在宅勤務は生産性にどう影響するか

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パンデミック時の生産性について語るというのは、沈みゆくタイタニック号で乗客が救命ボートに殺到するなか演奏を続けた音楽家を批判することに少し似ている気がします。つまり、このような状況でアンコールができないことに不満を言うようなものです。

ただでさえ不安なことが多い中で、生産性まで気にしなければならないというのは大変です。社会生活に欠かせない職業の人であれば、なおのことです。運良く在宅勤務できる人であれば、目が覚めて、仕事をこなし、1 日を終えることができれば、それだけで大きな成果だと思えるでしょう。この時期に仕事があるという人は、目的意識も感じるかもしれません。しかしサバイバル モードになったときに、自身の生産性にまで意識を向けられるでしょうか?

最近の調査によると、状況はさまざまのようです。多くの人が在宅勤務を始めるようになった今、在宅勤務が生産性に与える影響について活発な議論が行われるようになりました。

YouGov によると、54 % の人が、在宅勤務によって会議や通勤が減り、集中を妨げる同僚がいないために生産性が上がると答えています。米国の社会保障局に勤める職員は、テレワークによって仕事のスピードが上がっていると話しています。

一方、在宅勤務による利点を示した有名な 2015 年の調査報告の共著者は、現在の在宅勤務の状況について、生産性を大きく低下させかねないと警鐘を鳴らしています。その理由として子どもの世話、作業に不向きなスペース、選択の余地がないこと、そして出社しない日々が続くことを挙げています。

「在宅勤務」シリーズの 3 回目となる今回は、在宅勤務を始めてから生産性が上がったのか下がったのかを当事者に聞いてみました。アイルランド、フランス、ドイツ、イスラエル、オーストラリア、そして米国の Dropbox 社員たちが完全な分散ワーク体制へと移行してから最初の 2 か月で得た 10 の知見をご紹介します。

目次

  1. 高い柔軟性と集中できる時間の増加
  2. 新しい連絡手段を使って足並みを揃える
  3. 子育てと仕事の間でバランスを取る
  4. 異なるタイムゾーンとの調整が簡単に
  5. 各国のオフィスで薄れる「リモート感」
  6. 寛容さが増す
  7. 自宅の快適さを満喫
  8. 単調なリズムへの対処
  9. 効率アップと創造性ダウン
  10. 集中するための新しい方法を見つける

1. 高い柔軟性と集中できる時間の増加

今回のパンデミック前から 15 年にわたって、さまざまな企業や役職で週に 2 ~ 3 回の在宅勤務をしてきた私は、リモート ワークが生み出す生産性の向上をずっと主張してきました。

と話すのは、Dropbox の欧州のコミュニケーションズ部門でマネージャーを務めるミカ・スプリンツです。

計画の立案やストーリーの構想、実りある 1 対 1 の話し合いなどについては、落ち着いて集中できるホーム オフィスこそが最善の場所だと考えています。また、本社に勤務せずに複数の地域を管理している私は、テクノロジーを活用して世界各地の同僚やパートナー、そしてお客様とやり取りすることに慣れています。しかし実のところ、バーチャルでのやり取りが効果を上げるためには、まずは対面でしっかりとした人間関係が築けていなければならないのです。

他にも、在宅勤務では時間の使い方に柔軟性が生まれます。1 日の最初はランニングです。家に戻ったら、シャワーを浴びる前に、コーヒーを片手にその日で一番大きな仕事に集中して取りかかります。すっきりとした気分でアドレナリンも出ているので仕事がはかどります。その後は会議に出席し、より機能的なタスクに取りかかります。

仕事以外にもやるべきことはあります。在宅勤務は、仕事のオンとオフについて考える機会を与えてくれます。私は外出制限期間中、2 人の子どもを見ながら自宅で仕事をしていますが、1 日の中でオフになる時間をしっかりと確保しています。たとえば、子どもの宿題を見る、ホーム ビデオを作る、ケーキを焼くなどです。他にも家具にペンキを塗る、趣味のフィギュアに色を付ける、太陽の光があるときは外で深呼吸して体を動かすということもやっています。

2. 新しい連絡手段を使って足並みを揃える

在宅勤務によって、私の生産性は確実に上がっていると思うと話すのは、教育機関向け Dropbox と HelloSign のエンタープライズ営業担当を務めるエドワード・モンシュです。

普段はパリのオフィスで働いていますが、今回の件で通勤に 1 時間近くを費やしていること、そして通勤による体力の消耗がとても大きいということに改めて気付きました。パリの混雑は相当なものですからね。通勤の時間を自由に使えるようになり、同僚とのやり取りがなくなったので、集中できる時間が増えました。職場でのコミュニケーションと集中できる時間のバランスが変わり、後者の時間が増えてきています。

営業職なので売上目標の達成に責任があり、そのために自分に課した行動計画があります。目標達成のためには、役割を越えた協力が欠かせません。たとえば、インダイレクト セールス(チャネル販売)、マーケティング、プリセールス(ソリューション アーキテクト)の同僚との連携などです。全員の足並みを揃えるために、必ずしも定期的な会議が必要というわけではありません。定期的な会議はできるだけ避け、代わりに Slack チャンネルを活用し、時には直接電話をかけて仕事を進めています。

3. 子育てと仕事の間でバランスを取る

テルアビブの Dropbox オフィスでエンジニアリング マネージャー兼サイト リードを務めるヨナタン・セロウシは、3 月 8 日から始まった在宅勤務で自身とチームの生産性に大きな影響はないと話しています。

3 月 15 日に外出制限と休校が発表されてから、人々の暮らしは一変たとセロウシは話します。

私と妻の間には、4 才半になる双子がいます。私も妻もフルタイムで働いているため、外出制限が始まってからは 1 日を 6 時間ずつのシフト制にして仕事と育児を交代で行うようにしました。仕事に費やせる時間が減ったことで、優先度の高い仕事に集中して取り組めるようになりました。

少なくとも後 2~3 か月は同じ状況が続きそうだという見通しになってからは、タスクや優先事項のリストを書き出した後で、半分に絞り込みました。戦略的な取り組みはたくさんありましたが、必要不可欠なものだけを残して他は後回しにしたのです。会議や 1 対 1 での話し合いも、可能な限り参加するようにはしていますが、全体の数は減らすことにしました。

これが生産性に最も影響したと思います。マネージャーの私にとって、チーム メンバーと会って関係を築くことはとても大切です。ボディ ランゲージを見ることもできず、直接会って話す時間も取れなくなり、チームのことを常に考えざるを得なくなったことで、私の不安は高まり、生産性は低下したと思います。

チーム レベルで言うと、すでに動いていたプロジェクトはスムーズに進んだとセロウシは話します。

マイルストーンにも影響はありませんでした。しかし、チームで開催できる会議の数が減ってしまったため、調査段階やこれから始まろうという段階のプロジェクトは動きが鈍くなりました。子育て世代のメンバーがスケジュールを調整しづらくなったのが大きな原因です。

Dropbox で EMEA 地域のコミュニケーションズ部門を率いるカッピ・ウィリアムソンは、次のように話しています。

家では娘の面倒を見ながら仕事をしているので、前もって 1 日の計画を慎重に立てるようになりました。今となってみれば、以前は時間をぜいたくに使って仕事をしていたと感じます。誰と会議をすべきか、どうやって夫と子育てを分担するか、それぞれの日単位、週単位での最重要業務は何だろうか、と考えるようになりました。おかげで無駄を省き、時間を有効活用できるようになりました。スムーズにいかないこともありますが、なんとか道を見つけるようにしています。

4. 異なるタイムゾーンとの調整が簡単に

本社にいる同僚との共同作業が楽になったと複数のチーム メンバーが話しているとセロウシは言います。

サンフランシスコのメンバーが通勤しないとなると、イスラエル時間で夕方の早い時間に会議ができて楽なのです。また、世界中で同じような状況が広がっているために、以前は考えにくかった独特の連帯感が生まれているという意見も出ています。皆がステイ ホームの同志というわけです。

アメリカ西海岸で働く私としては、他のタイムゾーンとの会議の調整が少し楽になったように思います」と話すのは、Dropbox でアナリスト リレーションズを担当するマッケナ・ハニガーです。「朝の通勤時間が自由に使えるようになったので、この時間を使って東海岸やヨーロッパにいる同僚と数回の会議を実施できます。

またヨーロッパのドイツ語圏および北欧地域でカスタマー サクセス部門長を務めるライナス・ヘイファーケンパーも次のように話しています。

これまでは、EMEA にいる同僚との会議をすべて終えた後、急いで出社してから、サンフランシスコのメンバーと情報共有するのが大変でした。こうした忙しさがなくなったのは 1 つのメリットだと思います。

5. 各国のオフィスで薄れる「リモート感」

完全な分散チームというのは、各国のオフィスやリモート オフィスで働く人に平等をもたらす効果があると話すのは、アジア太平洋および日本のコミュニケーションズ部門を率いるリー・トランです。

以前であれば、各国のオフィスにいる人たちは本拠地である本社に問い合わせをする必要がありましたが、この状況が全員に当てはまるようになったのです。全員が分散ワークとなり、どこかを中心にして回るという構造が消滅しました。誰もがフラットになるよいきっかけだと思います。

6. 寛容さが増す

在宅勤務は 2 つの理由から自身の時間管理能力を向上させたとヘイファーケンパーは言います。

1 つ目の理由は、通勤が不要になったことです。朝はたいてい、妻と散歩に出かけます。妻と一緒にいる時間が大幅に増えました。腰を据えてじっくりと話をすることが増えて、結婚生活がこれまで以上に充実していると感じます。

2 つ目の理由は、人々がより寛容になったと感じる点です。さまざまな理由で在宅勤務ができない友人や、職を失った人たちのことを考えると、思いやりのあるリーダーたちが率いる Dropbox のような会社で働けることをとてもありがたく思います。彼らもまた、私とまったく同じ 1 人の人間であるのです。

オリビア(Dropbox の COO であるオリビア・ノッテボム)が EMEA 向けに開催したオンラインの交流会に参加したのですが、彼女も同じ状況にいて、仕事をしながら、炊事に洗濯、庭の手入れなどの家事に追われていると話していたとヘイファーケンパーは話します。

自由に使える時間が限られていること、そして人生には会議に出るよりも大事なことがたくさんあるということを実感しています。

お客様とのビデオ会議にも多く出席していますが、皆さんもやはり同じ状況にいます。ビデオ会議ではたびたび、参加者のお子さんが画面に映ります。そんな時は、会議を止めるようにしています。普段であれば、ミュートにして自分の子どもたちに部屋から出るよう伝え、こうしたハプニングを恥ずかしいと思うでしょう。今ではすぐに、『ジョン、いったん離席してお子さんと遊んであげてください』などと言うようにしています。ドメイン認証について議論するよりも、子どもの話を聞いてあげることの方が大切ですよね。人間性の面とビジネス関係の両方で、こうした寛容の心が今後も続いていくことを願っています。

7. 自宅の快適さを満喫

在宅勤務を始めて最初の数週間で、生産性が確実に高まったと感じ、前職から在宅勤務には慣れていたとヘイファーケンパーは言います。

オフィスよりも自宅の方が設備が整っていると思います。高さを調整できるデスクや、快適なイスがありますから。もちろん、人によっては使い心地の良いデスクやイスがない人や、専用の仕事部屋を持たない人がいることを心に留めておくべきだと思います。早くオフィスに戻りたいと考えるメンバーがいるのも理解できます。

ヘイファーケンパーは、在宅勤務は業務の遂行に悪影響を及ぼしていないと話します。

ハンブルクの小さなオフィスでも、他のオフィスで働く仲間と共同作業することが多かったというのがその要因の 1 つかもしれません。在宅勤務を始める前も、上司の席や、密に連携している別のチームのメンバーの席まで歩いて行く、という状況はほとんどなかったのです。以前も今も、たくさんの Slack メッセージと短時間のビデオ会議が仕事の基本になっています。

8. 単調なリズムへの対処

フランスでは『監禁』とも呼ばれているこの外出制限の最も大きな問題は、ワンパターンの生活リズムにあるとスプリンツは話します。

リモート ワークは、私が慣れ親しんだ働き方で、その価値も高く評価しています。それに、私にとって家族はとても大切な存在です。しかし、変化もまた人生にとって欠かせないスパイスです。一風変わったロックのライブ コンサート、聖歌隊での合唱、レストランのテラスで友人たちと食べるおいしい夕食といったアクセントがないのは、ロックダウンの一番つらいところです。

今でも時々はそうですが、当初は特に、仕事もコミュニケーションも共同作業も、すべてを 1 つのデジタル画面を介して行うという単調さを受け入れるのが大変だったとチャンは話します。

たとえば対面で行う個人面談、コーヒー マシンに並びながら交わす気軽な会話、オフィスで会ったときのちょっとした冗談、集中できる静かな時間など、1 日が多様な感覚で彩られていた日々をなつかしく思います。

今では在宅勤務にも慣れ、朝のゆったりとした時間が気に入っています。急いで身支度をしてバスまで走っていくこともなく、コーヒーを淹れ、ヨガをして、自分だけの時間を過ごしてから仕事に取りかかります。1 日がゆっくりと始まるのはいいですね。

9. 効率アップと創造性ダウン

サンフランシスコで外出制限が始まってから、毎日のルーチンは大きく変わったと話すのは、Dropbox でプロダクト コミュニケーション チームに所属するナタリー・メイソンです。

私は、パートタイムでフィットネス インストラクターもしています。毎朝 6 時にレッスンに出て、その後に出社してデスクに向かうというパターンは完全になくなりました。

朝のこの時間は、確かに効率が上がったかもしれませんが、創造性という点では落ち込んでいるように思うとメイソンは言います。

私は、チームを失望させたくないという気持ちから、タスク志向の強い人間でした。しかし対面でのコミュニケーションがなくなった今は、ベストな成果を生み出すべく力を合わせて働いている、という実感が湧きにくくなっています。

10. 集中するための新しい方法を見つける

在宅勤務では、オフィスで働いていたときのように視覚的な環境の変化なく、こうした変化が、業務にも強く影響していたことに気付いたとハニガーは言います。

以前であれば、会議やプレゼンは会議室で行うのが普通でした。同僚と一緒にランチを食べながら、進捗について話し合うこともありました。レポートは静かな場所で読み、集中が必要な作業は自分のデスクに戻って取り組むといった具合です。それが今は、すべてを自宅の同じ場所で行うのです。見える世界に変化がなくなった今、集中するためにはタスクの種類に応じて工夫をする必要があると感じています。

「在宅勤務」シリーズのパート 3 は以上です。今回は、完全な分散ワーク環境において Dropbox のチームが工夫をしながら働いている様子をお届けしました。

パート 1 はこちら:
在宅勤務:自宅で仕事をする人々が語る行動と習慣の変化

パート 2 はこちら:
在宅勤務で分散したチームは、家庭と仕事をどうやって分けているか