にする姿勢
- いきなり最終ゴールを目指すのではなく、小さな改善、小さな成功を積み重ねる
- 仮説や実践は大胆に、検証は緻密に
- 何度でも試行錯誤ができるよう、お金をかけない
こうした思考で試行錯誤を繰り返している企業はすでにたくさんあると思いますが、そうした取り組みはすでにグロースハックであると言ってよいでしょう。
3-3. AARRR の 5 項目に対する答えを用意する
1-4 で解説したグロースハックの基本的な概念である AARRR のそれぞれに一問一答で答えを出してみてください。グロースハックで何に取り組めばよいのか、何を目指せばよいのかが明らかになります。
たとえば常連客を増やしたいレストランであれば、以下のようになります。
- Acquisition → 初来店の促進
- Activation → 味、店の雰囲気を気に入ってもらう
- Retention → 次も来店してもらう
- Referral → 気に入ってもらえた結果として友達にも勧めてもらう
- Revenue → 料理を注文してもらう
どれも改めて文字にすると当たり前のことばかりですが、これらはすべて常連客を増やすという目的の達成には必要なプロセスであることがグロースハックの概念によって改めて明確になりました。
グロースハックでは、このそれぞれの項目に対する施策を立案、実践を繰り返していきます。
3-4. 情報収集ツールを準備する
グロースハックは施策の立案時と効果の測定時に情報収集が欠かせません。結果の測定は自社で集計可能なものですが、施策を立案する際にはまだ実数値が自社になく、市場調査やアンケートなどによる情報収集が必要になります。
市場調査についての考え方や具体的な方法、ツールについては、「今すぐ手軽に始められる市場調査で企画書の説得力をパワーアップ」に詳しい解説がありますので、そちらもあわせてお読みください。
4. まとめ
グロースハックという言葉に初めて接する方にとっては、何だか難しいものだという印象を持たれたかも知れません。しかし、ここまでお読みになった方はどこか心当たりのある、何となくこれまで経験したことも多いのではないでしょうか。少しずつ改善をしながら商品やサービスをブラッシュアップしていくのは今に始まったことではないので、グロースハックはそれを体系化しただけにすぎないと考えれば、今すぐにもできそうだと思っていただけるのではないでしょうか。
まずは実践、グロースハックは細かい改善の積み重ねが大きな結果を生むので、できることから始めてみましょう!