『IPU・環太平洋大学様ご講演』どうするオンライン授業!!実践大学に聞く、現実の壁と苦労 ブログ

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新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、そして、生徒の健康を守るため、多くの教育機関でオンライン授業を実施・検討されているのではないかと思います。多くのメディアでは、先進的な取り組みとして、また「成功例」として様々な教育機関のオンライン授業が紹介されています。一方で導入の裏側にある苦労については中々取り上げられていないのが状況です。

今回、2020年 6月 25日に実施したオンラインセミナー 「IPU・環太平洋大学様ご講演 – どうするオンライン授業!!実践大学に聞く、現実の壁と苦労」 では、「Dropbox Business」をご利用いただいている学術機関の中から、オンライン授業を実践されている環太平洋大学 副学長 井上 聡様をお招きし、「対面式の教育からオンライン化した教育」への取り組みと様々な苦労話をお伺いしました。

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環太平洋大学 井上 聡様へのご質問

  1. 緊急事態宣言前、もしくは最中での、大学運営や授業運営の状況はいかがでしたでしょうか?
  2. 学生とデジタル上でコミュニケーションを取る上で気をつけていらっしゃることはありますでしょうか?
  3. 緊急事態宣言の解除後、大学運営・授業運営のご予定はいかがでしょうか?
  4. オンライン学習はポストコロナ社会で、どのように定着していくとお考えですか?
  5. 現在苦労されている方、これから対応を検討されている方に何かアドバイスはございますか?

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本オンラインセミナーでは 、Dropbox Japan 西日本営業部門 部長の龍村 洋一が MC を務めさせていただき、環太平洋大学 副学長 井上様にご回答いただくという Q&A 方式で実施させていただきました。

セッションでは、緊急事態宣言が発令されてから、また解除された後の大学運営、授業運営と学生とのオンラインコミュニケーションの方法、今後のオンライン学習のあり方など、現場のリアルを紹介してもらう形で進みました。

セッション冒頭では 龍村より Dropbox の教育機関における取り組みをご紹介させていただきました。

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環太平洋大学様では、新型コロナ拡大前から積極的な教育の ICT 化を進められていました。

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詳細はこちらからもご覧いただけます:
http://navi.dropbox.jp/ipu-case-story

環太平洋大学 – オンライン授業の実態

具体的な取り組みの質問に入る前に、2020年 5月 11日に OHK 岡山放送で放映された 「1ヵ月遅れを取り戻せ!環太平洋大学がオンラインで授業スタート【岡山・岡山市】」を元に、井上様に当時の状況をお伺いしました。

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井上様によると、本来の予定より 1 カ月以上遅れての授業開始だったため、本当なら長く授業時間を取りたかったところを、学生の集中力持続を考慮して通常 100 分の授業を 50 分程度に短縮しました。そして、事前に配った課題の中から、間違いの多かった問題を中心に解説することで、短時間でも学習の遅れをカバーできるよう工夫をしました。オンライン授業を開始したのは 5月 11日のことでしたが、当初はオンライン授業実施事例もあまりなく、4月の入学時期から授業開始までの準備が大変でした。しかしそれから 1 カ月が経過して、引き続き全教職員でオンラインならではの授業スタイルを模索しながらも、現在は順調に授業を運営しています。

Q1. 緊急事態宣言前もしくは最中での、大学運営や授業運営の状況はいかがでしたでしょうか?

まず、緊急事態宣言の宣言前と宣言後について言及させてください。

宣言前、私個人はこういう状況になることを予測していました。そしてこれを機に、教職員とオンライン授業のあり方について話せる機会を多く設けました。が、実際の教員からの反応としては、「いずれコロナは収束する」というものでした。

授業はオンラインで行うのでよいが、学生への指導は対面式で行いたいという意見もありました。対面が大事というのは理解できますが、話を聞いている限りでは「極力オンラインは避けたい」、突っ込んでいうと、「ICT ヘの取り組みを少しでも遅らせたい」、という本音を強く感じました。緊急事態宣言が発動されることによって、教員も腹を括らないといけなくなり、一丸となってオンライン授業の実施を進めることができました。

いざ舵を切ってみると、今後はオンライン授業の前例がまだ日本には少ないという状況の中で、ガイドラインを作らなければならないという課題が重くのしかかってきました。プロジェクトメンバーと作り上げてきましたが、ここが心理的に辛かったところです。まずは様々な大学の事例をいろんな教員から教えてもらうところからスタートしました。4月 7日頃から、すでにオンライン授業を開始した各大学の多くの事例が、ニュース等で寄せられてきました。ICT 活用のレベルが高すぎるため、すべてを参照できたわけではありませんが、オンライン授業の失敗事例についてはガイドライン作成のうえで大変役に立ちました。

本学としては他で起こっている失敗をこちらが起こさないようにすれば、成功になるんだろうという発想で、失敗事例を元にガイドラインを作成しました。

ガイドラインには大きく 6 つのポイントがあります。

    1. 不審者の乱入を防ぐためのセキュリティには気を使いました。本校では「Google Classroom」を使い、承認されたもの同士だけが授業で繋がるという環境を準備しました。
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    2. 当時の学生の生活習慣は夜型が主になっていました。学生には朝型の生活習慣に戻してもらうために、クラス担任がバーチャルゼミという形で朝礼を週に一回行い、朝型の生活習慣を守ってもらうようにしました。
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    3. 元々、日本の大学生は勉強しないということが批判されていたので、これを機にしっかり勉強してもらおうと、授業の中心をオンデマンド型に設定し、しっかり事前課題に取り組んでもらえるような体制を整えました。
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    4. 長時間のライブ授業当たり前のように行われている事例もありました。しかしライブが長くなるに従って学生の通信環境が保てないという問題や、アクセスが集中して授業が中断してしまうなどの問題が起こるため、学生が事前課題を頑張っているという前提に立ち、事前課題のフィードバック中心に授業を進めることによって、本来は1コマ 100 分の授業を 50 分程度に短縮し、短時間集中型のライブ授業を行うことにしました。ゆくゆくは対面授業との融合を図りたいと考えているため、本学では「ハイブリット型」と名付けました。
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    5. 学生の通信環境に対しては、教員としても配慮いたしました。データダイエットということで e ラーニング教材の容量を小さくすることや、課題管理の際に学内のファイルサーバを使うのではなく、Dropbox を含むその他クラウドサービス(Google Classroomなど)を利用し、通信の負荷を減らすようにしました。
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    6. プライバシーの問題も重要です。画面に学生の顔が一斉に並ぶことに対して、授業中に顔をみられたくない、生活音を聴かれたくない、大人数がPCカメラをオンにしたままだと通信帯域に大きな負荷がかかるといった問題がありました。そこで、学生のプライバシーを守るためにも、原則マイクはミュート、PC カメラはオフというガイドラインを設けました。生徒の顔が見えない状況で教員からの不満も一部聞こえましたが、顔を合わせる機会は別途クラス担任による朝の朝礼等でつくるようにしました。

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オンライン授業を始める前に、学部、学科を中心に研修を行いました。クラスルームの作り方や、オンライン授業の方向性については私の方で 20 分ほどの動画を合計 20 本ほど作成・配信し、共有していただきました。最後の仕上げとして、授業開始前の最後の 3 日間は、連続でオンラインでファカルティデベロップメント(以下 FD)を開き、教員全員に方向性を浸透させるだけではなく、オンライン授業実施にあたり抱えているストレスや不安、疑問を毎日ヒヤリングし、その場所で対応していきました。

Q2. 学生とデジタル上でコミュニケーションを取る上で気をつけていらっしゃることはありますでしょうか?

Dropbox 龍村: 事前アンケートで 60 %を超えていた質問になりますが、いかがでしょうか。

環太平洋大学 井上氏: PC カメラオフによる授業参加と、 PC マイクのミュートという判断によって、「学生の反応が分からない」という意見が教員からの一番の心配として上がってきました。今までの対面式の授業ではきちんとコミュニケーションが取れていたのかという疑問もあったかと思われます。今までの対面式の授業とは勝手が違うため、オンライン授業だから不安になるという状況は理解できますが、オンラインの環境ではオンライン特有のコミュニケーションの手段があります。

コミュニケーションをより良くしていく施策の一つとして、週に一度のクラス担任による朝の朝礼を実施しています。バーチャル空間ではありますが、この時間に 10 人ぐらいの学生と担任が 1 対 1 で対話を行っています。

2 つ目は、定期的な情報収集です。オンライン授業に関する意見をクラス担任経由でヒヤリングしたり、学生にアンケートへの協力を依頼したりして、その内容を集約しています。たとえば学生へのアンケートでは、優れたオンライン授業の特徴を把握するために、「他の学生に勧めた授業があれば、その科目名と勧めたい要因を教えてください」という回答を集約し、ベストプラクティスの構築に励んでいます。

こうして得られた情報については、オンライン研修会等で共有し、全学的に問題解決に当たっています。

6 月末の FD 研修では、「学生との対話」をテーマに、各学科から選出された学生 8 名を招いて、良い点、改善すべき点、を教員の前で発表してもらいます。これにより、学生の生活習慣、課題管理のスケジュール、オンライン授業に対する意見といった点で、教職員が学生のおかれている状況を理解し、授業改善に取り組んでくれるのではないかと期待しています。

今まで 100 分の授業だったのが、オンライン授業では 50 分で終わっています。授業終了後、「放課後」という形で居残りを励行し、1対1で、授業の質問やの進路選択などの相談に努める教員もいます。

オンライン授業環境で一番使えると思うのは、チャット機能ですが、学生がコメントしやすいよう誘導する必要があります。思い起こしてみれば、対面授業をしていた頃、教員からの求めに対して、学生はそれほど発言をしていたわけではありませんでした。しかし、オンラインのリラックスした雰囲気で、PC カメラやマイクもオフの状態でチャットを活用すると、たくさん発言をしてきます。学生自身も、対面の時では考えられないほど自分がたくさん発信しているという自覚があるようです。また、他の履修者の考え方もチャットの中で共有され、他の学生の多様な考えが理解できますので、思った以上にコミュニケーション不足を補うことができたようです。

改めて事前課題中心の授業形式をデザインしていて良かったです。学生たちの課題を事前に見ているので、その状況に沿って発言を求めることができます。良し悪しはあると思いますが、長時間のライブ授業を選択してしまうと、学生の理解度を把握しないまま講義中心で授業を進めてしまう可能性が高くなります。対面でやっている授業がそのままオンラインで流れてしまうと、学生のストレスがより大きくなってしまうので、長時間のライブを選択せずよかった、と思います。

Q3. 緊急事態宣言の解除後、大学運営・授業運営のご予定はいかがでしょうか?

今後も攻めの姿勢でオンライン授業を進めていく予定です。

今も感染拡大が続いていますので、他大学と同様、いかに安全な環境で授業を受けてもらえるかが最も重要です。

また後期授業の方向性について検討しています。キャンパスへの愛着、所属感、学生同士の仲間意識などは実際にキャンパスに足を運ばないと得られない体験ですので、比較的に移動が自由なうちに、キャンパスに戻ってもらい、対面でのコミュニケーションを図る予定です。これにより、もし今後再び第 2 波、3 波がきても、オンライン上でのグループワーク実施も可能になると思います。

Q4. オンライン学習はポストコロナ社会で、どのように定着していくとお考えですか?

まず 2 つの観点よりお話させてください。

最初の1点目は、すでに ICT に取り組んでいる教員からの発想になります。以前より Gmail や Google Classroom を使ってコミュニケーションをとっていました。しかしながら、予想通り「メールの渦」に巻き込まれて、大事なもの、そうでないものの区別がつかない状況がおき、大切な連絡の見落としが散見されましたので、情報のやり取りの見直しを図っています。たとえば、特定の送信者と受信者間のやりとりであれば、ファイルを Dropbox で共有したり、自分用のホームページやチャットで自分用の専用ルームを作り、そこから情報の配信するというやり方に変えました。また学部内では Dropbox Paper を活用して情報の一元化をはかり、学生、教員のやりとりを集約するなどの取り組みが必要になってきました。

2つ目は、学生の観点からの授業改善になります。振り返ってみると、教員は PC のモニターを通じて 100 人、200  人に語りかけていますが、学生は自分の部屋で教員と対話しているため、期せずして1対1の教育空間ができていることになります。自然にみんなが繋がれるのがオンライン学習の大きな特徴であることに気づきました。オンライン授業を対面授業の劣化版にさせないという点で、「ライブの語り」は重要なポイントだと感じています。

今まで私たちがやってきた対面授業に回帰することがゴールではありませんが、対面による面識があるからこその協働学習であることは確かだと感じています。よって、対面授業を基本としながらも、オンラインを使って、時間と場所の壁を越え、1 対 1 の空間を作り上げていくことが、これからの高等教育の課題だと実感しています。

1 年生から 4 年生に上がっていくにしたがって、気がつけば、場所や時間を気にせずに、人と繋がるスキルを身につけていければ、テレワークが当たり前の社会になってきた世の中で必ず生きてくると思います。すなわち大学に求められる使命が変わってきていると考えます。

私自身、オンライン授業の経験はゼロでした。ICT 活用力も低く、Google Classroom を少し使う程度でした。振り返ってみると、ICT を使いこなすこと、ICT を 推進することが目的になっていて、「何のために」推進するのかが曖昧であったように思います。この期間、教職員もテレワークを頑張っていました。最初はストレスを感じたようですが、教員も学生と同様に、自律的に生活をコントロールできるようになるにつれ、生活の自由度が増したようです。そういった良さが今後さらに共有されればと願っています。

Q5. 現在苦労されている方、これから対応を検討されている方に何かアドバイスはございますか?

学生のために、いい授業をしたいという気持ちが、ちゃんとした目的に繋がり、 ICT がその手段になれば、色々細かな問題があったとしても、最終的には落ち着くところに落ち着くと思います。

ゴールをどこに置くかで全く取り組み方が異なってきます。

まとめ

今までの対面授業のあり方が本当に正しかったのかどうか精査すべきなのだと思います。4月、5月頃のニュースを振り返ると、過去に撮り溜めしていた授業を時間割通りに流す事例が多く見られました。小さなモニターに映し出された授業を 5 コマ、6 コマと、連続で視聴しなければならない児童・生徒・学生の立場になって考えてみると、日本のオンライン授業には改善の余地が残されていると思いました。また、問題の本質は、対面授業が成功しているという誤認識に基づいているのではないかと思いました。学生の目線で、対面授業の在り方を見直すことで、優れたオンライン授業を生み出すことが可能になるものと感じています。

  

今回ゲストとしてご参加いただいた井上様から、たくさんの学びを得ることができ、感謝致します。セッション後にも、参加者の皆様より学生とのオンライン授業の進め方に関する具体的な質問が多数寄せられるなど、参加者全員にとって示唆に富んだセッションとなりました。

改めて、井上様、ご協力ありがとうございました。 また当日ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

Dropbox Japan では今後もさまざまなウェビナーを開催する予定です。近日開催予定のセミナーおよびウェビナーにつきましては、こちらのリンクをご確認ください。