画期的なアイデアが浮かばない、または浮かんだアイデアをうまくまとめる方法についてお悩みですか?アイデアは頭の中にあるもので、それをアウトプットしない限りは頭の中から出てくることがなく、それを伝えなければ思いつきの範疇を出ることがありません。
いかに効率よくアイデアを引き出すか、そしてそれをまとめるか。ナレッジワーカーにとって、アイデアとの付き合い方は大きなビジネステーマです。
この記事では、アイデアとは何か、どのようにして生まれてくるのかを論理的に解説した上で、アイデアをうまく引き出すさまざまな手法、そして困った時の方法論をまとめました。そしてアイデアを見える化して分かりやすくまとめる方法、それを支援するユニークなツールについても紹介していますので、アイデアに困ったら、ぜひ最後までお読みください。
目次
1. アイデアが生まれるまで
2. アイデアをひねり出す正攻法と困った時の奥の手
3. アイデアの発想と整理を支援するツール 3 選
4. まとめ
1. アイデアが生まれるまで
1-1. アイデアの定義
1940 年に初版が出版されてから長年にわたり、知的発想法のロングセラーとして親しまれているジェームス・W・ヤングの名著「アイデアのつくり方」では、アイデアのことを「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と定義しています。
つまり、まだ誰も見たことがないものを創出するのではなく、誰もが知っているものをいかに組み合わせるかがアイデアである、と説いています。さらに、こうした組み合わせをうまく見つけ出す(アイデアを生み出す)才能については、「事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい」と結論づけています。
これを整理すると、異なる物事同士の関連性をうまく見つけ出した新しい組み合わせを創りだすことが新しいアイデアであり、優れたアイデアであるということになります。
1-2. ひらめきとアイデアの違い
ある突然、素晴らしいアイデアがひらめいたという表現はよく用いられます。こうした表現を見ると、ひらめきとアイデアは同義であるかのような印象を受けますが、この両者には大きな違いがあります。さらに「思いつき」という言葉にも同様のことが言えるので、これらの言葉の違いを明確にしておく必要があります。
ひらめきや思いつきというのは、ある日突然やって来ることがあります。これまでなかった発想や組み合わせ、考え方などが頭の中に湧いてくるもので、この時点では文字通り「ひらめいた」「思いついた」だけの段階です。たとえそれが画期的なものであったとしても、他の人が理解できる形になっていなければ本人が忘れるまでの寿命しかありません。
それに対して、アイデアは考えついたことを論理的にまとめて他人に伝えられるところにまでブラッシュアップされたものをいいます。ひらめきや思いつきを分かりやすくまとめて伝えれば、それがアイデアとなるわけです。
ひらめきや思いつきは偶然に依存する部分が大きいですが、アイデアは論理的に導き出すことが可能なので、この点にも違いがあります。
1-3. 企画とは問題解決である
「企画とは問題解決」という詠み人知らずの古い言葉があります。何か足りないものや解決したい問題があるからこそ、そのための対策として企画があります。企画はアイデアから成り立っているので、問題意識を持つことからアイデアづくりが始まると言ってもよいでしょう。
アイデア出しの初期段階は、生み出したいアイデアに関連する問題を探すことから始めるのが常道です。言葉にすると当たり前すぎることですが、アイデアに詰まった時には、問題を解決するためにアイデアを出そうとしているという原点に帰るのが効率的です。
1-4. アイデアは才能ではなくスキルである
アイデアはひらめきから生まれるイメージが強いため、才能に依存する部分が多いと思われがちです。しかし、実際にアイデアを形にする職業の人たちの仕事ぶりを見ていると、そうではないことが分かります。
いかにアイデアをうまくまとめて人に伝えるかという部分の占める比率が大きくなるわけですが、こうした仕事を支えているのはスキルです。アイデアの生み出し方、まとめ方、伝え方というスキルがあってはじめて、よいアイデアが生まれるのです。
次章からは、アイデアをいかにして形にするかを技術的なアプローチでさまざまな方法論をご紹介します。
2. アイデアをひねり出す正攻法と困った時の奥の手
2-1. 正攻法でアイデアを生み出す
正攻法とは、頭の中にあるアイデアを効率よく引き出す方法のことを指します。頭の中にあるものの、うまくそれを整理できない、系統立てて引き出せないという時に役立つ手法をご紹介します。
2-1-1. KJ 法
1 人でできる、とてもシンプルな発想術です。川喜田二郎氏という文化人類学者が考案したことから、イニシャルを取って KJ 法と名づけられました。別名付箋マッピング法とも呼ばれるように、付箋に思いつくままにアイデアを書き出していって、後からその付箋をグループ分けして要らないものをそぎ落とし、残ったものを順序よく並べて整理するというアイデア整理術です。
原始的な手法ですが、それだけに人間の行動との親和性も高く、手軽にできて効果の高い手法として知られています。
2-1-2. 希望点列挙法、欠点列挙法
希望点列挙法と欠点列挙法は、それぞれ対極にある手法です。希望点列挙法は、「こうすればもっと良くなる」という思いつきを可能な限り書き出し、その中から現実味のあるものを選んでブラッシュアップしていく手法です。
欠点列挙法はその真逆で、誰も気にしていないような些細な欠点を探し出して列挙、そこから問題解決につながるようなアイデアを拾い出していくという手法です。
いずれもテーマに沿って思いついたことをどんどん列挙すること、そこから有用なものを拾い出すことは共通しています。
2-1-3. マンダラート
3 × 3 で構成される 9 マスの中心にテーマを書き、それを取り囲むように配置されている残りのマスにそのテーマから思いつく言葉を書いていく手法です。発想術というより、連想からアイデアを引き出していくことに主眼が置かれています。
このマンダラートの面白いところは、これで引き出された言葉に対して、新たなマンダラートを作成してどんどんアイデアの裾野を広げていくところにあります。
二刀流でおなじみのプロ野球選手、大谷翔平選手がマンダラートを作成、そこで明らかになった課題に取り組むことで成功したという話はとても有名で、その大谷選手が作成したマンダラートがこちらです。
中心にあるマンダラートには、ドラフト指名されるにはどうすればよいのかが並べられています。そこから出てきた 8 つの項目に対してそれぞれのマンダラートを作成し、そのために必要な取り組みを並べて実践したそうです。
この 81 マスに記されていることの 1 つ 1 つが、その後の大谷選手の成功につながっているということで、とても論理的な思考によって誕生したスター選手であることが分かります。
2-1-4. ブレインストーミング
略してブレストとも呼ばれ、グループでアイデアを引き出すために用いられる手法です。とても有名で実践している企業も多いので、ご存知の方も多いと思います。
ブレインとは脳、ストーミングとは嵐という意味なので、直訳すると脳から生まれる嵐という面白い名前の発想術です。ブレインストーミングには基本的なルールがいくつかありますが、最も大切なのは自由さを妨げないことです。
参加者は与えられたテーマに対して、自由に発言をします。そしてその自由な発言を記録していきますが、発言に対して批判や否定をしてはいけないというのが基本ルールです。反対意見があったらそれを述べるだけで、他の参加者が出した意見に対する批判であってはいけません。
こうした作業は 1 人でやることもできますが、数人のメンバーで議論をしている雰囲気のほうが脳も活性化され、思いつくことの質と量が向上します。ブレインストーミングはその効果を狙って、出せる限りのアイデアを出すことに重要です。
論戦をしないので議論の質は向上しないかも知れませんが、とにかくアイデアの量を出すことについては非常に有効な手法です。練り上げたい企画がある場合、初期段階にアイデアの選択肢を広げるために活用すると威力を発揮します。
2-1-5. シックスハット法
6 種類の視点を持った参加者がそれぞれの役回りを演じて議論をする発想術です。6 種類の参加者が必要なので、すべての視点からの議論をするためには最低でも 6 人で行う必要があります。
参加者が持つそれぞれの視点は、以下の通りです。
- 客観的な視点
- 消極的な視点
- 積極的な視点
- 革新的な視点
- 感情的な視点
- 分析的な視点
シックスハットというくらいなので、本来はそれぞれの役回りを担当する人が異なる色の帽子をかぶって行うのが正式なスタイルです。実際の議論ではそこまでする必要はないので、誰がどの視点を持っているのかをカードのようなもので明示しながら行うと、より白熱した議論が期待できます。
このように役回りを与えられて、本来の自分が持っているのとは違う視点で議論に参加するため、自ずと違う目線を持つことができ、これまでにはなかった気づきや思いつきが生まれるかも知れません。
2-1-6. アイデアしりとり
単語の語尾から始まる言葉をつなげていくしりとり遊びは、子供の遊びというだけでなく高齢者の脳トレに効果があるとされており、広く活用されています。
そのしりとりを発想術に採り入れたのが、アイデアしりとりです。数人以上のグループで、アイデア出しをしたいテーマに関連のある言葉だけでしりとりをしていきます。
ゲーム感覚で楽しめるため脳が活性化しやすく、勝負事でもあるので他の人よりも面白い言葉を投げかけたいという意識からブレインストーミングよりも高い効果が見られる場合があります。
2-2. アイデアが出なくなって困った時の奥の手
正攻法ではアイデアが出尽くしてしまった場合や、なかなか思うようによいアイデアの選択肢が出てこないという場合は、視点を変えたり半ば強制的にアイデアが出てくるような「奥の手」が有効です。
2-2-1. 逆張り思考法
自分の中で常識としていることの、敢えて逆の思考や行動をした場合にどうなるかをイメージする発想術です。
道を歩いていたら、お金が落ちていたとします。そのお金を普通であれば拾い、少額でなければ警察に届けるなどの行動を取るのがセオリーだとしたら、逆張り思考法では「お金を拾わずスルー」という行動を想定してみます。すると、後ろを歩いている人が拾うかも知れませんし、そのまま誰にも気づかれず雨風に流れされてしまうかも知れません。そんな状況を想像してみると、今までとは違った風景が見えてくるはずです。
逆張り思考法だけでアイデアが浮かぶかどうかは分かりませんが、頭を休める、いつもと違う頭の使い方をするという意味で、アイデアを生み出す奥の手と言えるでしょう。
2-2-2. オズボーンのチェックリスト
アメリカで広告会社の代表を務め、アイデアの引き出し方を体系的に研究したアレックス・オズボーンという人物がいます。このオズボーン自身が、アイデアに困った時に自問自答していたチェックリストのことを「オズボーンのチェックリスト」といいます。
オズボーンのチェックリストは 9 項目から成り立っており、その内訳は以下の通りです。
- 転用
- 応用
- 変更
- 拡大
- 縮小
- 代用
- 置換
- 逆転
- 結合
ある物事に対して、この 9 項目の視点で仮説を立てるのに利用します。「転用」の例としては他の使い道を考えることがベースになるので、これまでゴミとして捨てていた不良品を「わけあり商品」として商品化したり、使い物にならなくなった漁師網でアクセサリーやオブジェを作る、などのアイデアが該当します。
この要領で、9 項目すべてに当てはめてみると、その中から素晴らしいアイデアが見つかるかも知れません。
2-2-3. 消去法
ブレインストーミングなどで列挙されたアイデアの中によいものがない場合は、最悪な案から順に消去していきます。これを何度も繰り返しているうちに、最後に残るのは「その中でも比較的ましな案」です。
積極的にグッドアイデアを引き出す方法ではありませんが、その時点で最もよいアイデアを導き出すためには有効な手段です。
3. アイデアの発想と整理を支援するツール 3 選
3-1. マインドマップツール「MindMister」
マインドマップは頭の中にある思考やアイデアを見える化することで、整理しやすくする手法のひとつです。セントラルイメージというメインテーマを中央に置き、そこからブランチと呼ばれる枝を自由に伸ばしていくことでアイデアの「脱線」を誘います。脱線が多ければ多いほどアイデアは派生していき、その中から面白いものを拾うというのがマインドマップの使い方です。
従来は手書きで描くものでしたが、今では簡単にマインドマップを作成できるツールがあります。「MindMister」はその中でも有名なサービスで、無料登録をするだけで今すぐ簡単にマインドマップを作成できます。
3-2. ひとりブレスト
ブレスト(ブレインストーミング)は通常、数人以上のグループで行うものです。アイデアを出し合いながら思考を活性化させるのがミソなので、1 人でブレインストーミングをしても効果が薄いとされています。
しかし、アイデアが欲しい時に都合よくブレインストーミングをするだけのメンバーが揃うとは限りません。そんな時に便利なのが、名前の通り 1 人でブレインストーミングができる「ひとりブレスト」です。
対話形式になっていて、「ひとりブレスト」にテーマを与えると質問がどんどん投げかけられてきます。利用者はそれに回答していくことで、自然にブレインストーミングができるというとても面白いツールです。
「エコカー」というテーマを与えて、「ひとりブレスト」から問われた質問の例です。このような形でどんどん質問されるので、どんどん質問に答えながら答えをメモしていきます。
⇒ ひとりブレスト
3-2-1. ブレインストーミングにも使える Dropbox Paper
ここでご紹介した「ひとりブレスト」は、ブレインストーミングをするメンバーが他にいない場合に使うツールとしてご紹介しました。遠隔地であればメンバーが揃うという場合であれば、Dropbox Paper を使って 1 つのファイルを共有しながら編集、そこに自由に意見を書き込んでいくことで本格的なブレインストーミングが可能です。
Dropbox Paper を使ったブレインストーミングの具体的な方法やサンプルを「使ってみたら想像以上によかった!Dropbox社員が教える新「Paper」の効果的な使い方」の「3-2. ブレインストーミング」でご紹介していますので、参考までにご一読ください。
3-3. マンダラートをスマホで作成できるアプリ
この記事でも解説しているマンダラートという 9 マス思考法は頻繁に書き足しと削除を繰り返すため、手書きよりもデジタルツールのほうが早く、そして美しく作成できます。
スマホでマンダラートを作成できるアプリも充実しているので、その中でおすすめのものを Android 、iOS それぞれからご紹介します。
3-3-1. IdeaFrameworks (Android)
英語版のみのアプリですが、マンダラートだけでなくオズボーンのチェックリストやシックスハット法など、この記事でおすすめしている発想術が使える多機能アプリです。
3-3-2. MandalArt (iOS)
iPhone で利用可能なマンダラート作成アプリです。1 つのマンダラートから派生して、さらにそこから 9 マスのマンダラートを作ってアイデアを広げていくのが効率的な使い方ですが、このアプリではそれを簡単な操作で実現します。
マンダラートをどんどん作ってアイデアを派生させていけば、その中によいものが出てくるでしょう。
4. まとめ
世の中のあらゆるものが機械化され、AI などの進化によって思考という人間特有の作業までも機械が取って代わろうとしている時代ですが、今もなお人間にしかできないのが、アイデアを引き出す作業です。
アイデアを単なるひらめきや思いつきに依存するとすぐに枯渇したり、行き詰ってしまいますが、それを補完するためのさまざまな方法論が確立されています。この記事ではそういった方法論の中から定番のもの、筆者自身が利用しているものを中心にご紹介しました。それをデジタル化する支援ツールも充実しているので、その中からユニークなものをご紹介しました。
アイデアに行き詰った時、アイデアに困った時はぜひ、これらの方法をお試しください。